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「田舎だけど都会」な山里、神山(前編)
——今年も町の人たちに会いに行ってきた。2013年冬

2013年12月20日



「田舎だけど都会」な山里、神山(前編)<br /> ——今年も町の人たちに会いに行ってきた。2013年冬 | あしたのコミュニティーラボ
徳島県神山町をレポートしたのは2012年12月 。ITベンチャー系企業のサテライトオフィスが9社集まる人口6,200人(当時)の山里には “人が人を呼ぶ”独特の磁場が渦巻いていた。1年を経て、この町の動きはいよいよダイナミックになりつつある。「あしたのコミュニティーラボ」では、しなやかな発想で“クリエイティブな田舎”へと変わりゆく神山町の今を定点観測していきたい。この前編では“まちへ開かれたオフィス”や、稼働しはじめたコワーキングスペースを紹介する。

町の人たちがプロジェクトに向ける目が変わってきた

企業を誘うのではなく、神山に必要な、来てほしい人を呼ぶ。初めての試みは、やってみなければわからない。おもしろいと思えば「やったらええんちゃう?」。町の活性化をけん引するNPO法人グリーンバレー理事長・大南信也さんのそんな流儀に共感した起業家や経営者たちが神山に集まり、町が賑わっている。

取材中も、町の人たちと海外から来たアーティストが“ふつうに”雑談していた

「どう見ても神山の人でない若者が、なんかウロウロしとるな、目につくな、と、町の人も空気の変化を肌で感じていたわけです。でも……」と大南さんは明かす。

「サテライトオフィスは支店登記をしないので法人税は落ちない。地元の人を雇用せず、本社の人間がやってくるだけなら雇用もあまり生まれない。“町にとってどんなメリットがあるの?”と住民に質問されても、町への移住者が出たり、多少は消費が伸びるくらい……としか、説明できませんでした」

もちろん、今の神山町が目指すのは、雇用を生んで事足りるような、性急な町おこしではない。あらかじめ何かを仕掛けるのではなく、想いを共有する人が人を呼んでつながり、自然発生するさまざまな動きが実を結んでこそ、今までになかった価値が創られ、長く持続できる。呼び水としての場を神山町は着実に築きつつあるが、なかなかわかりにくい試みであるのも確かだろう。

ところが、今年7月1日にオフィスを開設した「株式会社プラットイーズ/株式会社えんがわ」が、町内と県内から十数名、まとまった人数を採用すると、町民の認識が変わってきたという。

「時間がかかる試みなのを理解してもらい、経済効果が出るまでの期間をやわらかく見守ってもらう必要があります。直接的な雇用が生まれたことで、町の人たちの見る目が変わってきました。それによって、さらに人材を呼び込み、変化を生み出すための、時間的な猶予をもらえた気がする」と大南さんは言う。

NPO法人グリーンバレー理事長 大南信也さん

かつて地域の活性化は優遇策を講じて工場を誘致し雇用を生むのが定番だった。しかし、今やそんな時代ではない。確かにグリーンバレーの取り組みは先進的だ。

神山町だけが「ゆるさ」を持っていた

番組詳細情報(メタデータ)の作成・編集・配信を業務とする株式会社プラットイーズ。同社の事業のもう1つの柱が、映像コンテンツやその元素材を長期保存できるように管理加工するデジタルアーカイブ事業だ。メタデータ事業が、ワンソースの映像コンテンツをマルチユースできるように処理する仕事なら、こちらはデジタルデータ化によって長期利用できるワンソースを作成する仕事だ。

近年、このアーカイブビジネスが伸びており、創業者の隅田徹さんはサーバを多数設置できるスペースを備えた事業拠点を探していた。首都直下型地震などが発生した際の危険性も考え、東京・恵比寿の本社以外にローカルな拠点を設けたかったという。条件としては、インターネットの高速回線網が整備されていて、IT関連企業を誘致し、過去に地震や津波などによる被害が少ない安全・安心な地域。なおかつ行政ではなく民間組織がヘッドに立っていて、話が早いところが望ましい。そこで全国20か所の候補地から、神山町に絞り込んだ。

