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ICTは人に寄り添う時代へ

2012年04月24日



ICTは人に寄り添う時代へ | あしたのコミュニティーラボ
SNSをはじめとするコミュニケーション・インフラの進化や、東日本大震災を通じて、日本のICT活用は大きな転換期を迎えています。ライフスタイルや価値観が大きくシフトしつつある社会に、企業はどう対応していくべきなのでしょうか。富士通株式会社執行役員常務の上嶋裕和氏と、株式会社インフォバーン代表取締役でメディア事業家の小林弘人氏に、ICTがもたらした変化や今後の動向についてお話を伺いました。

今、見られるICTの新たな潮流

上嶋 個人や企業が効果的にICT(注釈:ICT(Information and Communication Technology) インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジーの略称で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれる。従来の「IT」に比べてネットワークによる双方向コミュニケーションのニュアンスを付加させているのが特徴で、海外ではITに代わる呼称としてすでに一般に定着、国内でも今後の移行が予想される。を活用するには、人間を中心に据えた考え方「ヒューマンセントリック(注釈:ヒューマンセントリック(Human Centric) 富士通が理想とする社会の未来像である「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」を実現するための考え方。技術中心のシステム設計から、人間中心のシステム設計にパラダイムシフトすることで、現実社会での諸問題を解決したり、新たな価値創造を促進することを目指している。が鍵になると思います。既存の街に住むのではなく、人の行動や思考、文化に沿って最適な街をつくっていくというイメージです。

小林 これまでは技術が先走った設計も多く見られましたが、昨年の東日本大震災を通じて、ネットワークやインフラの重要性が再認識されたと思います。カナダのトロントではダウンタウンに向かうバスの中でさえ無料のWi-Fiが使えますが、日本は空港ですら有料。震災も見据えたとき、インターネットの強さが見直されました。サンフランシスコには街全体をWi-Fi網で囲う「Meraki Networks」という民間サービスがありますが、まずは民間だけではなく行政の努力で、アクセスポイントを増やす必要がありますね。インフラだけではなく、情報端末も含め、ライフラインとして整備する必要があるでしょう。

上嶋 企業では、震災を機に情報や在庫の管理が見直されました。有事の際でも事業を存続するためのBCPとして、サーバを移したり、クラウド(注釈:クラウド(Cloud Computing) クラウドとは、クラウド・コンピューティングの略称。データやアプリケーションをインターネット上のサーバに保存し、パソコンやスマートフォンなど複数の端末からアクセスして作業ができる利用形態を指す。端末の性能や利用環境に依存しない点が特徴で、ユーザーはブラウザなど最低限の機能を備えた端末を持つだけでどこにいても多様なサービスを利用することができる。語源は「雲(cloud)」で、コンピュータのネットワーク図が雲で表されることから名づけられた。を活用するケースが増えています。一方でセキュリティに対する問題意識もあり、完全にクラウド(注釈:クラウド(Cloud Computing) クラウドとは、クラウド・コンピューティングの略称。データやアプリケーションをインターネット上のサーバに保存し、パソコンやスマートフォンなど複数の端末からアクセスして作業ができる利用形態を指す。端末の性能や利用環境に依存しない点が特徴で、ユーザーはブラウザなど最低限の機能を備えた端末を持つだけでどこにいても多様なサービスを利用することができる。語源は「雲(cloud)」で、コンピュータのネットワーク図が雲で表されることから名づけられた。を前提としたシステム移行するにはまだ時間がかかりそうです。

小林 多くのアプリケーションがバンドルされることに慣れた企業にとって、「自分の手元にあるのは蛇口だけで、水道は向こう側にある」というイメージはちょっと理解が難しいのかもしれません。

上嶋 企業と個人には、考え方に大きな差があります。たとえばスマートフォンひとつ取っても、個人は通話もできる情報端末と見ていますが、企業はまだ電話として捉えている。よりよいサービスを生むためには、そうした価値観を切り替えなくてはなりません。

小林 個人レベルでは、たとえば画像の共有サイトや実名主義のFacebookもかなり浸透してきていますからね。周囲の20代に聞くと、彼らの多くはプロフィールに写真がない人を「怖い」という。意識にも変化が見られます。若い世代で部屋や洋服のシェアが一般化しているのも興味深いですね。ところで上嶋さんは、若者の車離れなど、モノを買わなくなった消費者にはどのようなアプローチが有効だとお考えですか。

