UXで考えてみるプロジェクトー私たちの生活と伝統工芸の関係性ー

【UXで考える伝統工芸5】平木さんに聞く、UX起点で得られた気づきとは?(前編)

2016年7月22日



【UXで考える伝統工芸5】平木さんに聞く、UX起点で得られた気づきとは?(前編)

こんにちは。UX THINKING PROJECTメンバーの岡田一志です。
「UXの力で伝統工芸の新たな価値を生み出し、私たちと伝統工芸の関係性を豊かにしたい」——。染元平木屋さんと富士通のUXチームがはじめたこの挑戦、約半年のプロジェクト期間を経て、果たしてどのような価値が生まれ、どんな新しい発見があったのでしょうか。活動報告の最終回は前後編にわたり、平木屋の平木良尚さんを含めたチームメンバーで活動を振り返るとともに、今後の展望をご紹介します。

【UXで考える伝統工芸6】平木さんと考える、UX THINKING PROJECTのこれから(後編)

UX起点で再発見できた、ユーザーニーズと本染めの価値

岡田一志(以下、岡田) まずは、約半年のプロジェクト、おつかれさまでした。今回のプロジェクトの目的は、本染めの新たな価値を生み出すこと。今回の取り組みでは、3つの成果物が生まれました。のぼり旗型の鯉のぼり、コーヒーカップスリーブ、卓上の屏風です。まずは、今回のプロジェクトの結果を振り返ります。
UX起点で再発見できた、ユーザーニーズと本染めの価値今回のプロジェクトから生まれた3つのプロダクト。左上からコーヒーカップスリーブ、卓上の屏風(左下)、のぼり旗型の鯉のぼり(右)
横田洋輔(以下、横田) 今回のプロジェクトで生まれた成果物についての注文はありましたか(クラウドファンディングを通しての注文は除く)。

平木良尚(以下、平木) まだ直接的にはありません。しかし、今回のプロジェクトのおかげで、平木屋のWebサイトに対するアクセス数が増えていますし、少しずつですが注文も増えています。今は忙しくて大変です。

岡田 ユーザーの気持ち(UX)を起点に、新しいサービスやプロダクトの可能性を考えてみて、平木さん自身が得た学びなどはありましたか。

平木 都心に住む人々(ユーザー)のニーズを理解できたことです。カップスリーブは、仕立ての細かさや本染めにかかる費用から、平木屋としてこれからも手掛けていくかはわかりません。しかし、カップスリーブのかたちにこだわる必要はなく、ユーザーのニーズを捉え、現代の生活で使われているものを置き換えることで、本染めの良さを感じてもらえることがわかりました。

また、新しいものは、1度はつくってみないとわからない、と思いました。卓上の屏風なんて、最初は「なんだ、それは?」と思いましたから。しかし、つくってみると意外に悪くなかった。プロトタイピングを行うなかで、本染めの秘めていた可能性を知ることができました。特に、アクリル樹脂を塗ると布が自立できるような加工ができるなんて、革命的にびっくりしましたね。UXチームの方やイベント展示に参加された一般の方からほめていただいた「ぼかし」についても、私たちの技術の可能性を感じました。正直、こんなにほめられるとは思っていませんでしたよ(笑)。UXチームの方と共創したからこそ、発見できたことかもしれません。

これまでもタペストリーなどは作品としてつくることがありましたが、今までにないものをつくることで得られた気づきは多かったと思います。

UXデザインの各プロセスで感じたこと

岡田 今回のプロジェクトのもう1つの目的は、UXデザインプロセスの可能性を検討すること。あらためてプロセス順にその価値や発見を振り返っていただきます。
本プロジェクトのUXデザインプロセス
本プロジェクトのUXデザインプロセス

岡田 私たち富士通のUXチームが、はじめて平木屋にお邪魔してゴールを共有した後、価値の仮説を立案するためにまずUXワークショップを実施しましたね。本染めがもたらす感覚的なUXを製品/技法の両面で抽出したうえで、アイデアを出しました。たとえば、のぼりのかたちから感じる高揚感と、職人が1つひとつ丁寧に染め上げる本染めの特別感を掛け合わせた「のぼり型の鯉のぼり」というアイデアが出ました。ワークショップの率直な感想はどうでしたか。

平木 参加者の方々が本染めの良さを知らない、というのは予想どおりでした。見て触れることで、「すごい!」という驚きを得られたのはうれしかったですね。職人とデザイナーで出てくるアイデアの違いもありました。職人は実現できる範囲で考えがちですが、「そんなアイデアを出してくるの?」という驚きもありました。
一般の生活者も交えて実施された「UXワークショップ」
一般の生活者も交えて実施された「UXワークショップ」

岡田 次に、ワークショップで出たアイデアから本染めの価値を抽出していくなかで、現代の生活で染物が使われているシーンを分析する必要があると感じ、その視点を中心にフィールドワークを行いました。私たちがUXデザインを行う際、現場(ユーザー)を理解することを大切にしています。平木さんは富士通のUXチームがFacebookグループに投稿する写真に対してコメントしていただく立場でしたが、フィールドワークの様子から気づいたことはありましたか。

平木 手仕事の良さは、誰しもが気づけることだと感じました。逆に言うと意識してはじめて気づくものでもある。1回でも手仕事の良さを経験すると、他の伝統工芸に触れたときでも、ふと良さを感じるときがあると思います。フィールドワークを行うことで職人と同じ目線を持ってくれているのを感じましたし、それを広めることが大切だと感じました。

