Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

東北復興に関するマスコミ報道は年を経るにつれて散発的になり、ともすれば関心も薄れがちだ。そんななか、2012年1月から復興に携わる現場の人たちの取材を重ねてきた「東北復興新聞」の本間勇輝・美和さんが、東北復興の今とこれからを見通す決定版ともいうべきガイドブックをまとめたのが本著である(東北復興新聞 編/本間勇輝・美和 著/A-Works 刊/2014)。元に戻るのではなく、より良き東北が未来を照らす光になること。さまざまな分野での取り組みは、日本の地域社会が共通に抱える課題への先進的な挑戦にほかならない。

新たな価値の生まれる息吹が東北各地に

2011年10月、 釜石で和菓子屋を営む鹿野順一さんの次のような言葉を聞いて衝撃に近い感覚を覚え、本書の著者たちは、東北に関わりはじめた。

「被災した地域は、もともと震災前から厳しかった所ばかりでした。過疎が進み、漁業も農業も儲からない。そんな、下り坂にあった以前の状態に戻したって意味がない。これをチャンスと捉えて、出て行った人が戻りたくなるような、素敵な東北をつくるんです」


特定非営利活動法人いわて連携復興センター代表理事 鹿野順一さん(提供:東北復興新聞)

同じような趣旨のことを、「あしたラボ」に何度か登場していただいている会津若松のITベンチャー社長、山寺純さんからも聞いたことがある(「FUKUSHIMA発、ヘルス2.0への飽くなき挑戦」)。山寺さんは、割れた部分の継ぎ目に接着剤として使う漆を金や銀などの粉で埋め、元の器以上の美しさを醸し出す「金継ぎ」という陶器の修復法を引き合いに出し、「福島を拠点に金継ぎの作業をしたい」と言う。割れた茶碗を元に出すのではなく、以前よりもっと高い価値を生み出したい、福島はそのための壮大なる実験場だ、と。

鹿野さんは自身の和菓子店を津波で流されながらも、震災以前から活動していたNPO法人を拠点に地域の事業者サポートに奔走し、市と連携し仮説住宅の見守り連絡員として女性や若者の雇用を生み出す事業などを手がけた。震災復興という特別な状況だからこそ、支援を申し出た名だたる大企業と地方の一和菓子屋がプロジェクトで恊働できることに興奮した、という。


震災をきっかけに、復興支援を絡めた様々な協働が各地で実践されている(提供:東北復興新聞)

著者らはこうした話を復興現場で多く聞いた。今まで出会う機会のなかった人たち同士の恊働が継続されれば、課題解決が新たな価値の共創につながるかもしれない。そんな息吹が東北の各地にあることを本書は熱く伝えている。

ネットショップや食品宅配の大手企業と連携して海産物のブランディングに挑み、流通を視野に入れた新たな漁業のあり方を模索する若き漁師。ICTを活用した生産設備で農業生産法人とNPO法人を立ち上げ、プロボノとの共創によるマーケティングで一粒1,000円のブランドいちごを開発し海外にも展開する起業家。現場起点で教育の復興と改革に奔走する行政マン。行政、企業、NPOなどセクターを超えた連携を促すコーディネイター。語り部団体を立ち上げ、1年間で3,000人に自らの被災体験と想いを伝えた高校生。以前、あしたのコミュニティーラボでも取り上げたことのある「親孝行モデル」の実践を通して、社会性と事業性が両立するイノベーションを目指す「社内社会起業家」……等々。

それぞれの立場で東北から日本の未来を見据える15人の眼差しは力強い。


石巻市の水産業の立て直しも目指し、5家族で漁業生産組合法人「浜人」を立ち上げた阿部勝太さん
(撮影:平井慶祐)

フロントランナーと並走するためのヒント


ICT×プロボノとの連携によりいちごをブランド化した農業生産法人、株式会社GRA代表の岩佐大輝さん
本書には、共創を目指す人へのヒントが多く詰まっている(提供:東北復興新聞)

しかし、ふるさとそのものを奪われ、元の暮らしを取り戻すことすらかなわない人たちがいることも、忘れるわけにはいかない。町の全域が原発事故の避難指示区域に指定され、避難対象の11市町村のなかでも最大の2万人が今なお避難生活を強いられている福島県浪江町。都市部に避難している小中学生を対象に浪江町が実施したアンケートの回答が本書で紹介されている。

「大人になったとき、浪江町はどんな町になってほしいですか」──この問いに対して、972件の回答中322件が「震災前の浪江町に戻ってほしい」だった。「じしんまえとおなじなみえまちにしてほしい」「元どおりの町になってほしい」「みんなが安心してくらせる前と同じ浪江町」……ふるさとを取り戻したい子どもたちの率直な想いは、大人たちの胸を打つ。


アンケートの一部(提供:農林中金総合研究所)

帰還のめどが立たないなか、「除染が進み環境が整ったら帰りたい」人がいる一方で「帰るのは難しく復興にかけるお金も無駄」という人もいる。多くの心は揺れ動き、行く末を決められない。役場と住民の間にも分断が生まれた。

だが「子どもたちの未来のために何ができるか」と考えたとき、町は根本的なところで目線を共有できた、と本書は伝えている。町民を中心とした100名以上の委員による半年間の議論を経て、2012年10月に復興計画が策定された。基本方針の1つとして掲げられたのは「どこに住んでいても浪江町民」。

2013年8月の最新の住民意向調査では、20%近い人が「戻りたい」と意思表示している一方で、「戻らない」「まだわからない」人がそれぞれ約40%。

役場と町民の努力だけではどうしようもない厳しい現実。この数字を見ると浪江町の復興の難しさを痛感するが「それは表層に見える一面でしかない。浪江の人々の心のなかには、きっとふるさとがある」と本書はこの章を結ぶ。

こうして、ひとくちに復興といっても、地域によってさまざまな実相があり、そこに住む人たちの想いも多岐にわたることがうかがい知れる。

だが、まさにその多様性こそが、「課題先進国」といわれる日本の現実の縮図である。各地でそれぞれの課題解決に挑戦している人たちは、未来の社会を切り拓こうとしているフロントランナーにほかならないこともわかるのだ。

だから東北の復興は、誰にとっても他人事ではない。本書は冒頭のQ&Aページで復興の成果と課題を整理し、巻末で応援したい注目のプロジェクト一覧と「復興びと」50人が推薦する東北の「食・買・観」を紹介している。フロントランナーと並走し、新たな価値の共創を目指すことは誰にだって可能。アクションにつながるヒントが見つかる「東北復興ガイドブック」だ。

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