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FUKUSHIMA発、ヘルス2.0への飽くなき挑戦——山寺純インタビュー(前編)

2014年02月10日



割れた陶磁器の継ぎ目に金銀の装飾を施して、単なる修復を超えた新たな美を生み出す「金継ぎ」の技術。それと同じように復興途上の福島から世界を変えるイノベーションを起こしたいと、ヘルスケアと医療アプリケーション事業をはじめ、先進的なプロジェクトを多数手掛けるのが、会津若松市を本拠地とするベンチャー企業「Eyes, JAPAN(アイズジャパン)」代表の山寺純さんだ。2013年には医療ハッカソンの世界大会で世界一にも輝いた、気鋭のクリエイターが描く未来とは。

「医療×ICT」を競う世界大会で優勝、の快挙

――昨年、山寺さんが率いる株式会社Eyes, JAPAN(アイズジャパン)のスタッフと会津大生ら5人による合同チームが、医療分野のICTに関する世界最大のカンファレンス「Health2.0」で開催された世界大会コンテスト「2013 Developers World Cup Finals」で優勝されました。3回目の今大会で日本人初の栄誉だそうですね。

シリコンバレーで行われた「2013 Developers World Cup Finals」の表彰式(提供:山寺純さん)

山寺 世界大会は世界中の国や地域の代表チームが出場するもので、ぼくらも昨年3月、国内予選にあたる「Health2.0 Fukushima Chapter」の医療セキュリティハッカソンで優勝して日本代表に選ばれました。今回のコンテストには77の国と地域の代表チームがオンラインで参加していたのだけれど、ぼくら以外の大半のチームは、医師とグローバル企業のエンジニアがタッグを組んだ医療の専門家たちでした。

――世界大会は、どんなコンテストだったのですか。

山寺 1か月の開発期間が与えられた課題は、世界保健機関(WHO)のオープンデータを活用して医療に貢献するウェブサービスでした。ぼくらのチームは、ワクチンが行き渡らない国の乳幼児を救う予防接種基金への寄付を呼びかけるアプリケーション「Feel No Pain」を開発しました。WHOの生データをグラフや図表に変換し、国別に必要な「ワクチン数」と「購入資金」がひとめでわかるというしくみです。ボタンを押せば即座に小額決済の寄付ができます。プレゼンテーションでは福島からの参加者として、東日本大震災で再確認された「助け合いの精神」の大切さも引き合いに出してアピールしました。

Feel No Painのサービス画面

――Eyes, JAPANは医療アプリケーションの開発で実績があるとはいえ、地方の1ベンチャー企業と学生による混成チームが世界一になった。しかも、医療のプロフェッショナルの競合を相手に優勝、というのはまさに快挙だと思うのですが。

山寺 わかりやすく可視化するウェブサービスのプラットフォーム、という比較的ぼくらが得意なトピックでしたが、やはり言葉のハンデもあって、最初の2週間はニーズの汲み取りと英語の調査に追われました。制作は残りの2週間程度で、手分けをして必死につくりました。

実はいま、「Feel No Pain」さらに発展させて、「可触化」するアイデアを温めています。3D プリンターを使い地震の衝撃波をオブジェとして造形しているアーティストの作品などにインスピレーションを得て、ワクチンが大幅に足りない地域はまるでウニのようなトゲ状の物体が出力されて、現地の「痛み」が触覚として伝わるようなしくみです。今回の優勝を励みにして、世界を変えるようなイノベーションを福島から起こしていきたいですね。

福島を「金継ぎ」し、以前より高い価値を生みたい

――山寺さんは、日本で最初のコンピュータサイエンス単科大学である会津大学の事務局通訳員だったそうですね。そこで学生たちと1995年に設立されたのがEyes, JAPANで、このほどシリコンバレーにもオフィスを設ける予定だとか。山寺さんが「ヘルスケア」というテーマに出会い、世界へと羽ばたこうとしているのは、やはり東日本大震災が1つのきっかけとなったのでしょうか。

山寺 「金継ぎ」という陶器の修復法を知っていますか。日本が生んだ独特の修復法で、割れたり欠けたりした陶磁器を漆で接着し、継ぎ目の漆を金や銀などの粉で埋め、装飾します。以前のままに復元するのではなく、つくろった部分をわざと目立たせ、美しい模様に仕立て上げ、新たな味わいを醸し出す。ぼくらが福島を拠点にしてやりたいのは、いうなれば「金継ぎ」なんです。

――マイナスをプラスに転化するということですね。

山寺 福島はダメージを受けバラバラになってしまった「割れた茶碗」のようなものです。でも、これを元通りに復興するだけでは過去に戻るだけで、未来が開けません。金継ぎのように、以前よりもっと高い価値を生み出したい。どうもぼくは、目の前の山が険しければ険しいほど登りたくなるし、難しい課題であればあるほど、それを克服したときの快感が大きいんですよ。

――そういう意味では、福島ほど挑戦しがいのある場所はないと。

山寺 そうなんです。日本が直面しつつある少子高齢化の縮小モデル社会は、人類史で誰も体験したことのない事態です。福島では、人口およそ200万人のうち1年間で若い人が10%も出て行って、その流れが一気に加速しているようなところがあります。そもそも大都市と地方の格差は、以前からなかなか活路が見出せない課題でした。しかしその一方で、福島は、考えようによっては廃炉ロボットや除染のアイデアが集まる場になっている。人類が未だかつて経験したことのない事態に対処する実験場の様相を呈しています。30〜40年先の仕事ができる場所だと思っていて、ぼくにとって、こんなにチャレンジしがいのあるところは世界でどこにもありません。

後編に続く

関連リンク
Eyes, JAPAN
Feel no pain

山寺 純(やまでら・じゅん)

株式会社Eyes, JAPAN代表取締役/チーフ・カオス・オフィサー
1968年、福島県会津若松市生まれ。93年、日本で初めてのコンピュータサイエンスの単科大学である会津大学の事務局で通訳翻訳員として働き、インターネットに出会う。95年に大学生と会津大学発のベンチャー企業として「あいづ・ジャパン」を創業。以来、ウェブサイトの構築のみならず、「Health2.0」「Government 2.0」「ITによる地域活性」など、先進的なプロジェクトを多数手掛ける。2013年には、アメリカ・カリフォルニアで行われた「Health 2.0」の第7回ハッカソンに日本代表として参加し、優勝。世界各国の77地区の代表チームの頂点に立った。

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