岡田 共創するにあたってはつくり手(職人)が伝えたいことを、チームのメンバーが身をもって感じることも大切ですね。その後、フィールドワークを行ったチームメンバー自身が共感した3つのアイデアについてプロトタイピングを行いました。のぼり旗型の鯉のぼり、コーヒーカップスリーブ、卓上の屏風です。

平木 プロトタイピングのフェーズでは、富士通のデザイナーからカップスリーブの縫い目を隠したいなど、仕様やデザインをもっとこうしたいと言われました。そのなかには、簡単に思われることでも、つくる側からすると大変なことも多くあった。正直、面倒くさいなと思いましたね(笑)。のれんなどの従来からの染物であれば染元としてどこまでこだわればよいかがわかりますが、新しいものは、どこまで追求すればよいのかがわからず苦労しました。

岡田 従来の染物でも新しいものをつくると思いますが、UX起点から生まれたアイデアをつくる苦労とは違いましたか。

平木 染物の部分とそうじゃない部分(仕立てやパッケージ)の比重が全然違いました。たとえば、のれんであれば仕立ても正解が決まっている。パッケージまでこだわるなんてことはありませんでした。また、カップスリーブの場合は、縫い目などの仕立ての部分をどこまで追求するのだろう、と正直感じていましたね。もちろん結果としては、より良いものができたとは思っています。
プロトタイピングの苦労を語る、染元平木屋 平木良尚さん
プロトタイピングの苦労を語る、染元平木屋 平木良尚さん

平木 仕立ては専門の仕立屋さんに注文してもよかった。数と予算、特に時間がなかったので難しかったです。プロトタイピングしながらクラウドファンディングに出すために製品化しなければいけない、というスケジュールはしんどかったです。

岡田 今回はUXデザインプロセスにクラウドファンディングを組み込みました。ねらいは、不特定多数の一般消費者からプロトタイプの時点でさまざまな声をもらって製品化に活かすことでした。しかし、クラウドファンディングは想定よりも「売る」という意識が強くなってしまいました。ユーザーに対価をいただく以上、製品化を意識せざるを得なくなった。その点、平木屋さんに無理をさせてしまったのは、個人的に反省しています。

「売り方」を検討することの意義と可能性

岡田 一方、3月には新宿伊勢丹でイベント展示を実施しました。あの場におけるユーザー評価はいかがでしたか。

平木 プロトタイピング中であり、つくりこみが弱かったせいか、「カップスリーブよりネクタイを本染めで染めてみてはどうか」のようなアイデアに近い意見が多く出ました。ワークショップで行ったアイデア出しに戻っちゃったかな、思いましたね。UXチームの方はどうでしたか。

岡田 ユーザーの方々に意見をもらうことで、プロトタイプ自体のターゲットユーザーやコンセプトを変えた部分はありました。それをプロトタイピングの段階からフィードバックをいただき反映できたことは良かったと感じています。しかし、欲を言えばもっとユーザーの気持ちを聞いてみたかった。参加者の方が一緒につくろうという企画者側の気持ちになりすぎてしまい、本染めのネクタイのような新製品のアイデアが多く出たのだと思います。こちらから提案したコンセプトやプロトタイプに対する意見は少なかったと感じています。

平木 ユーザーには、価格感も聞いてみたかったです。たとえば、パッケージの箱をこだわるのか、そのこだわりを捨てて価格を下げるのかなど、単純に製品の対価ではなく、売られている場所、売り方を含めての価格のことです。本プロジェクトはデザイナー、職人、ユーザーなどのさまざまな方の感情があったと思います。たとえば、プロダクトの成り立ちを聞き、本染めの良さを理解して、伊勢丹という場所で買う。そうすると製品単体の価値よりも価格としては高くなるかもしれません。そういう部分を聞きたいと思いました。

横田 鯉のぼりについて、実物を見た人のなかにはもっと高く売れるという意見がありました。クラウドファンディングのようにWeb上だと、風合いや味などの本染め自体の価値を訴求しにくい部分はありました。

その製品をどう認知して、どうすれば売れるかといったことを考える場合は、ユーザーだけではなくサービス提供者側の体験もデザインする必要があります。サービスブループリントなどの手法があり、一般的にはサービスデザインと呼ばれています。サービスデザインのチャレンジもしてみたかったですね。

岡田 このプロジェクトを通じての反省は、クラウドファンディングをプロセスに組み込んでいるにも関わらず、売り方を含む製品化を検討するプロセス、体制(役割)に不足があったことだと感じています。今回のUXデザインプロセスでは、新しい本染めのコンセプトづくりがゴールであったため、まずは「ユーザーに売れるか」よりも「ユーザーが欲しいか」を先に考えました。しかし、クラウドファンディングに掲載する以上、製品化を検討する必要があった。UXデザインは、新しい価値の創出やコンセプトづくりに有効な方法論ですが、UXデザインだけでは製品化はできません。UXを起点に進めていく際の落とし穴だと思うので、私自身もとても勉強になりました。(後編へ続く)

後編では、プロジェクト後の平木さんの変化を伺うとともに、UX THINKING PROJECTの今後の展望についてご紹介します。

【UXで考える伝統工芸6】平木さんと考える、UX THINKING PROJECTのこれから(後編)


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