医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト

いま、現場の看護師が本当に困っていることとは?【看工連携プロジェクト(1)】

2018年2月5日



いま、現場の看護師が本当に困っていることとは?【看工連携プロジェクト(1)】

このたびスタートした「看工連携プロジェクト」では、医学分野と工学分野が連携する医工連携のすそ野を広げ、その名のとおり医療・看護関係者(看)とものづくり関係者(工)が連携。人の命を守り、健康を支える医療現場の声を反映した医療機器の製品化を目指しています。今回は、当プロジェクト発足の背景にある医療・看護現場の課題について、東京北医療センター(東京都北区赤羽)副センター長兼看護部長の又木満理さんにお話を伺いました。

現場の困りごとを解決する「次世代ナースコール」

大田区「看工連携プロジェクト」において、まずテーマになったのは、医療・看護現場がどんなことで困っているのかということでした。このプロジェクトで「課題当事者」の役割を担っているのは、東京北医療センターのみなさん。副センター長兼看護部長の又木満理さんはそれら「医療・看護現場の困りごと」について次のように話します。

「現場では日々、本当にいろいろな問題が起こっています。しかしわれわれ看護師には技術屋さんとのネットワークがそもそもありませんし、インターネットで理想的な看護・介助の道具を探しても、既製品からなかなか適度なものが見つからない。結局そうした困りごとも”たぶん(解決するのは)無理だよね”で済ませてしまい、日用品で代用するなど、なんとか工夫してやり過ごしてきたのが実状でした。みんなが困っていることは、みんなが困ったまま……。それが長らく続いてきたんです」(又木さん)

又木満理さん
東京北医療センター 副センター長兼看護部長の又木満理さん

2017年11月21日に開催された「アイデア創出ワークショップ」には、医療・看護関係者が多く参加しました。集まった医療・看護関係者は又木さんら東京北医療センターのスタッフ、さらには東京工科大学医療保健学部看護学科の教員のみなさん。このほか、ものづくり関係者として大田区のものづくり企業(12社)、凸版印刷、富士通総研、富士通の社員らが集い、25名によるアイデア創出が行われています。

そのワークショップで生まれたアイデアの1つが「次世代ナースコール」です。このアイデア創出のチームに参加した又木さんは、あらためてナースコールにまつわる現場レベルの課題について次のように話します。

「当院でナースコールは、ベッドの頭上に設置しておくことができるのですが、寝たきりの患者であれば極力患者の手元に置きたい。そのためベッドの柵に固定しておくことが多いのですが、例えば他の患者の看護に時間がかかったあとに、ある患者の検査時間が迫っていると急いで病室から検査室へベッドごと移動することがあります。その場合、ベッドに固定したナースコールの器具が引っ張られ、断線を引き起こしてしまうんです」(又木さん)


寝たきりの患者にも使いやすく、断線しにくいナースコールが必要だという

ワークショップでは、チーム内で又木さんが「ちょっとした困りごと」としてそんな話をしているうちに、別のアイデアも生み出されていきました。

「女性の患者だとトイレに行くにもわざわざナースコールで呼び出すのは恥ずかしい。そうして自力でトイレに行こうとすると、最悪の場合は転倒事故を引き起こす。ならば、断線の問題も解決し、かつ、ナースコール自体もボタンが『呼び出し』の1種類だけじゃなく、トイレ用、それ以外……と何種類もあればいい、といった具合にアイデアが生まれ、次世代型のナースコールに集約されていったんです。これらはきっと、われわれ現場レベルの人間だけで考えたのでは、絶対に生まれてこないアイデアでした」(又木さん)

医療・看護の関係者が心に留める想いを発言しやすく

それ以外にも、別のチームから、以下のような3つのアイデアが生まれました。

●メディカルストロー
寝たきりや症状によりコップなどを持てない患者の水分補給は、ベッドを30度くらいの角度に傾けた姿勢で看護師が補助をしていて、少量を飲むのも付きっきり。既成品のペットボトルストローなども試しましたが、現場では”吸いのみ”を使用しています。それでも飲み下す感覚が患者本人でないとわかりづらいため誤嚥(ごえん)を引き起こしたり、最悪の場合は誤嚥性肺炎を引き起こしたりするリスクがあります。それらの課題を解決するために生まれたアイデアが、寝ながらでもストローで水分を吸引できる「メディカルストロー」。


当日のワークショップにも参加者された東京北医療センター 内科病棟師長の前原恵子さん。手に持っているのが吸いのみ

●住環境センサー
認知症や寝たきりの患者がおむつに排便をすると、看護師が気付くのに時間がかかるというケースがあります。そうすると、おむつのなかを気にして動いて横から漏れたり、ご自身で便を触ってしまうことからベッド周りを汚してしまう。そういった患者の住環境をふくめたQOLを高めるために開発しているのが、センサーによってそのシグナルに気づけるアプリケーションです。


医療用のおむつ。センサーとアプリケーションをくみあわせることで、患者のQOL向上を目指している

●電子氷嚢(ひょうのう)
氷嚢をつくるにしても「病院にある製氷機の氷は大きく、扱いづらい」。扱いやすいように氷を砕くと溶けやすく保冷時間が短くなる。「既製の医療用保冷剤はカチンコチンに固まってしまう」。患部に合わせて自由に形を変えることもできません。「もっとコンパクトで、かつ、どこの場所でも自由に使え、長時間保冷ができるように」と考えられたのが、自由自在に取り扱うことのできる「電子氷嚢」。


病院にある製氷機。氷は大きく、扱いづらいという現場の困りごとから、コンパクトで使いやすい「電子氷嚢」のアイデアが生まれた

又木さんはこれらアイデアの製品化について、今後への期待を込め、「どれも今まさしく私たちが困っている課題を解決するものであり、かつ、今すぐに実現可能性が高いもの」としたうえで、次のように話します。

「対象者も広いですし、もっといえば当院だけでなく、医療界全体の課題を解決するもの。どれか1つでも実現すれば、われわれ医療・看護の関係者が諦めていたことも、『いろいろな人が協力すれば実現できる!』と思える空気が生まれます。医療・看護の関係者がそれまで自分の心に留めていた想いをもっと発言しやすくなるように──プロジェクトには、そうした期待を持っています」(又木さん)


取材が行われた東京北医療センター。今回のワークショップでは、1つの病院の課題解決に留まらず、「医療界全体に有効なアイデアが生まれた」と又木さんは期待を語る

医療現場の課題を解決するために始動したばかりの大田区「看工連携プロジェクト」。今後、具体的な課題に基づく前述のようなアイデアは、どのようにかたちになっていくのでしょうか。次の記事ではワークショップを企画・運営した中心メンバーにお話を伺います。

現場の課題をどのように掘り下げたのか? 【看工連携プロジェクト(2)】へ続く

第22回 高度技術・技能展 おおた工業フェア
1/31(水)〜2/2(金)まで開催された展示会イベントでは、大田区「看工連携プロジェクト」についての展示や講演が行われました。

いま、現場の看護師が本当に困っていることとは?【看工連携プロジェクト(1)】

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