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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

全国でも例を見ない、全県規模の遠隔医療ネットワーク、K-MIXはある1人の大学教授の取り組みからはじまった。島しょ地域が多くを占める香川県の医療従事者として、医療サービスの提供という課題にどう立ち向かってきたのか、香川県大学特任教授の原量宏さんに経緯から今後の展望までお話を伺った。

“町のお医者さん”が大学病院に変わる日 ――かがわ遠隔医療ネットワーク 前編

地域と住民を支援するためにはじまったK-MIX

原教授は産婦人科医。香川医科大学(現・香川大学医学部)に赴任した1980年から始めた妊婦のデータ管理(周産期管理)が、K-MIXの発端だった。


香川大学特任教授 原量宏さん

「胎児の健康管理のため超音波を使って心拍数の変化を検出する技術は70年代に日本で確立され、世界標準になりました。胎児の心拍数を始め、発育曲線、血圧、胎動といった数値化しやすい周産期管理の医療情報は、ネットワークを使ったデータの共有・保存に適しています。当時から産婦人科医は減りはじめており、妊娠中の管理は近所の診療所で、分娩は設備の整った中核病院で、という分業体制を遠隔医療システムで実現することは重要な課題でした」

そこで原教授は、香川医科大学と地域の基幹病院産婦人科をつなぐ「かがわ周産期電子カルテネットワーク」を1995年にスタートさせた。これが原型となって適用範囲を医療全般に広げ、画像系(CTやMRI)遠隔診断システム、四国4県電子カルテネットワークが構築され、県下全域の遠隔画像支援のネットワークとしてK-MIXがスタートし、現在さらなる機能強化として中核病院の電子カルテをネットワークで結ぶK-MIX+が運用されているのだ。

そして2011年、香川県は、政府の推進する地域活性化総合特別区域に指定された。「かがわ医療福祉総合特区 ~かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)を生かした安心の街づくり計画~」のプランが、全国450件の申請から26地域の1つとして認定されたのも、香川県・香川県医師会・香川大学が一体となって推し進めてきたK-MIXの実績が基盤となっているのは言うまもでない。

“医師の分身”を育て上げる

かがわ医療福祉総合特区で特筆すべき取り組みの1つは、2012年から香川県看護協会の協力のもとに開始された「オリーブナース」の育成事業だ。

K-MIXには、複数の医療関係者が動画で会話できるテレビ会議機能「ドクターコム」が付加されている。医師法では看護師が単独で検査や処置はできないことになっているが、医療福祉総合特区の規制緩和の試みとして、特別の研修を受けた看護師(オリーブナース)がドクターコムを使ってネットワークで医師とつながり、医師の分身としてリアルタイムで訪問先の在宅患者に対し、一定の処置や検査の補助をすることが可能になった。

オリーブナースは小豆島などの離島やへき地を中心に活動が予定されている。医療過疎を解決する手段の1つだが「医師がそこにいなくても医療行為ができる遠隔医療システムは都市部の高齢者医療にも役立つ」と原教授は言う。

「都市部では家族の手助けを得られない単身者が増えており、通院の負担は大きい。しかも高齢者にみられる糖尿病や高血圧などの慢性疾患は、通院しなくてもICTを使って診察し、処方箋を出せば済むケースが多いのです」

政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、全国どこでも過去の診療情報に基づいた医療が受けられ、個人で健康管理に取り組めるための全国レベルでの情報提供サービスを「どこでもMY病院」と呼んで提言している。香川県・香川県医師会・香川大学が連携して取り組むK-MIX+、さらに進んだ遠隔医療としてのオリーブナース事業はその先進的な取り組みといえるであろう。

当面の課題の1つは一般市民における認知度を上げること。まだ医療機関を利用する患者の多くはK-MIX+のことをよく知らない。県ではK-MIX+の加入医療機関にチラシやポスターを配布し、広報活動に務めている。

医療費の高騰を抑えつつ、効率よく質の高い医療サービスを維持できる社会の実現には、ICTを活用した情報共有による医療・福祉関係の多職種の連携が欠かせない。香川県の「3者共創」はそのモデルケースに挑みつづけている。

“町のお医者さん”が大学病院に変わる日 ――かがわ遠隔医療ネットワーク 前編


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