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スローサイクリングで、まちおこし ——しまなみ海道ゆっくり自転車旅のすすめ

2014年03月05日



スローサイクリングで、まちおこし ——しまなみ海道ゆっくり自転車旅のすすめ | あしたのコミュニティーラボ
瀬戸内海の8つの島々を縦断し、愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ全長約70kmの「しまなみ海道」。本州と四国にかかる3本の連絡橋のうち唯一、自転車でも走行できる道路がある。サイクリストの間では「聖地」とも呼ばれるほど人気の高いサイクリングコースだが、ここ2~3年は、しまなみ海道を起点にした「自転車でまちおこし」の気運が官民あげて高まってきた。ゆっくり走って地域と触れ合う「スローサイクリング」で、旅の人と町の人がつながりつつある。

「自転車ゆっくり旅」で、地域の暮らしに触れてもらえたら

瀬戸内しまなみ海道(以下、しまなみ海道)の開通は1999年。風光明媚な景観が売りとはいえ、自動車で素通りされるだけの観光地に過ぎなかった。しかし、島嶼部の12市町村が合併して新たな今治市が発足した2007年頃から、しまなみ海道ならではの観光資源である「自転車で渡れる橋」を活かしたまちおこしが住民の間で模索されはじめる。

ゆっくり走って島をめぐる「ポタリング(自転車散歩)」の旅で町に滞在してもらおう。そんな提案をもとに、2005年から島ごとに「自転車モデルコースづくり事業」に取り組んだ。

その過程で、自転車旅行者をもてなそうとする地域の人々の島を超えたネットワーク組織「しまなみスローサイクリング協議会」が2008年に発足。これが母体となってNPO法人シクロツーリズムしまなみが設立された。
NPO法人シクロツーリズムしまなみのリーフレット
代表理事の山本優子さんは「スローサイクリングの〈スロー〉にはいろんな意味をこめました」と語る。「スピードがゆっくりなだけではなく、昔から脈々と受け継がれているゆったりとした暮らしぶり、スローフード、手つかずで残っている知恵や技術や文化……そういう地域の豊かさを伝えるのに自転車ほどふさわしい旅のツールはないんですね。自分の力で進む自転車を使って、ひとときでも島の暮らしに溶け込み、ゆっくりしたリズムで楽しんでほしいんです」。

シクロツーリズムしまなみの活動は、ポタリングのガイドツアー、「しまなみサイクルオアシス」、パンクや怪我などトラブル時のサポートを行う「しまなみ島走レスキュー」の運営、自転車を持ち込める臨時列車「サイクルトレインしまなみ号」の運行、サイクリスト目線の「しまなみ島走マップ」制作など、多岐にわたる。しまなみサイクルオアシスは、民宿や農家、商店、寺院など、しまなみ島走レスキューは自動車修理工場や自転車店、タクシー会社など地元の人たちの参画と協力で成り立つ。

「自転車の似合う風景づくり」のために、市民参加型の今治市中心市街地活性化協議会サイクル部会の事業として、2012年は「サイクルスタンドデザインコンテスト」を開催した。全国126作品の応募から、人が自転車を支えている形のユニークなデザインが入賞して、現在道の駅「伯方S・Cパーク」に設置されている。今後は、しまなみ海道沿線から今治市街地にも設置されていく予定だ。また、シクロツーリズムしまなみはヘルメットの着用や左側通行、並列走行の禁止などルールやマナーを子どもたちに伝える「今治自転車人養成講座」などの啓発プロジェクトにも力を入れてきた。
サイクルスタンドデザインコンテストで入賞、製品化されたサイクルスタンド
「まちおこしに携わる人って全市民のせいぜい1割じゃないですか。でも、これだけ自転車で走る旅行者が増えてくると、住民の方々から自発的に、サイクリストの気持ちを聞いてみたいから座談会を設定してほしい、とリクエストが来るようになったんです。それがとてもうれしかった。レースやヒルクライムなどスポーツとしての自転車も素晴らしいし、多様な価値観があっていいんですが、わたしたちは自転車でのゆっくりした旅のかたちにも気づいてほしいし、そんな旅を志向するしまなみ海道ファンを増やすのが目標です」と山本さんは話す。
NPO法人シクロツーリズムしまなみ代表理事の山本優子さん

