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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

ペットは家族と社会をどうつなぐのか

2014年03月20日



ペットは家族と社会をどうつなぐのか | あしたのコミュニティーラボ
夫婦げんかをしていると、不穏な空気を察知したのか飼い犬が近づいてきた。その表情を見ると怒りの感情はスーッと引いていってしまう――。いまや、ペットは人を支える存在だ。当然、飼い主は、ペットも健やかに暮らしてほしいと願う。だが、言葉を発さないペットの健康管理は難しい。糖尿病や肥満など、人間同様のの生活習慣病にかかる犬も増えている。ペットの健康について考えると、その先には日本社会の課題も見えてくるようだ。

パートナーとして寄り添う、ペットの存在

「この子を飼うようになって生活が一変しました」 そう語るのは、プードルのトゥルー君8歳のママ、西平衣里さん。 「犬を中心に生活が回っています。公園の散歩で〈イヌ友〉がたくさんできました。子どもは2歳ですが〈ママ友〉より打ち解けやすい気がします。『ウチの子かわいいでしょ?』なんて、わが子のことを他人に言えませんよね。ワンちゃんなら、屈託なく自慢し合えるんです」
一般社団法人アニマル・ドネーション代表の西平衣里さん
かわいさでいえば、子どもより犬のほうが上かもしれない、と西平さん。 「犬は無条件で飼い主を好いてくれる。常に飼い主のことを考えて見つめてくれます。互いに年齢を重ねるにつれて、犬とわかりあえる。たとえ言葉がなくても、こちらの考えや行動を先回りして察知してくれるんですよね。子どもはいずれ独立しますが、犬は一生、飼い主に依存して無償の愛を捧げます。家族の中でも特別な存在。犬をパートナーと捉えて精神的に寄り添っている人は多いと思います」 人の親子とはまた別の次元で、人と犬は強い絆を結んでいるのだ。
西平さんの愛犬トゥルー君
西平さんは実家で猫や鳥や魚など、さまざまなペットを飼っていたが、自分の責任で飼うのはトゥルー君が初めて。会社を辞め、自分の時間が持てたのをきっかけに念願の「飼い主」になった。ご主人が猫アレルギーなので、毛の抜けない犬種のプードルを選んだ。

家で動物を飼う人々が増え始めた近年において、ペットの健康管理も家族の健康管理と同じように大切になってきた。 けれども、これには少なからず問題がある。

もの言わぬペットとのコミュニケーションのために

ペットはしゃべらないので、飼い主が体調不良を発見しにくい。そのうえ人間のような健康診断の体制も整っていない。特に犬は、弱みを見せまいとする野生の本能なのか、具合が悪いのを飼い主に隠したりする。やっと気づいて動物病院に連れていったときには、すでに重篤な症状になっていた、ということも珍しくない。 「プードルを2人と猫を1人飼っている」という三ツ山陽子さんも、そんな経験をした。
富士通株式会社ユビキタス事業本部コンシューマービジネス統括部の三ツ山陽子さん
「上の子は遺伝性の病気でしたが、散歩のときも気づきませんでした。わたしが見ていると普通に歩くんですね。でも目をそらすと、片足上げてブルブルっと震えていたりする。名前を呼べばふつうに走って来るので、今のは何だったんだろう、みたいな。何軒も動物病院を回って、結局手術してもらいました。足の病気だと、その足をかばっている分、反対側の足の筋肉が落ちて、治ってからもバランスをとるのにすごく時間がかかって。もっと早く見つけてあげられれば……と悔やみました」。

三ツ山さんは富士通の社員。ユビキタス事業本部コンシューマービジネス統括部のアライアンス推進部でマネージャーを務める。ペットの健康管理にICTを活かせないか。社内の研修会で動物好きのメンバーが集まったとき、そんな発想が浮かんだ。 「人間と同じように運動量を計測できたらいいのでは、と考えました。とにかくウチの子の足の状態が悪かったので、飼い主さんが早めにワンちゃんの異常に気づいてあげられるものをつくりたい一心だった」 それから開発されたのが2012年11月にリリースされた、 「わんダント」だ。

