地域から起こるこれからのワークライフスタイル探求プロジェクト

海士町から探る「暮らし」「仕事」「稼ぎ」のバランス これからのワークライフスタイル探求プロジェクト ――第3回イベントレポート(前編)

2015年5月7日



海士町から探る「暮らし」「仕事」「稼ぎ」のバランス これからのワークライフスタイル探求プロジェクト ――第3回イベントレポート(前編)

地域を拠点とし、地域からイノベーションを起こそうと活動する実践者をゲストに迎え、これからのワークスタイルを探る「これからのワークライフスタイル探求プロジェクト」。今回は島根県海士町で活動する株式会社巡の環 阿部裕志さんをゲストに迎え、これからの地域のあり方と新しい働き方を参加者とともに考えました。全2回でイベントレポートをお届けします。

課題先進地のソリューションが、日本の未来を切り開く

3カ月連続で開催してきたダイアローグイベントの最後となる、第3回目のイベントが2015年3月10日、六本木の共創スペース「HAB-YU platform」で開催されました。今回のゲストは島根県隠岐諸島の1つである中ノ島の海士町で起業し、「地域と都会の気持ちいい共存関係」を探る株式会社巡の環 代表取締役の阿部裕志さん。

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株式会社巡の環 代表取締役 阿部裕志さん

阿部さんは愛媛県出身。トヨタで生産技術エンジニアを務めたのち、「これからの未来は島にある」と確信し、2008年島根県海士町に移住。仲間と巡の環を起業しました。

阿部さんが移住する前の海士町では、人口減少で存亡の危機に陥り、町長と行政職員らの賃金カットにはじまる徹底した財政改革、特産物の販路拡大、若者の移住促進などの施策を推進しました。その結果、10年間で400人以上のIターン、200人以上のUターン者が島に集まる結果に。産業振興のほか、廃校予定だった島根県立隠岐島前高校の入学者数が倍増し、県下だけでなく世界からも視察が訪れる有名な人気校になるなど注目を集めています。

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プレゼンテーションの冒頭では、自然や島をあげたお祭りの様子を盛り込んだムービーで海士町を紹介

「カッコいい大人たちが島を変えた」。前述した海士町の大改革を知った阿部さんはそう感じたと言います。行政だけではなく、島全体で大変革を成し遂げつつあった海士町の取り組みを知り、「課題先進地の課題解決をしていくことで日本や世界の未来を切り拓けるのではないか」と考えるようになったと振り返ります。そんな思いを胸に阿部さんは海士町に移住しました。

地域の風土で培われた島民の「人間力」。都市の環境で磨かれた企業人の「仕事力」。どちらも重要なこの2つの力を掛け合わせ、未来へのヒントをつかむための研修プログラム「海士五感塾」などのプロジェクトを現在進めています。

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海士五感塾の様子(提供:株式会社巡の環)

阿部さんは海士町に移住し、起業するまでの経緯を学生時代までさかのぼって話してくれました。浪人時代のストレス起因の病気をきっかけに、生きる力を高めようと大学でアウトドアスポーツや旅や有機農業体験などに精を出すうち、次のような疑問が湧いてきたそうです。

「都会で黙々と不機嫌に満員電車に揺られ続ける通勤客も、登山客として山道ですれ違えば笑顔で挨拶を交わすはず。この交流のない日常はいびつなのではないか」

人と人、人と自然の関係性を見直す仕事をしたい。けれど学生あがりでは、誰も聞く耳をもたない。企業社会に入り込んで世の中のしくみを知り、ものづくりと経営のノウハウも身につけたうえで、40歳でペンションを経営し、メッセージ発信の拠点にしたい。それが阿部さん24歳のときのキャリアプランでした。

「稼ぎ」に時間を割くのは週3日でいい!?

ところが、トヨタを4年で退職。そのきっかけは、同僚から「島まるごと持続可能なモデルを目指している島がある」と教えられて海士町に行ったことでした。ペンションをつくる夢が離島移住に変わり、独立も前倒しになりました。

「早く、安く、良い」商品を提供して競争を勝ち残り、ピラミッドの頂点に立つ者だけが幸せになるシステムではなく、かつての近江商人がモットーとした「三方良し(売り手良し、買い手良し、世間良し)」でどこにもしわ寄せがいかない持続可能なビジネスモデル。その仮説と検証がしたいというのが、起業時の課題意識でした。

「地域活性化」という言葉があまり好きではない、と阿部さんは話します。お金だけが評価基準ではないし、新しい働き方、生き方を探りたい。自然の恵みで生きてゆく「暮らし」(自給経済)。共同体を維持するための「仕事」(贈与経済)。生活費を稼ぐための「稼ぎ」(貨幣経済)。海士町に来てわかったのは、この3つが1人ひとりにとってバランスの良い3角形を描くライフスタイルこそ、新しい働き方、生き方であることでした。阿部さんにとっては、それは正3角形を描くのが理想的であるそうです。

阿部さんが試算したところによると、東京に家族4名で住む場合、必要な生活費は540万円。今の海士町では370万円。これから目指す新しい生き方では250万円で生活できるかもしれない、と阿部さんは“妄想”します。しかし、それは決して「お金がいらない」と言う意味ではありません。「稼ぎ」に割く時間は週に3日で、残りは「暮らし」と「仕事」を組み合わせて生活するライフスタイルなのです。

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家族4人が心配なく暮らすために必要な金額を比較した表(巡の環提供資料から編集部製作)

こうやって「上手な損」をすることで、8時間・週5日勤務を日本企業がどれだけ維持できるか、という問題への回答であると同時に、無理な経済成長をするために競争が激化するのではなく、「三方良し」のビジネスモデルへの道筋を開くことになると、阿部さんは話しました。

「暮らし」「仕事」「稼ぎ」が正3角形を描くバランスのなかに、これからの新しいワークスタイル、生き方があるのではないか、そう語る阿部さん。海士町に移住の理由や、現在はどのような生活を送っているのでしょうか。次のパートではモデレーターの西村勇也さんや、参加者からの質問に応えていきます。

関連リンク
株式会社巡の環

自分でやるからこそ地域に入り込める これからのワークライフスタイル探求プロジェクト ――第3回イベントレポート(後編)へ続く

阿部 裕志(アベ ヒロシ)
株式会社巡の環 代表取締役 http://www.megurinowa.jp/

1978年愛媛県新居浜市生まれ。トヨタ自動車で生産技術エンジニアを経て、「持続可能な未来に向けて行動する人づくり」を目的に、2008年海士町に移住・起業し、現在は株式会社巡の環 代表取締役。10年間で約430人が移住した日本海の離島・海士町(島根県隠岐諸島、人口約2,400人)で、島で人間力を高める研修「海士五感塾」を展開するほか、都会で1日カフェを貸し切る交流イベント「AMAカフェ」などを通じて、“都会と田舎の気持ちいい共存の仕組みづくり”に奔走している。また、同様の活動を全国に広げるため、地域コーディネーターを養成する「めぐりカレッジ」も行う。著書『僕たちは島で、未来を見ることにした』(木楽舎)


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