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ものづくりの楽しさを地域に広げる ――移動型ファブラボ「FabFes」

2013年08月22日



ものづくりの楽しさを地域に広げる ――移動型ファブラボ「FabFes」 | あしたのコミュニティーラボ
8月4日、福島県の小学校で「FabFes」が開催された。デジタル工作機器を使ったものづくりに子どもたちがチャレンジするワークショップで、いうなれば“移動型ファブラボ”だ。タブレットで自分の好きな絵を描き、デジタルミシンで刺しゅう。新しいかたちのものづくりを、子どもたちはどう楽しんだのだろうか。

自分で使うものを自分でつくろう!

福島県いわき市の平第四小学校。青空と太陽がまぶしい夏休みの1日、校庭に子どもたちが集まった。ペーパーカッターやデジタルミシンなどのデジタル工作機器を使ったものづくりを体験するワークショップ「FabFes」(ファブフェス)だ。校庭にテントを張った仮設会場の横には、2台のプラグインハイブリッドカー(PHV)。デジタル工作機器の電源をPHVから取っている。こうすれば、電源のない屋外でも、みんなで集まりデジタルなものづくりを楽しむ工房「FabLab」(ファブラボ)の “モバイルバージョン”が実現するというわけだ。

好きな絵を描いてペーパーカッターで切り取り線を入れ、自動車のかたちに組み立てる。レーザーカッターで作成されたテンプレートを組み合わせて絵を描く。タブレットで好きな絵を描き、デジタルミシンで刺しゅうしてオリジナルのワッペンをつくる。この3つの作業を子どもたちが初体験した。また、3Dプリンターでトラックの模型を出力しているところも見学した。

「Fab」っていったい何だろう? 「Fab」は「Fabrication=ものづくり」と「Fabulous=愉快な」の2つの英語から来ていて、「愉快なものづくり」という意味。ワークショップが始まる前のオリエンテーションで、こんなふうに子どもたちへ向けての説明があった。

「ふつう、みんなは欲しいものや必要なものはお店に行って買ってくるよね?でも、“愉快なものづくり”という新しい動きでは、それを自分自身の手でつくって手に入れることができるんです」

立体的なかたちを印刷できる3Dプリンターなどの新しいものづくりの道具が身近に使えるようになって、どんなことが起きようとしているのか。今までは同じものをたくさん工場でつくっていたのが、これからは自分で必要なものを必要な分だけつくることができるようになる。今までは、ものをつくる人と使う人が別々だったのが、これからは使う人が自分でつくれるようになる。今日は、自分で使うものを自分でつくれるやり方を一緒に楽しく学んでいこう――子どもたちへのこんなわかりやすい呼びかけで、いわき市立平第四小学校での「FabFes」はスタートした。

絵が「もの」に変わっていくおもしろさ

描いた絵はペーパーカッターに取り込まれ、切り取り線がつけられる

「ペーパーカッターで車をつくろう!」班は、マーカーやクレヨンを手に、A4サイズの紙に思い思いの絵を描く。怪獣を描く男の子、色とりどりの模様を描く女の子、みんなそれぞれ個性が表れている。描き終わったら紙は、スタッフのお兄さんお姉さんに渡され、ペーパーカッターにセット。自分の描いた絵がペーパーカッターに取り込まれていき、切り取り線がついていく――そんな様子を子どもたちはじっと観察していた。

そのあと絵を切り抜いて組み立て、タイヤを付ければ完成。自分で平面に描いた絵が自動車という立体になると、思ってもみなかった見え方になることを、子どもたちは楽しんでいるようだった。

「レーザーカッターのテンプレートで絵を描こう!」班は、あらかじめさまざまな図形や動物などの形にレーザーカッターで切り抜かれたテンプレートを自由に組み合わせて、A4サイズの紙に絵を描く。どれとどれを組み合わせて、どんなふうにレイアウトするとおもしろいか、そこが工夫のしどころだ。マンガの吹き出しのような形を利用して動物どうしが会話している絵を描く子もいれば、2匹のネコが仲良く顔を寄せ合った上に大きなハートマークを組み合わせる子もいたり、子どもたちの自由な発想とアイデアが楽しい。

完成した作品をスタッフのお兄さんに渡すと、今日の記念にレーザープリンターにセットして「FabFes」という文字を刻み込んでもらえる。レーザープリンターが文字を刻印しているようすを、子どもたちは一心不乱に見つめる。