トゥルー君が身に付けている「わんダント」本体

このツールは、前足の動きを検出して歩数を計測し、運動量とストレスのデータ化によって、愛犬の健康管理と病気を予防するためのもの。温度センサーで散歩中や留守番中の周辺温度も記録し、愛犬が過ごしやすい環境を整えることにも役立つ。データをスマホやパソコン経由でクラウドサーバーに転送・蓄積すれば、留守番中のリアルタイムも含めて運動量の変化を継続的に観察し、より綿密な愛犬の健康管理が可能になる。
蓄積したペットの日常データを見ることができる専用サイト「わんダント」の画面
イライラしたり、耳の汚れや皮膚の異常など体に違和感があるときに見せる、ブルブルっと体を震わせる動作も記録してくれる。 歩数が減ってきたので医者に連れて行ったら関節脱臼だった、ブルブルが増えてきたので医者にかかったら中耳炎や皮膚病になりかけていたなど、早期発見できてよかったとのユーザーの声が寄せられている。 「見守り用に使っていただいている方も多くて。お留守番中のワンちゃんの行動が想像できるので、ブルブルとすることが多いとやはり寂しいのかなとか。そんなふうに思われる飼い主さんの気持ちはよくわかります」と三ツ山さんは共感をこめる。 健康管理と病気予防が直接の目的だが、愛犬ともっと寄り添いたい、わかってあげたい、というコミュニケーションのためのツールでもあるのだろう。

クラウド技術でペットのライフログを共有・活用

同じ富士通社員で、三ツ山さんとは別の部署ながら同じような目的のプロジェクトを進めていたのが、今林徹さん(イノベーションソリューション事業本部ソーシャルクラウドサービス統括部シニアディレクター)だ。彼もミニチュアシュナイザーを飼っていたことがある。 「動物病院はそう頻繁に行くところではないし、ウェブサイトの情報は膨大で、かつ、点在しすぎていて、どれを信じたらいいかわかりません。専門家の正しい知見に基づいた情報にアクセスできて、ペットに関わる人たちが適切につながれるクラウドサービスがあったらいいな、と漠然と考えていました。三ツ山さんは、どちらかといえばデバイスという着眼点から発想をスタートさせたのに対し、ぼくはネットワークを使って何か役に立てないか、というのが発想の原点でした。そのうちにお互いがやっていることは同じだということに気づいて、話を進めるうちに一緒に取り組むことになったのです」
富士通株式会社イノベーションソリューション事業本部の今林徹さん
動物が媒介する感染症のサーベイランス(発生動向調査)に関心を持つ国立感染症研究所のスタッフや獣医師との出会いを通じて、動物病院向けの電子カルテができないか、ということになった。その情報がクラウドに集約されれば、新薬や治療法の向上 にも弾みがつくに違いない。動物病院だけでなく、ペットホテルなどでも、電子カルテの情報のみならず、たとえばわんダントで飼い主がクラウドに上げたデータなども参考に個別のサービスを提供できるだろう。 2011年2月に東京・世田谷に設立された、地域の動物病院の共同出資による夜間救急動物医療センターを実証実験の場として「どうぶつクラウド」のシステム活用がスタートした。 「人間の病院は内科や外科など専門別に分かれていますが、動物の病院は全科診療 です。当然、動物は種類ごとに特徴が違うし、同じ犬でも犬種によって異なります。1人の医師がすべてを完璧にカバーするのは難しい。だから医師同士のネットワークによる情報共有が求められています。クラウドでそれを実現できれば動物医療の成熟・進化に貢献できるはず」と今林さんはみている。

