Columns
あしたのコミュニティーラボ編集部のコラムをはじめ、ちょっと一息つける連載記事を更新中。
肩の力を抜いてご覧ください。

オースティンで出会った4つのイノベーションの種 ――漢方ICTプロジェクトSXSW探訪記(後編)

2015年06月16日



オースティンで出会った4つのイノベーションの種 ――漢方ICTプロジェクトSXSW探訪記(後編) | あしたのコミュニティーラボ
北里大学と富士通が取り組んできた「漢方ICTプロジェクト」。今回、オースティンで行われたカンファレンスイベント SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)に初出展しました。後編ではKAMPO ME!メンバーが注目したイノベーションの種と、そこから見えた学びをデジタルヘルス、社会貢献、Todai To Texas、グローバル、4つのトピックスに分けてお伝えします。

診療とテクノロジーの融合は医療サービスを向上させる? ――デジタルヘルス

私たち、KAMPO ME!メンバーがまず注目したのは、デジタルヘルス領域。今年から新しい部門としてSX Health and MedTech Expoが新設され、注目度の高い領域です。展示では医師が診療現場で患者から得られる以上の情報が取得でき、可視化できるようなサービスが多く見られました。

Withings Activite」「Misfit Shine」など、ウェアラブルデバイスで簡易的に日常の活動を観察するだけでなく、スマートフォンで血液検査が可能な「Accel Diagnostics」や、子宮頸がん検査が可能な「Mobile ODT」のように、診療領域まで踏み込んだプロダクトが多く出展されており、領域の盛り上がりを表していました。セルフヘルスケアの高度化だけではなく、貧困状態や途上国における医療格差にもアプローチ可能なところにまできたように感じました。

sxsw_2-1
SX Health and MedTech Expo 展示の様子

また、慢性疾患患者のモニタリングで異常を事前感知する医師向けシステム「CareCycle Navigator」や、聴診器の診断結果をデジタル化しスマートフォンと連動する「Eko Devices」といった医師向けサービスも数多く出展されていました。

デジタルヘルスケア領域自体は技術進化に伴い、よりいっそう日常生活のなかに溶け込むことが予想されます。今回注目したプロダクトは、精度向上や継続使用長時間化を目指した改善が必要ですが、一方で医療現場で提供される医療サービス自体の品質を高める必要性を示唆する内容でした。

環境や倫理に配慮したプロダクト開発 ――ものづくりで社会貢献

「社会的に良い」=“ソーシャルグッド(social good)”を打ち出すプロダクトも多数展示されていました。ソーシャルグッドなものをつくることは、環境、人権、公益性などをふまえ、社会にどれだけ貢献できるのかを追及することにつながります。私たちの出展ブースでも、投資家に「このプロダクトが世の中をどう良くするのか」と、何度も尋ねられました。

ニューヨーク近代美術館(MOMA)のシニアキュレーター パオラ・アントネッリさんは基調講演のなかで、リサイクル原料活用や天然由来原料を用いてデザインされた「エシカル」なプロダクトに多く言及していましたし、有名女優のジェシカ・アルバさんも、自身の子ども服ブランドでnontoxic(非中毒性)やeco-friendly(環境に優しい)をコンセプトに、年1.5億ドルもの売上をあげていると話していました。

「購買」の価値がメーカーとユーザーの間だけにあるのではなく、ステークホルダーと好循環を生み出す関係を築く行為に変化していることを象徴するトピックスでした。

日本の大学生が挑戦! 学び、つくる姿に刺激を受けた ――Todai To Texas

日本ブースのなかでも特に注目していたTodai To Texasグループ。過去あしたラボでも紹介した「Moff」、「STARRYWORKS」、「AgIC」などが出展し、ひときわ存在感を放っていました。なかでも筋電義手「handiii」ブースは常に満員。150万円以上する節電義手を3Dプリンターやスマートフォンで数万円にコストを下げた画期的なプロダクトで、開発を加速させるためにHACKberryという義手プロトタイプをオープンソース化したことでも話題になりました。洗練されたデザインは補助器具というよりも、新しいコミュニケーションや体験に導いてくれる未来のデバイスだと感じさせてくれます。

sxsw_2-3
handiiiを装着した様子

“誰でもつくれる小さなヒューマノイド”をコンセプトに、小型かつ精密、多彩な動きも兼ね備えたロボット「PLEN2」は非常にユニークなプロダクトです。大半のパーツを3Dプリンターで自作でき、モーター部分のキットを購入すれば好みのロボットを組み立てられるのです。自分でデザインし、組み立てられる小型ロボットという点で、教育用途はもちろん、チームビルディングやプレゼントなど、ロボットの可能性をぐっと拡げてくれるプロダクトです。SXSW終了後にクラウドファンディングで目標額を越える支援を獲得、今後はビジュアルランゲージを使ったプログラミング教育ツールを合わせて開発していくとのことです。