島から島へママチャリでもOKの国際サイクリング大会

今治市、尾道市、上島町および関係団体で構成される「瀬戸内しまなみ海道振興協議会」の調査によると、レンタサイクルの利用実績は2010年が約5万台、11年が約6万台、12年が約7万5,000台と着実に増えつつある。マイ自転車も含めた2012年の自転車走行台数は、約17万台と推計された。

しまなみ海道の「自転車でまちおこし」は、より広域に波及している。2010年に就任した中村時広愛媛県知事が“サイクリングは健康と生きがいと友情を与えてくれる”と「自転車新文化」を提唱。「愛媛マルゴト自転車道」と称して県内に26コースを設定し、しまなみ海道を起点に県全体を「サイクリストの聖地」にすべく、力を注いでいる。昨年10月20日には、レースではなくサイクリングを楽しむ走行イベント「瀬戸内しまなみ海道・国際サイクリングプレ大会」を開催し、国内外から多くのサイクリストを集めた。今年10月26日の本大会は、ママチャリでの参加もOKの、島と島を結ぶ短距離コースも含めた10コースを設け、より地域に密着した国際イベントとして8,000人規模の参加者を見込む。
2013年のサイクリングプレ大会(提供:愛媛県 東予地方局 今治支局)
知事が率先して旗を振れば影響力は大きい。県庁サイクリングチームが発足し、昨年9月には知事主催で市町長、県議、県庁部長級職員以上が参加した「しまのわサイクリング」を実施した。「市の職員にもサイクリストが増えました」と今治市産業部観光課観光係主査の中田尚雄さんは言う。「自転車通勤ひろめ隊、やサイクリング部もあります。市長も熱心で、公務で島嶼部などの郊外に行く際も時間が許せば公用車ではなく自転車を使う。そうやってトップ自ら自転車目線で道路状況を見て、整備が必要なところの指示を出すと動きは早いです」。

しまなみ海道の9つの橋の自転車通行料金は現在50〜200円だが、朝日新聞の報道によると、愛媛・広島両県知事が国土交通相にかけあい、今夏にも無料になる見通しが強くなった。年間収入約2000万円の減収分は、地元自治体と本州四国連絡高速道路が負担するという。サイクリストの聖地に弾みがつく。

企業も動き出した。平成26年には、JR四国がサイクルトレイン「しまなみ号」の運行回数を年間8回から大幅増便する予定だ。平成25年には専用列車以外にも空いている時間帯を利用した混乗試験を実施。また、今治・松山・宇和島各駅で自転車輪行袋のレンタルサービスや、自転車積み込み可能な特急列車の運行を開始する。清涼飲料メーカーのダイドードリンコは、自動販売機で自転車タイヤチューブを購入できる国内初の試みを社会貢献事業として行っている。

自転車の健康への効用にも県として施策を講じる予定だ。海外のことわざ「トラック1杯の薬よりも1台の自転車」をキーワードに、アクティブシニアを対象にしたスポーツサイクル試乗体験と、社会福祉協議会を通じた自転車サークルの普及によって、健康増進・生活習慣病予防・医療費削減を目指す。

「愛媛県では四国四県連携事業として四国1周の自転車ルートの開拓もしているところです」と、さらなる広域連携に言及するのは愛媛県今治支局総務県民室地域政策班長の坂本大蔵さん。「おととし台湾を視察したのですが、現地は自転車ブームで、一生に1度は国内を自転車で1周したい、という人が多い。台湾1周が900キロで、ほぼ四国1周と同じなんですよ。しまなみ海道を起点に、今治、愛媛、四国と各々の切り口で多種多様な自転車による地域活性化を進めていきます」。

自転車で走らなければ、感じられないことがある

編集部も、レンタサイクルのクロスバイクでしまなみ海道を走ってみることに。ガイドは、シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さん。ブルーラインが敷かれたメインルート沿線に15のレンタサイクルターミナルがあり、そのターミナルであれば、レンタサイクルはどこでも乗り捨て可能だという。
NPO法人シクロツーリズムしまなみの宇都宮一成さん
今治駅前をスタートして市内を抜け、今治港から海沿いの道を走ると、大島へ渡る来島海峡大橋が見えてきた。世界初の3連吊橋で全長4kmを超える、しまなみ海道最大の橋だ。

橋の入口までは緩やかならせん状の上り坂。冬でもうっすら汗をかく程度のいい運動になる。橋には自転車・歩行者+原付バイクの専用道が整備されているので、車を気にすることなくサイクリングを楽しめる。海上およそ60〜80mというその高さ、眼下には瀬戸内海と島々の絶景。