上嶋 既存の製品を売り込むだけではなく、まずは消費者志向のマーケティングが必要だと思っています。医療向けシステムの例となりますが、富士通ではパッケージ製品の追加機能をユーザーに決定してもらう仕組みがあります。「お客様の会」を通じて要望を集め、顧客投票で本当にほしい機能を選んでいただくのです。消費者とともにサービスをつくっている例といえるでしょう。ビッグデータ(注釈:ビッグデータ(Big Data) インターネットの発達に伴って爆発的に増大した巨大なデジタルデータのこと。主に、高度なデータマイニング技術で分析することで、より正確かつ迅速なソリューション展開が実現できるという文脈で使われる。技術革新やコストの低下に伴い、近年では一般企業でも取り扱いが可能となりつつありビジネスの世界で大きな期待を集めている。の収集が容易になった今日、情報の活用がとても重要です。ベンダー側が収集・分析したデータを、顧客が簡単に使える形で提供する新たなビジネスモデルも考えられます。

小林 ビッグデータ(注釈:ビッグデータ(Big Data) インターネットの発達に伴って爆発的に増大した巨大なデジタルデータのこと。主に、高度なデータマイニング技術で分析することで、より正確かつ迅速なソリューション展開が実現できるという文脈で使われる。技術革新やコストの低下に伴い、近年では一般企業でも取り扱いが可能となりつつありビジネスの世界で大きな期待を集めている。は工業から農業までさまざまな分野で役立てられていますし、汎用性も高い。企業がうまく活用できれば可能性も広がりますね。アメリカでは「kaggle」のようなビッグデータ(注釈:ビッグデータ(Big Data) インターネットの発達に伴って爆発的に増大した巨大なデジタルデータのこと。主に、高度なデータマイニング技術で分析することで、より正確かつ迅速なソリューション展開が実現できるという文脈で使われる。技術革新やコストの低下に伴い、近年では一般企業でも取り扱いが可能となりつつありビジネスの世界で大きな期待を集めている。の分析等を第三者に依頼し、それをコンテスト形式にするサービスがあります。日本でも、ぜひ富士通さんにビッグデータ(注釈:ビッグデータ(Big Data) インターネットの発達に伴って爆発的に増大した巨大なデジタルデータのこと。主に、高度なデータマイニング技術で分析することで、より正確かつ迅速なソリューション展開が実現できるという文脈で使われる。技術革新やコストの低下に伴い、近年では一般企業でも取り扱いが可能となりつつありビジネスの世界で大きな期待を集めている。活用のオープン・イノベーション(注釈:オープン・イノベーション(Open Innovation) 自社以外の技術やアイデアを組み合わせて、革新的な商品やビジネスモデルを生み出すこと。従来は産官学連携や異業種交流をはじめ組織間での結びつきを指すことが一般的だったが、近年ではソーシャルメディアの発達や制作過程の情報開示といった工夫により、不特定多数の個人・ユーザーによるコラボレーションを指すケースが増えている。を促進してほしいと思います。

日本独自の価値観と人間力で、新しいサービスを生む

上嶋 小林さんにお聞きしたかったのですが、SNSやそれを前提としたアプリケーションなどの海外で生まれた新しいサービスはそのまま日本でも適用できるといえるのでしょうか?文化や思想がまったく違うなか、国内と海外を同様に考えてよいのでしょうか?

