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「桜を巡る旅」に託された、東北復興への想い(前編) ──東日本大震災復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」

2014年03月25日



「桜を巡る旅」に託された、東北復興への想い(前編) ──東日本大震災復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」 | あしたのコミュニティーラボ
東日本大震災復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」が3年目の春を迎えようとしている。東北6県に桜の札所88か所を設定し、産官民が広く手を携え、観光振興を起点に東北全域の再生をはかる取り組みだ。日本人が愛してやまない桜をシンボルに東北復興の一助になりたい──息の長いプロジェクトとして持続させるべく「共感の輪」はどのように広がりつつあるのか。

持続可能な地域社会への変革を目指して

青梅信用金庫特別アドバイザーの宮坂不二生さんが「東北・夢の桜街道」のプランを考えついたのは、東日本大震災のおよそ1カ月後だった。
青梅信用金庫特別アドバイザー 宮坂不二生さん
宮坂さんは日本銀行山形事務所に勤務していた2001年に地域づくり団体「美しい山形・最上川フォーラム」を立ち上げ、青梅信金に職場を変えてからも、官民連携で「美しい多摩川フォーラム」を発足させた。両方とも河川とその流域の桜をモチーフにし、環境保全や交流人口の増加によって広域の活性化を目指すという試みだ。
「美しい山形・最上川フォーラム」参加者による環境保全の取り組み
(提供:美しい山形・最上川フォーラム事務局)

「風評被害で東北の観光地が軒並み大幅減収になりました。被災地のみならず東北全域を盛り上げる必要がありました。そのためには東北6県に88か所、桜の札所を設けて巡ってもらおう、と考えたのです。多摩川フォーラムで実績がありましたし、東北の桜はすばらしい広域のコモンズ(共有財産)として活用できます。公共交通機関や旅行会社、地域に密着した金融機関である全国の信金などの後援を得て自発的に応援するしくみをつくりました」

2011年12月、両フォーラムが母体となり、宮坂さんを事務局長として「東北・夢の桜街道推進協議会」が設立された。東北6県も参加し、各県知事も応援。国土交通省の「官民連携主体による東北復興支援の委託調査事業」に採択され、920万円の支援も得た。

当初は、観光客誘致による経済の活性化を主眼としていたが、2年目が過ぎた2013年7月からは「経済」に加え「環境」「教育文化」の3本柱を打ち出した。

「今後10年間にわたって展開する予定なので、地域も自立的に参加できるプロジェクトでなければ持続しません。そこで〈環境〉軸では、東北の市町村や環境づくり団体などと連携して、生態系に配慮しつつ桜を植樹し、東北の桜を次代に引き継ぐ取り組みをはじめました。〈教育文化〉軸では、地元の信金や学校と連携し、桜の絵画コンクールなどを開催。子どもたちに身近な桜の魅力に気づいてもらい郷土愛を育む〈しんきん桜守制度〉の普及に努めています」
「ふくしん児童絵画コンクール」展示場の様子 (提供:福島信用金庫)
産官民連携による外からの自発的な支援活動が、地域の内なる自立的な連携と協働を生んで、支援する側と支援される側の双方向の「相互扶助」によって復興再生を実現し、持続可能な地域社会への変革へとつなげる。こうした相互扶助によるソーシャルイノベーションが「東北・夢の桜街道」の目指す姿だ。

その意気込みに共感した企業が各々の事業領域を活かした活動に取り組んでいる。富士通も推進協議会メンバーの1社。桜の札所の位置情報、札所近辺の“食”の逸品情報、桜の開花情報などを搭載した観光ナビゲーションシステム「東北桜旅ナビ」を推進協議会と開発・提供する。

理屈ではなく「共感」で、参加を決めた

東北・夢の桜街道の話を宮坂さんから持ちかけられ、一も二もなく「乗った!」と即断した人は少なくない。フコクしんらい生命保険株式会社常務取締役の大場豊明さんもその1人。突き動かしたのはやはり「共感」だ。

フコクしんらい生命保険株式会社常務取締役 大場豊明さん

「私たちは信用金庫さんとスクラムを組んで保険商品を販売しています。震災1カ月後に被災地を回ったとき地元の信金の理事長がおっしゃった〈我々は地域と共に生きている。地域が死ねば我々も死ぬ〉という言葉が忘れられません。そういう共感がベースにある。だから、東北・夢の桜街道にどうして〈乗った〉かは理屈じゃない。直感なんですね」

