医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト

看工連携の取り組みが社会にもたらす価値とは?【看工連携プロジェクト(3)】(前編)

2018年4月23日



看工連携の取り組みが社会にもたらす価値とは?【看工連携プロジェクト(3)】(前編)

医療現場の声を反映した医療機器の製品化を目指す「看工連携プロジェクト」。これまでに公開した2つの記事では、医療・看護現場の課題とその抽出方法について、課題当事者である東京北医療センターと、プロジェクトの牽引役である公益財団法人大田区産業振興協会と富士通の双方からお話を伺いました。
3回目となる今回は、看工連携のポリシーに共感しプロジェクトに参画することとなった2組を取材。前編では東京工科大学医療保健学部 看護学科長・教授の野澤美江子さん、後編では大田区のものづくり企業・株式会社ライズアップの倉田優さんらのお話をとおして、看工連携プロジェクトが「社会に何をもたらすのか」について考えていきます。

万人にとって「ストレスフリー」な社会をつくる【看工連携プロジェクト(3)】(後編)

実践力と柔軟性を重んじる「実学主義」を達成するために

2018年1月31日〜2月2日、大田区産業プラザPiOにて「第22回 高度技術・技能展 おおた工業フェア」が開催されました。「『看工連携』という新たなチャレンジ」と題したセミナーに登壇したのは、東京工科大学医療保健学部で看護学科長・教授を務める野澤美江子さん。

野澤美江子さん
東京工科大学 医療保健学部看護学科長・教授の野澤美江子さん

今から8年前、東京工科大学蒲田キャンパスに医療保健学部(看護学科、理学療法学科、作業療法学科、臨床工学科の4学科、4年前に臨床検査学科が開設され現在5学科体制)が誕生しました。同大学の看護学科長である野澤さんはプロジェクトへ参画した経緯について「大田区産業振興協会から“これまでの医工連携よりももっと身近なところで看護とものづくりのタッグを実現させたい”とのお誘いをいただいた。同時に、社会や技術の変化に柔軟に適応できる人材の育成、すなわち“実学主義”の達成を目指している東京工科大学としても、受け入れる体制が整っていた」と話します。

また、野澤さんは長年にわたり看護現場と看護師の教育に携わってきた立場から、看工連携プロジェクトが発足した背景について振り返りました。

これまで各所で行われてきた医工連携の取り組みがなかなか製品化まで至らず、うまくいかなかった理由として、「医療機器を開発するうえで避けてとおることのできない規制などの各種制約と、ほとんどが医師主導で治療や検査を円滑に行うための取り組みが中心だったこと」の2点をあげました。

その解決策として考えられたのが、開発の対象として規制の少ない「一般医療機器あるいは医療用雑品の開発・製造・販売」に絞ること。さらに、患者さんやその家族と接する時間がいちばん長く、身近な存在であり、医療施設や福祉施設の現場をよく知る、看護師とのマッチングを行なうことでした。そしてそこでは、医療現場のニーズと民間のものづくり技術、それぞれに関わるひとの想いを共有できるようにすることに加え、両者のタッグを円滑に進めていくためのコーディネーターの存在が重要となります。それを見いだせていることが今回のプロジェクトの特徴と考えているそうです。

野澤さんのセミナーの様子
「第22回 高度技術・技能展 おおた工業フェア」にて行なわれた野澤さんのセミナーの様子

以前、看工連携(1)の記事でお伝えしたとおり、2017年11月21日に開催された「アイデア創出ワークショップ」には、東京北医療センターのスタッフ、東京工科大学医療保健学部看護学科の教員のみなさん、大田区のものづくり企業(12社)、凸版印刷、富士通総研、富士通の社員ら25名が参加。「次世代ナースコール」「メディカルストロー」「住環境センサー」「電子氷嚢(ひょうのう)」などのアイデアが生まれました。

野澤さんもこのワークショップに参加し、「メディカルストロー」のチームでアイデアを創出しました。

「まったく現場を知らない人に自分たちの想いを伝えるのは難しいと感じました。ただ、難しいといいながらも、実はとても楽しかった(笑)。医療現場でさまざまな課題に直面しているわれわれが“医療現場を知らない異業種の人”にわかってもらうためには、ふだんよりずっと丁寧に説明していかなればなりません。そのおかげなのか、ふだん自分たちだけでは気づけない、実にフラットな質問やフィードバックを受けることがあったんです」

