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各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

「イノベーション」、この単語を聞くと、今までのやり方を一気に変える方法やアイデアを想像するのが一般的。しかし、最先端科学の面白さを子どもに伝える「出前授業」をはじめとして、研究と教育の「知識プラットフォーム」を構築しようと社員50名程度で200以上の事業を展開している気鋭のベンチャー企業 リバネスにおいては違うといいます。今回は代表取締役CEO・農学博士である丸幸弘さんに、イノベーションを起こし、サイクルを回しつづける秘訣について聞きました。

パッション中心に生きる覚悟はあるか? ──リバネス丸幸弘さんインタビュー後編

奇抜なアイデア=イノベーションではない

──丸さんは著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』の中で、「イノベーション」という言葉に対するおかしな考え方が流布している、と指摘されていますね。

 イノベーションとは「革新的な何かを生み出すこと自体」ではない、と僕は思います。自分だけが考えていたことを、みんなが当たり前のようにやりはじめたら、ほんの少しだけど世界が変わった。これがイノベーションです。

株式会社リバネス代表取締役CEO・農学博士 丸 幸弘さん

──つまり、結果として起きているのがイノベーションだと。

 そう、だから、イノベーションをみんなで起こそう、なんて掛け声を上げるのは、かなり変なことなんですよ。「ソーシャルイノベーション」というのも妙な言葉で、そもそもイノベーションとは、「みんなの当たり前になって、それによって世界が変わる」ことなのだから、社会全体を巻き込んでいるソーシャルなことじゃないですか。重要なのは課題を設定し、理念を確立することです。自社は何のために存在するのか。それを経営者はいちばん大きな声で言わなければなりません。日本の名だたる企業は、ビジネスを通じて社会課題を解決してきたから大企業に成長したと考えています。お金は、その結果としてついてくるものなのです。そこを理解できれば、あらゆる会社がイノベーションを起こす可能性を持っています。

──それを表しているのがリバネスなんですね。

 リバネスは2002年、僕が修士課程2年の頃にスタートさせました。今もですが、僕は研究者ってとても幸せな職業だと思っています。シンプルに言うと、自分の好きなことを研究していれば、それが人類の役に立つ技術につながる可能性がある。知的好奇心の赴くままに物事を探究できる世界でいちばんすばらしく、カッコいい職業です。

──研究をやりながらも、リバネスをつくったのはなぜですか?

 それには3つ理由があります。1つ目が高学歴ワーキングプアなどと呼ばれて、博士号まで取った人が働けていない現状。税金を使って研究したのに、社会に恩返しできない。いわゆる「ポスドク(ポストドクター)問題」です。少なくとも僕の周りの人たちが困っていて、それが自分にもやってくるかもしれない問題として見えました。

そして2つ目が、メディアで取り沙汰されている「理科離れ」。当然です。ドクターの就職先がないなら親は子供を理系に行かせますか? 社会状況によって子どもが理科と距離を置くようなしくみになってしまっていた。そして、最後が研究や基礎となる理科から人が離れていってしまうと、イノベーションの原点となる技術革新が日本で生まれなくなること。ポスドク問題、理科離れ、技術革新の危機。これら3つの課題はつながっていると思い、解決できる方法を探していました。

子供も研究者も育む、最先端科学の「出前授業」

──その3つの課題を解決できる方法が「出前授業」なんですね。

 研究者だから実験の方法はわかるし、塾の講師もお手のもの。ならば、「毎日している研究を子供たちに教えて科学の面白さを伝えたらどう?!」 と、当時の仲間たちで盛り上がったのがきっかけです。

試しに1人500円で小学生対象にDNA抽出実験教室を開いてみたら、ものすごく喜んでくれて、大成功でした。でも、終わった後に1人500円じゃビジネスにならないと気づきました。さらに、自分たちのオフィスに生徒を集めるのもコストがかかる。だったらもっと収益性をあげるために外部で出前授業を行おうと考えたんです。そこで、仲間の母校の私立学校へ行って「現役の東大、東工大の大学院生が出前授業をします」と営業をしました。これが多くの学校から支持されて、リバネスの基礎になりました。

──当時、出前授業のような試みはほかになかったのですか。

 ありません。ファーストランナーです。今まで外部の民間企業が入って、何かやることが一切なかった「学校」という聖域に僕らが風穴を開けた。学校からお金を貰うビジネスモデルだけではなく、企業の人材育成にもこのプログラムを取り入れました。子供たちの前で自分の研究をプレゼンするのです。この12年で出前授業を受けた子供たちの数は8万人以上にのぼり、年間300回以上、全国の学校で実施しています。

子供たちは最先端の科学の面白さを知って興味が芽生え、大学院生と研究者はコミュニケーションやプレゼンの能力を高められる。リバネスでトレーニングを受けて出前授業を経験した院生はコミュニケーションやマネジメントのスキルに長けるので、企業が採用してくれます。理科離れとポスドク問題が一気に解決しはじめました。

実験教室の様子(提供:株式会社リバネス)

──子供たちに自分の研究をわかりやすく伝えるのは、とてもいい訓練になるでしょうね。

 コミュニケーションとしては上級スキルです。子供は正直なので、わからない、つまらないとなったらすぐにそっぽを向いてしまいます。プレゼンテーションの方法や、説明内容を工夫に工夫を重ねることでやっとサイエンスの面白さが小学生に伝わり、最後に「僕は大きくなったら○○社でこういう研究がしてみたいです」なんて感想を書かれたら、嬉し泣きしちゃいますよね。そうすると、さらにやり方に磨きがかかります。

また、企業にとっては、今の子供たちが何を考え、どんなことに興味を持っているのかわかるので、未来を探るマーケティング的な効果もあります。

──出前授業は次世代育成と即戦力養成が同時にできる場なのですね。それが、ゆくゆくは技術革新の危機を克服することにもつながる、と。

 出前授業以外にも新製品開発や、起業家の支援事業などを通じて数多くの研究機関とおつきあいがあるので、極めてユニークな研究者のアイデアと企業の新規事業担当者をつなげる「Tech Planter」というしくみを立ち上げました。出前授業を「当たり前」にしたことをきっかけに、リバネスは研究と教育の領域で日本最大の「知識プラットフォーム」を構築したと自負しています。

300を超える取引先企業や自治体がこのプラットフォームを活用して、少しずつ「当たり前」を増やし世界を変えていく。それが結果としてのイノベーションだと考えています。

ポスドク問題、理科離れ、技術革新の危機、自分たちが置かれている環境を改善することで、それが結果的に当たり前、世の中をより良くするイノベーションにつながったという丸さん。イノベーションの種は身近なところに存在する、それをいかに掘り出していくか、後編はイノベーションのつくり方に焦点をあてます。

パッション中心に生きる覚悟はあるか? ──リバネス丸幸弘さんインタビュー後編続きを読む

関連リンク
株式会社リバネス
Tech Planter

丸 幸弘  まる・ゆきひろ

株式会社リバネス 代表取締役CEO・農学博士


大学院生や企業の研究者が子どもたちに自分の研究を紹介し、最先端のサイエンスの面白さを伝える「出前授業」のパイオニアであり、研究と教育の「知識プラットフォーム」を構築しているベンチャー企業、株式会社リバネスを設立。「科学発展と地球貢献を実現する」というビジョンのもと、さまざまな事業を手がけている。


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