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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

提供:NPO法人 東北開墾

東日本大震災後、畑一面に見渡すかぎり咲いたブロッコリーの花。その光景のなか、立ち尽くしながら、心にある誓いを立てた生産者がいる。『東北食べる通信』のプロジェクトに参加する生産者の1人、白石長利さんにお話を伺った。

「口じゃなく、身体を動かせ 」。名刺を漁船に変えて見えてきたビジョン――『東北食べる通信』が目指す日本版CSA(2)

生活者が食のつくり手に「恋」する関係へ ――『東北食べる通信』が目指す日本版CSA(1)

年3回の野菜配達と東京駅からの往復バス切符

福島県いわき市小川町。農薬と化学肥料を使わない自然農法で野菜をつくるファーム白石の白石長利さんは、『東北食べる通信』の読者会員10人ほどによるCSAの取り組みがスタートしたばかりの生産者の1人だ。


東北食べる通信のプロジェクトに参加している、白石長利さん

記事に取り上げられたことで、取材が増えたり、読者のつてを通じて販路が広がるなどの好影響があったが、なによりの変化は「お客さんとの距離がぐんと縮まったこと」と話す。ファーム白石のCSA会員は何回もいわきに来て、もはや収穫体験も重ねた顔見知りだ。

「年額12,000円と28,000円の2コースで、それぞれ年3回、年6回の野菜配達と、前者は東京駅からの片道バス、後者は往復バスの切符が付きます。どうしてもいらっしゃれない方には野菜でお返ししますが、やはり現場に来ていただきたいので。こういう試みが可能であることのモデルになれればいいなと思っています。いつ来ても何らかの作業や収穫が体験できるように、僕1人じゃなく、どんどん仲間を増やしていきたい。個人のCSAではなく、僕のまわりの人たちが関わっているおいしいものも食べられます、体験できますという、いわきの自然の恵み全体のCSAにしたいんです」

白石さんは震災前から、いわき市の農業振興課とタッグを組んで、家族向けの市民農園事業などに畑を提供していた。そうしたつながりは震災後も継続し、行政と生産者がチームで連携した「いわき農産物見える化プロジェクト」に取り組んでいる。

農作物の安全確認モニタリング検査、農地の放射性物質測定、空間線量調査など、安全・安心面での情報公開はもちろん、単なる風評被害対策を超えて、収穫体験の様子や農家の取り組み、想いなどをウェブサイトやSNSで発信し、いわきの農産物の価値を高めようとするプロジェクトだ。

農業の6次産業化を目指すカフェがオープン


4月にオープンしたVege Cafe。生産者の白石さんも店頭で接客をしている

白石さんの畑では、多くのボランティアが収穫作業を手伝う。農作業後のバーベキューパーティーなどで親しくなり、仲間に声をかけ収穫バスツアーの企画を立て、いわきを再訪する。そんな繰り返しを通じて、新しい販路もできたし、震災後にはかえって、被災地の農産物を応援する動きが活発になった。


提供:ファーム白石

「餅は餅屋。僕のまわりに凄い人がたくさんいる」と白石さんが何度も言うように、震災をきっかけに、危機意識をバネにして地域の結束もさらに強くなった。とりわけ、農業の6次産業化に新しい「共創力」が発揮されている。

4月26日にオープンしたJRいわき駅ビル内「Vege Cafe(ベジカフェ)」もその一例。株式会社いわき福島復興オフィスの池端達朗さんらが、農産物の生産から加工、販売まで一貫してプロデュースするカフェだ。メニューは市内の「Hagiフランス料理店」のオーナーシェフ、萩春朋さんが監修した。


白石さんと萩春朋シェフ(提供:ファーム白石)

ファーム白石のブロッコリーと磐城農業高校の生徒がつくる乳酸菌飲料「カルピー」をミキサーにかけたスムージーは、ほどよい甘味とさっぱりした酸味がシャーベット状のブロッコリーの風味と絶妙に調和している。ブロッコリーの小さな脇芽が原料だ。

白石さんによれば、ブロッコリーは冷凍すると細胞が壊れてうま味成分が増すという。開店5日前までレシピの改良を重ねた。これまでも「焼きネギドレッシング」「にんじんドレッシング」など、農家の白石さんとシェフの萩さんのコラボは人気商品を生んできたが、また1つ傑作ができた。