株式会社プラットイーズ 隅田徹さん

しかし、隅田さんが最終的に神山町に拠点を置くことを決断したのは、それだけの理由からではない。

「これはもう感性の問題ですが、いま町おこしで話題のところは、どこも真面目にがんばっている雰囲気なんですね。けど、20か所まわった中で唯一、神山だけは〈ゆるい〉感じだった。いい意味で不真面目(笑)。われわれはコンテンツ屋なんで、ノリの良さから来る〈ゆるさ〉は大事なんですよ。ほとんど冗談みたいな会話から仕事がはじまる。そんな雰囲気でないと、いいものがつくれないし、クリエイターであるお客さんと一緒に仕事はできません」

古民家を改修した通称「えんがわオフィス」は、その名の通り、周囲に広い縁側がめぐらしてあり、しかもオフィスはガラス張りで、カーテンやブラインドはなく外から丸見えだ。プラットイーズの企業理念「オープン&シームレス」を具現化したものだと隅田さんはいう。

開放的な縁側が印象的な、えんがわオフィス

「個人情報だセキュリティだとガチガチに閉じこもりやすい時代に、なるべく真逆を行こう、と。社内・社外とか、オン・オフとか、そういうものを取っ払ってしまった。休みの日でも、ふとアイデアを思いつけば最高の仕事の時間だし、遊ぶように楽しんでやるからこそいい仕事ができます」

なるほど、素通しのオフィスと、内でもあり外でもあり、ゆるやかに内と外をつなぐ境界領域「えんがわ」は、その理念にふさわしい。ここではスタッフが思い思いの時間を過ごし、時おり立ち寄る近所の人とも触れ合う場所になっている。町に向かって開かれたオフィスなのだ。

多様な人たちを受け容れる寛容性

神山町にローカル拠点を置き、隅田さん自身も神山に移住してくると、東京の取引先との対面コミュミケーションは減るのでは、と予想していた。だが嬉しいことに、お客さんのほうから神山にやってくるということが増えている。

「合宿やりますか、とお誘いしたら皆さん結構いらっしゃいます。そうなると夜も土日もご一緒するので、東京にいたときよりかえって深いつきあいになるんです」

えんがわオフィスの開設で、「お客さんとのコミュニケーションが増えた」と隅田さん
(提供:株式会社えんがわ)

3日に2日は宴会。取引先も、地元の人も、他のサテライトオフィス仲間も、えんがわオフィスに入り交じって楽しむ。神山町では毎晩、どこかしらのオフィスに人が集まっているという。そこで新しい仕事の話も生まれる。

「みんなしょっちゅう顔をつきあわせていますから、なんかやろうぜ、という話になりやすい。ウチも大小コラボの仕事をしています。社員の右脳を刺激するためにも、いろいろ変わった仕事があったほうがいいですよね。みんな喜んでやっています」

神山町の魅力「ゆるさ」はどこから来ているのか。多様な人たちを受け容れられる寛容性、と隅田さんはみる。プレーヤーが集まってくるのはそのおかげだ。盛り上がった話を、具体的なビジネスに落とし込める経営者がいて、ボランティアもいる。学生(グリーンバレーが厚労省の認定を受け実施している滞在型職業訓練制度「神山塾」生)もいる。人材に偏りがない。

「日本の地方では、国や県など公共の予算の末端で動いている人の比率が非常に高く、民間ベースの投資で事業展開した経験のある人があまりいません。神山町はそれを含めてダイバーシティが形成され、小さなコミュニティーとして健全な営みが回り始めている。そこに最も未来を感じています」

株式会社えんがわは、4Kテレビと呼ばれる次世代高画質テレビの事業にも取り組んでいる。8月には、オフィスのすぐ隣の古い劇場「寄井座」で4Kの最新技術を紹介する「全国4K祭 in Kamiyama」を開催し、全国から120人の名だたるエンジニアやクリエイターが集まった。2014年には海外からトップクリエイターを招いて国際的な4Kのイベントを開催する予定だ。神山町を舞台に、徳島県は4Kの実証実験の場になりつつある。

2013年8月に開催された「全国4K祭 in Kamiyama」(提供:株式会社えんがわ)