緩やかならせんスロープを下って大島へ上陸し、一般道を走る。
なだらかだが距離が長くてしんどい宮窪峠を越え、島の北東岸にたどり着いてホッと一息。「千和」という民宿でコーヒーをいただく。宿の前には木のベンチと「自転車休憩所」の手づくり看板。実はここ、2011年に各島民の協力を得て誕生したサイクリストの休憩所「しまなみサイクルオアシス」(現在全島で69箇所)発祥のきっかけになったところだとか。

ご主人と民宿を経営する平山日出美さんが、堤防に腰かけて休んでいるサイクリストを見て、ベンチを設置してあげた。こんなふうに、ちょっとした軒先を借りてサイクリストが休み、地元の人たちと小さな交流が生まれれば素敵だ。そんなスペースがしまなみ海道にたくさんあったら、とシクロツーリズムしまなみの呼びかけに島民たちが応じた。その原点が「千和」だった。

民宿「千和」の平山さんと、ひとしきりおしゃべりを楽しんだ後は、「伯方の塩」で有名な伯方島を通り抜け、大三島へ渡った。

島を北上する東側のブルーライン沿いルートから旧道へ入り、瀬戸地区の路地裏をめぐると「Limone(リモーネ)」という店がある。脱サラして2009年に東京からI ターンした山﨑さんご夫妻は、自家農園でオーガニックに栽培するレモンとネーブルを使ったリキュールなどを製造販売している。大三島に居を定めたのは柑橘類の有機栽培が盛んだから。サイクリストに人気の地であることは後から知った。
Limone(リモーネ)の山﨑知子さん
「お土産にと立ち寄ってくださるサイクリストの方々との交流を通じて、自転車でしか感じられないことがあるのに気づきました。自転車で走ると、びっくりするくらい柑橘の花の香りがするんですって。わたしたちは畑に出るから慣れっこなんですけど。自転車で来るにはいつがいいですか、と聞かれると、5月の柑橘の花が咲く頃をおすすめしています」と知子さん。

なるほど山側の旧道を走ると、柑橘畑のオレンジが目に飛び込んで来た。道端の実や葉に顔を近づけてみると、ほのかに柑橘系の匂いが漂う。これもまた、しまなみ海道ならではの体験だ。

知子さん自身はバイクに乗るくらいで自転車にはあまり乗らないとか。しまなみ海道を訪れるサイクリストの増加にともない、地域の人たちにも自転車熱がじわじわと浸透しだしているが、この動きをさらに加速させていくには、サイクリストの属性の偏りをなくすことも課題の1つ。たとえば、愛媛県今治支局の坂本さんによれば、昨年の国際サイクリングプレ大会でも女性の参加者は17%程度だった。マラソンなどに比べればまだ少ない。

シクロツーリズムしまなみの山本さんは、「女性が自転車を敬遠する一番の理由は〈メカメカしい〉からみたいですよ」と話す。それでも輪行(自転車を分解して袋につめること)して、電車などで遠方へ出かける女性は増えつつあるそうで、自転車解体講座には女性の参加者も多い。やはり仲間と一緒だと〈メカメカしい〉のも気にならなくなる。女性サイクリストに向けてアプローチし、「自転車女子」を増やしていく――多様な属性のサイクリストが集まれば、これまでかかわりの薄かった住民との出会いも生まれ、地域がより活性化する一助になり得るだろう。そんな多様な人たちが集い、地域との間で循環を見せることこそ、「自転車でまちおこし」が目指す1つの方向性かもしれない。

千和で話を聞いていたときのこと。
「人と出会えたら世界が広がる」。平山さんは何気なく、そう口にした。民宿である千和にはこれまで、国内外問わずさまざまなバックグラウンドを持ったサイクリストが立ち寄り、宿泊していった。彼らと撮影した記念写真のアルバムは、平山さんにとって宝物だ。自転車は健康を増進するスポーツギアでもあるが、誰にでも親しみやすい、人と人とを結びつけるツールでもある。それに気づいた地元の人たちの取り組みが、しまなみ海道の自転車旅行者を増やしている。

健康・環境・観光・交通、「4K」それぞれで良いことづくめの自転車文化を、“聖地”しまなみ海道を起点に四国全域で先導していってほしい。


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