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人と人、社会にある課題を解決する「インクルーシブデザイン」という考え方  ──九大 平井康之准教授インタビュー(1)

2014年10月21日



人と人、社会にある課題を解決する「インクルーシブデザイン」という考え方  ──九大 平井康之准教授インタビュー(1) | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボでは、場づくり、学び、地域づくりとさまざまなテーマを取り上げてきました。そこで共通するのは“デザインすること”。2周年を迎え、さらに多くの方々と新しい価値を生み出すため、どのような考え方が求められているのか。編集部は「インクルーシブデザイン(Inclusive Design)」という考え方に注目しました。今回は、日本における第一人者である九州大学大学院 芸術工学研究院 准教授 平井康之先生にインクルーシブデザインについて伺い、今後の企業とデザイナーのあり方のヒントを探ります。

複雑に絡み合った想いをco-designする、インクルーシブデザイン  ──九大 平井康之准教授インタビュー(2)
デザイナーにこれから求められるスキルはさらに高度化する  ──九大 平井康之准教授インタビュー(3)

ユニバーサルデザインとは? インクルーシブデザインとは?

──「インクルーシブデザイン」とはどういった考え方なのでしょうか。

平井 身体的なものに限らず経済的や感情的、デジタルなどあらゆる領域でこれまでの製品・サービスから排除(Exclude)されていた人々を、企画・開発の初期段階から巻き込んで(Include)、一緒に考えていくデザインの方法です。

九州大学大学院 芸術工学研究院 平井康之准教授

それまで排除されていた人たちを包含し、かつビジネスとして成り立つデザインを目指しています。よく「ユニバーサルデザイン」との違いを聞かれますが、アメリカ発祥のユニバーサルデザインと、イギリス発祥のインクルーシブデザインは、理想は同じですがアプローチが大きく異なります。

──どのような違いがあるのでしょうか。

平井 ユニバーサルデザインには「どんな人でも公平に使える」や「使ううえでの柔軟性がある」、「使い方が簡単で自明である」など「ユニバーサルデザインの7原則」というものがあり、それがデザイン発想の基本にあります。7原則の内容はほとんどがユーザビリティー(使い勝手)についてであり、機能性重視という特徴があります。日本の場合は、2000年頃から、TOTOやコクヨ、トヨタなどの企業が、その7原則を元に独自の原則をつくり、製品開発に応用しています。

近年さまざまな企業が掲げている「人間中心」という考えをデザインに落とす際のデザインプロセスとして、ユニバーサルデザインが採用されていますが、7原則のどこまで何を行うと「中心」なのかという疑問が生まれてきます。広く意見を聞けばいいのか、広く評価をしてもらえばそれでいいのかと。

──落とし込みの程度や方法についてはそれぞれに認識が異なるんですね。

平井 また、ユニバーサルデザインの7原則は明文化された基準になっており、同時に企業やデザイナーが守るべきガイドラインにもなっています。なので、ユニバーサルデザインはできた製品を検証するのに向いていると考えています。

それに対し、インクルーシブデザインは“人々とともに考える“、つまり「コ・デザイン(co-design)」の考え方と言っていいでしょう。ユニバーサルデザインのように原則はつくりません。製品の企画やニーズの模索の時点、初期段階から多様な人々に参加してもらって一緒に考えていくんです。

「熱い思い、願望」を重視するインクルーシブデザイン

──インクルーシブデザインを行うとき、ユーザーはどんな立場で参加するのでしょうか。

平井 コンセプトメイキングだけ携わる、デザインを一緒につくるなど場合によりますが、一番大事なのは「相手の本音を聞く」ということです。インクルーシブデザインでは、「熱い思い、願望」を意味する「アスピレーション(aspiration)」を重要視し、人々が自然に使えたり、ポジティブな思いを持てたりするようなデザインを行います。インクルーシブデザインの生みの親である、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学院、以下RCA)のロジャー・コールマン名誉教授がインクルーシブデザインをはじめるきっかけになった話が象徴的です。

彼の友人に車いすで生活しているレイチェルさんという女性がおり、彼女が彼に自宅キッチンのデザインを依頼したんです。そこで彼は、下肢の邪魔にならないキャビネットや車いすの高さに合わせたカウンターをつくろうと考えたのですが、彼女の口から出たのは「ご近所さんが羨むデザインにしてほしい」という意外なリクエストだったそうです。

ユーザーの声を聞かなければ、きっと「車いすの人が動きやすいキッチン」という機能性に終始したデザインにしかならなかったという事例だと思います。

──“使える”に“楽しく”という感情が加わると、アウトプットのデザインも大きく異なります。

平井 初期のユニバーサルデザインは、従来のデザインでは対応しきれない身体機能の低い方に対応すべきとされていて、身体機能・能力・体型の多様性を考慮した人体計測値をもとにしたデザインが推奨されていました。具体的には幼児・高齢者・障がい者といった「特定の利用者群」を対象としていました。しかし2000年ごろにデザイン対象だった「障がいのモデル」が変化します。

それまでは肉体的損失などの個人の問題を対象とする“医療的モデル”でしたが、人と人との間や社会に存在する課題を障がいとする“社会的モデル”に変わってきたのです。そんななかで生まれてきたインクルーシブデザインは、障がいや高齢に限らず「排除されている人・社会」を対象としてきました。経済的な貧困状態にある人、生活に難のある辺境に住む人、インターネットを利用できない人、母子家庭の人などあらゆる領域に及びます。「海外に行ったとき、英語でコミュニケーションできない」ことも“社会的な障がい”です。

──実は私たちも何らかの障がいを抱えているんですね。

平井 応用される領域はプロダクトに限らず、道順を示す“サイン”などのグラフィックもあれば、空間設計であることもありますし、多岐にわたります。私自身も、美術館や博物館の空間デザインをはじめ、医療分野の仕事、企業とのプロジェクトなど、活動は多岐にわたっています。あらゆるものがデザイン対象になります。Webやメディアのクリエイター・デザイナーの方や、コミュニケーションデザインといった分野の方々にも広く参加してほしいと考えています。

個人の肉体的損失を対象に、7原則を検証するような形式で存在するユニバーサルデザインに対して、“社会的な障がい”を対象に、課題発見型で進むインクルーシブデザイン。次は平井先生が関わられたインクルーシブデザインの具体的な課題にどのように取り組んだのかについて伺います。

複雑に絡み合った想いをco-designする、インクルーシブデザイン  ──九大 平井康之准教授インタビュー(2)へ続く
デザイナーにこれから求められるスキルはさらに高度化する ──九大 平井康之准教授インタビュー(3)

平井康之  ひらい・やすゆき

九州大学大学院 芸術工学研究院 デザインストラテジー部門 准教授


1961年生まれ。京都市立芸術大学卒業後、コクヨ株式会社にデザイナーとして勤務。在職中の1990~1992年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートに留学。マスターを取得し帰国後、アメリカのデザインコンサルタント会社IDEOに4年間勤務。九州芸術工科大学(現・九州大学)助教授を経て、2003年より現職。さまざまな企業のコンサルタントや共同プロジェクトにおいてインクルーシブデザインを実践・研究している。


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