歯からQOL向上を目指す予防歯科プロジェクト

【予防歯科プロジェクト】歯磨き体験はどうアップデートできる?──毎日のホームケアからはじめる、予防歯科のエコシステムづくり

2018年4月25日



【予防歯科プロジェクト】歯磨き体験はどうアップデートできる?──毎日のホームケアからはじめる、予防歯科のエコシステムづくり

虫歯や歯周病になってから歯科医に通うのではなく、「ならないよう」個人のリスクに応じたメンテナンスとホームケアを続けるには、どんなアプローチができるのか。あしたラボでは、全身の健康にもつながる「予防歯科プロジェクト」の動向を追ってきた。予防歯科のパイオニア、日吉歯科診療所の熊谷崇先生の啓発活動。それを支援する富士通の歯科医院向けクラウドサービス。今また新たなコラボレーションがはじまっている。
サンスターが提供するIoTスマートハブラシ「G・U・M PLAY (ガム・プレイ)」と歯科医院向けクラウドサービスとの連携だ。これで歯磨き習慣はどう改善されるか。また、歯科医院のプロフェッショナルなメンテナンスの質はどう向上するのだろう。新たな取り組みへの想いと試行錯誤の様子を追った。

正しいブラッシング習慣を促すスマートデバイス

G・U・M PLAYは、スマートフォンのアプリと連動したアタッチメントデバイス。これを歯ブラシに装着して歯を磨く。歯科衛生士のブラッシングにどれだけ近いか、つまり正しく磨けているかどうか採点し、歯磨き中の動きや経過時間などのデータも記録・分析する。2016年4月に発売されると、IoT商品の先進事例としてメディアでも多く紹介された。

G・U・M PLAYのアタッチメントをつけた歯ブラシで歯を磨くと、その結果がスマートフォンアプリで閲覧できるようになる
G・U・M PLAYのアタッチメントをつけた歯ブラシで歯を磨くと、その結果がスマートフォンアプリで閲覧できるようになる

サンスターの松富信治さんは「歯磨き体験を大きく変えたいという想いがその発端」と話す。

「目的は2つありました。1つ目は、オーラルケア業界の長年の課題、そして万国のお母さんの課題として、お子さんの正しい歯磨きを習慣化すること。2つ目は、大人でも時間が足りなかったり、磨いているつもりでも磨けていなかったりするので、それらをデータとして可視化することで改善できないか、と」

松富信治さん
サンスターグループ オーラルケアカンパニー日本ブロック マーケティング部 松富信治さん

そして、スマートフォンアプリを通じて、その目的を届けようとしている。子ども向けに開発された、「MOUTH MONSTER」は、虫歯菌を倒していくと、自然と正しい歯磨きが身につくゲーム性の高いアプリ。一方、大人向けには、ガイド通りにきちんと磨けば好きな音楽が正確に奏でられる「MOUTH BAND」、歯磨き中に最新のニュースを読み上げる「MOUTH NEWS」を開発した。

いずれのアプリでも、歯磨きを採点する「MOUTH CHECK」、歯磨きデータを記録・分析する「MOUTH LOG」の機能が作動する。

「アイデア自体はありましたが、センサーが安価になったりスマートフォンが普及したり、技術の条件が整ったタイミングで満を持し実現しました」(松富さん)

25歳から44歳までの子育て世代に訴求し、オンラインストアおよび一部の店舗で販売、好評を博している。

クラウドサービスは、来院時にしか確認できないホームケアを確認するためのカギ

レントゲン写真や口腔内写真、う蝕(虫歯)と歯周病検査、歯科衛生士のコメントなどの口腔情報をクラウド環境にアップロードし、「歯の健康ファイル」として、患者と情報共有するのが、富士通の歯科医院向けクラウドサービスだ。

患者はスマートフォンやPCでいつでも自分の歯の口腔情報を閲覧することができ、メンテナンスとホームケアを継続するモチベーションアップにつながる。2016年10月、日本の予防歯科のパイオニア、熊谷崇先生が理事長を務める医療社団法人日吉歯科診療所(山形県酒田市)ではじめて導入され、現在、全国で予防歯科に取り組む約60の歯科医院で利用されている。

