Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

売上や利益は、企業の本当の目的なのだろうか。企業の真の目的は別にあるのではないか。その目的を問うことこそ、21世紀のビジネスパーソンの必修課題だ。そう主張し「目的工学」を提唱する本書(紺野登+目的工学研究所・著、ダイヤモンド社/2013)には、未来への予感がある。資本主義は新しいフェーズに入りつつあるのだろうか。「あしたのコミュニティーラボ」もその予感を共有したい。

イノベーションを生み出す3要件とは?

これまで、特集を通じて多方面から「豊かな社会」について考えてきた、「あしたのコミュニティーラボ」。イベントや取材では、組織や立場を越えた人々のつながりから、社会や地域によりよい価値がもたらされている、そんな場面に幾度も巡りあってきた。

このような、創発的なイノベーションの生み出し方を、企業の立場から、目的という視点をとおして考えたのが本書『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』だ。

本書のメッセージを、つまびらかにすると次のようになる。

「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティー、個人のニーズを満たす(大目的)ために、企業は社会にも自社にも価値をもたらす共通価値を追求して、社会と共存共栄すべき(小目的)」

この大目的とは、「共通善」に基づいたもの。だから、多くの人の共感を呼び、求心力になる。世界各地で登場しているソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)は、現実の壁に幾度も阻まれながらも、多くの仲間に支えられている。くじけず事業を続けられるのは、とりもなおさず、この人たちの目的が、社会や共同体のメンバーに共通する「善なる価値」に根ざしているからにほかならない。

本書では、その例証として、世界の貧困層を対象としたBOP(Bottom of Pyramid)ビジネスに挑戦している企業などのモデルケースがいくつか紹介されている。それらを通じて浮かび上がってくるのは3つのキーワードだ。

組織の枠や業種を超えて多様な人々が集まり、旧来の常識にとらわれない発想で、よりインパクトの大きいアイデアを生む「コラボレーション」。

形のない事象や経験の価値をデザインする「コトづくり」の中に「モノづくり」を埋め込み、脱コモディティ化を目指す「コトづくりのデザイン」。

各人が依って立つ専門領域やシステム、コミュニティーにおいて、内と外、自分と他社を分かつ境界線を超え、新たな関係性を見出すことによって、相互作用を創発させるメディアやツールとしての「バウンダリー・オブジェクト」。

これら3つのキーワードによって創発されるのはイノベーションだ。つまり、共通善を大目的とする企業は必然的に、技術や製品の領域だけでなく、ビジネスモデルやワークデザインやマネジメントの領域においても、イノベーティブにならざるを得ない。言い換えれば旧態依然として利益を大目的としている限りイノベーションは起こらない。本書の書名の由来はここにある。

新幹線やアポロ計画に学ぶもの


イノベーションを起こすには、社会が共感できるような、価値ある目的を設定することが大切だ

社会的かつ利他的な大目的の下に、メンバーやステークホルダーの目的群を調整することによってプロジェクトをデザインし、イノベーションを実現する方法論。それが本書の提唱する「目的工学」だ。

たとえば「東海道新幹線」というプロジェクトの大目的とは何だったのか。「東京―大阪間を3時間で結ぶ」ことか。それは駆動目標としての中目的、と本書は位置づける。大目的は「日本の経済成長のインフラ構築」だった。まさに多くの人の共感を呼ぶ、社会的な価値の高い「共通善」に根ざしたものだ。

この大目的の下に、先の「中目的」があり、戦前からの優秀な技術を結集して高速でも車体が揺れない技術を開発するという「小目的」があって、広軌新幹線の建設や世論形成による資金調達という「タスク目標」があった。

本書によれば、東海道新幹線やNASAのアポロ計画は、今こそ再評価する必要がある。なぜなら「現在のように、何が正解かがはっきりせず、ブレークスルーを起こさない限り、先に進めない状況において、どのようにチームをまとめ上げ、どのようにプロジェクトを成功に導くのか、そのためのヒントが多数隠されている」からだ。さらには「部分の総和以上の力を生み出す(中略)マネジメントやリーダーシップの手本」であり、「目的をオーケストレーションするなかで、プロジェクト・チームは、既存の常識や合理的な理屈を覆し、さらには反対派を含め、周囲を巻き込み、勢いを増し、ついには大目的を達成し」たからである。そして「目的工学が目指すのは、この境地であり、またそこに至るための方法論」だという。

組織の枠を超えてアメーバのように広がる

目的から導き出された行為がうまくいかなかった場合、目的と手段のミスマッチを疑ったり、目的そのものを問い直すことも必要。また、真にふさわしい手段の発見によって、目的そのものが発展していくことも考えられる。こうして目的と手段の関係を弁証法的に推論することが重要、と本書は主張する。

要するに、プロジェクトというものは、最初に決めた計画に固執する「静態」ではなく、進行状況や現実の局面に合わせ柔軟に変わりゆく「動態」であり、またそうでなければイノベーションは生まれない、ということだ。

そこで、先の「バウンダリー・オブジェクト」というキーワードにあらためて着目してみたい。専門領域や境界を超えた新たな関係性から生まれる相互作用の創発。それがなければプロジェクトに動態としてのダイナミズムは生まれない。

ひらたくいうと、今まで出会わなかった、同じ大目的を共有している人たちが場を分かち合うことで、かつてない価値を創出する試みこそが、新たな未来を切り開く。そうした場を用意するのはメディアの役割でもあるだろう。

これまで「あしたのコミュニティーラボ」でも、「豊かさとは何か」という共通善に基づいた大目的の下に、「働き方」「ものづくり」「社会課題の解決」などの中目的を掲げ、組織の枠を超えて活動する人たちに焦点を当ててきた。

「目的工学の基本的な態度は、企業や特定の組織に閉じられたものではなく、そのような枠を超えて、アメーバのように、あるいは社会運動のように広がって行く活動を実行・実現させるというものです」。本書で述べられていることは、「あしたのコミュニティーラボ」が目指す方向ともぴったり重なっている。

 
※画像の無断複製を禁じます (photo:Thinkstock / Getty Images)
 


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2017 あしたのコミュニティーラボ