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「桜を巡る旅」に託された、東北復興への想い(後編) ――東日本大震災復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」

2014年03月25日



東日本大震災復興支援プロジェクト「東北・夢の桜街道」が3年目の春を迎えようとしている。東北6県に桜の札所88か所を設定し、産官民が広く手を携え、観光振興を起点に東北全域の再生をはかる取り組みだ。参加する人々が、それぞれの思いを桜に込めて、壮大なソーシャルイノベーションの創出を目指す。前編に引き続き、その取り組みを紹介する。

前篇はこちら

東北は、日本人の心のふるさと

業界紙の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の総合部門で例年、加賀屋(石川県和倉温泉)に次ぐ第2位の座を維持しているのが、山形県かみのやま温泉の「日本の宿古窯」だ。山口県出身の女将、佐藤洋詩恵さんはこの地に嫁いで38年。東日本大震災で女将という生業の使命感がますます強まった。

「日本の宿古窯」女将 佐藤洋詩恵さん

「戦後の貧しさを知っているわたしたちの世代が、日本人ならではの<惻穏(そくいん)の情>、寄り沿いながら生きるという優しさを忘れてはいけません。そして、東北の旅館の女将として、1人でも多くのお客さまに東北へいらしていただきたい、ぜひとも東北をお忘れなく、と心から申し上げます。桜はすごくいいシンボル。わたしはずっと、外国のお客さまが見えたら〈桜の国へようこそ〉と言い続けてきました。だから宮坂さんと出会って東北・夢の桜街道のお話を聞いたとき、すんなり〈いいわね!〉と思ったんです。ふっと魂が吸い寄せられました」

東北6県の交流人口を増やすことこそ女将としての使命。そう考える佐藤さんは、福島を玄関口とする東北・夢の桜街道を機会があるたびに宣伝している。後援団体には各県の女将会も名を連ねる。まだ具体的な行動は起こしていないが、声をかければ東北の女将たちは賛同してくれるに違いない。

「東北は日本人の心のふるさと」。佐藤さんはそう思う。

福島県の三春滝桜ーー見頃は4月中旬から (提供:東北・夢の桜街道推進協議会)

「古くは縄文文化にまで遡ると、なんとなく北へ帰る、というイメージが日本人にはあるような気がします。と同時に、桜を仰ぎ見るとき、涙とともにふるさとを思い出すのは東北の人たちがいちばん多いんじゃないかしら。長く厳しい冬を乗り越えたシンボルとしての桜。新しい生活がはじまるシンボルとしての桜。日本人の心象風景としての桜をいちばん強く胸に刻んでいるのが東北の人たちかもしれません」。

東北の桜を巡る旅は、心のふるさとの原風景に出会う旅でもある。

桜を観て、地域の人たちと交流してほしい

宮坂さんらとともに88か所の桜の札所を選定した「美しい山形・最上川フォーラム」会長、柴田洋雄さん(山形大学名誉教授)は、選定基準をこう語る。

「美しい山形・最上川フォーラム」会長 柴田洋雄さん

「各県の観光協会などの推薦を元にしたのですが、数百年もかけて地域の人たちが見守り維持してきた結果としてそこにある、地域の人たちが誇りを持っている桜をなるべく選ぶようにしました。だから、ただ単に桜を見てきれいだね、と思うだけではなく、郷土の食べ物を楽しんだりして、その周辺の地域の人たちと交流してほしい。そこで〈食の逸品〉などの情報にアクセスできる〈東北桜旅ナビ〉が役立つと思うのです。若い観光客と地域のお年寄りの間にコミュニケーションが生まれ、桜を通して地域のあり方、おおげさにいえば人間のあり方が見えてくるといいかな、と。毎年行くたびに、地域の人たちが元気を取り戻している姿を目の当たりにすれば、自分たちも元気をもらえるじゃないですか。そういう、損得抜きの人間関係の大事さに気づいてほしいんですよね」

「美しい山形・最上川フォーラム」は、水環境を良くする活動を中心に環境、教育、経済に関わる取り組みを展開している。1人1,000円の年会費で会員が4,600人。地域づくり系の任意団体としては規模が大きい。負担の少ない会費さえ納めていれば活動に参加するもしないも自由。自治体の職員も企業の社員も大学教授も農家の人もすべてフラットな関係。柴田さんによれば、これが長続きし多様性も増す秘訣だとか。

美しい山形・最上川フォーラムによる県内一斉水質調査の様子 (提供:美しい山形・最上川フォーラム事務局)

「いろんな人たちが集まっているけれど平等な立場で議論しましょう、という姿勢がみんなを元気にします。東北・夢の桜街道もそういう運動体であり続けたいですね」

ある旅行会社の統計だが、桜の札所のどこかに立ち寄るバスツアーの客数は2012年に10万人、2013年に15万人と着実に増えている。だが、人口減少の時代に国内の観光地で客の奪い合いをしていては先細りだ。東北・夢の桜街道は東アジアからの誘客を視野に入れている。去年の春、桜の好きな親日家が多い台湾の日系旅行会社で3コースのツアー商品が実現した。そして、今春は、観光庁の「台湾における春の訪日観光プロモショーン事業」として「東北・夢の桜街道」が採択され、桜の花びらや東北・夢の桜街道の統一ロゴを車体にラッピングしたうえ、車内の床一面に桜の花びらをあしらった車両が台湾を颯爽と走り抜けた。   

桜のラッピングで彩られた車両が台湾の地下鉄を走る様子 (提供:東北・夢の桜街道推進協議会)

「日本のシンボルである桜は、開花期間が1月の沖縄(カンヒザクラ)から6月の北海道(チシマザクラ)まで半年間にわたるため、とても有効な<インバウンド観光戦略>になり得るのです。東北の再生と復興を起点にした日本の成長戦略の有力な事業としてさらに発展させていきたい」と宮坂さんは未来を見据える。

「共感」を基盤に、それぞれの想いを桜に込めて、対等の立場でつながりながら壮大なソーシャル・イノベーションに挑む。そんなすがすがしさを携えて、多くの人を惹きつけ、巻き込みながら、東北・夢の桜街道のプロジェクトはこれからもその輪を広げていく。


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