Discussions
あしたラボのイベントとその様子をご紹介します。

「社会を良くする仕事をつくる」イベントレポート(前編)

2013年12月18日



「社会を良くする仕事をつくる」イベントレポート(前編) | あしたのコミュニティーラボ
Tokyo Work Design Week 2013(TWDW)に出展した「あしたのコミュニティーラボ」がテーマに選んだのは、「社会を良くする仕事のつくりかた」です。11月21日、東京・渋谷ヒカリエに、社会課題の解決を仕事にする4人の実践家を壇上に迎え、ソーシャルイノベーションにつながるような働き方に関心のある参加者が集まりました。前編ではパネリスト各人の発表を中心にお届けします。

今回のモデレーターは、日本財団CSR企画推進チームリーダーの町井則雄さん。町井さんは、社会課題の解決ができるだけビジネスとして成立するように企業と共に取り組んでいます。
町井則雄さん
パネリストとして壇上に上がったのは向田麻衣さん、松田悠介さん、生川慎二さんの3人。

向田さんは、一般社団法人Coffret Project代表理事。途上国の女性たちのために「化粧」のワークショップや職業訓練を行って事業を立ち上げ、自立支援に尽力しています。

松田さんは、NPO法人Teach for Japan代表理事。教育の課題解決に取り組む公立学校に、法人内で選抜・育成した人材を紹介、内部からの改善を推進する事業を立ち上げるなど、教育課題の解決に向けた取り組みを展開中です。

生川さんは、富士通株式会社イノベーションビジネス推進本部 ソーシャルクラウドビジネス統括部シニアマネージャー。企業のリソースを活用し高齢者支援のプラットフォーム構築をめざす“企業内社会起業家”です。

三者三様の「社会を良くする仕事のつくりかた」が、町井さんのナビゲーションによって浮き彫りになっていきます。

世界一貧しい国に夢のような瞬間をつくりたい——向田さんの願い

向田麻衣さん
向田麻衣さんのプレゼンテーションは、ネパール人女性の声からはじまりました。「お化粧してきれいになった! また来てね!」。向田さんがネパールで化粧のワークショップを実施したときの参加者です。8歳のときネパールの貧村からインドの売春宿に売られ、約5年間働かされていました。国際警察とNGOに保護されて母国に戻り、保護施設で暮らしています。ネパールでは彼女のように、人身売買の犠牲になる女の子が年間1万5,000人もいるそうです。

心身にダメージを受けたネパールの女性たちのために、向田さんは2009年から化粧のワークショップを続けています。「ネパールでは5歳に満たない子どもが3秒に1人亡くなっている」————15歳のとき講演で聞いたこの事実に向田さんはショックを受けました。アルバイトをしてお金を貯め、17歳で初めてネパールへ。大学卒業後、アジア各国でフィールドワークを実施し、途上国の女性たちに「何でもできるとしたら何がしたいですか」と聞いたところ「お化粧をしたい、おしゃれをしたい」が多かったといいます。

果たして化粧が支援になるのか、初めは自信がありませんでした。しかし、心に大きな傷を抱えた女性たちへのワークショップを重ねるにつれて、彼女たちに変化が起きました。ひと言も喋れず表情を失い、心が凍りついてしまっていた女の子が、最終日のワークショップで、化粧をした自分の顔を鏡で見つめ、まわりからも「すごくきれい!」と褒められると、向田さんに ”Thank you” とつぶやいたそうです。「彼女がしゃべった!」————まわりの女の子もスタッフも驚きました。
ネパールでの化粧のワークショップ(提供:一般社団法人Coffret Project)
また、ネパールは失業率が40%にのぼり、就職するのが難しい国。そこで向田さんは、今年の5月に「ラリトプール(Lalitpur)」というネパール産の化粧品ブランドを立ち上げ、7人の女性を雇用しはじめました。商品はウェブサイトで販売しています。

人生にはさまざまな一瞬があります。化粧も一瞬のこと。自分を励ますその一瞬が、その後の人生に寄り添って支えてくれる。化粧のワークショップを実施することで一瞬の美しい瞬間をつくり、彼女たちの人生を何度でも支えていきたい。それが彼女の願いです。

社会全体を巻き込みながら教育を良くしたい——松田さんの想い

松田悠介さん
松田さんの原体験は中学時代のいじめでした。親にも言えず、肉体的にも精神的にもつらい思いをしましたが、幸運なことに恩師と巡り会いました。「どうすれば強くなれるか一緒に考えていこう」。――体育の先生と、二人三脚でのトレーニングがはじまると、いつのまにか休み時間に決まって柔道の技をかけてきた同級生が手を出してこなくなりました。

自分も先生になって恩返しをしたいと、松田さんは体育教師になります。教師の仕事はやりがいに満ちていました。授業に真剣に取り組めば取り組むほど熱意が伝わり、生徒が応えてくれる。町で出会った卒業生が「先生のあのときのひと言がきっかけで、この道を選びました」と声をかけてくれました。

