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複雑に絡み合った想いをco-designする、インクルーシブデザイン  ──九大 平井康之准教授インタビュー(2)

2014年10月22日



複雑に絡み合った想いをco-designする、インクルーシブデザイン  ──九大 平井康之准教授インタビュー(2) | あしたのコミュニティーラボ
これまでの製品・サービスから無意識的に排除(Exclude)されていた多様な人々を、企画・開発の初期段階から巻き込んで(Include)考えるデザインの方法である「インクルーシブデザイン」。定義について伺った1回目に続き、九州大学大学院 芸術工学研究院の平井康之准教授にインクルーシブデザインとの出会い、インクルーシブデザインの考えを取り入れた「医療」「アート」分野のプロジェクトをどう進めていったのか、手がけられた取り組みについて話を伺いました。

人と人、社会にある課題を解決する「インクルーシブデザイン」という考え方  ──九大 平井康之准教授インタビュー(1)
デザイナーにこれから求められるスキルはさらに高度化する  ──九大 平井康之准教授インタビュー(3)

自らつくったリサーチ道具ではじめて発見した“ユーザーの本音”

──インクルーシブデザインとの出会いにはどんな経緯があったのでしょうか。

平井 京都市立芸術大学で梅原猛先生(同大名誉教授)にデザインの哲学を学びました。僕は当時「ドラマ」について興味があったんです。ちょうど先生が「スーパー歌舞伎」をはじめた頃だったこともあり、教員の選択制度を利用して、著名な脚本家の方やカメラマンの方など、錚々たる面々に質問をして回りました。その経験が今現在インクルーシブデザインを実践する際に重要な「ファシリテート」のエッセンスになったことは間違いありません。

九州大学大学院 芸術工学研究院 平井康之准教授

卒業後はコクヨでオフィスデザインや商品開発に携わっていたのですが、海外留学制度が生まれ、公募第1号としてロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下RCA)へ行くことになり、そこではじめてインクルーシブデザインに出会いました。

日本では“考えてからつくる”デザインが基本ですが、RCAで行われているのは“つくりながら考える”というプロセス。非常に驚かされました。アイデアが浮かんだら工房で手近にある端材を使って、つくりながら、それを調整する、を繰り返しながら形を定着させ、最後に図面を書くんです。

リサーチ対象の方が答えたくなる形にすることで、ユーザーの本音を引出し課題解決する。定型化されたリサーチの道具では聞き出せなかったであろうユーザーからの反応を得ることができるのを実感しました。その後、デザインファーム IDEOを経て、今に至ります。

──インクルーシブデザインを取り入れたプロジェクトにはどのようなものがありますか?

平井 2008年から「こども用の薬」をテーマにしたプロジェクト「こども+くすり+デザイン」を手掛けています。

子どもが飲みやすい薬をつくることで、子どもも服薬管理をする親御さんも、それぞれの身体的・精神的な負担を軽減して、子育てしやすい環境をつくるプロジェクトです。デザインを私が、薬をNPO法人こどもとくすり理事長で薬剤師の中村守男さん、子どもがどんなものを好むかのヒアリングはファシリテーターの田中恭子さんが担当するという形でスタートしました。最初の取り組みは「課題を可視化」すること。そして、社会へのデザインステートメント(デザインによる問題提起)としてブックレットをつくりました。

プロジェクトは2008年のグッドデザイン賞を受賞した

インクルーシブデザインには「それまで排除されていた人たちを包含する」ことに加えて「ビジネスとして成り立つデザインを目指す」という側面もあります。第2弾はぜひ実際に売れるものをつくりたい!と思い、「けんこうキッズ」というお薬手帳をつくりました。これは「特定非営利活動法人こどもとくすり」を通じて全国で販売され、現在は5万部以上発行されています。

昨年は第3弾として、子どもが薬を飲みやすくするための服薬補助ゼリーキットをつくっている株式会社モリモト医薬(リンク)とプロジェクト「コドモトモリモト」(モリモト医薬HP)を組み、新しい服薬補助キットのコンセプトを制作しました。

プロジェクトは2014年のグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞した
(提供:こども×くすり×デザイン実行委員会)

子どもが興味を持って飲みたいと思ったり、給食時に友だちの前では飲みづらいと思ったりする子どもを想定し、ハート型やストロー型のものなどをつくり、ブックレットにまとめました。

