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原理と現場をつなぐ、大切さを伝えたい── 釧路高専「カモ」ワークショップ

2013年10月09日



原理と現場をつなぐ、大切さを伝えたい── 釧路高専「カモ」ワークショップ | あしたのコミュニティーラボ
どんな現場にも使える、簡易で安価なセンサーネットワークツール「カモ」。エンジニアたちによる手作業から生まれたこのツールを教材に使った、釧路工業高等専門学校でのワークショップが2年目を迎えた。〈あしたのエンジニアたち〉は何を感じたのか? 実用ツールとの出会いがもたらす教育的効果について考えてみた。

ネットワーク技術の適用範囲を広げる挑戦

センサー、カメラ、無線などを組み合わせて、離れた場所からPCやタブレットなどでピンポイントの環境をモニタリングする。こうしたセンサーネットワークの技術は、農業から工業まで、あらゆる産業分野でニーズがある。

これを、どんな現場の用途にもカスタマイズできる簡易で安価なツールとして開発したのが、通称「カモ」プロジェクトだ。携帯電話やスマートフォンの基地局開発などを手がけている富士通株式会社のネットワーク部門のハイテク集団が、「現場起点のものづくり」という原点に立ち返った発想で全国各地を飛び回り、実証実験を繰り返している。

秋葉原の部品や100円均一ショップのタッパーケース、物干し竿などの身近な材料に、業務で培った高度な技術を埋め込んだ試作品がカモの形に似ていることから「カモ」と名づけられた。鹿児島の茶畑や宮崎のワイナリーなどでは、すでに実用化が始まっている(鹿児島の茶畑を変えたパーソナルファブリケーション──プロジェクト「カモ」の挑戦 )。
「カモ」の実証実験は全国で進んでいる
(提供:富士通株式会社 ネットワークビジネス戦略本部)

「カモ」プロジェクトは、ネットワーク技術をベースにしたプロトタイピング(製品モデルの反復検証)による実践的な市場調査であり、それにより新しいビジネスモデルを開拓しようとする「社内起業」的な挑戦にほかならない。

「カモ」は産業のみならず、教育の分野でも役立ちそうだ。
「われわれが現場に出向いて簡単に開発できるのであれば、電子工学を学ぶ学生さんたちの教材にもなり得るのではないか、と考えたのです」

そう語るのは「カモ」プロジェクトの中核スタッフ、杉山準さん(ネットワークビジネス戦略本部ネットワークイノベーションセンター テクノロジーフロンティア室室長)。昨年から年1回、北海道釧路市の釧路工業高等専門学校で5年生を対象とした「カモ」のワークショップが開かれている。

「宝探しゲーム」で電波の存在をリアルに体感

(提供:富士通株式会社 ネットワークビジネス戦略本部)
「つなぐ。遊ぶ。体感する」が釧路高専ワークショップのキーワード。ふだんの授業で学んだことを「カモ」で実地検証してみることで、理論と現場を“つなぐ”。そして、電子工学的な見地で遊びながら体感することで、技術への理解を深めていく。

ワークショップではまず、スマホやタブレット、PCで簡単にアクセスできる特定小電力無線(電波法で定められた免許のいらないトランシーバーのような無線ネットワーク)を使った無線伝搬理論や、プログラミング、センサー、アプリケーション開発、デジタル・アナログ回路などの学習が「カモ」でできることを紹介。セッティングをして屋外に設置した「カモ」と通信し、センサーで温湿度を測定したり、写真を撮って送信するなどの作業を試したあと、電波強度を使った“宝探しゲーム”を最後に行う。杉山さんが「カモ」の無線機を校庭のとある場所に隠し、学生たちが端末を持ってそれを探すゲームだ。

「電波の強度がスマホでリアルタイムに表示されるので、宝(カモ無線機)に近づくと電波が強くなり、遠ざかると電波が弱くなります。グーグルマップ上で自分たちがどんな軌跡を歩いて宝までたどりついたかがわかり、電波というものをリアルに体感できたと思います。学生たちは楽しかったようです」
スマートフォンに表示される電波の強度の様子。これを見ながら学生たちは「宝探し」に取り組んだ
(提供:富士通株式会社 ネットワークビジネス戦略本部)

釧路高専電子工学科准教授の戸谷伸之先生は、「カモのワークショップは学生にとって新鮮な体験」と語る。「ふだんの通信はスマホや無線LANを使いますが、むき出しの基盤を使い、不安定な接続状況のなかで、自分の足で歩いて電波の減衰をじかに数値として見る機会は、電子工学科にいても意外に少ないんですね。身近に電波の減衰を感じたり、伝達性能を理解したり、遮断されることを見たりするのは、正規の授業ではなかなかできない貴重な実験です」

ワークショップでは、カモが徹底して現場起点の技術であることを強調している。森の中で無線伝搬が果たして教科書どおりになるか。起伏のある土地、平坦な土地での電波の伝わり方。海水温をセンシングし、障害物を避けて電波を飛ばす試行錯誤。木の枝に無線機をぶら下げて中継局をつくる。そんなフィールドワークの事例を挙げ、現場で技術を体感する大切さをわかってもらう。

「研究室の中から商品は生まれない、ということを学生たちにはじわじわと伝えているつもりです。ただし、戸谷先生の授業で理論を学ぶことも絶対に大切だから、そこはサボるんじゃないぞ、と(笑)。自転車も一度乗り方を覚えれば絶対に忘れない。体感するというのはそういうこと。教室と現場をつなぎ、若者らしい遊び心で新しいアプリケーションを生み出してほしい。そんなメッセージを送り続けていきたいですね」と杉山さんは話している。

