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企業での“仕事”を“志事”へと変える ──クロスフィールズ小沼大地さん(前編)

2014年12月09日



企業での“仕事”を“志事”へと変える ──クロスフィールズ小沼大地さん(前編) | あしたのコミュニティーラボ
山積する社会課題の現場にこそビジネスのフロンティアがあり、イノベーションのタネがひそんでいる。さらに、「社会の公器」という原点に立ち返り、企業が社会課題に取り組む機会が徐々に増えたことにより、CSV(Creating Shared Value)という言葉も認知されつつある。社会と企業がwin-winとなるために企業側に欠かせない存在が、志と思いを持った現場のリーダーやミドルマネジメント層だ。若手を巻き込み上層部を説得するには、どうしたらよいのか。近年大企業が導入を進める「留職プログラム」を展開するクロスフィールズの小沼大地さんに、そのヒントを前後編で伺った。

社会課題の現場とビジネスは、密接につながっている ──クロスフィールズ小沼大地さん(後編)

仕事と社会とのつながりをとり戻す「留職プログラム」という仕組み

──新興国のNPOなどに日本企業の社員が1~6カ月間赴任し、本業のスキルを活かして社会課題の解決に取り組むのが「留職プログラム」。2011年に小沼さんがクロスフィールズを立ち上げたきっかけは何だったのですか。

小沼 2つほど大きな経験がありました。1つは、大学を卒業してシリアに青年海外協力隊員として赴任していたときの経験。僕が活動していたNPOにドイツのコンサルティング会社の人が参加していました。ビジネスの手法で社会課題の解決に挑む。しかも現地の人が笑顔になっていくのを見て、コンサルティング会社の人の仕事ぶりも活き活きとしてくる。これは双方にとって良いことが起きているな、と思ったのが僕の最初の「なるほど」でした。
croosfields1NPO法人クロスフィールズ 代表理事 小沼大地さん
2つ目は、帰国後、大手のメーカーや商社に就職した大学時代の友人たちと会ったときショックを受けた経験です。「ものづくりで社会を良くしたい」、「世界の貧困格差をなくすためにビジネスをしたい」、そんな志を学生時代に熱く語っていた彼らが、唯一の楽しみは週末のゴルフや合コンと話していて、あの情熱はどこにいってしまったのかなと。

──キラキラしていた思いが消えてしまっていたんですね。

小沼 僕が熱い話をしようものなら、いつまでも青臭いことを言ってないで、早く会社に入って大人になれ、と言われてしまいました(笑)。個人がいけないのではなく、若者の情熱を押し殺し没個性に変え、短期的な利益を追求していく風土が残念ながら日本の企業社会にあって、それによって人々の仕事観がいびつに崩れてしまっているのでは、と思いました。

そうした閉塞的な空気感を払拭することが、イノベーションのためにも欠かせません。そこを何とかしたいという気持ちが「留職プログラム」を立ち上げたきっかけになっています。

──たとえば自動車会社の社員が「社会にとって自動車とは何か」を徹夜で熱く議論する。むしろそんな青臭さが、かつての日本企業の躍進の原動力だったのかもしれません。それが失われてしまっているのでは、ということですね。

小沼 日本企業の創業から伝わる理念を聞くと、僕はいつも涙が出るほど感動してしまいます。そして、その企業の社員の方にその理念を想う気持ちがなくなってしまったのかというと、本当はなくなっていないと思います。なぜなら、社員の方々とお会いして入社動機をお聞きすると、目の奥がキラリと光って、語りだしてくれることが多いからです。
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クロスフィールズには、志を同じにした仲間が集まる。
大手商社から転職した斎藤陽介さん(一番左)もその1人だ。(提供:NPO法人クロスフィールズ)

会社に対して「仕える事(こと)」ではなく、個人として「志のある事(こと)」を成し遂げたい人たちが集まったのが日本の企業ではないでしょうか。そんな「志事(しごと)」人たちの集合体が日本企業の財産なのに、組織が大きくなるにつれ、顧客や社会との接点が遠い存在になってしまった。それによって、働いているうちに個人の「志事」という宝が埋もれてしまっていることが問題だと感じました。

