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体験ルポ 共創の現場をゆく
観光クラウド「Myルートガイド」で青森を楽しむ!

2013年07月03日



体験ルポ 共創の現場をゆく<br />観光クラウド「Myルートガイド」で青森を楽しむ! | あしたのコミュニティーラボ
地域に埋もれた観光資源を浮かび上がらせ、旅の醍醐味「小さな発見」を促すウェブツール「Myルートガイド」。青森では行政、企業、市民の有志が互いのリソースを持ち寄って地域の情報化に貢献した。そこにはどんな「共創」があったのか。

ルート周辺の寄り道も案内するクラウドサービス

起点と終点を入力すると最適なルートと寄り道スポットを案内してくれるクラウドサービス「My ルートガイド」
新幹線で新青森駅に降り立つと青空が広がっていた。じめじめと蒸す梅雨空の東京とちがい、さわやかな初夏の風が吹いている。

目的地は五所川原市金木町の「斜陽館」。太宰治のふるさとにある、太宰の父が建てた豪邸だ。今は国指定重要文化財で、太宰治記念館になっている。

レンタカーを借りた。カーナビを設定する前にタブレットを立ち上げる。青森県の「Myルートガイド」にアクセス。マップや観光サイトから行きたいスポットを何か所か選ぶだけで、クルマでの最適ルート、走行距離、時間が自動計測され、ルート周辺の寄り道スポットも案内してくれるクラウドサービスだ。

斜陽館へ行く途中、せっかくだから少しは寄り道したい。地元の人に、五所川原に行くならぜひ「立佞武多(たちねぷた)の館」へ、と勧められていた。

Myルートガイドで起点を新青森駅、終点を斜陽館に設定。青森県観光情報サイトアプティネットで立佞武多の館を検索し、「Myルートに追加」ボタンをクリック。さらに、ルート周辺の寄り道案内をチェックする。気になったのは「津軽スコップ三味線快館」。「会館」ではなく”快”館? スコップ三味線とはいったい? Myルートの詳細説明によれば「スコップと、バチ代わりのセンヌキを用いて、音楽や三味線の音色に合わせて打楽器のように演奏する手技芸」で「究極の宴会芸」だという。ここもMyルートに追加することにした。

走行距離46.3km、約1時間のドライブ。寄り道2か所で30分ずつとしても、およそ2時間で目的地の斜陽館に着く。新青森から国道7号線を南下し、浪岡五所川原道路を西へ向かうと、左の車窓に、長い裾野を引く岩木山の優雅な姿が見えてきた。青森にやって来た、と実感するひとときだ。
高さ20m以上の偉容を誇る、3体の立佞武多(たちねぷた)
五所川原市の中心街にある立佞武多の館は、半月型で6階建ての大きな建物。展示室に入っていきなり驚いたのは、1階から4階まで吹き抜けの空間にそびえる巨大な極彩色の「たちねぷた」3体の偉容だ。高さ23m、重さ17t。なるほど、これを収容するのには大きな建物が要る。1階から4階までスロープが巡らされていて、台座とその上に乗る人形部分のディテールが観察できる。

電線が少なかった明治時代まで、大型ねぷたはこのような「立ち人形」の姿をしていた。1996年、地元五所川原の有志の手によって復元され、町中にも出て人力で運行した。この建物の側面は巨大な扉となっていて、祭りにはそれが開いて「たちねぷた」が出陣するという。ぜひその様子も見たいものだ。

立佞武多の館で地域の伝統芸能の豪壮さに魅せられたあと、津軽スコップ三味線快館では地域の宴会芸能の豪快さにびっくりした。“家元”の舘岡屏風山(たておかびょうぶざん)さんによる生演奏と体験演奏。テレビでも取り上げられ、スコップ三味線のファンは全国に広がっているという。
スコップ三味線を演奏する家元の舘岡屏風山(たておかびょうぶざん)さん
目的地の斜陽館は有名な観光施設だが、立佞武多の館と津軽スコップ三味線快館は、地元の人の情報とMyルートガイドのおかげで知ることができた。名所へ行く途中の寄り道スポットを掘り出すMyルートガイドは、地域に埋もれた観光資源を浮上させて、旅の醍醐味のひとつである“小さな発見”を促すウェブツールだ。富士通システムズイースト(以下、FEAST)と青森県が協働し、県内30団体の観光サイトにMyルートガイドを組み込み、青森を訪れた観光客が興味と関心に応じて自由に周遊プランを立てられるしくみを整えた。

これが実現した背景には、FEASTと地域NPOが連携して地域の情報化を地道に進めてきた経緯がある。その原点となったキーマンが、これから訪れる斜陽館の館長であり、NPO法人かなぎ元気倶楽部専務理事の伊藤一弘さんだ。

ICTを活用したフィールドミュージアム構想が原点

NPO法人かなぎ元気倶楽部専務理事の伊藤一弘さん
地元の信用金庫で25年間働いた後、2001年から金木商工会に勤務した伊藤さんは、大規模小売店の進出や後継者不足で廃れる商店街の現状に危機感を抱いていた。「自力で地域を守り育てなければ」と、商工会から地域振興部門を分離させ2005年に設立したのが、NPO法人かなぎ元気倶楽部だ。

