創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクト

人間のニーズをかなえる“何か”を、みんなで支え合える社会づくり──No Mapsワークショップ「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む」(後編)

2017年11月22日



人間のニーズをかなえる“何か”を、みんなで支え合える社会づくり──No Mapsワークショップ「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む」(後編)

北海道札幌市内の市街地を中心としたエリアで開催されたクリエイティブカンファレンス「No Maps」。会期も後半に差し掛かった10月12日、富士通北海道支社で開かれたのが「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む──描いて、語って、想いをつなげるワークショップ」である。ワークの大半は、マックス=ニーフが提唱した「ていねいな発展」を、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログの牧原ゆりえさん流のアレンジで教えるもの。「サティスファイアー」から人のニーズを満たす商品・サービス開発のあり方を考えるフレームワークに、参加者一同は感心しきりだった。当日の模様をここに再録する。

“対話”によって実現する、生活者視点のサステナビリティ──No Mapsワークショップ「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む」(前編)

共通言語がないコミュニケーションを体験

ワークショップの最初のワークは「共通言語にできること」。2人1組になり、会場前方のスライドに映し出された図形を、言葉だけでパートナーに伝える。伝えられた側はパートナーの言葉だけを頼りに、手元の紙に図形を描く。図形は、次の2パターンが用意された。

最初の図形(左側)は比較的簡単だろう。しかし後の図形(右側)はどうか。「英語筆記体のエルみたいな線を描いて、そのなかに富士山みたいなカタチの線を描く」……。ワーク参加者も、思い通りに伝えられず悪戦苦闘しているようだ。


会場の前方スクリーンに映し出された図形の内容を「言葉だけ」を駆使して相手に伝えるワーク

「最初の図形は「正方形」「丸」「対角線」といった定型化・形式化された“共通言語”があるのに対し、後の図形を構成するパーツは共通言語を探すのが難しい。もしもこうした共通言語のない図形も、何かのマークであることが決まれば『あのマークだよ』と伝えやすくなるものです。「ていねいな発展」の枠組みで「1人じゃなく、みんなの幸せ」を考えるときには、前者ではなく後者のような、共通言語がないなかでのコミュニケーションが必要。ただ、ワークを実践してみて感じたと思うのですが、後者のコミュニケーションはエネルギーを使うけれど楽しいんです。そんなことを体感してもらいたく実践したワークでした」(牧原さん)

すべての人間に共通する「9つの基本的ニーズ」とは

ここからはマックス=ニーフの提唱する「ていねいな発展」への理解をうながす具体的なワークに移っていった。まずは「9つの基本的ニーズ」である。

「あれがほしい、こうしたい」という様に、人間であれば誰でも「ニーズ」があるものだが、マックス=ニーフはサステナビリティの考え方において「人間らしく生きるために必要で、かつ、人種・地位など関係なくすべての人間を満たすもの」として、9つの基本的ニーズを提示した。

「マックス=ニーフは、ニーズという言葉をたんに「欠乏」だけでなく「可能性」、ときには「資産」として使います。そして歴史的に見ても、また宗教・ジェンダー・所得などが違っていても、ニーズはこの9つしかない」

その9つのニーズとは、自由・保護・創造・生存・愛情・参加・怠惰・理解・アイデンティティのこと。この9つのうちどれかが長い間欠けている状態のことを「貧困」だとマックス=ニーフは考える。

「ニーズが欠けていたり満たされていなかったりすることは決して悪いことではなく、ニーズが満たされていない状態を「認識」することが重要です。また1人ひとりニーズの質感、色、カタチは違っていて当然。それを満たす方法も異なります。だから社会全体では、自分のニーズを満たすだけでなく、誰かのニーズを満たすことも考えなければいけない。それを体現してみたくて、ちょっと変わったワークをしてみたいと思います」

そう言って行われたのは、風船のワーク。会場に置かれた風船は9色に分類されており、それぞれに「9つの基本的ニーズ」が割り振られている。


会場にちりばめられた風船は全部で9色。9つの基本的ニーズが対応している

「これからのワークでは“みんなでみんなのニーズを満たしている状態”を再現します。各自が複数の風船を手に取り(これが個人のニーズが満たされている状態)、その後、9つのニーズを満たすために上空に向けて風船を手放しましょう。そうすると誰かのニーズが飛んでくるので、今度はそれを落とさないよう、みんなで助け合いながら頑張ってみましょう」

実施している様子が冒頭の写真だ。参加者は風船にさわるよう、そして、地面に落とさないように協力するが、それでも風船は床に落ちてしまう。

「人の投げた風船にばかり気をとられると、自分の風船の場所がわからなくなってしまった」「落ちそうな風船をまた高く上げることに終始していたけれど、自分の触りたいものに触れていないもどかしさがあった」……。ワークを終えた参加者からはそんな声が挙がった。


9つの基本的ニーズのワークでは、ワーク参加者各々が9つのニーズの質感・色・カタチをイメージ。それをカードに描き、参加者とペアになって対話した

ニーズは商品、サービスが直接満たすものではない

では、ニーズを「満たす」のは何なのか。たとえば9つの基本的ニーズのうち「怠惰」というニーズを満たす(リラックスする)ためには「一杯のコーヒー」がある。ここで重要なのは、コーヒーというモノ・サービス(Product・System・Service)が直接的にニーズを満たしているわけではなく、その間にニーズを満たす“何か”──この場合は、コーヒーを飲むという行為、その時の自分の状態、時間・空間など──が存在するということだ。それがマックス=ニーフの呼称する「サティスファイアー」。