sxsw_2-4
とてもかわいらしい“誰でもつくれる小さなヒューマノイド” PLEN2

そして、私たちがもっとも注目したのはカスタマイズキーボード「Trickey」です。現役東大生の城啓介さんと小川徹さんがリーダー。2人とも工学部の3年生で、工学部電気系学科の名物講義「電子情報機器学」を受講し、Todai To Texasの三田吉郎准教授、川原圭博准教授の呼びかけに呼応しました。両准教授のサポートも受けながら開発を続け、出展にこぎつけたと話します。「Trickey」は好きな配列のキーボードをつくることができるハードウェア。ゲームや専門ソフトなどの操作を最適化・簡略化することが可能です。製品化に向けてkickstarterにも出品し、チャレンジは残念ながら目標額に達しなかったものの、2015年6月現在、次の挑戦に向けて準備中です。

sxsw_2-5
ブロックを組み立てるようにつくるカスタマイズキーボード「Trickey」

在学中に授業でユーザー視点のものづくりを経験し、試行錯誤をしながら出店・製品化まで行うことは、そこにかかる大学サイドの負担は軽くはありません。しかしながら、イノベーティブな人材を育成するうえで価値が高く、日本の未来にとって非常に重要な取り組みだということを肌で感じました。

sxsw_2-6_2
ブースで「Trickey」を説明する東京大学3年生の城さん

日本から飛び出した海外スタートアップ ――グローバルへの挑戦

日本ブースの出展者の多くは、日本法人の立場からグローバルマーケットを視野に入れたサービス展開を目指しており、私たちもその1つです。そんななか、はじめからグローバルをターゲットとする、日本人起業家による海外法人も出展していました。特徴的な2つをご紹介します。

1つ目は「ASTROSCALE」、岡田光信代表がシンガポールで起業したスタートアップです。主力事業は“スペースデブリ(宇宙ゴミ)の掃除”。宇宙空間には放置された衛星や宇宙船の残骸などが億単位で存在すると言われています。ISS(国際宇宙ステーション)への衝突はもちろん、船外作業や有人飛行への影響が懸念されますが、実は私たちにもっと身近な問題にも関連しています。

sxsw_2-7
指でつまめるほどのスペースデブリの衝撃は、衛星に大きな損害をもたらす

それはGPS衛星との衝突。GPSは移動をスムーズにし、スマートフォンをカーナビ代わりに使う人も多いでしょう。このシステムを支えるのが、GPS衛星です。GPSの故障によって、交通システムの麻痺や証券取引所のシステム障がいが考えられます。証券取引システムの正確な時刻測定はGPS衛星が行っており、その不具合が証券取引に大きな混乱をもたらします。

自社開発のロケットでスペースデブリを回収し、ロケットごと大気圏に投入することでそれらを焼却する構想を立ち上げ、すでに9億円を調達した同社。2017年末までに宇宙ゴミ除去システムのデモ発表を目指しています。

2つ目が、「KAKAXI(かかし)」です。生産者と消費者の交流を促進し、“顔の見える関係をつくる”がコンセプトのプロダクトで、日本と米国に法人を構え、生産者(農家)と消費者をつなぐSNSを展開しています。

sxsw_2-8_2
デバイスを設置することで、スマートフォン上で農場の様子を確認できるKAKAXI

東北食べる通信の高橋博之さんが代表となり、農作物生産における負のスパイラルを防ごうとする試み。社会課題を解決するためのプロダクトへの注目度は高く、こちらのブースも連日賑わっていました。

SXSWという、超巨大なコネクトとダイアローグの場

ジャンル横断型でさまざまな立場の人が集まるイベント、SXSW。夜になるとまちは音で溢れ、あらゆるところで人々の交流が行われます。ビジネスとエンターテインメントの境界線があいまいで、音楽フェスを訪れた際、ドリンク購入の間に隣の人と仲良くなって盛り上がる感覚でビジネスの会話がスタートします。最初は戸惑いましたが、慣れてくると楽しいものでした。

SXSWに集う人たちのバックグラウンドは他の展示会と比較しても極めて多様です。著名なアントレプレナーから、知名度は高くないもののイノベーションの種を持つスタートアップまで両極端の人がいるのです。そして、それらをうまくつなげて新しいコト・モノをつくろうとする企業・団体。ここでのダイアローグから生まれるコネクティングのスケールや価値は、はかりえません。その「場づくり」「集まる人のメッセージ」から、多くのことを学んだオースティン探訪でした。

最先端テクノロジーと創造性のるつぼに、魂を揺さぶられた4日間 ――漢方ICTプロジェクトSXSW探訪記(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!



Lab



  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