Opinions
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今、広がる「共創」と〈あしたラボ〉の未来(上)

2013年06月17日



今、広がる「共創」と〈あしたラボ〉の未来(上) | あしたのコミュニティーラボ
「豊かな社会」のあり方を見つめてきた〈あしたのコミュニティーラボ〉も、おかげさまでオープン1周年を迎えました。この1年間で見えてきた社会の変化を総括し、今後〈あしたのコミュニティーラボ〉が描いていきたいメディアの未来像を紹介します。運営者である富士通株式会社の上嶋裕和執行役員専務と、株式会社インフォバーンの小林弘人代表取締役CEOによる、約1年ぶりのトークセッションをお楽しみください!

ICTはイタリア料理におけるオリーブオイル

柴崎 ちょうど1年前におふたりで対談していただき〈あしたのコミュニティーラボ〉がスタートしました。「人が中心」「共創」「日本再発見」という3つのキーワードをテーマに、「豊かな社会」とは何か、いくつかの切り口から考えてきましたが、1年を振り返って、どんな感想をお持ちですか?

上嶋 正直、こんなに広がりのあるメディアになるとは思っていませんでした。当初は、富士通の考える新しい社会のビジョン「HCIS(ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ)」を、わかりやすくかみくだいて提示したい、というくらいの意図でしたから。ヒューマンセントリックというのは「人が中心」という意味なのですが、それを前提とした豊かな社会っていったい何だろうと、事例紹介やワークショップを通じて、多くの人たちと一緒に考える場になっています。おそらく、取り組んでいくなかで広がっていったのでしょうね。

小林 継続していくうちに変わっていくのがメディアの醍醐味です。テーマを深掘りし、ネットワークが広がるにつれて、違う方向が見えてくることもあります。「こうだ」と決めつけるのではなく、メディア特有のダイナミズムを大事にしたい。そういう意味では、よちよち歩きの幼児から小学生になって、これからさらに新しい展開が見えてくるのではないかと楽しみにしています。

上嶋 小林さんから見ると、まだ小学生なんだ?(笑)

小林 ごめんなさい、小学校高学年かな。もうずいぶん大きくなりました(笑)。

モデレーター:柴崎辰彦 (富士通株式会社/あしたのコミュニティーラボ代表)

柴崎 最初に「豊かな社会とは」という大きなテーマを掲げた特集を行いました。座談会では、社会批評家・濱野智史さんによるモデレートのもと「多様な選択肢から選べる」ことの豊かさが話題となり、以後の企画を考えるうえでの大きな気づきを得ました。そして次に、豊かな社会を実現する具体的な切り口に落とし込んでいきました。まず「学び」をテーマにしたワークショップでは、市民大学と既存の学校との対比の中で、誰かに「教わる」のではなく主体的に「学ぶ」という共通の方向性が浮かび上がってきたように思います。そこにICTが重要な役割を果たしていることも見えてきました。

上嶋 ICTはあくまでもツールです。「学び」の場も、基本は人間同士のリアルなコミュニケーション。ICTが前面に出るのではなく、裏側に隠れて豊かなコミュニケーションをサポートしていく。フューチャースクールオープンエデュケーションの事例やワークショップの議論を見ても、そんな姿勢が大切だと、改めて感じます。

小林 皆さん、それぞれ「学び」についての哲学をお持ちで、そこにどうICTをツールとして生かしていくのか、ということですね。上嶋さんがおっしゃるように、最近は僕なんかも、インターネットやデジタルデバイスというのは、実はイタリア料理におけるオリーブオイルみたいなものじゃないかと考えています。あえて語らなくてもオリーブオイルは当然使われているわけで、それによってどんな料理をつくるか、ということのほうが重要なんです。

柴崎 そこで料理の味をひきたてる、こだわりのエキストラバージンオリーブオイルを使う、と(笑)。

小林 そうですね、オイルも質が重要(笑)。

偶発的なひらめきを促すような働き方に向けて

柴崎 2つ目のテーマとして「働き方」を取り上げ、さまざまな形態で働く人々とディスカッションしました。異業種やフリーランサーが同じスペースを共有する「コ・ワーキング」のスタイルや、非同質なチームワークを促す海外の新しいワークスペースの事例などが紹介され、富士通からも創造性を発揮できるコミュニケーション基盤の見直しが報告されて、大いに議論が盛り上がったと思います。

上嶋 トークセッションの中で目をひいたのは「セレンディピティ」(偶発的なひらめき)という言葉。実はこれ、私も前から気になっていました。何かを探しているうちに、別のひらめきを見つけていく。そんなことが起きる環境になるべきだと思っています。それにはやはり、ある程度“遊び”のある、自由なワークスペースが必要なんですね。事例紹介にあるような、場所を選ばない働き方、つまり在宅勤務サテライトオフィスでもOKだろうし。その部分に関しては少なくとも、ICTが重要な役割を果たしはじめています。