ブロッコリーを使用した「Hyaccoi(ひゃっこい)」(提供:ファーム白石)

「震災時にブロッコリーとキャベツを15,000本、畑に植えてありました。原発事故で、目の前にある野菜が食べものでなくなった。収穫しないと畑一面に満開の花が咲きます。その光景を見て、悔しいよりも、出荷できず申し訳ない気持ちのほうが強かった。そのとき、自分の畑でできるものは脇芽も残さず、お客さんの口に入るまで自分で見届け、商品化したい、と思ったんです」


震災後、白石さんの畑一面にブロッコリーの花が咲いた

地産の豆腐の豆乳スムージーもメニューに。「“Hyaccoi(ひゃっこい)”」というネーミングで、いわき産のさまざまな食材を使い、女性や子供に親しみやすい「ご当地スムージーとして売り出したい」とVege Cafeのスタッフは意気込む。

震災で店舗を失くした飲食店のための復興屋台村にシャッター飲食店街を再生させた「夜明け市場」を運営・管理する松本丈さんも意気投合した1人。「ご近所だし、店の人手が足りなくて呼ばれれば、手伝うよと。歳も近い仲間たちと楽しくやりながら、いわきを盛り上げていきたいですね」。

仏大統領官邸のシェフにも好評、焼きネギドレッシング

ヒバリやキジの鳴き声が聞こえる白石さんの畑に案内してもらった。ネギの植え付けがちょうど終わったところ。主に焼きネギドレッシングの原材料として今年は4万本、作付けした。

この畑は、もとをたどれば鶏卵農家のニワトリの糞捨て場だったという。土地が肥えていたところに、そばを流れる夏井川がしばしば氾濫し、自然の浄化作用も働いた。昔はそういう土地だった。もともと土壌が良いからこそ、農薬と化学肥料を使わない自然農法ができる。

白石さんが、スムージーの原料となる脇芽、通称「チビッコリー」を畑からもいでくれた。かじってみると、甘さが口いっぱいに広がる。この甘味が、やがては渋みに変わるアクなのだそうだ。アクもおいしさの1つと実感できる。


「Hyaccoi(ひゃっこい)」の原料となる「チビッコリー」

肉によく合う焼きネギドレッシングは震災2年後からつくり出して今まで3,000本販売した。直売イベントやFacebookを通じて、じわじわと人気に。昨年の秋には萩シェフがフランス大統領官邸エリゼ宮の厨房に招かれ、焼きネギドレッシングを持参した。フランス人シェフにも好評だったという。

第2のふるさとを探しに行くパスポートを提供したい

「畑を見ていると宝の山に思える」と白石さん。農業には可能性が眠っている。それを掘り起こしたい。「僕なんかよりもっとゲキアツ(激熱)農家がいます。」いわきだけでなく、全国各地に若い“ゲキアツ農家”がいるに違いない。

〈まちびと〉と〈さとびと〉の絆は震災を機に東北で結び合わされた。平時にもそれを実現しようと『東北食べる通信』は全国に広がろうとしている。5月から四国版がスタート、8月には北海道版もはじまる予定で、さらに北陸や九州でもやりたい、という人が出てきた。“ゲキアツ農家”と都市を結ぶハブの役割を果たせるだろう。

「全国に『食べる通信』旋風を起こして、都市と地方をかき混ぜたい。お金を使って楽しみを買うのが都市の暮らしなら、時間を使って楽しみをつくるのが地方の暮らし。どちらが良い悪いじゃなくて、どちらも必要です。いのちが喜ばなくなった都市の人に、第2のふるさとを見つけるパスポートを提供したい。ひいきにしている地域が全国各地の農山漁村にある。都市の人の多くがそんな状況になれば、ものすごく楽しくてしなやかな国になっていくと思うのです」

『東北食べる通信』発行人の高橋博之さんは、そう力を込めた。


提供:NPO法人 東北開墾

生活者が食のつくり手に「恋」する関係へ ――『東北食べる通信』が目指す日本版CSA(1)
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