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「ホンマ」が生み出すこれからのビジネス ~アドボカシー・マーケティングの発想~

2012年07月02日



「ホンマ」が生み出すこれからのビジネス ~アドボカシー・マーケティングの発想~ | あしたのコミュニティーラボ
先の富士通フォーラムでも話題にのぼった、「ホンマ(本音・本気のマーケティング)」。お客さまのニーズに応えるためなら他社製品でも勧めるというこの発想は、「アドボカシー・マーケティング」と言い換えることができます。この理論の提唱者グレン・アーバン教授のもとで研究者生活を送り、企業の事業開発室長として活躍する山岡隆志さんに、これからのビジネスでキーワードになる新しいマーケティングの概念について伺いました。

ソーシャルメディア時代の「損して得とれ」マーケティング

── アドボカシー・マーケティングとは何でしょうか。また、なぜ今それが注目を集めているのですか。

山岡 かつては顧客より企業のほうが商品情報のコントロールに関して優位に立っていました。だから、お客さまのニーズに対し正直なところ自社の製品Aよりも他社の製品Bのほうがふさわしいと思っていても、何とか取り繕って自社製品を売り込むことができたのです。ところが、インターネットが定着しソーシャルメディアなどでユーザー同士が交流する時代になると、やはり私のニーズに合っているのは製品Bではないか、とお客さまのほうが気づいてしまいます。

それほどカスタマーパワーが高まっている時代に最も効果的なマーケティングがアドボカシー・マーケティングなのです。「アドボカシー」とは英語で「擁護」「支援」「弁護」の意味です。徹底的にお客さまの立場に立って考え、お客さまの利益を最大化する。そうやって一度強固な信頼を勝ち取れば、その後は何を提案しても自然に売れる仕組みができあがっていく。最初に信頼を構築するうえでは、他社製品を推奨するなど短期的には自社の不利益になることもして、長期的には大きな利益を取っていく。いうなれば「損して得とれ」ですね。

── これまでもよくいわれてきた「顧客志向」とはどう違うのでしょうか。

山岡 顧客志向が究極に高まったものです。見込み客→購買客→得意客→支持者→擁護者(アドボケイト)という順番に「ロイヤリティのはしご」を昇っていくとすると、販促や広告を実質的に代行してくれる最高レベルの「擁護者」を形成するのがアドボカシー・マーケティングです。その中核概念は「最高の品質」「顧客利益の最大化」「相互支援」「透明性」「誠実性」の五つ。最初はお客さまの利益のために他社製品を勧めると、市場のリアルデータが蓄積できるので、それをもとに最高の品質の製品をつくれば、次からあらゆるニーズに対して自社製品を推奨できます。そうやって企業が顧客を支援すれば、顧客も企業を支援するし、顧客同士もコミュニティを形成し支援しあう好循環が生まれます。そのためには誠実な姿勢と、ネガティブ情報でも開示する透明性が必要というわけです。

── アドボカシー・マーケティングの端的な成功事例を挙げていただけますか。

山岡 航空機エンジンで大きなシェアを持つGE(ゼネラル・エレクトリック)は、9.11後に経営難に陥った全世界の航空会社に対し、自社で導入しているシックスマグマなどの経営手法を動員して業務改善するコンサルテーションを無償提供しました。顧客がキャッシュを稼げなくなったら自分たちは存在しない。そういう長期的な視点で顧客の企業体質を無料で改善したのです。企業も人ですから、危機的な状況で取引先が身を投げ出して助けてくれれば、その相手とは感情的に強固な絆が結ばれます。その結果、大きな受注に結びついたといわれています。

顧客コミュニティが活性化するケースでは、マイクロソフトのMVP(Most Valuable Professional)があります。個別のソフト別トピックで最もコミュニティに貢献した人をマイクロソフトが正式に表彰する。本来、企業の社員がやるべきことを、へたをしたら本職より詳しい顧客が互いに文字どおり伝道するわけです。MVPをアピールすると就職にも有利ということで熱烈なファンを醸成する場となっています。

売上は二の次。満足と信頼を得る活動に専念する

── 全社的に導入する際の一番の課題は何でしょうか。

山岡 ずばりトップマネジメントの理解ですね。社長が号令をかければ一気呵成に進みます。そうでないと推進力が弱いので中途半端に終わるケースが多いです。最初は赤字で構わない、売上は二の次でいいから満足と信頼を得る活動に専念しなさい。それぐらい大胆にメッセージを出さないと、現場が顧客利益を第一に優先することはできません。

── では、ボトムアップで上層部を説得しなければならないとしたら……。

山岡 ライバルに先を越されたら勝ち目はありません。アドボカシー戦略を取る企業は、徹底的に顧客のニーズをくむわけで、他社製品まで勧めるわけですから市場全体のデータが自社にたまることになります。アンケート調査ではない、市場全体の実データを握った企業が市場をとることになるでしょう。市場をとる企業になるか二番手三番手に甘んじるか、経営層に問うてみてはいかがでしょうか。ターゲットを絞り市場調査でニーズを発掘し価値を創造する、という旧来のマーケティングを続けていると足元をすくわれます。今や価値を創造するのは企業ではなく顧客です。顧客の自主的な価値創造プロセスに企業はむしろ参加させてもらう。

顧客コミュニティ形成の側面ではソーシャルメディアとの親和性が高いですから、上層部の説得にはソーシャルメディア体験を勧めたらどうでしょう。そこで何が語られているか、どれだけ影響力があるのか実感することで、カスタマーパワー肥大化の現場を知り、その力を正しく見積もれるからです。

アドボカシー・マーケティングの実践は日本の原点回帰

── お客さまと感情的な絆を結ぶことがカギのようですね。

山岡 表面的なデータではなく顧客の内面を探り当て誠実につきあう。これは日本人が得意とするところだと思います。たとえば、昔の近江商人がモットーとした、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」。自分たちだけが得をしてはダメで、みんなが得をしなければならない。そのためには「ホンマ(本音・本気のマーケティング)」が大切。これはアドボカシー・マーケティングの発想にほかなりません。

商店街の八百屋さんは、地域に根づいていて、近所に友だちも多いです。みんな顔見知りなので、「このリンゴはちょっと古いんだ、明日新しいのが入るよ」みたいな不利益なことでも平気で言うじゃないですか。「ホンマ」のことを言うから信頼を得て売れてきた。確かにスーパーで買ったほうが安くて便利かもしれません。でも、安くて大量に買えればいい、という消費者はだんだん少なくなっています。原点に帰れば信頼を勝ち取って商店街は生き残れる。アドボカシー・マーケティングはあらゆる経営手法の例にもれずアメリカ発ですが、実のところ日本人と日本企業の原点回帰でもあると思うのです。

→富士通フォーラム2012セミナーレポートはこちら

山岡隆志 プロフィール

株式会社エイチ・アイ・エス 事業開発室長 大阪大学工学部卒、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。全社的な事業開発とマーケティング戦略、デジタルマーケティングを推進する。北陸先端科学技術大学院大学マーケティング非常勤講師。著書に『顧客の信頼をかちとる18の法則-アドボカシー・マーケティング-』(単著)日本経済新聞出版社(2009年)。訳書に『アドボカシー・マーケティング』(単訳)英治出版、論文に『カスタマー・アドボカシーの中核概念』「季刊マーケティングジャーナルNo.118」や「Think!」東洋経済新報社など多数。

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