クロスフィールズが行っている留職プログラムは、仕事と社会との接点をつなぎ直す試みの1つです。社会課題の現場に飛び込んで、自分の仕事と社会とのつながりをあらためて考え直す。それを仕事の現場に持ち帰って、活かすことによって、企業のなかからじわじわ会社を変えて行く。それによって、「仕事」を「志事」へと変えていくことが可能なのではないか。そんな取り組みとして、僕たちは留職プログラムに取り組んでいます。

社会課題の解決に、企業のアンテナが立ちはじめた

──企業としては何を期待して留職プログラムを導入するのですか。

小沼 立ち上げの頃は苦労しました。われわれは設立当初から「企業・行政・NPOが一緒になって社会課題を解決する世界を創る」というビジョンを掲げていましたが、3~4年前、それにピンと来る企業の人は皆無に等しかった。そこで、まずは顕在化しているビジネスニーズに照準を絞りました。このプログラムが持っている1つの側面である「グローバル人材の育成」というホットなトピックに乗せて紹介することからスタートしたんです。

──なるほど、「グローバルに活躍できる人材を養成する研修プログラム」として採用してもらったわけですね。

小沼 「社会課題解決に向けた取り組みをしましょう」と言っても、何が目的なのか、成果としての数字は何かと社内で問われた際に、説明しづらい。そこでわかりやすいメッセージが必要だと思ったんです。今でも6~7割の企業さんがそうです。しかし、ようやくここ1年くらい、山積する社会課題をセクター間の共創で解決するところにフロンティアがあり、イノベーションのタネがあるという方向に企業のアンテナが立ちはじめました。
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現在20社以上が留職プログラムを導入していますが、直近1年に導入いただいた企業では、リーダー育成に加えて「社会課題起点のビジネスを創造すること」を導入の目的に掲げるケースが増えています。

──社会貢献やCSRの枠組みを超えて、社会課題にコミットする、いわゆる「CSV活動」によってこそ新しいビジネスを生み出せる、と企業が考えはじめた要因は何でしょう?

小沼 やはり東日本大震災が大きかったと思います。震災によって課題先進国といわれる日本の抱えている社会課題が一挙に顕在化し、その解決を先取りするような事業を展開できた企業が、これからの市場を捉えた事業を展開していく。そうした方向に経営の舵を切ったほうが良さそうだ、という言説が増えてきました。

──トップの意思決定が重要、ということですか。たとえば現場に近いミドルマネジメント層あたりからのボトムアップの動きはありませんか。

小沼 トップとボトムの両方の熱が必要です。ボトムが潜在的に熱を持っていることは確実で、今の20~30代は社会課題を解決することに対しての渇望が非常に強い。それを解決しないと自分の将来も危ないと「自分ごと」として受け止めています。そして、嬉しいことに、先進的な大企業では、そうした若手の動きを応援する経営陣が増えはじめていることもまた確かです。

企業そして国と、自らの将来を重ね新しい価値づくり取り組もうとする若手社員が注目するトピックス“社会課題の解決”を後押しする「留職プログラム」。それは、企業側から見ると“企業内からイノベーションを創出しよう”というチャレンジにも取れます。留職プログラムを通じて、個人と企業の「志事」をつなげていく背景を伺った前編に続き、後半は、企業内のミドルマネジメント層が、そこに具体的にどう働きかけていくか、そのコツについて伺います。

社会課題の現場とビジネスは、密接につながっている ──クロスフィールズ小沼大地さん(後編)

関連リンク:NPO法人クロスフィールズ
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小沼大地  こぬま・だいち

NPO法人クロスフィールズ 代表理事


1982年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。大学を卒業後、青年海外協力隊(中東シリア・環境教育)に参加。その後、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、人材育成領域をはじめとした各種プロジェクトに携わる。2011年5月、NPO法人クロスフィールズを共同創業者の松島由佳氏と創業。同年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers Community(GSC)に選出される。大学時代はラクロスU21日本代表として活躍するほどのスポーツ愛好家。


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