富士通の山本嗣雅さんは、今回のG・U・M PLAYとの連携の背景を次のように語る。

「予防歯科に取り組んでおられる先生方はホームケアの重要性を強調されています。ただ、患者さんが指導した通りに毎日歯磨きされているかどうかは、来院のときしか確認できません。もし日頃のホームケアの状況をクラウド上で常に知ることができたら、予防歯科の価値がさらに上がるはず。

ホームケアの状況を記録しているG・U・M PLAYとわれわれの歯科医院に特化したクラウドサービスが連携すれば、それが可能になると考え挑戦しました」

山本嗣雅
富士通株式会社 第二ヘルスケアソリューション事業本部 山本嗣雅さん

松富さんによれば、サンスターとしても次のような展望でG・U・M PLAYの普及を図っていた。「単品の売上だけを求めてはいません。お客さまとの接点を変えることに基軸を置き、サンスターのファンになっていただけるしくみづくりの起点にしたい」。

さらに「事業構想の段階から歯科医院と患者さんをつなげるツールとしても考えていました。患者さんにモニタリングしていただければ継続が促され、歯磨き習慣が向上するはず。オーラルケア業界の責務としても予防歯科の普及に貢献したい。予防商品の需要喚起にもつながります」と松富さんは期待をかける。

データでわかる磨き残し、口腔環境改善への糸口

2017年11月、まずは日吉歯科診療所の患者と歯科衛生士を被験者とする実証実験からスタートした。検証ポイントは大きく3つ。第1に「患者が、毎日の歯磨きを見守ってもらうことでホームケアの質が改善するか」。第2に「自分の口腔情報をクラウドで確認しながら、ホームケアに取り組むことで、ホームケアの質が向上するか」。第3に「歯科医院にとって、患者のホームケアを確認することで治療の質がより向上するか」。

実証実験対象の患者は30名。歯科衛生士がG・U・M PLAYの使用方法を説明し、染め出し(染色剤で磨き残し部位の歯垢が赤く染まる)を行なって口腔内写真を撮影。それらを参考にしながらホームケアを指導し、口腔内をクリーニング。1週間~1カ月後にG・U・M PLAYの使用に関するアンケートを患者から回収しつつ、再度同様のプロフェッショナルケアを施すプロセスで実施された。

患者の反響はおおむね良好だった。「あまり磨けていないところが絵でわかり、参考になる」「MOUTH LOGのブラッシングエリアの評価を見て、ブラシの角度や向きを意識するようになった」「強すぎるなど歯磨きのクセがわかった」「意外に磨いている時間が短いことに気づいた」「G・U・M PLAYを使わないときも歯磨きの時間や丁寧さがアップした」といった感想が寄せられている。

患者と歯科衛生士のコミュニケーションツール

歯科衛生士にとっての使い勝手はどうだったのだろうか。総じて「患者さんとの距離が近くなり、さらに寄り添うサービスができるようになった」との手応えを得ることができたようだ。

「口腔内画像とG・U・M PLAY連携用の弊社のアプリでふだんのブラッシングの実施記録を患者さんと一緒に見ながら話せると、ホームケア指導の質も、患者さんの満足度も高まるようです」(山本さん)

タブレットで患者がいつ歯を磨いたのか確認することができる
歯科医院では、タブレットで患者がいつ歯を磨いたのか確認することができる

日吉歯科の歯科衛生士・前田奈美さんは「口腔ケアの向上とともに、患者さんと歯科衛生士との良いコミュニケーションツールになる」と感じたと言う。

「患者さんに“こうしてくださいね”とお話ししても、実際にはできていなかったりすることはよくあります。その溝を埋めて介入の余地を広げられるツールだと思いました。ただ間違えてほしくないのは、これを使えば良くなるという単純な話ではなく、予防歯科のプログラムに組み入れてこそホームケアの向上が期待できることです」

前田奈美さん
日吉歯科診療所 歯科衛生士 前田奈美さん

前田さん担当の患者でG・U・M PLAYの使用前・使用後で劇的に染め出しの状況が改善した30代の男性がいる。2015年が初診でカリエスフリー(ほとんど虫歯がない状態)だったものの、歯肉炎やプラークコントロールの改善に悩まされている状況だった。