社会に役立てようとしている取り組みは、「カッコいい」

「カモ」ワークショップの様子(提供:富士通株式会社 ネットワークビジネス戦略本部)
これまでの2回のワークショップでは、その都度、参加した学生が感想文を寄せている。杉山さんが「厳しい意見も温かい意見もいただき、われわれのガソリンになっています」と語る学生たちの感想をいくつか紹介しよう。

 
「ふだん何気なく使っているものの構造や原理を学ぶことができてたいへん良かったです」

「伝搬理論と実測値について体感できるので、より知識が深まるし、楽しみながら授業を受けられました」

厳しい意見、というのはたとえばこういうものだ。

 
「紹介スライドの内容は、技術的な詳細がパッとわかりにくいと感じました。少し子ども向けなのかな、という印象を受けました」

「ワークショップは全体的に、もう少しレベルの高い内容でもよかったかなと思いました」

さらには、「カモ」そのものへの感想や要望も多く述べられている。

 
「簡単なコマンドで各機能にアクセスでき、手軽にセンサーネットワークが組めるのは非常に良いと感じました。GPS、カメラ、無線、温湿度とセンサーネットワークに必要なものがひと通り搭載されているのは便利ですね」

「自社の通信技術をもとに開発・調整し、断片的にでも社会に役立てようとしている取り組みはカッコいいと思いました」

「必要な機能のみにすることでコスト面の強みがある点から、日本といわず世界で求められる製品になっていくと思います」

「利便性・生産性の向上、そしてエンジニアが予測していなかった領域でのビジネスチャンスを探索することで地域の活性化につながると思います」

そのほか、集中豪雨などへの注意喚起、土壌センサーによる液状化や土砂崩れ予測、山道の誘導や遭難者探索、照明や騒音などのモニタリングによる省エネ兼快適なオフィス環境など、アプリケーションのアイデアも挙がった。

学生たちは、学習を補強する教材としても、社会のさまざまな領域に応用できるセンサーネットワークの技術としても、「カモ」に興味を持ったようだ。

本当の価値創造は、原理原則と現場を結ぶことから

カモはいろいろな用途で使えるプラットフォーム(基盤)であることから、「ユニバーサルカモ」とも呼ばれている。
教材への展開は、学校との会話の中から生まれた
(写真は、今も教室に残る、当時の会話を記したブロック図)

 
来年以降のワークショップの展望として、杉山さんは、ロボットとうまくつながるようなインターフェイスを考えている。

「学生さんたちと話していてわかったのは、彼らはやはりロボット的な要素が欲しいようなんですよ。実際に、高専にはPIC(制御用マイクロコンピュータ)を買ってきて電子工作するのが好きな学生さんもいますから。たとえば、PICとPICの間にカモを通してうまくつなげれば、手元で操作するとロボットがダンスする……といった制御も可能なはず。そんなデモンストレーションができればいいですね。電波を肌で感じるのはもう十分理解してもらえたので、”動くもの” を制御する要素を入れたほうが次のステップへ進めそうです」

高専ロボコンに参加するような学生はごく一部だが、確かに電子工学科には “動く立体物” が好きな学生が目立つ、と戸谷先生も言う。
釧路高専電子工学科の戸谷伸之准教授
「創作実験実習でも、ダンスのステップがインターフェイスのゲームやUFOキャッチャー、見た目は自動販売機のミニチュアで缶のラベルが曲目になっているMP3プレーヤーといったものをつくる学生が多いですね。カモのアプリケーションとして、超高齢化社会の“癒し”につながる技術を考えられないか、と学生たちと議論したこともありました。私はもともと光を使った医療用の無線通信を研究していたので、生体情報のモニタリングを病院内の転倒予防・検出や、より高機能なナースコールに応用するといった現実的な方向で考えていたのですが、彼らの考える“癒し”はもっと夢が大きくて、ロボットがしゃべったり動いたりすることなんです。カモはいろんなところで使いやすい仕組みにしてあるから、そういうシステムの一部分に応用できる可能性はあるよね、という方向に持っていこうと考えています」

原理を理解できるレベルの教材で技術を体感し、データを取る。養殖場やワイナリーでの実践例を知る。こうして体験と見聞の両面から、実際のエンジニアリングがどんなふうに生み出され、応用・展開されているかに気づき、アイデアを生み出すきっかけにもなる。「それをおもしろいと感じてくれれば、そのまま良い技術者に育つのでは」と戸谷先生は「カモ」の教育効果に期待をかける。

教材としての「カモ」には、これからの日本を背負う若きエンジニアの卵への、杉山さんの強い想いも込められている。
富士通株式会社 ネットワークビジネス戦略本部
ネットワークイノベーションセンター テクノロジーフロンティア室室長の杉山準さん

「たとえば、総勢数百人のプロジェクトで携帯電話の基地局などを開発すると、1人が携われるのはほんの一部です。あまりにもハイテクのブラックボックスになってしまい、そもそもどうやって動いているのか、なぜ無線は飛ぶのか、といった根本の原理原則を見失ってしまうんですよ。というか、そんなことをいちいち気にしていたら仕事になりません。学校の教室で学んだ原理原則と、企業の仕事では、あまりにも乖離がありすぎます。だからこそ、原理原則と現場をしっかり結ぶことが大切で、そうしないと本当の価値創造はできない。そんなことを少しずつ、この北の果てから発信して、10年後に〈そういえば高専でなんか変なことを言ってたオヤジがいたな〉と彼らが思い出してくれれば(笑)」

原理原則が見えるレベルで技術と現場のニーズをつなぐことが、新たな価値を創造する。「カモ」プロジェクトに埋め込まれたものづくりの本質への希求は、あしたのエンジニアたちの心にどう響いたのだろうか。

釧路工業高等専門学校


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