デジタルミシンに出力する絵をiPadのお絵かきソフトに描いていく

「刺しゅうミシンで自分だけのワッペンづくり」班は、iPadのお絵描きソフトで描いた絵をデジタルミシンで出力。生地と糸の色も自分で選べる。スタッフにちょっと操作を教わると、みんなスラスラと指先で描き始めた。

iPadを前に何を描いたらいいのかわからない子には、スタッフがヒントを与える。会場テントの軒先に、レーザーカッターで出力した動物や自動車などのオーナメントが吊るしてある。それを見せてあげると、描き出すきっかけになった。

自分の絵がデジタルミシンであっという間に刺しゅうになる。どこにも売っていない、世界に一つだけのワッペン。これには子どもたちも喜んでいた。

デジタルミシンで作成したワッペンとペーパーカッターで切り出した車

「3つ全部やりました! すぐに買っちゃうんじゃなくて、自分でつくっておもちゃにしたり楽しんだりするのがやっぱりエコなんだな、と思いました。刺しゅうはバッグとかに貼って記念にしたいです」(5年生女子)

「クルマは組み立てるところが難しかったです。絵をものに変える、というのがおもしろいと思いました」(5年生男子)

「楽しかった! 絵や工作は好き。ペーパーカッターは、パソコンで操作するだけなのに、折り目とかついてすごいと思いました」(5年生女子)

ものづくりは“強い想い”も育む

FabFesの企画・主催は、Hug Japan(ハグジャパン)と株式会社アムラックストヨタ、FabLab Shibuya(ファブラボ渋谷)。そして、株式会社トヨタマーケティングジャパンが協力している。トヨタは、電源となる2台のPHVを提供。7月15日に茨城県常陸太田市の廃校になった小学校で行われた第1回のFabFesでは、直前まで静岡県にあるサーキット、富士スピードウェイで展示されていたプリウスを、アムラックストヨタのスタッフ2名が運転して北茨城まで駆けつけた。

Hug Japanは、東日本大震災の被災者をユニバーサルデザインの思想に基づいて支援するソーシャルデザインの非営利プロジェクトで、株式会社ベネッセコーポレーション「子どもの未来支援プロジェクト」、トライポッド・デザイン株式会社、日本航空株式会社が企画運営している。発起人代表はトライポッド・デザイン株式会社代表取締役の中川聡さん。プロダクト・デザイナーであり、東京大学大学院でデザインイノベーション社会連携講座の特任教授も務める中川さんは、FabFesの教育的な意義についてこう語る。

「ゆとり世代以降、自分を大事にして自分の表現ができるようになったのはすごくいいことだと思うのですが、相手の気持ちを洞察するとか、共感を抱くといった、他者に対する感受性を育むことが欠けていたような気がするんです。最新のデジタル工作機器を使い、みんなと一緒に知恵を出し合い、助け合いながらものづくりをすることで、それを身につけることができます」

トライポッド・デザイン株式会社代表取締役の中川聡さん

携帯電話やスマートフォン、タブレットなどのデジタルデバイスに、今の子どもは驚くほどスムーズに適応する。iPadをまったく使ったことのない大人に、いきなりこれでまず絵を描いてと言っても、なんだかんだ理屈をつけて尻込みしがちだけれど、子どもたちは素直だ。まさにそれを目の当たりにした。

子どもたちがすんなり入り込めるデジタル機器だが、それが暮らしのリアリティとどう結びついて実感を得られるか。そこが大切、と中川さんは言う。

「デジタル工作機器の助けを借りてものづくりが身近になると、自分にとっての課題が何か、気づけるようになります。なぜかというと、ものづくりって絶対に思うようにならないですから。実際に“もの”に直面すると自分の限界が見えてくる。それを発見することが学びなんです。楽しかったけど、思い通りにできなくて悔しい――そういう強烈な感情的な経験の積み重ねを子どもたちにさせてあげたい。ものづくりが日常になって、ご飯を食べるのと同じようにものづくりをする機会を与えてあげることが大事だと思いますね」

子どもたちに教える側もまた学んでいる。スタッフは中川さんの講座の学生と、FabLab Shibuyaのメンバーおよび協力者。どうしたら子どもたちとのコミュニケーションをファシリテートできるのか。教えることもまた、“思ったとおりにできない”“相手にうまく届かない”経験の積み重ねでもあるし、子どもたちの笑顔を見れば楽しくなって、また教えたいという想いが湧き出る。