小林 適切な運用をするためには、日本に必要なサービスを見極め、ある程度言語やデザイン以外も翻案して取り入れなければなりません。海外のメディアを日本でも多く立ち上げてきましたが、日本版として立ち上げるときは、そのまま引き継ぐのは名前だけで、コンテンツに関しては国内仕様に文脈を整え直す必要があります。

上嶋 文化の違いを吸収するために、カスタマイズが必要なんですね。

小林 現在は多くの思想やメソッドが日本にも紹介されますが、日本の文化とどう接合するかというインターフェースの処方が必要かと思っています。たとえば、フィリップ・コトラーが述べている価値主導の「マーケティング3.0(注釈:マーケティング3.0(Marketing 3.0) かつての製品を消費者に売り込む「製品中心のマーケティング」(マーケティング1.0)、顧客満足度を上げるための「消費者志向のマーケティング」(マーケティング2.0)といった時代を経て、現在、企業が直面しているとされるマーケティング概念。アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが提唱した。具体的には「価値主導のマーケティング」と位置づけ、よりよい社会の形成に向けて顧客と共創する価値に重きが置かれていると説いた。」は、日本では当たり前の話。リーマンショックや9.11を通じて諸外国も重要性を再認識しましたが、日本にはもともと内在している考え方です。それをそのまま持ち込むのではなく、どの部分を日本が持つ最良の部分とマッシュアップ(注釈:マッシュアップ(Mashup) もともとは、異なる楽曲同士を合成して一つの作品を生み出す手法を指した音楽用語。そこから転じて、異なるウェブサービスを組み合わせて新しいサービスとして展開すること。するかが課題ですね。

上嶋 「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、近江商人の「三方よし(注釈:三方よし 「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という近江商人の経営理念を示す概念。自らもしくは取引相手のみならず社会を見据えての商売を奨励したことから、近年耳目を集めている。」がいい例ですね。東日本大震災で日本人や日本という国自体が見直され、むしろ海外がこちらの意識に近づいてきている印象です。

小林 「三方よし(注釈:三方よし 「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という近江商人の経営理念を示す概念。自らもしくは取引相手のみならず社会を見据えての商売を奨励したことから、近年耳目を集めている。」はwinの増やし方にソサエティーが含まれていますよね。もともと近江商人は行商中心なので、異郷であるコミュニティーへの寄与を考える、CRM(Customer Relationship Management=顧客管理)といえばそれまでですが、もっと切実でしょう。一時期は時価総額至上主義的な企業も多く散見されましたが、震災を機にいろいろな企業も気づくことが少なくないと思われます。ヒューマンセントリック(注釈:ヒューマンセントリック(Human Centric) 富士通が理想とする社会の未来像である「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」を実現するための考え方。技術中心のシステム設計から、人間中心のシステム設計にパラダイムシフトすることで、現実社会での諸問題を解決したり、新たな価値創造を促進することを目指している。についていえば、日本人のつくる製品は、情報の可視化やサポートなど詳細まで行き届いている。そのきめ細やかな感覚は、人を中心に考えたサービスづくりに向いていると思います。

上嶋 アナログでもデジタルでも、最後の詰めは人間力です。私は図書館をよく利用するのですが、返されたばかりの本を集めている棚がちょっとしたランキングのようで面白い。多くの本棚から一冊を探し出すよりもずっと手軽に、興味深い本に出会えるのです。

小林 情報のフィルタリングはやはり人間を通すべきですね。海外のサービスも、どのように適用するか人中心の考えで再構築する必要があります。

上嶋 人を無視したサービスは使われない。私が今の仕事を続けてこられたのも、常に人とのかかわりがあったからです。
5月17日のFF2012で行われるセミナーでは、ヒューマンセントリック(注釈:ヒューマンセントリック(Human Centric) 富士通が理想とする社会の未来像である「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」を実現するための考え方。技術中心のシステム設計から、人間中心のシステム設計にパラダイムシフトすることで、現実社会での諸問題を解決したり、新たな価値創造を促進することを目指している。に基づいて、企業のICT導入事例や、海外サービスに対する今後の展望などについてお話ししたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。

小林 弘人 プロフィール

紙とウェブの両分野で多くの媒体を立ち上げるほか、様々な企業のメディア化を支えてきたIT界の仕掛人。現在、デジモ社の代表を兼務、世界に向けてスマートフォン・アプリを使ったサービスを展開中。著書/『メディア化する企業はなぜ強いのか?』(技術評論社)、監修/『FREE』『SHARE』(NHK出版)他。
上嶋 裕和 プロフィール
富士通株式会社 執行役員常務 上嶋 裕和
1976年 富士通(株)入社、官公庁向けのシステム開発業務に従事。
2012年 4月より現職にて、同社のシステムインテグレーション部門を統括している。

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