1人ひとりと向き合うインクルーシブデザイン

──地域の公共施設の空間づくりにも従事されているんですよね。

平井 横浜市民ギャラリーあざみ野をベースにした「みんなの美術館プロジェクト」も2008年から実施しています。これはインクルーシブデザインの手法を使って、誰にとっても使い勝手の良い美術館とは何かを考える、当事者と市民による参加型プログラムです。

「みんなの美術館プロジェクト」の様子(提供:美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会)

プロジェクトは、「美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会」が中心となっています。これまで12回のワークショップを実施し、そこで得た1300を超える「気づき」とデザイン提案をもとに、ハードだけではなく展示物などのコンテンツとの関わり、サービスのあり方について総合的にまとめたデザインノートをリリースしました。様々な理由で美術館に行けない人々が多くいます。多様な人々の視点からの発想には、はっとするような、見えていなかった気づきがあったりします。

「みんなの美術館プロジェクト」デザインノート(提供:美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会)

その発展形で今取り組んでいるのが「ユニバーサルミュージアムマトリックス」です。このマトリクスのはじまりは「ちょっとした違和感」でした。ヒアリングを行うと、デザイナー的観点と、美術館・博物館の関係者の観点からみた美術館のあり方にはズレがあることがわかりました。デザインから入ると、施設内の移動や作品までの物理的なアクセスを中心に考えがちなのですが、美術館・博物館の関係者の方はコンテンツ、「何を見るか、鑑賞の仕方」から考えるんです。

また、より多くの人々に満足を与えるのがユニバーサルデザインですが、それだけでは美術館という公共性の高い文化施設の問題は解決しません。同時に一人一人の来館者に向き合う必要があります。

これはその考え方を大きく3つの領域に分けて考えるマトリックスで、真ん中にはより多くの人々の問題解決を目指す横串型のユニバーサルデザイン、両脇には個々の人々の多様性に向き合う領域、一方はバリアフリーのように個々のマイナス価値を解決するアプローチ、反対側にはハンズオンによる鑑賞のように個々のプラス価値を置いています。そんな「エキストリームユーザー(境界線の特殊なユーザーの意味)」の人々のメリットを、真ん中のメインストリームの人々にもたらすのもまたインクルーシブデザインの役割です。

インクルーシブデザイン発祥の地 イギリスでインクルーシブデザインに出会い、 “つくりながら考える”というデザイン手法を体得していった平井先生。日本に戻ってからは、学生にインクルーシブデザインの考え方を教え、国立民族学博物館などで客員教員としてプロジェクトに従事しています。最終回となる第3回目は、企業の研修なども行うなかで見えた「インクルーシブデザインの取り入れ方の肝」と今後求められるデザイナー像について伺いました。

写真提供:
「みんなの美術館デザインノート」
美術館×インクルーシブ×デザイン実行委員会
横浜市民ギャラリーあざみ野(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
NPO法人エイブル・アート・ジャパン
梅田亜由美/太田好泰/岡崎智美/半田こづえ/平井康之/松浦昇/ライラ・カセム/武居智子
イラスト:襟草丁

「こども×くすり×デザイン」
こども×くすり×デザイン実行委員会
平井 康之(こども×くすり×デザイン実行委員会 代表/九州大学 大学院 芸術工学研究院 准教授)
中村 守男 (特定非営利活動法人こどもとくすり 理事長/薬剤師)
松尾 紘出子(医療ライター/子供心理カウンセラー)
田中 恭子 (子供ワークショップファシリテーター)
秋田 直繁(九州大学 大学院 芸術工学研究院 助教)

デザイナーにこれから求められるスキルはさらに高度化する  ──九大 平井康之准教授インタビュー(3)へ続く
人と人、社会にある課題を解決する「インクルーシブデザイン」という考え方  ──九大 平井康之准教授インタビュー(1)

平井康之  ひらい・やすゆき

九州大学大学院 芸術工学研究院 デザインストラテジー部門 准教授


1961年生まれ。京都市立芸術大学卒業後、コクヨ株式会社にデザイナーとして勤務。在職中の1990~1992年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学。マスターを取得し帰国後、アメリカのデザインコンサルタント会社 IDEOに4年間勤務。九州芸術工科大学(現・九州大学)助教授を経て、2003年より現職。さまざまな企業のコンサルタントや共同プロジェクトにおいてインクルーシブデザインを実践・研究している。


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