検査・初期治療・再評価の後、1~2カ月ごとにメンテナンスとホームケア指導を続けたものの、ほんの少し改善した程度だった。しかし、今回のG・U・M PLAYの使用によって、本人も気づかなかった強い磨きグセが修正され、染め出しの状況が改善されたという。歯科衛生士とのコミュニケーション、アプリを活用した歯磨き、双方向のコミュニケーションによって、具体的な改善が見えた例と言える。

日吉歯科の熊谷先生はホームケア指導のポイントをこう話す。

「ホームケアは大切ですが、なんでもかんでも歯磨きすればいいという従来型の指導ではダメ。初診時、再評価時、治療が終わりメンテナンスに入る時期それぞれ必要なブラッシングは違います。それを患者さん個別の口腔内画像と連動させて表示してほしい。予防歯科のメディカル・トリートメント・モデルの一連の流れに位置付けることが大切」

日吉歯科診療所の熊谷崇理事長
日吉歯科診療所 熊谷崇先生

「先生がおっしゃるのはまさしく本質」とサンスターの松富さん。「さらなるカスタマイズが今後の重要課題です。クラウド上の口腔内画像を活用するのも1つの手段だし、さまざまなデータを元に、より個別化対応を進化させていきたい」

インセンティブによって意識より先に行動を変える

今後、G・U・M PLAY×歯科医院向けクラウドサービスをどう普及させるのか。日吉歯科の熊谷先生が提唱する予防歯科のメディカル・トリートメント・モデルに賛同し「オーラル・フィジシャン・セミナー」に参加する連携診療所は全国で約700。そのうち歯科医院向けクラウドサービスを利用している歯科医院が50~60軒。

「G・U・M PLAYとの連携機能を、歯科クラウドのユーザに、無料公開して間口を広げるほか、定期的にイベントを開催して周知し、導入する歯科医院が恒常的に増えていくしくみをつくりたい」と山本さんは話す。

その活動の一部として、2018年3月11日には「医と産業の連携講演会」が実施され、企業における最新の予防歯科の取り組みを発表した。

松富さんも「弊社が持つさまざまな顧客接点を活用して案内し、予防歯科への興味・関心を喚起したいと考えています。歯科衛生士の教育プログラムのツールに使えるのでは? というお問い合わせなどもいただいているので、多方向から認知度を高めていきたい」と意気込む。

超高齢化社会を迎え、増え続ける一方の医療費を抑制すべく、国も「治療から予防へ」の旗を振り、大きなうねりを起こそうとしている。だが予防の大切さを意識してはいても、いざ健康を害してからでないと行動を起こさないのも人の常だ。「意識より先に行動を変えるしくみづくり」(松富さん)が求められる。

前田奈美さん
歯ブラシ、毎日のブラッシング習慣が大きく変わる可能性を秘めている

そのためには、予防行動をするとなんらかの特典サービスが受けられるといったインセンティブで行動を促進する動機付けが必要だろう。G・U・M PLAY×歯科医院向けクラウドサービスのプロジェクトは、そうしたことも視野に入れ、来たる予防歯科のエコシステムづくりに挑もうとしている。

2018年5月に、関東・関西それぞれで本プロジェクトを含めた予防歯科の取り組みに関してイベントが開催されます。日吉歯科診療所の熊谷崇先生をはじめ、さまざまな登壇者、生の声を通じて、改めて予防歯科について考えてみませんか?

【関西】歯科を中心とした予防医療の取り組みにおける情報システム・情報発信の重要性を、さまざまなステークホルダーがディスカッションする、関西大学総合情報学部 創立25周年シンポジウム「予防医療における情報の役割を考える」開催。お申し込みはこちらから。

【関東】予防歯科を中心とした予防医療の拡大のために、医・産業、行政や大学を超えた新たな共創の形を考える「富士通フォーラム2018 人生100年時代の健康プロジェクト」開催。お申し込みはこちらから(5月18日(金曜日)からC22-3セミナーをお選びください)


【予防歯科プロジェクト】歯磨き体験はどうアップデートできる?──毎日のホームケアからはじめる、予防歯科のエコシステムづくり

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