“社内起業家”を潰さないためのしくみづくり ──石倉洋子さんインタビュー後編
“過去の延長では成長できない時代”を前提に
──「日本企業にはイノベーションが必要だ」と言われ続けていて、あしたのコミュニティーラボでもその種や事象を多く取り上げてきました。しかし、そもそも、「イノベーション」という言葉で何を言い表そうとしているのか、「なぜイノベーションが求められているのか」、今回はそこからお伺いしたいと思います。
石倉 イノベーションを「技術革新」と訳してしまうと、<研究開発費を増やす>とか<補助金を出す>といった話になりがちですが、私は新しい「もの」「こと」すべてがイノベーションだと思っています。みなさん大げさに考えすぎるのですね。ICTの進歩で競争がグローバルになって、今日と明日で同じ仕事をしていたら成長は望めない時代になりました。
かつては新しい「もの」「こと」を市場に出せば、しばらくそれで企業は優雅に暮らせていけましたが、今はすぐにまねされてしまうので、次から次へと新しい「もの」「こと」を数多く生み出さなければなりません。それも過去の延長線でない「もの」「こと」を。
一橋大学名誉教授 石倉洋子さん
──大きな成功体験があったりするとなおさらですが、過去の延長線を断ち切るのはなかなか容易ではありません。
石倉 特に自前主義で同じ人が長くいる、多くの日本企業では難しいと思います。けれどそれでは新しい「もの」「こと」は基本的に生まれないんです。だから外の人や違う人を入れる、というのですが、最近ちょっとそれは時代遅れかもしれない、と感じています。
たとえば、幹部の女性比率や社員の外国人比率を上げたからといって、それだけで新しい「もの」「こと」が生まれるわけではありません。外の人や違う人をうまく「活用」したほうがいい。組織に抱え込むのではなく、外にいるプロフェッショナルのスキルや知恵を案件ごとに活用し、次から次へと新しい人たちと新しい「もの」「こと」を生み出す。いうなれば「人材のクラウドソーシング」化です。世界のグローバル企業ではその傾向が強くなりつつあります。
事例調査は、“新しくないこと探し”
──外の人をうまく活用するには、社内での仕事の進め方や外の人との関わり方を根本的に見直さなければなりませんね。
石倉 聞いた話ですが、初めて外部にデザインを外注しようとしたら、要件を出そうにもそもそも自分たちが何を求めているのかわからなくなって要件が定義できずに困った、と。なあなあで内輪仕事を進めていれば、わかったような気になっているけれど、いざ外に説明しようとすると、ハタと立ちすくむ。何が欲しいのかよくわからない。でも、新しい「もの」「こと」ってほとんどそうじゃないですか。得意先にユーザーヒアリングしたって何も出てきません。それはなぜか。今あることの延長線だからですよ。
ハードやスペックがどうのこうのではなく、それによって生活がどう変わるのか、どんな新しい体験をしてほしいのか、そこから考えないといけません。
──となると、今まで誰も見たことのない、“本当にイノベーティブなこと”をするには、マーケティングとの整合性をどう考えたらいいのでしょう。ニーズはあるのか? マーケットはあるのか? と上司に問い詰められて潰される企画は数知れません。
石倉 今までのように業界分析してビジネスプランをつくれ、というパターンを踏襲していたら、いつまでたっても新しい「もの」「こと」は出て来ません。そもそも業界自体の境目がハッキリしなくなっているのですから。日本の会社は何かというと「事例を出せ」でしょ? 事例があるなら新しくないわけですよ。
そうではなく、おおよそでいいから、どんどんプロトタイプをつくって使ってもらい、これは全然違うよとダメだしされて出直し、ここはこうしたらいいよ、と指摘されまた改良する、というプロセスを踏めばいいんです。
──想定するより先に、プロトタイプをつくって可能性があるかないかマーケットで試してみる「リーンスタートアップ」的な手法が重要だと。
石倉 そうです。以前は、サービスやソフトはそれができるけれど、ものづくりは設備が必要だからお金がかかる、と言われていました。でも今は3Dプリンターを使えば個人にも簡単にできてしまう。どこからスタートするのか、発想を変えないといけません。