小林弘人株式会社インフォバーン代表取締役CEO

小林 ネット上では、オープンソースを利用し、みんながコ・ワークすることは常態になっています。しかしSOHO先進国のアメリカでも、どうやったら企業が外部の個人とのチームワークのもとで新たな価値を創出できるかを、ものすごく苦慮しながら模索していて、そういうカンファレンスに参加したこともあります。労働の流動化に対して組織がどう開いていけるか、社内外リソースの活用法については試行中といった感がありました。

柴崎 インタビューでも、社会起業家の駒崎弘樹さんが、在宅勤務を奨励した当初はすごく効率が上がったけれど、だんだんコミュニケーション不足で寂しくなり、生産性が下がった、と。それで「週1回くらいが妥当」という線に落ち着いたようですが、企業風土に合った取り入れ方が重要なのでしょうね。

共創で支えられている「MAKERS」ムーブメント

柴崎 クリス・アンダーソンが著した『MAKERS』の翻訳が出たタイミングで、「モノづくり」をテーマに特集を組みました。3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器を使って個人がモノづくりの担い手になる「MAKERS」ムーブメントから、企業は何を学ぶべきか、という観点からの議論でした。MAKERSのトレンドについて、おふたりはどんな感想をお持ちですか?

上嶋裕和富士通株式会社執行役員専務

上嶋 システムエンジニアが関わる範囲で考えると、ソフトウェアは昔から「プロとアマの境目が難しい」と言われています。たいした設備なしにつくれてしまうのがソフトなので。つまりソフトの世界では、もともと個人が「モノづくり」の担い手でした。ハードウェアまで個人がつくれるようになってくると……最初のうちは余計なものがたくさんできあがるのかな、という気がします。個人がいろんなものをつくって、悪いものもたくさん出てくるなかで、逆に素晴らしいものが見直される。悪いものも出てこないと淘汰されないんですよ、きっと。

小林 弾の出る拳銃を3Dプリンターでつくってしまった例も、すでに出ていますからね。でも一方で、平和利用のための3Dモデルを公募したコンテストは、さほどニュースにはなりません。僕も淘汰はあると思っています。メディアの世界でも、ちょっと文章のうまい人がブログをはじめたら一躍有名ブロガーになったりする一方で、目利きの編集者の価値がむしろ高まっているところもある。

柴崎 上嶋さんは、ご家庭に3Dプリンターを買いたいとか?(笑)

小林 数万円からありますよ(笑)。

上嶋 そうなの? ウチも古いんで、洗面所の水道の接合部から水が漏れはじめたんです。でも、もう部品がメーカーにないんですよ。もし3Dプリンターがあればつくれるな、と今思った(笑)。

小林 インタビュー・事例で登場いただいたファブラボ鎌倉田中浩也先生も同じことをおっしゃっていて、自宅の3Dプリンターでネジを出力し、足りなくなった分を補完する使い方をされているようですね。

柴崎 そういった、補修部品のデータを公開する欧米のベンダーも現れているようですね。企業として見れば、部品の管理が簡単になるし、消費者からすると、そのデータをもとに3Dプリンターで造形・出力して修理ができる。

小林 どうしても3Dプリンターばかりが注目されますが、それもまたツールのひとつにすぎません。本当に重要なのは、ソフトの世界と同じようにハードの世界もオープンソースになりはじめ、個人同士が「共創」し合えることで「MAKERS」ムーブメントが支えられていること。実は、そこが重要です。企業にとってのヒントもそのあたりにあることを、〈あしたラボ〉では提起すると良いでしょう。

後篇に続く

上嶋裕和(うえじま・ひろかず)
富士通株式会社執行役員専務
1976年、富士通株式会社に入社。官公庁向けのシステム開発業務に従事。2013年4月より現職、同社のインテグレーションサービス部門を統括している。
小林弘人(こばやし・ひろと)
株式会社インフォバーン代表取締役CEO
紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げるほか、さまざまな企業のメディア化を支えてきたIT界の仕掛け人。現在、デジモ社の代表を兼務、世界に向けてスマートフォン・アプリを使ったサービスを展開する。著書に『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、監修書に『FREE』『SHARE』『PUBLIC』(以上、NHK出版)『戦略的コンテンツマーケティング』(翔泳社)がある。
柴崎辰彦(しばざき・たつひこ)
富士通株式会社インテグレーションサービス部門
1987年、富士通株式会社に入社。数々の新規ソリューションビジネスの立ち上げに従事。2009年よりサービスサイエンスの研究と検証を実践中。2012年に「あしたのコミュニティーラボ」を立ち上げ、代表を務める。著書に『勝負は、お客様が買う前に決める!』(ダイヤモンド社)。

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