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暗黙知を形にするリーダーが“場”を変える ──『実践 ソーシャルイノベーション──知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO』を読む。

2014年09月18日



暗黙知を形にするリーダーが“場”を変える ──『実践 ソーシャルイノベーション──知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO』を読む。 | あしたのコミュニティーラボ
社会にイノベーションを起こすには、“暗黙知”が必要だと『実践 ソーシャルイノベーション──知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO』(野中郁次郎、廣瀬文乃、平田透・著、千倉書房/2014)は説く。過去のイノベーションの成功例を踏まえ、「知識経営」の観点からその方法論を説く本書は、これからイノベーションに取り組もうとしている人に、実は、自分にもできるものだと教えてくれる書籍だ。

知識を継承することで、新しい社会的価値が生まれる

イノベーティブな活動を展開し、世の中から高い評価を得たい。そのためにまずはどのように活動が行われているのか、そこから得られる知識とは何かを知りたい──そんな“実践入門者”の方にこそ、この『実践 ソーシャルイノベーション──知を価値に変えたコミュニティ・企業・NPO』は最大限の力を発揮してくれる書籍ではないだろうか。

代表著者は「知識経営」の生みの親でもある野中郁次郎氏。「共同化(Socialization)→表出化(Externalization)→連結(結合)化(Combination)→内面化(Internalization)」を繰り返す“SECIモデル”の提唱者でもある。

つまり、場をつくり出す、さまざまな人々に働きかけるなどの多様な経験を通じて、潜在した暗黙知が共有され(=共同化)、共有された暗黙知が言葉や文書で形式知化されていく(=表出化)。そうして生まれた形式知は、その場にある別の形式知と組み合わされ、新たな「知」を創造し(=連結化)、これら利用可能となった「知」から、また新たな暗黙知が生まれていく(=内面化)。ごく簡単にいえば、そんなサイクルを表している。ではなぜ、「ソーシャルイノベーション」がこのプロセスに合致するのか。本書では、冒頭で次のように定義される。

知識創造経営の観点から見ると、ソーシャルイノベーションは、地域や組織の人々の価値観の共有と新たな関係性の構築により、その地域や組織に特有の歴史や伝統、文化など人々が暗黙的に持っている知識や知恵を可視化・綜合化し、それを新たな手法で活用することによって新しい社会的価値を創造する活動(同書「はじめに」より)

すなわち、地域や組織に埋もれた「暗黙知」を見つけ、その「知」を可視化・綜合化し、それを新しい手法で活用すれば、それこそが社会的価値になる、ということだ。これはまさしく、SECIモデルに置き換えられるのではないかというのである。地域や組織には必ず「暗黙知」が埋もれている。気づかないということは「表出化」に至っていないということであり、表出化されずに誰にも気づかれなければ「知」が継承されず、いずれ失われてしまう。それは、地域・組織の衰退を意味する。

しかし、地域や組織のつながりのなかに、潜在化された「知」を見つけることができるのであれば、この無形の資源を物的に存在する有形の資源と結びつけて「形式知化」でき、それが社会変革の原動力になっていくのだ。

海士町、直島、神山町……有名事例から読み解く“成功の秘訣”

たとえば、地域の事例として登場する「島根県隠岐郡海士町」。高齢化率38%*の同町では、財政悪化の危機に直面していた。しかし、山内道雄町長の出現によって、町は大きく変革する。町民の問題意識という「暗黙知」を感じ取った山内町長は、コミュニティーデザイナーの山崎亮さんが率いるstudio-Lの力も借りながら内外を巻き込んだ人材育成プロジェクトを実施。さらに町ブランドを積極的に活用した名産品開発などをベースに地域資源も復活させるなどして、町民の意識を変えていった。(*参考:平成25年度 全国平均は24.1%)

つながれば、ぼろ儲け!? 山崎亮が語るコミュニティーデザインという仕事。(上)

「直島=アート」という地域ブランドが国内外から観光客を呼び込んでいる、香川県直島。ベネッセホールディングスと福武總一郎氏が中心となって展開されたアート活動「ベネッセアートサイト直島」は、企業が中心となって起こされたイノベーション。島民たちとの交流から、建築家やアーティストを巻き込んだ地域変革がはじまっていった経緯がまとめられている。

このほか、霞ヶ浦におけるアサザ植生活動「アサザプロジェクト」と葉っぱビジネスで町と地域に住む高齢者の生活を変えた徳島県上勝町、過去あしたのコミュニティーラボでも紹介した「アーティスト・イン・レジデンス」を展開する神山町、市民協働のまちづくりを実現した東京都三鷹市、「hhc(ヒューマン・ヘルス・ケア)」の理念のもと企業変革を起こした「エーザイ」、公文式を高齢者向けの学習療法プログラムに発展させた「日本公文教育研究会」といったケーススタディが並んでいる。

「田舎だけど都会」な山里、神山——今年も町の人たちに会いに行ってきた。2013年冬

本書の後半部分では、イノベーションを起こす「人」の資質に踏み込んでいく。すなわち、イノベーションには「共通善の価値基準をもって、個別のその都度の文脈のまっただ中で、最善の判断ができる身体性を伴う実践的な知恵」を持ち、「究極的には叡知を目指す役割をになう」という「実践知リーダー」の存在が不可欠であるということだ。

実践知リーダーは、暗黙知と形式知の相互変換を起こす資質を持つ。7つのケーススタディと比較してみても、地域・組織にイノベーションをもたらした人々は、町長、経営者、NPOなど立場は異なるものの、その資質を持っていることがわかる。

これまで「あしたのコミュニティーラボ」に登場してきた数々のオピニオン。その発言の1つひとつを切り取ってみても、やはり「実践知リーダー」の資質を感じることだろう。

「ハッカソン」にしても「暗黙知と形式知の相互変換」であり、富士通総研で開設する「実践知研究センター」(野中郁次郎センター長)でも実践知リーダーの育成に注力している。今後の「あしたのコミュニティーラボ」でも、内外にいる実践知リーダーに注目していきたい。

Photo:Thinkstock / Getty Images


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