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危機感の共有が生んだ攻めの一手──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(前編)

2015年03月10日



危機感の共有が生んだ攻めの一手──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(前編) | あしたのコミュニティーラボ
島根県の七類港から菱浦港までフェリーに揺られること約3時間半。ここ海士町(中ノ島)は、隠岐諸島にある、33.52k㎡の小さな町だ。西ノ島町(西ノ島)、知夫村(知夫里島)の2町村とともに「島前エリア」と呼ばれている。このエリアでは「島前高校魅力化プロジェクト」(以下、魅力化プロジェクト)が進められており、いまでは全国から年間1,000人にもおよぶ視察団が訪れるほどになった。教育改革の先進事例として注目を集める理由に迫った。

島前高校出身の“若者”が未来の海士町を切り開く ——海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(後編)

財政危機を住民と一緒に乗り越えた過去

2007年頃から隠岐諸島の3町村と島前高校による協議会が立ち上がり発足した「魅力化の会」。そこで抽出された課題解決を続けるなかで、「島前高校魅力化プロジェクト」として本格的に活動を開始した。それが今、日本だけでなく海外からも注目を集めている海士町の挑戦のはじまりだった。

当初から、島前高校と一緒に教育改革に取り組んだ背景には海士町特有の考えがある。海士町役場の財政課長、吉元操さんはこう振り返る。

「当時は特に若者の流出が激しく、人口がどんどん減っているような状況でした。行政の基軸は人口対策というのが海士町の考え。生徒数が減り、島前高校の統廃合の話があった時に高校の存続は島の存続に直結していると捉え、高校を魅力化し生徒数を増やさなければと考えたんです」

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海士町役場財政課長 吉元操さん

今でこそ、多くの注目が集まるようになった海士町だが、10数年さかのぼれば、他地域の市町村と同様に「平成の大合併」の決断を迫られていた過去がある。合併か、単独町政か──海士町役場は何度も住民と話し合いの場を設け、自立の道を選択した。

しかし、そのすぐ後で「三位一体の改革」による地方交付税の大幅減額という財政ショックが海士町を襲った。まちをなくすわけにはいかない。2002年の町長選挙で当選した山内道雄町長のもと、改革に動きだした。

役場を「住民サービス総合株式会社」と自称するまちの職員は、産業振興を進める一方で、給料カットという痛みを率先して受け入れ、その一部を子育て支援などに回した。すると危機感が伝播したのか、住民からも寄付金が集まるようになった。まちを守るという共通意識のもと行政と住民が一体になったことで、この難局を乗り越えることができた。

この10数年におよぶ町政改革に携わってきた人物が吉元さんだ。大学卒業後に島を離れた海士町出身のUターン組で「長男だったし、30歳までには島に戻ろうと決めていたけど、都会の暮らしは楽しく、島に帰るのは嫌だったんですよ(笑)」とふるさとに戻ってきた時のことを振り返る。

しかし島に戻り生活を再び続けているうち、だんだんと都会よりも島の生活ほうがおもしろいと思うようになっていった。

「基本的にはこの島を守りたい、その思いだけがある。大金持ちにはなれないかもしれないけど、むちゃくちゃな貧乏にはならないし、犯罪なんてものとも無縁。もしかしたらここには、理想的な社会があるんじゃないかと思っています」

山内町長をはじめ吉元さんら海士町役場が中心となって進めた町政改革は、町政の経営指針「自立・挑戦・交流」を文字どおり実現したものだ。

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役場に掲げられた指針は、海士町が起こすアクションの軸となっている

高校がなくなると、島は超過疎化が加速する

財政改革や産業振興を進める一方で、海士町には差し迫った課題があった。それが人口流出に伴う超過疎化問題だ。少子高齢化による島民人口は、戦後間もない頃の約7,000人をピークに、現在は約2,400人にまで減少。島前エリア3町村唯一の高校である島前高校でも生徒数が減少し、このままでは統廃合を選択せざるを得ない。

島から高校がなくなれば、高校進学するために子どもは中学卒業とともに島外に出て行かざるを得なくなる。親は子どもの生活援助をするが、その負担は大きい。ならばいっそのこと家族一緒に島外へ出た方が経済的負担はまだ少ないし、島を離れても仕事はある。

かくして、人口流出は加速し、やがて町の担い手はいなくなる──。島前高校の存続は、島前3町村の超過疎化に直結する大きな課題だったのだ。そこで、海士町は教育改革に乗り出すことになる。それが「魅力化の会」を基盤に、現在推進されている「島前高校魅力化プロジェクト」だ。

島の資源は景勝地ではなく、“人”である

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「魅力化プロジェクト」の舞台、島前高校

「魅力化プロジェクト」は、従来の知識教育中心の授業を大きく変えた。現在、島前高校では、地域に根ざしたキャリア教育が柱の1つとなっている。1年次は「学習の土台を築き、視野を広げ、進路の方向性を定める」。そのカリキュラムのなかには「夢探究」という授業があり、多くの外部講師や地域の人との交流によって子どもの夢を育んでいる。

