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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

BOPビジネスと「ワクワクするモノづくり」をつなぐ場所 ――途上国の課題に挑む「See-D contest」(前編)

アイデアのヒントは、フィールドリサーチから

現地のニーズをつかむにはフィールドワークが欠かせない。

See-D contestでは、まずエスノグラフィーの専門家などのレクチャーを受け、フィールドリサーチの手法を学んでから、チームを組んで東ティモールへ赴く。現地のコミュニティーで実際に数日暮らし、教育機関や医療施設なども見学しながら、生活環境を観察して課題を探す。帰国して、撮った写真や体験談をシェアしながら、テーマとなる課題を抽出し、それを解決するプロダクトと、普及させるためのビジネスモデルを考え、製品のプロトタイプづくりに取り組む。数か月後、国際協力などの分野で活躍しているさまざまな専門家を審査員としたファイナルプレゼンテーションを行い、その後も事業化プランの実現を目指す。


製品のプロトタイプづくりの様子(提供:See-D実行委員会)

富士通デザイン株式会社ソフトウェア&サービス事業部の岡崎亜沙子さんは、2010年〜2011年に行われた第1回目のプログラムに参加した1人だ。世界的に巨大なBOP(Base of the Pyramid=途上国の低所得者層)市場に貢献できる技術力を持ちながらも、適正技術を使って課題解決する取り組みが日本ではあまりにも少ない――。そんなSee-D contestのメッセージに共感し、「日本から最も遠いBOP市場へチャレンジすることに意義を感じた」と参加の動機を語る。


富士通デザイン株式会社ソフトウェア&サービス事業部の岡崎亜沙子さん

「実際に現地へ行くと、事前にイメージしていたのと現実はまったく違いました。わたしたちが泊まった村は当時、電気も水道もありません。それはあらかじめ聞いてはいましたが、そんな環境でも、みなさん限られた資源を使って、生き生きと暮らしているんですね。どうしても必要なものは手に入れていて、携帯電話は1人1台とはいきませんが、一家に数台ある家庭もありました。もちろん、小さなお子さんがかなりの確率でマラリアで亡くなったりしていましたが、それもまた自然の出来事として捉えているというか……本当にわたしたちができることってどこにあるのかな、と考え込んでしまいました」

「仕事は自分で切り拓くもの」だとわかった


東ティモールでのフィールドリサーチの様子(提供:See-D実行委員会)

現場を体験したからこその実感。すべてはそこからはじまった。冒頭で紹介した「子どもたちにアイスクリームを」のプロトタイプをつくったのが、岡崎さんがメンバーのチーム。最終審査では「冷やす」コンセプトだけを残して、二輪車の駆動を利用することによって非電気で冷却が可能なクーラーボックスにワクチンを搭載したクーリングモビリティを提案した。

現地では、村の集会所や診療所などに住民が足を運び、定期的なワクチン接種を受けるしくみになっているが、情報の周知が足りなかったりして、接種率は8割を切る。そこで、東ティモールでもよく使われている二輪車を利用したクーリングモビリティを導入することによって、住民に来てもらうのではなく、逆に医療施設側から住人へアプローチできて、村の隅々までワクチンを届けられる、と考えた。

See-D contestでの経験が、岡崎さんのその後の仕事に及ぼした影響は少なくない。社内でBOPに関連する業務を探り、以前あしたのコミュニティーラボでも取り上げた、簡易センサーを農業の効率性や作物収量の向上に役立てる「カモ」プロジェクトでBOPビジネスに挑戦する取り組みに関わった。

「仕事は自分で切り拓くもの」と岡崎さんはSee-D contestで学んだ。

「トップダウンで与えられた仕事をこなしていくだけではなく、いま社会でどのような課題があり、それに対して誰がどんな活動をしているのかといった、社外で得られた気づきやタネを社内に還元したい、と思うようになりました」

その具体的な活動として、アイデアを考えフィールドリサーチからプロトタイピングまでを有志で取り組むプロジェクトを発案し、現在進めている。たとえば、カメラを仕込んで投げたボール目線で画像が撮れるガジェットをつくっているチームなどがある。See-D contestも踏襲しているデザイン思考的な手法によって、社内横断的なモノづくりに挑む最初の試みだという。

1台目のテレビに感動する人たちに向けて

あしたのコミュニティーラボではおなじみの、ファブラボ渋谷のチーフディレクター梅澤陽明さんはSee-D contestの運営委員。もともとサラリーマン時代にエンジニアとして途上国向けの適正技術に興味があった。


See-D contestの運営委員、ファブラボ渋谷のチーフディレクター梅澤陽明さん

「そんな仕事ができる会社に転職しようとしたけれど、ありませんでした。たまたま出会ったファブラボという拠点を使うことで、ゆくゆくはそうした動きを誘発、創発できるようなコミュニティスペースができるのではないか、と仮説を立てたわけです。第1回目に準優勝したチームで、子どもが遊ぶキックボードの先端に発電機をつける、というアイデアがあったんですが、それなんかすごくファブラボの感覚に近いですよね。使い方を固定して渡すのではなく、ユーザーとともに使い方をつくりあげていくモノづくり、という意味で」

See-D contestの運営はボランティア団体として行っており、費用は参加者の参加費のみで賄っている。東ティモールへの渡航費は参加者の自腹だ。第1回目で優勝した、ココヤシの実から酒をつくり出すキットを現地の製造希望者に提供する「wanic」のプロジェクトは会社が設立され、実用化への段階を歩みはじめている。


実用化段階へ進んでいるwanic(提供:See-D実行委員会)

「運営側として僕らが直接サポートできているわけではなく、チームの自主性に委ねられているのが現状」と遠藤さんは言う。

「ただ、モノづくりで途上国を支援したい人たちのコミュニティーとネットワークが日本でも広がっていることは確かで、それはSee-D contestの活動が間違いなく後押し役を果たしているはず。そういう人たちのつながる場を何とか残しているのが、See-D contestのささやかな貢献ではないかと思っています」

See-D contestの発起人であり、今は第1回目の参加者の男性と結婚してアメリカに住んでいる中国生まれの陸翔さんというひとがいる。遠藤さんによれば、自ら立ち上げたSee-D contestに託す思いとして、「わたしは2台目のテレビではなく1台目のテレビが欲しい」と語っていたそうだ。

「彼女が育ったのはそんなに裕福なところではなかったので、自分の家にテレビが来たときにすごく感動した、というのです。だから、2台目を買うような家庭のためにテレビをつくるのではなくて、1台目のテレビに感動してくれるような人たちのためのモノづくりをしたい、と」

1台目のテレビとは、つくりだす人にとっても、届けられる人にとっても、同じようにワクワクするモノの象徴だ。ワクワクするモノづくりの場によって、See-D contestは日本と東ティモールのつながりも強めていくに違いない。


See-D contest参加者と(提供:See-D実行委員会)

BOPビジネスと「ワクワクするモノづくり」をつなぐ場所 ――途上国の課題に挑む「See-D contest」(前編)


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