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本質を見据え、社会に貢献する企業活動を

2012年05月02日



本質を見据え、社会に貢献する企業活動を | あしたのコミュニティーラボ
世界的に環境志向が高まるなか、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)やプロモーションなど社会や個人へ働きかける企業活動が見直されています。社会・個人・企業のそれぞれにメリットがある活動には、どのような視点が必要なのでしょうか。株式会社スペースポートの取締役社長で一般社団法人Think the Earthの理事、プロデューサーも務める上田壮一氏にお話を伺いました。

自然への取り組みを日本企業の特質に

── 上田さんがプロデューサーを務める一般社団法人Think the Earthは、企業とNPOを結び、自然再生活動を実施するなど、積極的に環境問題に取り組んでいます。企業が社会や個人に貢献するには、どのような活動が有効だと思われますか。

上田 イメージ戦略として行うのではなく、本業を中心に据えて、着実に環境改善につながる有効なアクションを取ることです。Think the Earthでは、持続可能な社会を実現するため、ビジネスを通じて貢献する仕組みを考えたいと思っています。たとえば「ふゆみずたんぼ」という農法があります。稲を育てていない11~4月の間、普通は抜いている水を田んぼに貯めておくと、水のなかで生きものたちの循環が生まれます。ミミズが栄養豊富な土をつくり、多様な生物が暮らすことで、特定の病気や虫がはびこりにくくなるため、農薬や肥料を使わずにおいしいお米を収穫することができます。東日本大震災で津波をかぶり、塩害に侵された田んぼを復元するためにも有効で、宮城県ではNPO法人田んぼがふゆみずたんぼの手法で復興活動を行っています。宮城県大崎市の蕪栗沼では、農家が協力してふゆみずたんぼを増やし、いわば湿地をつくることで、たくさんのマガンやハクチョウが渡ってきて越冬するようになりました。当地の一ノ蔵という酒蔵は、「ふゆみずたんぼ米」を使ったお酒を使ってこの農法を応援しています。このように、生物多様性の回復や、水環境の再生にもつながり、かつ商品力の高いお米をつくる農業を応援することは、環境保全と地域の経済システムが共存する仕組みづくりにつながると思います。

宮城県大崎市のふゆみずたんぼ。越冬のためにやってきたマガンやハクチョウたちがここで過ごす
(撮影:上田壮一)

企業が消費者やNPOとともに環境保全に力を入れれば、たとえ行政が動かなくても自然を守れます。もし明確な目的意識を持たずにCSRをしているなら、有効な手段を見極めて、もっと効率的にその機会を活用してほしいと思います。ただ、企業の直接利益を生まないCSRでは予算もかけられず、なおざりになってしまうケースが少なくないため、内容を工夫しなくてはなりません。

── たとえば、どのようなやり方が考えられますか?

上田 環境性能が高い商品のプロモーションを社会貢献活動とうまく絡めて、企業・個人・社会それぞれにメリットを生み出そうとしている例があります。トヨタのコンパクトなハイブリッドカー「アクア」が、面白いプロモーションを実施しています。本来なら販促費として使う費用を充て、車名にちなんで水辺の環境再生に関するフェスを地域のNPOらと協力して全国47都道府県、50か所で開催するという企画です。私も提案から参加しており、今は主に鶴見川流域、北上川流域の自然再生を促すプログラムを行っています。車を購入していない人でも自由に参加できるため、活動が広がりやすいのも特徴です。アクアは環境性能も世界一の車だったので、プロモーション費でこのようなフェスを開くことで社会にも貢献し、結果として宣伝にもなる。会場で機材を運ぶ車として働くアクアを見て、多くの参加者が写真を撮っていました。その画像がSNSにアップされ、個人の感想とともに広がっていくのです。上手にコミュニケーションの設計をすれば、CMなどの広告を必要以上に打たなくても、ソーシャルメディアを活用することで立派に宣伝が成立する可能性を感じさせます。

4月に行われた鶴見川源流の森での「AQUA SOCIAL FES!!」にて。ホタルが舞う水辺再生のための作業を行った(写真提供:AQUA Social Fes!!事務局)

── それは「三方よし」の考え方にもつながる好例ですね。

上田 はい。環境保護や自然再生につながり、経済メリットも生む独自の企業活動が多く生まれれば、世界の中で日本の立ち位置が変わるかもしれません。日本は山が多く、海に囲まれ、台風や地震などの自然災害も多い国ですが、もともと自然をうまくいなして生きてきました。河川の流域や里山で暮らしてきた知恵をテクノロジーと組み合わせれば、できることが増えるはずです。まずは日本の生活文化や自然に対する考え方を見直し、世界とつながる手段としてICTを取り入れること。日本に内在する優れた自然とのかかわり方を海外にも提案できれば、最高だと思います。

自然への取り組みを日本企業の特質に

── アクアの事例では、ソーシャルメディアが宣伝の大きな役割を果たしていたようです。情報発信の方法としてソーシャルメディアが定着したのは、どのような経緯だったといえるのでしょうか。