2〜3年次には「特別進学コース」と「地域創造コース」に分かれる。前者は進学を目指す生徒の学力を伸ばし、後者では島の地域資源を活用。体験・課題解決型の学習をうながす。

「魅力化プロジェクト」の取り組みの1つである、島外から学びにくる「島留学」制度は、島外の子どもにとっては異文化環境のなかで、学力だけでなく課題解決型能力を磨くことができる。一方で島の子どもにとっては、島外の子どもとのコミュニケーションを通して、多様な価値観に触れることができる。このように「島留学」制度は双方に良い刺激をもたらす効果を生んでいる。

この制度の成果はすぐに現れた。2009年に開催された、全国の高校生が地域観光プランを持ち寄る第1回観光甲子園で、島前高校の生徒がつくった「ヒトツナギ」観光プランが「文部科学大臣賞」を受賞したのだ。島前エリアは景勝地としても魅力だが、それ以上に地域で暮らす“人”こそが観光資源になり得るのでは——そんなことに気づいた生徒が、島民との交流を通し、島前エリアを知ってもらおうとする観光プランを考えた。

このアイデアは、島の魅力をみんなで考えているときに「島外から入学した生徒の気づきから生まれたものだという。現在は「ヒトツナギ部」の活動に発展。生徒が自主的な地域課題解決に取り組んでいる。魅力化プロジェクトにより、学力+αを伸ばせる環境が整いつつあり、最近は島外からの進学者も後を絶たない。1学級だったクラス編成は、現在2学級に編成できるまでになった。

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島前高校ヒトツナギ部(提供:島前高校魅力化プロジェクト)

「よそ者」が地域課題を解決するために必要な心得

そもそも「魅力化」を思い立ったとして、すぐに実行できるものなのだろうか。吉元さんは次のように活動当初を語った。

「島なので、なかなか人材が見つからない。だからまず最初は、ネットワークを広げるという意味で、東京の大学に行ったりしてどんどん交流の環を広げていきました。」

「魅力化プロジェクト」成功の過程で重点施策となったのは、“Iターン”人材の活用だ。吉元さんとともにプロジェクトの中心メンバーとして活動している岩本悠さんも、Iターンで海士町に移住してきた。学生時代には世界の途上国を旅して地域開発の現場を見てまわり、大学卒業後に入社したソニーでは人材育成や組織開発に取り組んだ。

2006年5月の当時、町の教育改革としてはじめていた「人間力推進プロジェクト」で出前授業が開かれ、岩本さんはその第1回目の講師として島を訪れた。そこで吉元さんや職員たちから地域課題を聞いているうちに、海士町で教育改革をしていくことを決断したという。

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島前高校魅力化プロジェクト 岩本悠さん

「先進国がやってきたことが途上国の問題にもつながる。都市と地方の問題もそんな構造と似たようなところがあります。人づくりとまちづくり、もともと僕がやっていたことのテーマに共通するところがあると感じました。どこの『地方』でも抱える問題に対し、海士町で新しいモデルをつくる。それを実現すれば、日本や世界の課題解決に貢献できると思ったんです」

一方で、最初から高校の存続危機がやがて島の過疎化に繋がるということを島全体で意識共有できていたわけではなかった。吉元さんと岩本さんが中心になり、島民や高校関係者と何度も話し合い、危機感を共有していった。「そうして土台が築かれ、やがて本格的なワーキングチームができ、新しい島前高校のカリキュラムを1年ずつ練り上げてきた。まだ完成したとは思っていないけど、1つの可能性を示すことはできた」と岩本さんは話す。

一方で、海士町に限らず「よそ者」が地域コミュニティーに入り込むことに苦労するという話はよくあることだ。岩本さんの場合は、どのように海士町のコミュニティーへ入っていったのだろうか。

「1つは『温故知新』という考え方を大事にすることでした。島の歴史や文化、価値観が未来にどのように紐付けできるか、という発想をしました。自分自身、もともと地域イベントに出るようなタイプではなかったけど、島の伝統工芸である島前神楽に参加し、そこで教わるなかで島の価値観も学べた。ライフスタイルも変わったし、東京にいたら、こんなに家族のことを大切にしなかったかもしれません——」

Uターンの吉元さん、Iターンの岩本さんがタッグを組んで進められた魅力化プロジェクト。高校統廃合によって、島は超過疎化地域となってしまう。そんな危機感を島全体に共有し、地域やIターンのような外部人材を巻き込んで教育改革の大きなうねりを生み出した。後編では、海士町式の新規人材の取り入れ方や、魅力化プロジェクトの今後の展望について話を聞いた。

島前高校出身の“若者”が未来の海士町を切り開く ——海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(後編)へ続く

関連リンク
隠岐郡海士町
島前高校魅力化プロジェクト


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