しかし、その教師を辞めるきっかけになったのは、学級崩壊の構図を目にしてしまったことです。生徒ではなく黒板に向き合う教師。学級崩壊をすべて生徒のせいにする教師。松田さんは、教育のコンテキストにおいて子どもが悪いことは絶対にないと考えています。大人がつくりだす環境によって子どもの言動は形成される。最初から非行に走る子などいません。

どうしたら、もっと子どもと向き合える大人を1人でも増やせるのか。それを模索する松田さんの挑戦がはじまりました。理想の教育を実践できる学校をつくりたい。そのためハーバード大学教育大学院に留学しリーダーシップとマネジメントを学びました。そこで出会ったのが、「Teach For America (TFA) 」です。優秀で情熱のある大卒者を年間6,000人、2年間、全米の教育課題を抱える学校に派遣するプロジェクトで、ここから多くのビジネスリーダーも巣立っています。2010年には、ディズニー・グーグルを抜いて全米の文系学生の就職先人気ランキングで1位になりました。学校と教員の枠を超え、社会全体を巻き込んで教育を良くしようとする仕組みづくり。松田さんは「これだ!」と思いました。

コンサルティング会社に勤務した後、2012年にNPO法人Teach for Japan (TFJ) を発足。世界中に広がるこのモデルの、日本は23番目の参加国でした。経済的な事情や家庭の背景を問わず、すべての子どもたちが本当にすばらしい教育の機会に恵まれ、課題山積の日本の社会を自ら切り拓いていく創造力を身につけることができるよう、日本社会全体を巻き込んで教育課題の解決に取り組む。それがTFJの活動目標です。全国の教育委員会と連携し、ニーズに応じて、リーダーシップ研修を受けた選抜フェローを学校現場に紹介。紹介後も2年間にわたって支援します。現在、11名の1期生が活躍しています。
Teach for JapanのWebサイト

民の力を結集して経済を回し社会課題に挑みたい——生川さんの挑戦

生川さんは富士通という企業に所属しながら、ビジネスとして社会課題の解決に取り組もうとしています。会社で災害支援特別チームを編成し、東日本大震災の被災地支援に従事。そこで見たものは、日本が直面している社会課題の縮図でした。そこでは国に任せっきりにするのではなく、「民」の得意技を結集して、公的サービスの穴を補完してゆくことが求められていました。
生川慎二さん
被災地でとりわけ深刻な事態は地域医療の崩壊でした。生川さんは、地域医療再生を志す医師に共感し、社内外から資金や人材を調達し、在宅医療の拠点をつくる支援に取り組みました。また、在宅被災世帯に残された高齢者の孤立を防ぐために、全国から集まった専門職と1万2,000世帯の訪問型健康アセスメントを行いました。このときの石巻沿岸部の高齢世帯率は64%にのぼっていたのです。

支援活動から見えてきたのは、住み慣れた場所で安心して自分らしく暮らしたい、という高齢者の望みです。そのために富士通ができることとして、クラウドを活用した情報収集や管理の仕組みを提供し、関係する官・民・NPOとを情報で繋ぎました。

しかし、医療・介護のみならず、住まい・金融・法律・食・移動など、高齢者の生活全体を社会が支える仕組みが求められていることを生川さんは痛感しました。そこで取り組んだのが、在宅医療・介護を起点とした高齢者の健康と生活をICTによって包括的に支えるプラットフォームづくり。これは「高齢者ケアクラウド」として2013年1月からサービス提供を開始しています。

生川さんは、さらに実践のなかから気づきます。高齢者が社会から孤立しないために彼らを見守るのは、いったい誰なのか。行政リソースはハイリスク者のケアだけで手一杯。コミュニティで支えるにしても限界がある。最も必然性があるのは“血縁”ではないか。石巻の被災地でも生川さんは親を思う子の気持ち、子を思う親の気持ちの深さを痛感しました。「血縁再生」に解決のヒントがあるのでは……。

そんな仮説を立ててつくろうとしているのが、通称「親孝行モデル」。高齢者には対面サービスで訪問してニーズを聞き、子どもたちの様子を伝える。現役世代にはデジタルサービスで親の様子を伝える。両者から得た本音をクラウド上に蓄積し、多種多様な民間企業のシニア向けサービスにつなげます。民の力で経済を循環させ、社会価値を最大化する試みです。

現場での気づきの積み重ねの中から、ソーシャルイノベーションのビジネスモデルは生まれます。その実現は単独企業では不可能で、ビジョンを共有する各社のキーマンを巻き込んでいくことが大切、と生川さんは強調しました。

こうして、3人のプレゼンテーションは終了。モデレーターの町井さんは、行政、NPO、企業、個人など社会の各セクターがつながることで、社会課題の解決のために「新しい仕事」をつくりだすことが求められていて、3人の登壇者の実践はその最先端を行くもの、と指摘しました。

後編に続く


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