サティスファイアーの定義は難しいが、マックス=ニーフによれば、

・9つの基本的ニーズは人間にとって「普遍かつ不変」だが、
 サティスファイアーは主観的で、状態・所有・環境・行動などさまざま。
・1つのサティスファイアーが複数のニーズを満たすことがある

という特徴がある。

「私たちのニーズは、商品やサービスで満たされているのではなく、サティスファイアーが満たしています。どんなに世のなかにPSSがたくさんあっても、ニーズは決して満たされません。さらに、先ほどのワークの通り、1人ひとりのニーズは色もカタチも違っていて、さらに社会のなかにいれば、どれが誰のニーズなのかわからなくなってしまいます。でも共通言語を駆使しながら、なんとか「みんなでみんなのニーズを満たしている」という状態をつくれれば、それが持続可能な社会につながります」(牧原さん)


ワークはナビゲーターを務めたGCB小針美紀さんのグラフィックレコーディングによってすべて記録された。想いを伝えあう共通言語として、小針さんによるエモグラフィ講座も実施されている

「ていねいな発展」を新しい商品・サービスの開発に応用する

プログラム中盤からは、サティスファイアーに関するワークに移った。

参加者は各々「基本的ニーズ」をランダムに選び、ふだんの生活でそのニーズを満たしてくれるサティスファイアー、さらにニーズを阻害する場合も考えた。

満たすものは「個人間のレベルで満たし合っているものもありますが、別の軸として、社会・自然から恩恵を受けているものもあります」、阻害するものは「誰かのニーズを満たすけれど、それが自分のニーズを阻害していること──たとえば、家の近くに公園があれば子どもは喜ぶけど、子どもの遊び声が自分の生活を阻害するなど──もあります」と牧原さんは解説する。


参加者それぞれのサティスファイアーを発表し、それを小針さんがグラレコにまとめた。個人・社会・自然のなかに“誰か”サティスファイアーがあり、それがまた“誰か”のニーズを阻害する──こうして社会は構成されているのだ

マックス=ニーフによる「ニーズ→サティスファイアー→PSS」の枠組みは、新しい商品・サービス(PSS)の開発にも応用できる。この日最後のワークは、1つのテーマ(PSS)を定め、模造紙の横軸に「9つのニーズ」、縦軸には「誰かのサティスファイアー」を書いた(写真)。そのテーマが誰のどんなサティスファイアーをかなえ、どのニーズを満たすのかを考えていく。


この日のワークではあるメンバーから「ベロタクシー」(ドイツの首都ベルリンで開発された自転車タクシー)がテーマとして提示された。たとえば「高齢者が日用品を自分で購入できる」というサティスファイアーは高齢者の「生存」ニーズを満たすが、「親族が心配する」という観点から、家族の「愛情」のニーズを阻害することになる

「こうしてPSSを考えることで、「どうしてそのやり方に固執しているのか」「どういうニーズを満たすためのものだったのか」ということに立ち返られるようになると思います。しかも、参加者の対話も円滑になる! そこからさらに、別のサティスファイアーにたどり着けるかもしれない」

ワーク参加者はどう感じたか。北海道芽室町で町議会議員を務める立川美穂さんに感想を聞いた。

立川さんは北海道十勝で生まれ育った。これまで、幼稚園教諭として活動し、結婚・出産を経て、子育て支援に従事することに。「四半世紀、子どもと関わり続けてきた」という立川さんはサステナブルやダイバーシティという言葉に興味を抱き、牧原さんのワークショップに関心を持ったという。


立川美穂さん(写真右)。芽室町の町議会議員として活動する

「芽室町は地域のひとの顔がよく見える、ほどよいサイズの自治体規模です。住民活動が活発で行政が新しい事業を始める前には住民参加を行うなど「住民の声」がまちづくりには欠かせません」と立川さん。「特に、最後のみんなのサティスファイアーからPSSを考えるワークは、議会の活動にも活かせるように感じました。私たちの次の世代に引き継いでいくためにも、こうした議論ができる状態をつくることはとても大切だと思います」。きっとまちづくりにも、この日の「ていねいな発展」は活用できるものであるはずだ。

本当のサステナビリティとは何なのか?

これにてワークは終了した。最後に、牧原さんがワーク参加者たちに説明する。

「これまでは、たくさんのPSSをつくって「それが誰かに当たればいい」と考えられてきました。しかし、それに頼ることなく私たちは面倒でももう一度「どうやったらいいんだっけ?」というところに立ち返らなければいけない。今日のワークがそんな対話を生み出すきっかけになればうれしいです」

日本で「サステナビリティ」という言葉が広く知られるようになったのは2000年代半ば。比較的最近のことである。以来、サステナビリティは、環境問題に端を発したエコロジー、あるいは、企業のCSR経営に関連するような言葉として認識されていることが多い。しかし牧原さんがスウェーデンで学んだサステナビリティはそのもっと根源にある考え方であり、企業経営や環境問題は、サステナビリティを考えるうえでの一要素に過ぎない。

本当のサステナビリティとは何なのか? No Mapsのワークはきっとそれを感じられるものであったはず。社会を変えるのは、私たち生活者1人ひとりの視点に他ならない。

当日行われたグラフィックレコーディング

(参考)
マックス=ニーフ「Human Scale Development(ていねいな発展) 第2章」の日本語版は、こちらよりダウンロードできます。

“対話”によって実現する、生活者視点のサステナビリティ──No Mapsワークショップ「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む」(前編)


人間のニーズをかなえる“何か”を、みんなで支え合える社会づくり──No Mapsワークショップ「私たちの可能性をはぐくみ、地図なき道を歩む」(後編)

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