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あなたは正七角形を描けますか? ――PEGレポート後編

2014年10月03日



あなたは正七角形を描けますか? ――PEGレポート後編 | あしたのコミュニティーラボ
コンピューターの歴史に根づく“Power To The People”の考えが、教育研究とあわさることで、プログラミング学習に対する大きな考えがスタートしたと話す青山学院大学・津田塾大学非常勤講師 阿部和広先生。コンピューターの歴史を振り返った前半に続き、話はいよいよ教育へのコンピューター応用に入っていきます。

コンピューターの歴史からひもとくプログラミング学習――PEGレポート前編

メダルをもらえることを学習した子どもたち

「学習者に報酬を与えるしくみをつくれば、学習者はより意欲を持って勉強に取り組むのではないか」という、当時研究されていた「行動主義」とコンピューターの発達が結びつき、コンピューターを教育に応用しようという考えが1950年代に生まれました。

実際に現代の日本で行われている、教育へのコンピューターの応用は、この行動主義に基づいており、たとえば4択の問題に正解するとメダルがゲットできるCAI(コンピューター支援教育)ソフトが使用されているそうです。

「学校に行ってみると、子どもたちはとても楽しそうに勉強しています」としたうえで、阿部先生はこう指摘します。「…ですが、よく見てみると、子どもたちは問題文も選択肢も読まず、どれでもいいから適当に答えを押しているのです」。

4択だから4回押せば絶対に当たるしくみのため、子どもたちは選択肢を手当たりしだいに押しているそうです。つまり、問題の内容を学習したのではなく、どうボタンを押せばメダルがもらえるかを学習しただけだと指摘します。

こういった状況について、コンピューターの父であるアラン・ケイは、1995年の時点でアメリカの議会証言において警鐘を鳴らしており、当時のコメントが紹介されました。

“コンピュータを設置した教室を訪問して子どもたちが喜んでコンピュータを使っているのを見るのは心が痛む。子どもたちは幸せだし、教師も行政も両親も幸せだ。しかし教室をつぶさに観察すると子どもたちは興味のあることや成長を促すようなことは何もしていないのだ。この技術はジャンクフードのように誰もが好きだが栄養にならない。(アラン・ケイ 1995年 米国議会証言)”

アラン・ケイはカウンターカルチャーと結びつき、個人に力を与えようと開発・発展されてきたコンピューターが、人々から逆に学習し行動しようとする意欲を奪っていると主張しました。

子どもの自発性を促すためのプログラミング学習

ボタンを押すだけの学習しかせず、学習と行動の意欲を奪うとアラン・ケイが指摘した“行動主義に基づいたコンピューターの教育利用”に対し、「コンピューターに子どもをプログラムさせたいのか、子どもにコンピューターをプログラムさせたいのか」と反論を行ったのが、MITメディアラボ教授のシーモア・パパートです。

その根拠となる、シーモア・パパートがつくり出した考え方が、子どもたちが自ら知識を発見するよう促す「構築主義」です。

たとえば“正四角形をどう描くか”という問いに対し、わたしたちは「四辺の長さが同じで、頂点が4つあり、すべての角が90度である図形」と学んでいます。しかし構築主義の考え方では「ある点が一定の距離を直進し、90度右に曲がる。その行動を4回繰り返した軌跡としてできる図形」であり、さらにそれを子どもたち自身が発見する(構築する)ものだというのです。

応用できる考え方を促す“プログラミング学習”とは

プログラミングソフト「Scratch」はその知識の構築を手伝うために生まれたと阿部先生は話します。今回のセミナーでは、実際にお客さんが「正三角形の描き方」をプログラミングする実験を実施し、驚くような結果が出ました。

「(キャラクターである猫が)一定距離をまっすぐ歩いて、60度曲がる。それを3回繰り返す」という内容でしたが、その結果描かれたのが、上写真右上の青い線です。

阿部先生は「数えきれないくらいこのデモをしていますが、毎回こうなります。つまり私たちは知識として、正三角形の内角が60度だと覚えているのですが、曲がるときは外角なので120度が正解なんです。これは自分たちの知識や考えに縛られている証拠なのです」と話します。

このまま正三角形、正四角形、正五角形…と続けていくと、子どもたちはそのうち正◯角形を描く場合「頂点の数×曲がる角度=360度」になるという法則に気づくそうで、作図することが難しいため学校では習わない「正七角形」を描くようになるといいます。

こうした発見、知識の構築を経験した子どもは、他の分野でも発見できるようになり、主体的に学習できるようになる。適切な環境さえあれば科学概念を自分自身で組み立てられるようになる。…それが従来の教育である「教示主義」に対する「構築主義」なのだそうです。

つまり自分自身で試行錯誤することが重要であり、プログラミングをしながらバグをデバッグすることで「学ぶこと」を学ぶという考え方なのです。

「コンピューターを快楽装置つきの教科書として使用する」という現在主流となっているコンピューターの教育利用からすると、一見限定的な教育利用に見えるかもしれません。しかし、プログラミングを学ぶことで、プログラミングスキルだけではなく、知識全般の構築の仕方や、考え方、ひいては生き方の構築に役立てていくことができるというのが、プログラミング教育のメリット。この考え方が広まることで、子どもたちの創造性がいかんなく発揮される土壌が作られていくはずです。

教示主義と構築主義は対立項か?

最後に阿部先生が紹介されていた、コンピューターの父アラン・ケイのエピソードをここに記します。

上の写真は、1968年にアラン・ケイが描いたタブレット型のコンピューター「ダイナブック(ダイナミックなブック)」のコンセプトです。iPadをはじめとしたタブレット型コンピューターを予測した絵として広く知られていますが、ほとんど知られていないストーリーがあります。

この絵の登場人物2人は、ネットワークでつながったダイナブックをそれぞれ利用し「宇宙戦争」というゲームをしながら、「このゲームは、物理の授業で習った星の引力が働いていなくておかしいよ。よしプログラムを書き換えよう」という話をしているのです。つまり教示主義的に習った知識をもとに、自分たちでそれを検証しながらゲームを作り変えようとしているというのです。

アラン・ケイが描いた未来は、コンピューターの未来だけではありませんでした。ましてや教示主義を否定しているのでもなく、知識を知識として持ちながら、自発的な創造性を発揮する子どもたちの姿への願いだったのです。

次の記事(TOUCH&PLAYブース)では、子どもたちがプログラミングやものづくりのツールに触れることができるさまざまなツールをご紹介します。

コンピューターの歴史からひもとくプログラミング学習――PEGレポート前編

プログラミング学習普及プロジェクト「PEG programming education gathering」


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