歯からQOL向上を目指す予防歯科プロジェクト

【予防歯科プロジェクト】個人の健康を100年守るために歯科医と企業にはなにができる? ──予防歯科プロジェクトのこれから

2017年6月21日



【予防歯科プロジェクト】個人の健康を100年守るために歯科医と企業にはなにができる? ──予防歯科プロジェクトのこれから

あしたのコミュニティーラボでは、むし歯や歯周病のリスクをコントロールし、メンテナンスを続けることで、生涯(ライフタイム)を通じて健康であり続けるための“QOL=クオリティ・オブ・ライフタイム”を高める取り組み「予防歯科プロジェクト」を応援してきました。3月のイベントを終えたいま、プロジェクトの推進メンバーである、OPひるま歯科 矯正歯科(東京都立川市)院長の晝間康明さん、アップルデンタルセンター(東京都西東京市)院長の畑慎太郎さん、富士通ヘルスケアシステム事業本部未来医療ビジネスセンターの田中由加さんに、これまでの活動を振り返り、歯科医としての努力と課題、そして企業の役割を語ってもらいました。

「むし歯を見つける」から「むし歯をつくらない」歯科医へ

──晝間さんと畑さん、お2人は歯科医師としてどのような問題意識で予防歯科に取り組んでおられるのでしょうか。

晝間 自分の歯は再生不能なものであるにも関わらず、むし歯になったら削って詰めて、いざとなれば抜いて入れ歯に。そういう対症療法の繰り返しで歯を失っていることがあまりにも知られていない。それによって生計を立てている歯科医自身も、あえて知ろうとしないという現実があります。歯のかけがえなさを患者さんに伝えるためには、このまま治療だけを行い、ただ「歯は大切だ」と訴えているだけでダメだと感じました。

多くの人が対症療法の繰り返しによって歯を失っていると語る晝間康明さん
多くの人が対症療法の繰り返しによって歯を失っていると語る晝間康明さん

 見た目でそれとわかるむし歯は、いうなれば“氷山の一角”に過ぎません。海面下に隠れている、見た目ではわからないけれどむし歯の進行がはじまっている状態は、患者さんごとに個別にリスク検査をしなければ発見できないのです。単純に「ある/なし」でむし歯は語れません。リスクを発見できれば、歯を削る外科的な診療ではなく、細菌を除去してメンテナンスを続ける内科的な診療によってむし歯や歯周病を予防できます。

黄色の線で囲っている部分がすべてむし歯(提供:アップルデンタルセンター)
黄色の線で囲っている部分がすべてむし歯(提供:アップルデンタルセンター Photo by Jeriff Cheng / Adapted.)

 よく「むし歯になる人が減ると歯科医の仕事はなくなるんじゃないですか?」と聞かれることがあるのですが、そんなことはありません。ただ、“むし歯を見つける”ための歯科医から、“むし歯をつくらない”ための歯科医に変わるだけです。

畑慎太郎さんいわく、これからは“むし歯をつくらない”ための歯科医が必要
畑慎太郎さんいわく、これからは“むし歯をつくらない”ための歯科医が必要

人を動かすのは“北風”ではなく“太陽”アプローチ

──「歯医者はむし歯になったら行くところ」と考えている大多数の生活者に、予防歯科の価値を理解してもらい、広めるためには何が必要だと思われますか?

 最初に必要なのは「スタッフへの教育」です。歯科医である自分自身もリセットして一から勉強し直さなければならないし、歯科衛生士も単なる歯石の掃除役ではなく、メンテナンスを担い、予防の大切さを患者さんに伝える教育者にならなければなりません。ぼくは、まずは全患者さんに本音で話すことからはじめました。「今までは、削って詰める治療で事足りていましたが、それは良くありません」と。そんな姿勢を見せることでスタッフも「先生、本気だな」と目の色が変わってきた気がします。

そうしてはじめて、患者さんの理解を得ることができます。通常では、患者さんに対して「予防しないと病気になります」という“北風”アプローチになりがちなのですが、人を動かすのは「予防するといいことがありますよ」という“太陽”アプローチだと思います。予防歯科を行ううえで大事なのは、その引き出しをいくつ持てるかですね。

