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浪江町が挑む“町民のための”タブレットづくり ――浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(1)

2015年03月02日



浪江町が挑む“町民のための”タブレットづくり ――浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(1) | あしたのコミュニティーラボ
2015年1月末。福島県の内外で避難生活を送る浪江町住民約1万世帯を対象に、タブレット端末の配布がスタートした。これは2014年4月から浪江町がはじめた「浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業」(以下、きずな再生・強化事業)で開発されたプロダクト・サービスだ。特徴的な点は、タブレット端末の機能やアプリにヒアリングやアイデアソンをとおして集めた町民の意見がふんだんに取り入れられていること。そして、調査プロセスを民間事業者に委託し、かつ、フェローシップ制度により外部の専門家が行政に入り込んで開発プロセスを牽引したことだ。積極的に外部と関わる、“オープン”な調達プロセスがいかに実行されたのか。3回にわたってその取り組みを追った。

770の町民発のアイデアを「8つの機能」に凝縮 ――浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(2)
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オープンマインドが生んだ“オープン調達の流れ”

福島県浪江町から「きずな再生・強化事業」の調査事業を委託されたのは、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、CFJ)。代表理事の関治之さんは「浪江町役場復興推進課の小島哲さんと陣内(じんのうち)一樹さんが、役場のなかで十分に機能したからこそ実現できた」と振り返る。まずは2人の話から、浪江町が抱えていた課題を整理しておこう。

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(左から)浪江町役場復興推進課 小島哲さん、陣内一樹さん

東日本大震災に端を発した原発事故。福島原発から20km県内にある浪江町の町民は、3.11以降、避難生活を余儀なくされた。震災時のまちの人口は約2万1,000人。そのうち約1万4,600人が福島市、二本松市、いわき市などの県内エリアに避難し、約6,400人が県外に住まいを移した。家族構成によっては世帯が2つに分断され、現在もなお約1万世帯が広域分散避難を続けている。

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各世帯に配布されているフォトビジョン。町民の交流会の写真やまちのお知らせなどが配信される
提供:浪江町役場

そんななか、役場には特に県外の町民から「浪江町や福島県の情報をなかなか得られない」という声が寄せられていた。いくつかの情報ツールもあるにはあった。しかし、発行までに制作期間のかかる月刊広報誌『広報なみえ』では情報が届くのが遅い。震災のあった年から導入され、町内に配布された電子掲示板「フォトビジョン」は写真や行政、イベント情報を毎日配信するが、「電源を入れている人が約30%」とそもそも利用率が低かった。こうして「個と個」もしくは「個と公」の情報交換がままならない状態に陥っていた。

本当に使ってもらえるタブレット端末とは?

同じ浪江町民でも避難地域によって情報格差が生まれる。そんな状況のなか浪江町役場では、タブレット端末でこれらの課題を解決できないか検討していた。しかし、高齢化の進む浪江町で本当に使ってもらえるのか、費用に伴う効果が本当に得られるのかといった不安をぬぐえない。ならば、“本当に”使ってもらえるタブレットをつくろう——。浪江町役場は、ICTによる地域課題解決に実績のあるCFJにコンタクトをとった。

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今回のプロジェクトの大まかな相関図

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浪江町きずな再生事業の流れ(取材内容を元に編集部作成)

とはいえ、タブレットがコミュニティー再生を担えるのか。「タブレット端末の活用は“情報のやりとり”という点で有効ですが、旧来のやり方では“心のやりとり”まで責任を持てるかどうかは難しい」と話すのはCFJ副理事の高木祐介さん。他エリアの先行事例を見ても、タブレット事業が成功しているとは言い難かったが、公共事業として取り組むからには失敗は許されない。「『本当に効果が得られるのか?』という疑問があってしかるべきで、はじめに予算ありきで執行する既存のソリューションでは、うまくいかないと思いました」

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Code for Japan副理事 高木祐介さん。数多くの官公庁調達にプロジェクトマネージャーとして関わってきた

そこで浪江町では、CFJからの提案を受け、調達プロセスを“オープン”にするという大胆な決断を下した。CFJ関さんは当時のことを振り返る。「私たちが定期的に東京から浪江町に出向いて活動するだけではなく、ちゃんとITのわかる人材を行政のなかに入れて働かせてもらう。“フェローシップ制度”こそが活きる事業だと考えました。加えて、町民の意見をきちんとヒアリングしながら要件をしっかりと定め、事業者もオープンに選定する。そのお手伝いならばできると考えたのです」。

「最初に関さんと矢吹さんにお会いして話を聞き、別れるときには互いに『やりましょう!』と意気込みましたね」とは小島さんの弁。こうして、浪江町とCFJによる“Code for Namie”プロジェクトがスタートした。

ヒアリングで見えた属性ごとの悩み

プロジェクトチームが最初に着手したのは、タブレット開発のためのペルソナづくりだ。“ペルソナ”とは、ユーザー属性を見込んだ理想像を意味する。「なにせこのようなプロジェクトははじめてのことだし、フレームワークがあるわけでもなかった」と関さん。そこでCFJと役場のメンバーが一同に会し、合宿を開催。課題を共有し、それを受けて、町民へのヒアリングを開始させた。県外に避難する町民へのヒアリングでは、各県に常駐する復興支援員の協力のもと、子育て世帯や高齢者世帯などのタイプ別の世帯に案内してもらい、CFJが中心となってインタビューを行った。

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町民インタビューの様子 提供:浪江町役場

「そこから、いくつかの“軸”が見えてきました」(高木さん)

たとえば、福島県内の仮設住宅で暮らしている町民は、ヨコの連携がとりやすい。一方、アパートやマンションなど借上住宅地で暮らす町民のコミュニティーはより分断されていて「地元の言葉にも飢えている状態」。住まいの形態だけをとっても、町民の悩みは多様だった。ほかにも意外な気づきがもたらされた。特に多かったのは、県外避難の町民への「おくやみ情報」の提供。広報誌等で知人が亡くなったことを知る頃には、すでに葬儀が終わっている。情報が遅いことで参列できなかったというケースもあった。

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ヒアリングでまとめられた5つのペルソナ 提供:Code for Namie

こうして、想定ユーザーの属性ごとに、町民の課題を5つのパターンに整理。ターゲットを絞り込んだことで「タブレット利用者像 ~浪江町民のペルソナ~」が完成した。そして、プロジェクトでも重要な位置付けとなる、町民を巻き込んだアイデアソン&ハッカソンがいよいよスタートした。

居住地域によって置かれている環境が異なる浪江町民が求めている情報は、“自らに近いもの”だった。専門家と共同で進められた、町にとってのはじめてのプロジェクトは、ペルソナを明確にし実際にどんな機能をつくっていくか、アイデアを集める段階に進んでいく。

770の町民発のアイデアを「8つの機能」に凝縮 ――浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(2)へ続く
「2017年3月」の先にある浪江町の未来像 ――浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(3)


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