五所川原市で指定管理者制度が始まり、地元のNPOとして太宰治記念館斜陽館と津軽三味線会館の二施設の管理運営を受託。雇用が7人から現在30人以上に増えている。折りしも、2009年の太宰治生誕100年、2010年の東北新幹線全線開通に向け、青森県全体で観光客誘致の気運が盛り上がっていた。そこで考え出されたのが、箱モノではない「太宰ミュージアム」構想だ。

「金木地区を中心とする奥津軽の地域全体をミュージアムに見立てて国内外に情報発信しよう、と。そこでFEASTさんから総務省の地域ICT利活用モデル構築事業の話をいただきました。提案が採択され、五所川原市の委託事業となったのですが、ICT技術をもつFEASTさん、県や市、われわれNPOや地域の人たちが一体となって太宰ミュージアムのポータルサイトを立ち上げ、そこから一気に情報発信の仕方が変わりました」と伊藤さんは振り返る。

散在していた奥津軽の観光情報を集積し、太宰ファン向けのポータルサイトとの連動で観光誘導をはかり、ケータイによる観光ガイドとスタンプラリーで地域の埋もれた資源を発掘して、着地型観光を支援する。現在の観光クラウドサービス「Myルートガイド」の原型となった構想だ。

伊藤さんは「大企業の富士通さんがなぜ、ちっぽけな地域の事業に肩入れしてくれるのか、正直いって最初はピンときませんでした。けれども、FEASTの米田剛さん自身がプロボノとして地域情報化モデル研究会というNPO活動をなさっており、地域の情報化による社会貢献を自社の糧にしていくという考え方を聞いて、懐の深い会社だなと思いました」と話している。

今年の4月から金木町では、かなぎ元気倶楽部の提案で「かだるべらりー」という新しい取り組みがスタートした。「かだるべ」は津軽弁で「語り合いましょう」「一緒にやりましょう」の意味。地元の飲食店や菓子店を紹介したマップを手に、各店舗ごとに決められた「合い言葉」を集めて回ると、特産品の「金のなる木=青森ヒバグッズ」がプレゼントされる。
太宰治の生家として知られる斜陽館。国の重要文化財に指定されている
「太宰ミュージアムで町全体をアピールしてきましたが、今まで模様眺めだった町の皆さんにも参加していただこう、と。斜陽館だけで年間10万人の観光客です。〈もっと町歩きを促せば、そのうちの何%かでも、皆さんの店のお客さんになってくださるかもしれない、難しいことではないので一緒にやりませんか?〉と呼びかけて、少しずつ理解していただきました」と伊藤さん。

心は温かいけれど照れ屋の津軽の人が観光客とおしゃべりするきっかけになるのが「合い言葉」。津軽弁だと「え?」と聞き返されたりして、そこから会話が生まれる。4店舗には「まちの記憶館」というギャラリーも併設し、古い写真を解説つきで展示。観光客だけではなく、地元の人たちも懐かしい記憶がよみがえり、子どもたちにとっては昔の町の姿を知る良い機会になっている。

自分のためではなく、地域のため、みんなのため。そんな志を同じくするプレーヤーと共にがんばれる原動力は「納得できない市町村合併に対して金木の良さを見せつけてやろう、という反骨心」もある、と伊藤さんは明かす。金木は決して悪い財政ではなかった。ところが合併後は予算配分がなかなか旧市町村に回らず、伝統行事や祭りが立ち行かなくなることに危惧を覚えたからだ。

ハンデがあるからこそかえってパワーも生まれ、新しいことに挑戦するチャンスをものにできる。そこにも地域の潜在力と可能性があるのだろう。

はじめから地域情報化の形が見えていたわけではない

NPO法人地域情報化モデル研究会の理事を務める佐々木明夫さん
NPO法人地域情報化モデル研究会理事で青森県三八地域県民局県税部部長の佐々木明夫さんも「志を同じくするプレーヤー」の一人だ。

青森県は全国の自治体のなかでもいち早く90年代末に各市町村を結ぶ基幹ネットワークの構築・運営を始め、佐々木さんは情報システム課で当初からその業務に携わっていた。その後、市町村振興課、新産業創造課と異動し、情報化と地域づくりを一体にした取り組みをするなかで、金木が中心になった地域情報化利活用モデル構築事業と出会い、FEASTとの協働作業がはじまる。

「せっかくFEASTさんの構築したシステムがある。一方で市町村や地域団体は観光情報というコンテンツをバラバラに持っている。ならばみんなで手持ちの資源を持ち寄って1つのものにできないか、というのでスタートしたのが、今の観光クラウドサービスの原型なのです」と佐々木さんは振り返る。

「官」発信の情報はそうやって集まっても、「民」発信の情報をどう拾い上げるか。FEASTが県の公募事業で構築した、地域の商店などが自ら情報発信する事業者投稿型サイト「ぷらなび」のシステムがここで結びつく。連携サイトでピックアップしたポイントを選ぶと自動的に最適ルートで結ばれ、周辺情報として「ぷらなび」の店舗情報が浮上する、という形がだんだん姿を現した。