上田 国内でソーシャルメディアが注目を浴びたのは、やはり昨年の東日本大震災です。震災を契機に、日本人には「他人事」ではなく「自分事」という当事者意識が芽生えました。たとえば東京は、新潟や福島の原子力発電所から給電されていたり、地方からさまざまな食物の供給を受けたりしています。地震の被害はさほど大きくなかったにもかかわらず、震災直後は電力供給が不安定になり、流通が止まって都内のコンビニやスーパーでも物が不足しました。これまで当たり前だった便利な環境が、とてももろいことを自覚したと思います。各地で農家の人口が減っているというニュースを見ても、これまではおそらく「他人事」でしたが、今は自分に直結する問題だと感じる人が増えたでしょう。

── 確かに阪神大震災などに比べ、東京にも大きく影響がありました。

上田 東京が直接揺れたことが最も大きいと思います。身体の記憶はなかなか薄れることがありませんから。それに加えて、当事者意識を強めたのはTwitterなどのSNSだと思います。SNSは発信者の情報を受け取ることしかできないマスメディアと違い、誰もが簡単に自分の意見や態度を表明できる、能動的なメディアだといえるでしょう。個人が「自分事」として捉えた感想や意見が、オープンに流れてくるのです。マスメディアでは被害の大きさや涙にくれる被災者などがクローズアップされがちですが、TwitterやFacebookはその場にいないとわからない個人の感覚を多くの他者に共有します。

ICTを手段に個人や社会を巻き込む

── ソーシャルメディアは、企業と個人のコミュニケーションにどのような変化をもたらしたとお考えですか?

上田 今まで企業は、広告などのマスメディアを迂回して消費者に情報を届けていました。しかし最近では、<自社が運営するWebサイト×個人のブログやSNS>で、直に意見の交換や交流ができるようになっています。ソーシャルメディアの誕生でコミュニケーションが双方向になり、互いに瞬時にリアクションできる同時性を持ったのです。たとえばSNSやUSTREAMなどを通じて、記者会見などもリアルタイムで情報や意見をやりとりできるようになりました。情報の受発信の仕組みが変わったことを踏まえ、アクアのような個人や社会を巻き込む企業活動を検討できるようになったのです。

── そのような新たなビジネスモデルを考える際、気をつけるべきことは何ですか。

上田 いうまでもないことですが、テクノロジーありきではなく、本当に必要なサービスを考えるのが先ということです。ICT(注釈:ICT(Information and Communication Technology) インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジーの略称で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれる。従来の「IT」に比べてネットワークによる双方向コミュニケーションのニュアンスを付加させているのが特徴で、海外ではITに代わる呼称としてすでに一般に定着、国内でも今後の移行が予想される。は便利ですが、頼りすぎてしまうと現場に合わないサービスやシステムをつくってしまう危険性もはらんでいます。たとえば新製品の開発であれば、仕様書さえあればモノはつくれてしまいます。だけど、企画と製作現場で目的意識を念入りにすり合わせたり、実際に使ってみて調整したりしないことには、優れた製品は完成しません。

── 製作側だけでも問題が生まれるのですから、ユーザーとはもっと慎重なやりとりが必要ですね。

上田 現場の感覚やユーザーのリアクションを知るためにも、ソーシャルメディアは非常に有効だといえます。アプリのレビュー欄などもそのひとつ。顧客の要望に素早く対応していけば、ユーザーに、一緒につくっている感覚を生み出すことができ、ファンを増やせる可能性も高いでしょう。小さな企業は即時性で勝負ができるようになります。

また、ICT(注釈:ICT(Information and Communication Technology) インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジーの略称で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれる。従来の「IT」に比べてネットワークによる双方向コミュニケーションのニュアンスを付加させているのが特徴で、海外ではITに代わる呼称としてすでに一般に定着、国内でも今後の移行が予想される。のおかげで削減できるコストは多いですが、人間的な部分をそぎ落としてしまっているケースも多いと感じます。「What – 何をつくるのか」「How – どのようにつくるのか」はテクノロジーで伝達できますが、「Why – なぜつくるのか」という覚悟や目的は生身の人間同士の本気のやり取りが重要です。これからは企業が消費者やNPOとも協力して新しい価値をともにつくる時代です。あらためてICT(注釈:ICT(Information and Communication Technology) インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジーの略称で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれる。従来の「IT」に比べてネットワークによる双方向コミュニケーションのニュアンスを付加させているのが特徴で、海外ではITに代わる呼称としてすでに一般に定着、国内でも今後の移行が予想される。を道具の一つだと捉え直して、企業活動を検討してみてはどうでしょうか。

上田 壮一 プロフィール

一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー。
2000年にソーシャル・クリエイティブの拠点として株式会社スペースポート設立。01年よりThink the Earthをスタート。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するための仕掛けづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-2、携帯アプリ「live earth」、書籍『1秒の世界』、大型映像「いきものがたり」など。

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