2013年11月から、アニコムホールディング株式会社と共同開発で、同社が国内1,800箇所の動物病院に提供している顧客管理ソフトに電子カルテシステムなどの診療支援機能や経営支援機能を追加しクラウドサービスとして提供する「アニレセFシリーズ」を販売開始した。 飼い主、動物病院、ペット業界がクラウド技術を通じてつながり、ペットのライフログ(生涯記録)を共有・活用できるようにして、人もペットも安心して暮らせる環境を整えたい。それが今林さんも三ツ山さんも望む未来像だ。

ペットが「社会の一員」になる日へ向けて

「日本ではペットと人がまだまだ一緒に暮らしにくい」と三ツ山さんは感じている。

「公共交通機関や商業施設、ホテルなどはペット連れだと利用しにくいですよね。せめて欧米並みにはペットとともに暮らしやすい社会にしていきたい。それには、1人ひとりの思いや行動がつながって、大きな輪にならないといけません。その手段の1つがクラウドサービスであり、企業人としても個人としても、つながりの輪を大きくするお手伝いをしていきたいです」

また、今林さんはある獣医師から次のようなことを聞いて強く共感したという。 「ペットは家族の一員……だけではダメで、社会の一員にならなきゃいけない。東日本大震災の被災地で動物を救助しているテレビ映像を見て〈なぜ国民の税金をあんなことに使うんだ〉と怒った人に対して、何も言えなかった。きちんと答えを用意したい。こうおっしゃっていました。社会の一員として動物をどう位置づけるのか。これは大きな課題だと思います。」

西平さんは、2011年9月にオープンした、動物のためのオンライン寄付サイト 「一般社団法人アニマル・ドネーション」の代表理事を務めている。保護団体、補助犬団体、啓発団体の3カテゴリーが寄付先で、2014年1月31日現在2,200万円を超す寄付を集めた。動物後進国と言われている日本の「動物福祉」を世界トップレベルにしようと活動している。そのミッションの中で2020年までに達成をしたいと考えていることが殺処分の根絶だ。環境省の調査によると、この10年で半減しているが、それでも2012年には21万9,387頭の引き取り数の約77%にあたる16万1,867頭が殺処分されている。ペットを愛する人たちにとっては目を覆いたくなる数字というしかない。

「トゥルーとの暮らしを通じて、日本の殺処分数の多さを知りました。自分のスキルでなにか出来ないか、と漠然と考えていた時に、保健所の見学に行きました。その際、とても手入れの行き届いた愛らしい猫が『撫でて』と身体をすりよせて来ました。職員さんになぜこの子が持ち込まれたのか?と尋ねたとこと、『今朝、ひとり暮らしのおじいさんが泣く泣く連れてきた。病気で入院することになったので、誰もこの猫の面倒をみられないから』と。持ちこんだおじいさんの心痛や、明らかに可愛がられてきた猫が殺処分になってしまうかもしれないと知ったとき、動物も人間も共に救える『仕組み』ができないものか、、と考えドネーションサイトを作ることにしたんです。」と西平さんは語る。

昨年9月に動物愛護法が施行され、動物取扱業の適正化、終生飼養の徹底、罰則強化などが盛り込まれた。しかし、欧米のように長い歴史の末に培った動物福祉の精神が根づいていない日本での改革は難題だ。 動物が「社会の一員」となる道のりは険しい。ペットの健康の背後にはもっと大きな課題が横たわっている。だからこそ、これから社会の中枢を担うことになる若い人たちにこの問題に関心を持ってほしい、と西平さんは願う。 「私たちのウェブサイトに関わってくれている方には若い人が多くて、仕事とは別に何か社会の役に立つフィールドが欲しいとみんな言うんです。誰かが悪いと批判しているだけでは絶対に変わらないので、自分の好きな分野で社会貢献のネタを探して実行する若い人たちが増えてくれると嬉しいですね」

飼い主でなくてもペットの健康と生命に関われる。ひいては少しずつ社会を変えるかもしれない。これもまたソーシャルイノベーションへの扉の1つだ。


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