「はじめから今の形が見えていたわけではありません。情報システムというのはアウトラインを最初に決めて、そこに向かって工数を逆算し開発するのですが、この観光クラウドはそうではなく、その都度その都度、手持ちの資源で使えるものを持ち寄り、目標の時期に向かって各々の仕事を調整しながら回していきました。どこか1つの主体が音頭をとってまとめたわけではないんですね」と佐々木さんは青森県観光クラウドにおける独特の“共創スタイル”を語る。

個別のプレーヤーの利益の最大化ではなく、社会的な価値の最大化をめざす地域情報化のような事業には、こうした連携の仕方がふさわしいのかもしれない。目的を共有した小さな集合体の価値観に行政や企業や市民が賛同し、互いのもつ資源と知恵を出し合いながら、実現に向けて持続可能な活動をする。

また、観光クラウドの前提にもなっている「オープンデータ」の動きは、これからの地域情報化に欠かせない、と佐々木さんは言う。

「行政が税金で作成したデータは成果ですから、民間が二次利用可能な形で解放し、新たな情報サービスの創出を促すのは当然。その根底にあるのはオープンガバメントの思想で、日本でも明らかにその流れになりつつあります」

佐々木さんは新産業創造課で県産業技術センターと協力してタブレットやスマートフォンを使った高齢者の見守り緊急通報システムの研究開発に携わった。現在もNPOの立場で同センターでの研究開発に協力している。

「ICTのおもしろいところは、デバイスのインターフェイスが簡単になり、無料で共有できるクラウドサービスができたことによって、ちょっとしたリテラシーがあれば、どのようにも使える環境が整いつつあること。利活用の仕方で可能性は大きく広がります」と佐々木さんは地域情報化の未来に期待を寄せた。

Myルートガイドで奥入瀬渓流から黒石へ

陽の光に照らされた新緑が心地よい奥入瀬渓流
再びMyルートガイドを使って青森の旅を続けよう。新緑の鮮やかな季節の青森といえば、やはり奥入瀬渓流のせせらぎが思い浮かぶ。

新青森駅から奥入瀬渓流へ向かい、一度も訪れたことのない黒石市に立ち寄って再び新青森駅に戻るコースを設定した。途中の寄り道スポットは蔦温泉と、黒石市では重要文化財・高橋家住宅。走行距離157.9km、走行時間3時間58分のドライブだ。

青森市から八甲田連峰の山麓を抜け十和田湖に至る八甲田・十和田ゴールドラインを走る。ところどころ雪の残る山肌。連峰を望む高原のすがすがしさ。木漏れ日のきらめく白樺林。心の洗われる景色が車窓を流れる。
奥入瀬渓流にほど近い蔦温泉
奥入瀬渓流にほど近い蔦温泉は、ブナの天然林に抱かれた一軒宿。ここが珍しいのは源泉の上に浴槽があることで、ブナ材の湯船の底板からこんこんと湯が湧き出している。

紅葉の奥入瀬渓流の美しさは格別だけれど、新緑もまたすばらしい。クルマを適宜止めては、渓流沿いの遊歩道を行く。清らかな水の流れ、苔むす岩、緑なす木々がどこまでも続く。全長14kmをいつか歩いて制覇してみたい。

奥入瀬渓流から北西へ約60kmの黒石市には「中道こみせ通り」という伝統的建造物群保存地区がある。母屋前面のひさしを往来に張り出し、雪よけの屋根にした雪国特有のアーケードを、新潟では「がんぎ」と呼び、秋田と青森では「こみせ」と呼ぶ。この通りには「こみせ」が残されている。
重要文化財に指定されている築270年の高橋家住宅
その一角にあるのが重要文化財の高橋家住宅。実に築270年以上の建物だが、現在は14代当主の高橋幸江さんが喫茶店を営んでいる。高橋家は代々黒石藩御用達の商家で、米、味噌、醤油、塩などを扱っていた。通り土間、吹き抜け天井、出格子窓が豪壮な昔のままの空間で、娘さんがいれてくれたアイスココアを飲む。ほの暗い通り土間から明るい表庭を眺めていると、気分が落ち着く。それにしても、マンションでさえ50年ともたない今の住宅と、270年の風雪に耐え立派に現役の古民家では、どちらが本当の「家」なのか。こういう家がきちんと残され、大事に使われている町は、いい町にちがいない。

旅の最後に初めて訪ねた黒石の高橋家住宅。Myルートガイドならではの「小さな発見」にふさわしいしめくくりだった。

Myルートガイド http://www.aptinet.jp/ap_routeguide.html
NPO法人かなぎ元気倶楽部 http://www.kanagi-gc.net/top/access/access01.html
NPO法人地域情報化モデル研究会 https://www.facebook.com/cimforum

7月5日(金)のイベントでは、青森県で地域活性に励む富士通システムズ・イーストの米田剛さんが登場します! 詳細は下記のリンクをご覧ください。


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