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FUKUSHIMA発、ヘルス2.0への飽くなき挑戦——山寺純インタビュー(後編)

2014年02月10日



震災のダメージを受け、福島の若年層は県外に流出してゆく。しかしそんな状況下で、「福島のこの状況こそ、人類が未だ経験したことのない状況であり、実験場だ」と、ベンチャースピリットを燃やすEyes, JAPAN代表の山寺純さん。インタビュー後編では、「車輪の再発明」とそのビジネス構想、そしてその熱源に迫る。

前編はこちら

車輪が光る自転車に乗って、健康も収入もアップ

――そんな「未来の実験場」である福島で、ヘルスケアに関わるプロジェクトとしてはどんなことに取り組んでいるのですか。

山寺 昨年は自転車が発明されて200年という節目の年でした。1813年、ドイツのカール・フォン・ドライス男爵が、足で蹴って進むハンドル付きの木製二輪車を考案しました。諸説あるようですが、これを自転車の発明とするのが通説のようです。ところが自転車というのは未だに原始的なデバイスにとどまり、200年も経っているのに、たいしたイノベーションが起きていない。そこでぼくらは「車輪の再発明」をしたいんです。

——なるほど、いわれてみれば21世紀のいまでもせいぜい電動アシスト自転車くらいのものですね。健康増進のツールになる自転車にイノベーションを起こすプロジェクトということですか。

山寺 現在、復興庁の支援を受けて進めているプロジェクトは、自転車にセンサーを取り付け、放射線量や自動車と比較したときのCO2削減量などが測定できる、というものです。放射線測定手法の1つであるモニタリングポストは定点観測ですが、これなら自転車を走らせるだけで、町全体の空間放射線量をデータとして集積し、可視化できます。放射線量のみならず、騒音、渋滞、大気汚染など、都市が抱える共通の問題の可視化にも役立つでしょう。

――自転車で放射線量の測定とは、驚きです。

山寺 海外の都市でも実際にセンサーを付けて走り、プレゼンテーションしてきました。ヘルシンキの街を走ったら、線量が毎時0.2マイクロシーベルトでした。これは会津若松の約2倍の数値です。「福島は放射線量が高くて危険なのでは?」と聞いてくるフィンランド人にその事実を伝えたら、「えっ!」とびっくりしていました。風評被害は、ふわっとした噂話からはじまることが多いですが、自転車に乗るだけで数値をきちんと比較できれば、いたずらな風評被害も防げます。

また、ロードマップやカロリー消費量測定など、ナビゲーションやヘルスケア関連のアプリを自転車そのものにマウントすることも考えられます。さらには、たとえば自転車を「走る広告媒体」として使えればどうでしょう。ホイールにLEDを装着し、GPSを利用して広告を流すのです。回転する車輪がデジタルサイネージのようになって、夜は光って目立つので事故防止と宣伝効果の一石二鳥をねらえる。こんな自転車を、自治体などが運営するシェアサイクルなどに導入することを目指しています。

――いままで自転車にそれほど関心がなかった個人や地域も、強いインセンティブを感じられそうですね。

山寺 もし車輪が光る自転車で広告料収入が得られるようになったら、自転車通勤したくなりませんか。自転車に乗る人が増えれば、CO2削減に貢献できるし、都市のモビリティ自体も変わります。また、自転車を利用すれば、運動して健康に気をつけていることになるから、病気になるリスクが少なくなり、たとえば健康保険料が安くなる効果も……。そこまでの流れを組み立てることができれば、持続可能なビジネスモデルになると思うのです。現在、自転車は世界で年間1億3000万台ほど製造されており、シェアサイクルの市場も4年で10倍に伸びています。健康増進のみならず、都市の大気汚染や渋滞の改善にもつながる「車輪の再発明」には、グローバルなインパクトがあるのです。

「誰もできないこと」に取り組み続けたい

――医療向けのモーションキャプチャーや3次元CGの制作など、これまでの医療アプリケーション事業にはどんなものがありますか。

山寺 たとえば介護動作を解析するモーションキャプチャー。経歴10年以上の介護士10人の動作と、経歴3年未満の介護士10人の動作を最新鋭の光学式カメラでコンピュータに取り込み、それぞれの平均動作を合成した仮想モデル動画として表現すると、2つの比較から、最適な介護動作をわかりやすく可視化できます。これまで感覚的にしか捉えられなかった人間のさまざまな基本動作のデータベースは、ユニバーサルデザインや医療介護用ロボットへの応用も可能です。

――模型や実写では表現しにくい、さまざまなCG映像のライブラリー化にも取り組んでいますね。

山寺 人体の構造や動きが詳細にわかる解剖学映像、手術シミュレーション、出産時における胎児の旋回運動、AEDの正しい使い方などのCGです。すべてフルハイビジョン規格で制作され、AR(拡張現実)を使ったシステムと組み合わせたり、ハリウッド映画でおなじみのS3D(立体視)映像にも対応しています。より実物に近い感覚を得られるので、治療の具体的なイメージがつかめない患者への説明資料や、医学生向けの教材などにも活用されています。

――医療アプリケーション事業の、今後の展望をお聞かせください。

山寺 医療機器の性能がいくら上がっても、医療はやはり属人的な要素が強いわけです。農業が土壌や気候が変われば同じ作物ができないように、医療もまた、患者さん1人ひとりによって変わります。また、お医者さんがいくらわかりやすく説明しても、患者さんとは情報量の格差があるので、なかなか理解しづらいところもあります。そうした部分にICTでアプローチできれば医療は大きく変わる可能性が高いと思います。

――車輪の再発明も医療アプリケーションも、大きく捉えればヘルスケア事業ですが、この方面にますます力を入れていくのでしょうか。

山寺 いつまでも健康でいたいという願望は年齢、性別に関係なく人間の根源的な欲求の1つです。医療費の削減が社会の課題になっている昨今、ヘルスケアに関わる事業は困難な課題が立ちはだかるうちは飽きずに続けたいですね。他の誰かができるのなら、ぼくらがあえてやる必要はありません。誰もできないし、誰もやろうとしないからこそ闘志が燃えるのです。

関連リンク
Eyes, JAPAN
Feel no pain

山寺 純(やまでら・じゅん)

株式会社Eyes, JAPAN代表取締役/チーフ・カオス・オフィサー
1968年、福島県会津若松市生まれ。93年、日本で初めてのコンピュータサイエンスの単科大学である会津大学の事務局で通訳翻訳員として働き、インターネットに出会う。95年に大学生と会津大学発のベンチャー企業として「あいづ・ジャパン」を創業。以来、ウェブサイトの構築のみならず、「Health2.0」「Government 2.0」「ITによる地域活性」など、先進的なプロジェクトを多数手掛ける。2013年には、アメリカ・カリフォルニアで行われた「Health 2.0」の第7回ハッカソンに日本代表として参加し、優勝。世界各国の77地区の代表チームの頂点に立った。

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