「今の若者は僕らの頃より優秀ですよ。でもひとつ欠けているのは、“想い”が出てこない。どうしてもこれをやりたい、という強い“想い”。こういう現場を体験すると、子どもたちに触発されて“想い”が生まれるんです」

場所にとらわれないものづくり環境を確立したい

FabLab Shibuyaを運営する梅澤陽明さん

〈あしたのコミュニティーラボ〉の今年3月のワークショップイベント「企業が『MAKERS』から学ぶこと」にも登壇いただいた、FabLab Shibuyaを運営する梅澤陽明さん。梅澤さんによれば、アメリカとヨーロッパにはすでに2件、 “モバイルファブラボ(移動型ファブラボ)”の事例があったという。日本でもぜひ、移動型ファブラボをやってみたい、と梅澤さんは2年前から構想を練っていた。

そんなとき中川さんに会って意気投合、「ぜひやろう」ということに。プロジェクト名は「FabCaravan」とした。トヨタがPHVの貸与を快諾し、オートデスク株式会社による運営サポートや、テントや机、椅子などの備品は株式会社内田洋行、デジタル刺しゅうミシンはブラザー工業株式会社、iPadはKDDI株式会社、といったように、さまざまな企業の提供協力を得ることができた。

今はまだテストトライアルの段階、と梅澤さんは言う。

「いろいろ試してみて、今後展開する上での有効な知見にしていきたい。常陸太田市でやった1回目は、過疎地域だったので近隣の小学校から子どもたちがやってきて、商工会の青年部とか大人も1〜2割混ざっていました。今回は子どもさんが中心で、お父さんお母さんが見守ったり、一緒にやったり。すごくいい風景だなあと思いました。お父さんお母さんもレーザーカッターや3Dプリンターの性能を初めて知って、それを会社で話題にするとか、ファブラボに足を運んでみるとか、次のアクションにもつなげられます。なによりも、手を動かす時間が減っていると言われる今のお子さんたちが、自分の手を動かしてものをつくる楽しさに気づいてもらえるといいですね」

2回のテストトライアルから、子どもたちをもっと深みにまで連れていける、という確かな手応えを得た。ペーパーカッター、デジタル刺しゅうミシン、レーザーカッターといったデジタル工作機器を横断して使えるようなワークショップも考えてみたい。今後はプログラムがさまざまに組み替えられるだろう。

ゆくゆくは日本全国にファブラボ・キャラバンツアーに出て、さらにはPHVを船に乗せてアジア、アフリカへも、と夢は膨らむ。

レーザーカッターを使えば、校庭の落ち葉にも好きなデザインを刻める

「場所にとらわれないものづくり環境を確立したいんです。キッチンワゴンであちこち走り回り、地元の旬の素材を使って、生産者の人たちと一緒に料理を楽しむ『キッチンが走る!』という番組がNHKにあるじゃないですか? あれのファブラボ版をやりたいんですよね。葉っぱや石、木材など、ものづくりの資材は現地調達で、それを“デジタル調理”してみるとか。そのためにもファブラボ機材が車内に設置されたクルマも欲しい。必要とされる場所にすぐに駆けつけられるじゃないですか。ちょうど今、20人乗りくらいの理想的な小型バスの競売があって、入札しようかどうか迷っているんですよ……(笑)」

第2回のFabFesは盛況のうちに幕を閉じた。3回に分けたワークショップは、それぞれ28名、27名、27名の子どもたちが参加。431名の全校生徒のうち、これだけの子どもたちが興味をもって集まったのだ。

「ものづくりの楽しさをみんな実感できたのでないかと思います。体験を通して学ぶこういう試みは大切です。日本のお家芸であるものづくりは、だいぶ世界的に厳しくなっている面もありますが、これからの時代を担う子どもたちが、こういう新しいものづくりに目を向けてもらえるとすばらしいですね」と平第四小学校教頭の鈴木康彦さんは話している。

ファブラボのない地域でもデジタル工作機器を使った身近なものづくりを体験できるFabFesのような試みは、これから増えていくだろう。子どもと大人が一緒になって楽しめる場づくりも大切だ。中川さんはそれを「子どもたちの好奇心をテコにして地域社会が新たなネットワークを築く」と表現した。

デジタル工作機器の進歩はものづくりを企業の工場から個人の工房へと解放しつつある。それは同時に、ものづくりが社会的な広がりを持とうとしていることでもある。個人的なものづくりから社会的なものづくりへ。ソーシャルファブリケーションの萌芽が “モバイルファブラボ”にはある。


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