アイデア創出ワークショップは看護学生のための教材開発にも有用

当初、異業種間でのワークショップ開催を知らされた野澤さんは「正直、どこまでできるか半信半疑な気持ちも少しはあった」。しかし、しだいにワークショップに対して前のめりになっていったといいます。

野澤美江子さん
「まさしく目から鱗。それまで“看護の現場はこうあるべきだ!”と視野を狭めて考えていた節がありましたが、新しい発想が生まれていきました」とワークショップの感想を語る野澤さん

ワークショップ後、アイデアは少しずつカタチにされはじめ、今回の「おおた工業フェア」でもいくつかのプロトタイプを展示。来場者からのフィードバックも得ました。「看護師が、発案の段階から完成まで一連のものづくりのプロセスに関わり続けられれば、仕事の喜びや達成感にもつながる」といいます。

さらに野澤さんは、「医療現場の声を反映した医療機器の製品化」を目指す看工連携プロジェクトに、大学という教育機関の立場からの期待を話します。

「看護教育では、病院での実習に先立ち学内で模擬演習を展開します。演習は実習室で行われ、学生は看護師だけでなく患者さんの立場も模擬体験して学びます。そのため、教材としてさまざまな医療機器が必要となることから、医師や看護師学生向けの教材開発も進んでいます。とはいえ、すべてをカバーできているわけではありません。そこで、教材として製品化されてない場合は、ときに1台何百万円もする本物の医療機器を仕入れなければいけないことがあります。しかし、教材としては本物である必要はなく、モックアップで充分なことも多いのです。

たとえば、医療機器にはいくつものセンサーがついていますが、演習の内容によっては緻密な制御をする必要はありません。医療機器のイメージの確認や取り扱いの練習のみで済む場合もあります。ワークショップをとおして、ものづくり企業と連携すれば医療機器のモックアップを教材として活用していくことも可能なのではないかと感じました」

チーム医療推進に寄与する、これからの看護師の役割とは

今、医療現場では「チーム医療」の推進が求められています。すなわち、患者を中心に考え、患者を取り巻くさまざまな職種のスタッフがおのおのの専門性を生かしつつ、横の連携も保ちながらものごとの解決にあたっていく──そんな医療の姿です。

それを背景に野澤さんは「これから看護師に求められている役割は“橋渡し”」であると考えています。

「人が快適に生活するために、本当に必要なものが速やかに提供され、そのことが看護師と患者双方のメリットになる──。それが第一に看工連携プロジェクトに期待することです。それに加えて、看護師が“自分たちはこんなこともできるんだ”“こんなかたちで社会に貢献できるんだ”と感じられるきっかけにしていきたい。

患者の代弁者になる看護師は、これまで現場の課題を見つけると、何とかしなければという使命感から、解決策を具現化したりするプロセスを“自分たちだけ”で行ってきました。看工連携のワークショップのようなアプローチを実践できれば、全体を俯瞰しながら、誰かとともに課題解決にあたれるようになるでしょう。以前より看護師の役割は広域的にはなっているとはいえ、まだ進みきっていないのが現実。この取り組みをきっかけに、看護師の役割を変えることができれば何よりです」

グラフィックレコーディング
野澤さんが看護の現場で感じている課題や「看工連携プロジェクト」の取り組みについて語ったセミナーではグラフィックレコーディングも行なわれた

チーム医療が推進されていくなかで、現場で求められる役割が変化してきた看護師たち。野澤さんは「今後は看護師の参画意識の醸成やニーズの掘り起こしをおこなっていくことで、超高齢化社会に備えていきたい」と今後の展望を語りました。

「看工連携プロジェクト」はその変化を加速させるきっかけになるのか、あしたのコミュニティーラボではプロジェクトの次なる展開にも注目していきます。

続く後編では、既存の医工連携が抱えている課題をとおして、ものづくり企業の視点から看工連携プロジェクトが社会にもたらす価値を紐解きます。

万人にとって「ストレスフリー」な社会をつくる【看工連携プロジェクト(3)】(後編)へ続く

4月4日(水)放送のテレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』トレンドたまごのコーナーで、看工連携プロジェクトから生まれた「メディカルストロー」が紹介されました。

看工連携の取り組みが社会にもたらす価値とは?【看工連携プロジェクト(3)】(前編)

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