患者さんからもすべてがみえる滅菌エリア(ひるま歯科)。菌を遮断するため手をかざすだけでガラス戸が開く。その設備からも本気度がうかがえる
患者さんからもすべてがみえる滅菌エリア(ひるま歯科)。菌を遮断するため手をかざすだけでガラス戸が開く。その設備からも本気度がうかがえる

晝間 私はもともと矯正歯科の専門医でしたが、今までの考え方を捨てて再出発しなければなりませんでした。「歯並びがきれいになって磨きやすくなったから歯を守れますね」では予防の本質がまったく伝わりません。

でも、矯正歯科と予防歯科には相性がいい部分もあります。患者さんは月に1回、2年半〜3年通い続けるので、その間は口内環境の変化を患者さん自身が実感し、予防の価値を知る期間ともなるのです。

──予防歯科では患者と並走する歯科衛生士がとても重要な役割を果たすということは、先の体験記でも編集部のスタッフが語っていました。

 今まで患者さんにもらった最高の言葉は、治療が終わったあとに言われた「もう先生に会わないようにすればいいんですね」。治療を行う歯科医に会わないようにする、ということは、衛生士のもとでメンテナンスとセルフケアを続ける意思表明にほかなりません。予防の価値が完璧に伝わって、うれしかったです。

予防による生活者への「インセンティブ」を

──次に田中さんに伺いたいのですが、予防歯科を広めるにあたって企業はどのような関わり方ができますか。

田中 富士通では他業種とも連携しつつ、歯科医と患者が診療データを共有できるクラウドサービスの提供を通じて予防歯科の普及に協力しています。連携する相手は、歯科関連の業種に限りません。なぜなら、予防歯科の価値に気づいていない人たちを巻き込んでこそ、世のなかの動きになると思うからです。
先日の予防歯科イベントに登壇いただいた全日空商事さんや湖池屋さんのような、一見、歯科と無関係に見えて実は予防歯科に関心を寄せている企業の方々と手を組んで、口腔ケアを日常生活に取り入れるきっかけづくりに企業として取り組んでいきたいです。

──生活者のニーズを高め予防歯科に特化する歯科医も増やす。そんな好循環の実現には、今後どんな取り組みが必要でしょうか。

 専門家からの一方的な啓発だけでは、生活者へ伝わりにくいかもしれません。価値に気づいてくれる人をもっと増やすためには、たとえば企業が社員の福利厚生に予防歯科を導入して健康経営を目指したり、予防歯科の普及に役立つ商品やサービスの提供を目指す企業とアライアンスを組んだりして、もう少し一般の生活者にわかりやすい予防歯科の新たな基準を考えてもいいのではないかと思います。生活者も企業も歯科医も、みんながウィン=ウィンの関係になることが大切です。

田中 やはり何事にも、インセンティブがないと広まりません。母子手帳が日本で定着したのは、はじめたときに、おむつ用の布やミルクがもらえる特典をつけたからだそうです。それと同じように、予防に取り組んで健康維持に努力し、結果として医療費削減に貢献している人には何らかの見返りがある。そうしたインセンティブを組み込むことで、わかりやすくアピールできる基準もつくれるかもしれません。

男子3人の母親でもある富士通の田中由加さんは、自身の経験をもとに「世に広めるためにはインセンティブが必要」と語る
男子3人の母親でもある富士通の田中由加さんは、自身の経験をもとに「世に広めるためにはインセンティブが必要」と語る

田中 予防歯科の普及に価値を見出す企業が互いに知恵を絞ってパズルを組み立て、ウィン=ウィンの関係づくりができるよう、これから模索していきます。そのためにも、まずは歯科医師の先生方と連携し理解を広める道筋をつけているというのが現状です。

「いい予防歯科医」の見分け方とは?

