医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト

万人にとって「ストレスフリー」な社会をつくる【看工連携プロジェクト(3)】(後編)

2018年4月23日



万人にとって「ストレスフリー」な社会をつくる【看工連携プロジェクト(3)】(後編)

医療・看護関係者とものづくり関係者の連携により、医療現場の声を反映した医療機器の製品化を目指す「看工連携プロジェクト」。前編では、大学教育機関の立場から参画する東京工科大学医療保健学部 看護学科長・教授の野澤美江子さんに「プロジェクトが社会にもたらす価値」について伺いました。では、ものづくり企業の側はどのように感じているのでしょうか。東京・大田区で医療機器開発事業に取り組む株式会社ライズアップの倉田優さん、同社のテクニカルディレクターとしても活躍する合同会社ジャパンデンタルシステムの西尾洋一さんのお話から、プロジェクトの価値を考えていきます。

看工連携の取り組みが社会にもたらす価値とは?【看工連携プロジェクト(3)】(前編)

製造と臨床、双方のプロ意識が邪魔することも

前編にご登場いただいた東京工科大学医療保健学部 看護学科長・教授の野澤美江子さんは、2017年11月21日に開催された「アイデア創出ワークショップ」で「メディカルストロー」のチームに参加しています。野澤さんと同じこのチームに参加したメンバーが、株式会社ライズアップ代表取締役の倉田優さんと、合同会社ジャパンデンタルシステム代表の西尾洋一さん。

「15年来のつきあい」だというお2人はこれまで、ともに関西を拠点に活動してきました。医療機器のクラス分類では「クラスⅢ」(高度管理医療機器)にあたる整形外科用インプラントの製造や販売に長く関わってきています。

大阪・豊中市の医療機器メーカーを退職した倉田さんが東京・大田区へ拠点を移し、独立したのは今から4年前。大田区蒲田の産業連携施設内に株式会社ライズアップを立ち上げました。

倉田優さん
株式会社ライズアップ 代表取締役の倉田優さん

大阪で仕事をしていた時代に「医工連携」の取り組みに関わることがあったそうですが「製造のプロと臨床のプロ、双方のプロ意識が邪魔することがある」と倉田さん。独立後の倉田さんはどちらのことも熟知する「翻訳者」として、自ら「医療機器マッチングコーディネーター」を名乗り、技術面(設計・開発)を支えるテクニカルディレクターの西尾さんとともに中小企業を中心に支援。数々の医療機器開発事業を担当しています。

中小企業にとって医工連携のハードルが高い理由とは

そんな折、今回の看工連携プロジェクトに参画することになりました。

一般的に、医工連携は発案者(医療従事者)のオーダーから企画・開発がはじまります。そのため企画・開発されるものは「どうしても発案者のための1点モノをオーダーメードでつくることが多い」そう。マーケティングのことなどはおざなりになって「特定の医療従事者がつくってほしいものを、ただ製造業者がつくり、提供するだけ」になるケースが頻出していたといいます。

「加えていうならば、医工連携は薬機法という法律の枠組みが関係し、最終的には認証基準・承認基準を満たさないといけません。製品の完成までに時間がかかるぶん、それに伴って巨額の投資が必要とされるので、中小企業にとって、医工連携に参画することのハードルは高いのです」(倉田さん)

西尾さんが補足します。

「薬機法の範疇ではなく開発の投資ハードルがそこまで高くなく、かつ改良・改善を待つヘルスケア領域の製品(医療用雑品)はたくさんあります。医療用雑品も開発対象とした看工連携プロジェクトは、医工連携の一般的な進め方に課題を感じる私たちにとっても、関心を寄せ、飛び込むに値する取り組みでした」(西尾さん)

西尾洋一さん
合同会社ジャパンデンタルシステム 代表(兼)株式会社ライズアップ テクニカルディレクターの西尾洋一さん

マーケット拡大の鍵は汎用性を高めること

倉田さんと西尾さん、そして野澤さんらがワークショップでアイデアを生み出した「メディカルストロー」は、ベッドに寝ながらでも水分をストロー吸引できるようにする製品です。

看護の現場でよく使われる「吸いのみ」を使用する際は、ベッドを30度くらい傾ける必要があるので、患者が少量の水を飲むのにも看護師がつきっきりに……。飲み下す感覚は患者本人でないとわからないため、介助がうまくいかず、誤嚥(ごえん)させてしまうこともある——そんな現場レベルの課題から生まれました。

「第22回 高度技術・技能展 おおた工業フェア」の看工連携プロジェクトブース
「第22回 高度技術・技能展 おおた工業フェア」の看工連携プロジェクトブースにて来場者の質問に応える倉田さんと西尾さん

「メディカルストローもそうですが、看工連携から生まれる製品の数々は、どれも1点モノの特注品ではなく、汎用性がとても高いと思います。1点当たりの卸値は小さくても、医工連携に比べてマーケットも、市場に与えるインパクトも断然大きいことでしょう」(倉田さん)

現在開発中の「メディカルストロー」は、寝ながらの状態でも“ストローを噛む”ことで、口腔内全体に水分を安全に補給できるようにする新型給水器のようなもの。さらに、「一般的な生活者の“飲・食の体験”まで豊かにできる」(西尾さん)という付加価値も持ち得る製品です。すでにプロトタイプ1号機が完成し、特許出願まで進んでいます。

メディカルストロー
「メディカルストロー」のプロトタイプ1号機。誤嚥防止に役立つだけでなく、シャワーのように水分が拡散するため従来のストローよりも飲料の味や香りを堪能できる

「先ほど申し上げたとおり、既存の医工連携の枠組みで最大の問題は初期投資です。開発の費用は“持ちだし”になるケースが多く、リターンも遅いので、結果的に中小企業の参入障壁が高い。もちろん看工連携のような取り組みでも、そうした資金繰りからお金の回し方まで、企業がより参入しやすい枠組みをつくりたいと考えています」(倉田さん)

株式会社ライズアップが掲げるビジョンは「ストレスフリーな社会づくり」です。それは「誰に」とってのストレスフリーなのでしょうか?

「もちろん看護師であり、患者さんです。しかしわれわれは、その先にいる患者さんの家族、介護士や他の医療従事者、さらには医療機器を製造する人、販売する人のストレスフリーまで考えていきたい」(倉田さん)

倉田さんと西尾さん
看工連携プロジェクトの目的にも通じる「ストレスフリーな社会づくり」というビジョンを語る倉田さんと西尾さん

医療現場の声を反映した医療機器を製品化することで、医療現場の最前線にいる「看護師」の業務負担を軽減し、日本の医療全体の質を向上させることで「患者」の課題を解決する看工連携プロジェクト。

その成果として社会にもたらされるものは、看護師にとっては「働きやすい職場環境」、日本の中小企業にとっては「新規市場の開拓」です。看工連携プロジェクトもまた、「ストレスフリーな社会づくり」に寄与する取り組みだといえるのではないでしょうか。

看工連携の取り組みが社会にもたらす価値とは?【看工連携プロジェクト(3)】(前編)

4月4日(水)放送のテレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』トレンドたまごのコーナーで、看工連携プロジェクトから生まれた「メディカルストロー」が紹介されました。

万人にとって「ストレスフリー」な社会をつくる【看工連携プロジェクト(3)】(後編)

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