推進協議会メンバーとして、東北・夢の桜街道では88か所の桜の札所を巡るスタンプラリー帳の制作を手がけている。同社のイメージキャラクターに採用したキティちゃん、小さい子どものいる20〜30代のパパとママに東北の桜でスタンプラリーしませんか、と訴求する作戦だ。

担当する同社営業企画部営業企画グループマネージャーの大島和恵さんは「震災の記憶が風化しかけて東北へ行く人が減っている時期に、ボランティアや金銭的な援助ではなく、東北がすでに持っている桜という共有財産で人を呼べるのはすばらしいことです。そこにスポットを当てれば特別に大きなことをしなくても動きが出るに違いありません。スタンプラリー帳はこの事業の中核を成す誘客のメディアだと思うので、お手伝いできて嬉しい」と話す。
「東北・夢の桜街道スタンプラリー帳」の表紙 (提供:東北・夢の桜街道推進協議会)
「どんな仕事でもゴールを設定しますが、この社会事業にはあらかじめゴールも答えもない」と大場さんは言う。「きっと参加者それぞれが独自の答えを出すのでしょう。その拠りどころとして、日本人の大好きな桜があるんですね」。

桜をきっかけに、地元を好きになってもらいたい

福島信用金庫に地域活性化支援課が創設され、武藤進さんが課長に就任したのは2011年2月。施策は東日本大震災ですべて白紙になった。

「原発事故で福島の200万人が棄民になるのなら、東北は独立するしかないだろう、と。冗談抜きで仕事中に、福島、宮城、岩手の自衛隊の人数と装備を調べて、独立するとしたら何が足りないか……当時の理事長には何を考えているんだ…と呆れられましたが、それくらい切羽詰まっていたんです」。このように、武藤さんは当時の心境を振り返る。

住民たちが地元の食材を消費しなければ農家は生きていけない。疲弊した商店街でもまだ後継者のいる店を磨き直し、地域の循環型経済を取り戻すために「一店逸品運動」を展開できないか。そんなことを考えていた矢先、宮坂さんから東北・夢の桜街道の話が来た。

「かつて熊本県水俣市は公害病に苦しみ地元の漁業も壊滅的な打撃を受けました。そこで地域の自然の価値や人の知恵、文化や産業の力に気づいて引き出す〈地元学〉を市の職員が提唱し、今や水俣は全国的に有名な環境整備都市になっています。地元学と一店一品運動に東北・夢の桜街道を合体させてはどうか、と経営会議にかけました。壮大で迂遠な道かもしれませんが、100点満点のうち毎年20点ずつでもいから一歩一歩積み重ねていきましょう、と」

福島信用金庫が東北・夢の桜街道の「しんきん桜守制度」の一環として実施しているのが「ふくしん児童絵画コンクール」だ。2013年の第1回は「せいぜい200〜300枚の応募」と予想していたが、嬉しい誤算で1,017枚も集まった。
(提供:福島信用金庫)
最優秀賞6点のうち小学校5年生の女子が描いた作品は、桜並木の間を一筋の光の道が太陽に向かって続いていく抽象画のよう。「東北のみんなをつないでくれる大切な桜、みんなから愛される桜を思いながら、東北の夢が届くように描きました」という応募メッセージと共に審査員の心を打った。

小学5年生の女の子が描いた最優秀賞作品 (提供:福島信用金庫)

絵画コンクールは1つのきっかけにすぎない、と武藤さんは言う。
「桜を取っ掛かりにして子どもたちが地元の文化や歴史を学び、地元を好きになってもらいたい。そうすれば若い人が地元に留まって、人口も減らないですむかもしれません。地域の金融機関として、地元にこだわりながら、絵画コンクールも続けていきたいです。学校回り、後援依頼、広報活動などなど、なにもかも1人でやっているので労力も大変なんですが……」。苦笑しながらも武藤さんは実に楽しそうだ。ここにも共感から生まれた熱い想いがある。

福島信用金庫地域活性化課課長 武藤進さん

人工的な創作物に頼るのではなく、地域に根付いた財産を活かして、人々の共感をベースに進んできた「東北・夢の桜街道」プロジェクト。後編では、桜が生み出す、新しいコミュニケーションの姿を追う。

後編に続く


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