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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

地方都市が抱える医療問題は人口減もあいまって複雑化の一途をたどっているが、一方で技術発展もめざましいものがある。2003年に日本初の全県規模となる「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」の運用を開始し、2011年には医療福祉総合特区に指定され、ICTを活用した先端医療で全国の先陣を切る香川県。日本一小さな県が取り組む医療問題解決の施策について、仕掛人たちに話を聞いた。

人材とシステムの相互補完こそ、地域医療のカギ ――かがわ遠隔医療ネットワーク後編

誰もが利用しやすい医療ネットワークを構築

医療機関同士がネットワークで結ばれ、患者の情報を互いに共有できると、いったいどんなメリットがあるだろうか。


これまでのK-MIXのしくみ(提供:香川県医師会

たとえば、医療検査で使われるCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像データは、放射線科専門医でなければ診断が難しい場合もある。A診療所で検査した患者の画像と病名、症状などのデータを専門医のいるB病院に伝送すれば、読影診断の依頼ができる。

また、C病院はMRI、D病院はCTを持っていない場合、検査時だけ互いに患者を紹介し、サーバを通じて画像データを参照できる。さらには、通常の患者紹介も、いちいち紹介状を書いて患者に持たせる必要はなく、必要な医用画像を添付して送信すればいい。紹介患者の検査情報やその後の経過も相互の医療機関で共有できる。

サーバのあるデータセンターを介して医療機関の依頼施設と支援施設がつながるこうした遠隔医療システムが、香川県の「かがわ遠隔医療ネットワーク(以下、K-MIX)」だ。限られた地域やグループ内での遠隔医療の試みは多いが、共通のセンターサーバやネットワークプログラム、運用ルールを整備し、オープンで利用しやすい医療連携システムを全県規模でどこよりも早く実現したことで、全国的に注目を集めている。

K-MIX は2003年に香川県・香川県医師会・香川大学医学部の3者が一体となって運用する遠隔画像診断の支援を主体としたネットワークシステムとして稼動を開始した。2008年からは香川県医師会が運営主体となり、県の補助金に頼らず、加入医療機関から徴収するシステム基本利用料金(1医療施設につき月額6,500円)のみで黒字化している。

「K-MIXはパソコンとインターネットのみで利用できます。VPN(仮想的な専用回線)を使っており、セキュリティが高い。さらに民間の読影診断サービスに比べてもはるかに低額で、医師会が運営していることで医療機関が安心して使えるメリットもあります」と、香川県医師会事務局主任の長尾耕治さんは語る。


香川県医師会事務局主任 長尾耕治さん

「予約したのに2~3時間も待たされた」を解消へ

10年の運用を経て、K-MIXはこのほどK-MIX+(プラス)に発展した。県内中核病院の診療情報を病院間でやりとりできるようになったのだ。


K-MIX+のしくみ(提供:香川県医師会

導入している病院に通院する患者にとって、そのメリットは大きい。たとえば、A患者が近所のB診療所からK-MIXを通じC病院を紹介された。C病院で治療を受け、回復のめどが立ったので、近所のB診療所へ通院を再開した。すると、B診療所ではA患者の同意のうえで、K-MIX+でC病院のA患者の電子カルテを閲覧して診療経過を把握し、適切な処方をほどこせることになる。

K-MIX+は緊急時にもその力を発揮する。D病院に救急搬送され手術を受けたEさん。高齢のため自宅から遠いD病院には退院後とても通えない。そこでD病院では、Eさん宅に近いK-MIX+に加入しているF診療所を紹介し、治療内容を知らせる同意をEさんにとる。D病院のカルテ情報に基づいた最適な治療をEさんは近所のF診療所で受けられる。

大学病院や公立病院の外来の混雑ぶりは激しい。予約したのに2~3時間も待たされた経験のある人も少なくないだろう。「大きな病院のほうが安心だから」と、慢性疾患やちょっとした風邪でも中核病院に頼る。その結果、中核病院に外来患者が殺到し、本来の機能である急性期医療に支障をきたす。K-MIX+のような遠隔医療が進めば、そんな状況も改善される。

根気よい治療が必要な慢性疾患やちょっとした風邪なら近所の診療所に。検査データや治療データを各診療所で共有できれば、なんでもかんでも中核病院に通院する必要はなくなる。医療機関同士の連携で役割分担がはっきりすれば、医療サービスの平準化につながり、患者にとってもメリットが大きい。

県と医師会と香川大、強い結束と信頼関係

なぜ香川県で全国に先駆けて全県規模の遠隔医療ネットワークが実現したのだろうか。「全国最小の県、ということもあると思います」と語るのは、香川県健康福祉医務国保課副主幹の宮崎芳子さん。


香川県健康福祉医務国保課副主幹 宮崎芳子さん

「人口100万以下で、県土も全国で最も狭い。意思統一がしやすいのが要因なのではないでしょうか。それと、県と医師会と香川大学の仲が良く、信頼関係が厚いこと。継続できている理由の1つとして、それも大きい。月1回、必ずその3者で定例会を開いています。毎月、顔を合わす機会があるのは大切なことです」

他県からの視察で、県と医師会と大学の仲が良いと聞くと、うらやましがる人もいるのだとか。遠隔医療を促進し迅速で効率的な医療サービスを提供するという共通の社会的な目的のもと、プレイヤーがイコールパートナーとして強く結束する。「共創」の1つのスタイルが、ここにもありそうだ。

そしてもちろん、黒字運営を続けていることも見逃せない。県から運営譲渡の打診があったとき、医師会では賛否両論だったという。医師会は医師の会費で運営している。社会的に意義のある事業だからといって、赤字を出していいわけではない。黒字運営を維持することが存続の条件なのだ。

だが、県の宮崎さんも医師会の長尾さんも「最大のキーマンのおかげで、香川県の遠隔医療システムはここまで発展してきた」と口を揃える人がいる。K-MIXの生みの親、香川大学特任教授の原 量宏さんだ。

遠隔医療ネットワークを全県規模で整備することで、医者や病院が不足している島しょ地域に暮らす人々を医療面で支援してきた。後編では、K-MIXのキーマンである原教授に、その成り立ちから今後の目標についてお話を伺う。

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