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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

現場を起点に、“必要とされる価値” を生み出すということ──途上国の課題に挑む「See-D contest」(後編)

子どもたちに、アイスクリームを

電気が届かず、アイスクリームも食べたことがない。そんな東ティモールの村の子どもたちに、アイスクリームを食べさせてあげられないか──。そんな強い思いに駆られたエンジニアがいた。現地で調達可能な材料を使い、どうやってアイスクリームをつくろう。自転車の空気入れを活用し、圧縮空気で超低温のエアーをタッパウェアに貯め込んではどうか……。

あるいは、こんな例もある。
石を3つ置いて、その上に鍋をかける「3点式かまど」。東ティモールでは9割以上の家庭で使われているが、部屋が煙で充満し、健康被害の原因になる。どんな大きさの鍋も使える利便性を残しつつ、デメリットを解消するために、3点式かまどに簡単に乗せられ、排煙もできる補助器具を開発してみた。

参加者のアイデアから生まれた3点式かまど(提供:See-D実行委員会)

日本の技術力と途上国のニーズをつなげ、途上国が抱える課題を解決するモノづくりのワークショップとビジネスコンテスト「See-D contest」。冒頭の2つの例は、その参加者が考えたアイデアだ。2002年にインドネシア領から独立した21世紀最初の独立国、東南アジアの東ティモールを舞台にして、See-D contestは2010年からスタートし、今年4回目のプログラムを迎えている。

そのゴールはいたってシンプル。「世界で本当に必要とされるモノをつくって、必要とされる人に届けたい」。世界には、貧困のなかで最低限の生活必需品も持てない人々が大勢いる。その一方で、日本にはモノがふんだんにあふれ、多様な技術をもつエンジニアも数多い。この2つをつなげて、必要とされるモノを必要な人に届ける。モノづくりの原点ともいえるコンセプトだ。

See-D contestの代表を務める遠藤謙さんは、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所でロボット義足を研究開発するエンジニアで、以前あしたのコミュニティーラボにも登場いただいた。See-D contestの原型は、遠藤さんが義足をつくるクラスを教えていたMITの「D-Lab」という授業。途上国の課題を適正技術によって解決することがテーマだ。それを学生だけでなく社会人にも門戸を開いて、ビジネスコンテスト形式で日本に移植したのがSee-D contestにほかならない。ではその「適正技術」とはそもそも何なのか。

ソーシャルビジネスで大切なのは「自分が楽しいこと」

「適正技術とは、ハイテクとローテクの中間みたいなイメージがありますが、そうではなく、現場に応じた適切な技術のこと」と遠藤さんは語る。

See-D contest代表/株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所(Sony CSL)
アソシエイトリサーチャー 遠藤謙さん

「たとえば燃料なら、よそから持ち込んだ材料ではなく、現地で調達できる材料を使う。一例として、途上国でよくおかゆのようにして食べられているキャッサバというイモを原料にすれば、煙が少なく長時間燃える燃料ができる。それが技術として定着すれば、現地に根づいたビジネスになるかもしれません。発見に至るまでの試行錯誤にはエンジニアリングスキルが必要です。その一方でペニシリンや抗生物質など、先端技術でも代替が効かないものは適正技術になります」

とはいえ、理屈から入るよりも、現地の人たちの喜ぶ笑顔が見たい。そうした素直な動機からはじまるモノづくりには、ワクワクするような楽しさがある。会社でしている大量生産のモノづくりでは、エンドユーザーの顔が見えにくい。モノづくりの担い手なら、自分のつくったものが役立っている場面に直接出会いたい、という欲求を誰しも持っている。それを満たしてくれるのが途上国向けの適正技術ではないか、と遠藤さんは分析する。See-D contestに参加するエンジニアやデザイナーの大半の動機も、そんなところにあるようだ。

「グラミン銀行のムハマド・ユヌスさんは、ソーシャルビジネスの大切な要素として〈自分が楽しい〉ことを挙げています。僕もそれはけっこう大事だと思っていて。最終的に長続きするのは、ワクワクできる自分の好きなことなんですよ。途上国の子どもたちにアイスクリームを食べさせたい、なんていうのは、もっと切羽詰まった社会的な課題に比べれば、二の次、三の次のふざけた話のように思えるかもしれませんが、僕は大好きですね、そういうアイデアは」

「リープフロッグ(leapfrog=カエル跳び)・イノベーション」という言葉がある。電話回線網が普及していない途上国で、固定電話を飛び越えて携帯電話が普及するように、遅れているがゆえに途中の発展段階をジャンプして最先端の技術がいきなり定着することだ。たとえばアイスクリームやスイーツにも、そんな可能性があるかもしれない。先進国では甘味が普及した後にむし歯や糖尿病などの弊害に気づいた。ならば、その対策と同時に甘味を導入すればよい。

「負の部分のソリューションも同時に持っていけるのが先進国の強みであり、役割でもあると思うのです。同時なら途上国のほうが解決策も浸透しやすいはず。そんな観点から幸せって何? みたいな議論をしたい」と遠藤さんは望んでいる。

フィールドワークで出会った東ティモールの人たち(提供:See-D実行委員会)

途上国の課題を浮き彫りにして、アウトプットに導く。まるで、モノづくりの原点を思い起こさせるかのようなSee-D contestのプログラムは、参加者自身にもたらす気づきや、ふだんの仕事へのフィードバックも大きいようだ。後編では、参加者にも話を伺いながら、これからの仕事のあり方のヒントを探っていく。

現場を起点に、“必要とされる価値” を生み出すということ──途上国の課題に挑む「See-D contest」(後編)


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