──現状では、予防に特化している歯科医はごく少数と聞きます。望ましい歯科医を選ぶには、どんなところに目をつけたらよいのでしょう。

 たとえば、診療室が間仕切りではなく個室であること。そういう歯科医は、よく教育された衛生士による個別対応が可能で、衛生管理が行き届いている可能性が高いです。ホームページなどにメンテナンスのデータや診療プロセスを掲載しているのも目安になります。

ひるま歯科の診療室。「診療室が間仕切りではなく個室であること」は歯科医を選ぶための1つの基準になる
ひるま歯科の診療室。「診療室が間仕切りではなく個室であること」は歯科医を選ぶための1つの基準になる

田中 ヘルスケアに関わる仕事をしてはじめてわかったことなのですが、そもそも保険医療が中心の日本では医師が患者に医療情報を渡すことは非常にハードルが高く、診療内容に自信がないととてもできません。予防歯科の先生方に接したとき、それを実行されていることに感服しました。「治してあげるから私に任せておきなさい」ではなく、診断結果をすべて伝えてくれるかどうかという点は、わかりやすい目安にもなるのではないかと思います。

「自分の歯の状態を知りたくないですか?」を入口に

──健康に自信のある20〜30代の多忙なビジネスパーソンは、「予防」と言われてもピンと来ないかもしれません。そんな人たちには、どんなメッセージを送りますか。

 まずは「自分の歯がどんな状態なのか知ってみませんか?」と呼びかけることでしょうか。メンテナンスするかどうかはとりあえず脇に置いて、ふだんあまり気にしたことのない口のなかについて知る。それがいちばん手軽な取っ掛かりかもしれません。むし歯や歯周病のコントロールをしないまま削って詰める治療を繰り返していると、次第に修復したところが悪化して疾患が再発し、インプラントなど本来なら高齢期になってから必要な処置が前倒しになります。これまで放置されてきたこの流れを断ち切るのが予防歯科のスタートライン。歯科医は伝える責任があるし、患者さんにも知っていただきたいですね。

内科的な観点のない治療を繰り返すと、本来なら高齢期になってから必要な処置が前倒しになる可能性がある
内科的な観点のない治療を繰り返すと、本来なら高齢期になってから必要な処置が前倒しになる可能性がある

田中 ある衛生士さんから、こんな話を聞きました。女性は最初のうちメンテナンスにきちんと通うのだけれど、歯のメンテナンスもヘアサロンやネイルケアと同じレベルで捉えるから、優先順位がときどき入れ替わって定期的に通うのをやめてしまうことがある。でも男性はデータの好きな人が多いから、リスク検査の数値を見せて詳しく説明すると、ハマって通い続けるケースがある、と。

ヘルスケアのビジネスでは20〜30代の男性がいちばん訴求しづらい世代です。でも意外に予防歯科はこの層と相性がよく、アピールしやすいかもしれません。当初は子育て世代のママがいちばん関心をもつのではと思っていたのですが、今回のプロジェクトを通して、若いパパにお子さんと一緒に歯医者に通ってもらう、というのもありなのかな、と考えています。

ひるま歯科の廊下の柱。小さな子どもがけがをしないよう配慮されている
ひるま歯科の廊下の柱。小さな子どもがけがをしないよう配慮されている

晝間 メンテナンスを継続して口内環境が改善すれば、患者さんの「選択肢」が増えていきます。まだ穴の開いてないむし歯の進行を止める「非修復処置」も選択できるし、治療のタイミングも方法も選ぶことができる。メンテナンスを続けてデータを蓄積していくことで患者さんのニーズや希望に合わせた多様な選択肢を提供できるのです。つまり、早くはじめるほど価値が高まる。特に20〜30代の方々にはそのことを強調しておきたいですね。

生活の質を高め、全身の入り口である口腔の健康を維持することで全身疾患を食い止め、社会全体の医療費の削減にもつながる――。「予防歯科プロジェクト」を通して、予防歯科が持つ、これからの未来をよくする大きな可能性がみえてきました。
予防歯科は、100年に及ぶと言われているあなたの人生の価値を劇的に高めてくれるかもしれません。

あしたのコミュニティーラボでは今後も予防歯科プロジェクトの活動を応援していきます。

田中さん、晝間さん、畑さん

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