4Kカメラで撮影した地元の阿波踊りグループ「桜花連」の鮮明な映像には、子どもからお年寄りまで感激の声が上がった。

「町の皆さんが喜んでいただけることにわれわれの技術やノウハウを使えるのは、きれいごとじゃなく純粋に嬉しいです」と隅田さんは話している。

クリエイターのコラボで神山発の新ビジネスを

神山町に生まれたコワーキングスペースが「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」(以下、コンプレックス)だ。元縫製工場(619㎡)を改修した広いスペースで、ギガビットネットワークを完備。薪の暖炉で暖を取る。料金はビジター1日1,000円、1か月の利用料がメンバー7,500円、スタートアップ(起業応援)10,000円、カンパニー30,000円(いずれも1名、カンパニーは1社ごとの料金)とお手頃。現在メンバーが2名、スタートアップが1名、企業(カンパニー)が2社利用している。

「サテライトオフィスの皆さんは1社ごと1古民家に入っているのですが、全員のミーティングや集中的に企画を練るときなど、気分を変えてこちらを使われることもあります」と話すのは、運営するグリーンバレーの樋泉聡子さん。

グリーンバレーの樋泉聡子さん

ITエンジニア、デザイナー、映像ディレクターなど、さまざまな分野のクリエイターがこの場に集まることで化学反応を起こし、コミュニティーを創造して、神山発の新しいサービスやビジネスが生まれることに期待している。

樋泉さん自身、東京から来て神山に魅せられ、住み着いてしまった。

「旅が好きで、いろんなところに出かけましたが、暮らしたことがないなぁって。神山は自然が豊かなところなのに、人の流れができる空気感は都会っぽい。とにかくいろんな人がやってくるので、迎える喜びがあります」

コンプレックスで毎日勤務している株式会社ダンクソフトのシステムエンジニア、本橋大輔さんはいつも着物姿。「このほうが楽だから」。

毎日コンプレックスに勤務している株式会社ダンクソフトの本橋大輔さん

株式会社ダンクソフトは、コンプレックスに入居する企業の1つだ。サテライトオフィスの実証実験を神山で行い、まずは徳島市内にオフィスを開設。エンジニアの本橋さんは2012年に入社し市内に勤務していたが、毎月のように神山へ行ったり来たりしているうち、常駐を希望して会社の承認を受けた。

「神山がすごく盛り上がっていておもしろそうだったのと、趣味が自転車なので。神山は市内と違って信号がほとんどないから、ストレスなく真っすぐ走れるんですよ。家賃も安いし、米や野菜はおいしいし、コンビニもちょっとクルマで走ればあるので、別にデメリットはないなと思って引っ越しました」

神山と徳島と東京でビデオチャットをつなぎっぱなしにしておけば、同じオフィスで仕事をしているような感覚になれる。ウェブを通じてコミュニケーションがとれるので、サテライトオフィスでの業務に支障はない。かえって集中力が上がる。強いていうなら、細かなニュアンスがビデオチャットやメールでは伝わりづらい。それを受けて、相手側の映像を等身大で映し出し、よりリアルな遠隔会議のできるシステムの開発を進めているところだという。

取材日には、コンプレックスを会場にして徳島県内のプログラマー、デザイナー、自治体関係者などが参加する「すだちハッカソン」がたまたま行われていて、本橋さんも参加した。「HELP」というテーマでアイデアが出され、店の臨時休業や満席を利用者にすぐ知らせるアプリが最優秀賞を獲得。コンプレックスはこうして広く県内のクリエイターを横につなげる場としても機能している。

四国中から参加者が集まった「すだちハッカソン」の様子

グリーンバレーの大南さんによれば、最近の神山町は「人の動きがいろんな形でダイナミックにつながり複層的になっている」という。

それに刺激されてか、いよいよ行政が本腰を入れ出した。町役場の若い人たちを中心に、グリーンバレーだけに任せておけないという気運が出てきたという。

「これから神山はもっとおもしろくなりますよ」。大南さんはニヤリとする。

後編はこちら

NPO法人グリーンバレー
株式会社プラットイーズ株式会社えんがわ
神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス
株式会社ダンクソフト
すだちハッカソン


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