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「人」への共感が示すソーシャルメディアの可能性

2012年05月07日



「人」への共感が示すソーシャルメディアの可能性 | あしたのコミュニティーラボ
ソーシャルメディアの誕生は、個人に情報が伝達される仕組みを大きく変えました。企業はそれを踏まえ、ユーザーとのコミュニケーション方法を再考する必要がありそうです。長年インターネットによる情報発信に携わっているコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)氏にお話を伺いました。

個人が情報を自由に発信し、受け取る時代

── 佐藤さんはインターネットの黎明期から、ホームページやブログで情報を発信されています。近年ではソーシャルメディアが流行していますが、どんな変化を感じられていますか?

佐藤 ソーシャルメディアの誕生で、情報を受け取った個人のアクションが大きく変わったと思います。昨年は国内外で象徴的な出来事がありました。一つはエジプト革命です。FacebookやTwitterでデモの呼びかけが始まり、カリスマ的なリーダーが不在のまま、一般人が団結して行動を起こすまでに至りました。日本では東日本大震災のとき、ソーシャルメディア上で、大小さまざまな被災者支援活動が生まれています。私がリーダーを務めている復興支援プロジェクト「助けあいジャパン」の仲間たちも、ソーシャルメディアを通じて集まりました。

ホームページやブログを始めて17年半になりますが、このように多くの生活者を動かすインターネット上の“うねり”は初めて目撃した現象です。少し前にブログがとても盛り上がっていた時期がありましたが、そのころに東日本大震災が起きても、これほどまでの動きは生まれなかったでしょう。アクションするタイプの人(たとえばブロガー)がばらばらに存在していたからです。それを横に結びつけたのがソーシャルメディアですね。また、フォロワーやFacebookの友達、フィードを購読している人など自分のソーシャルグラフ(注釈:ソーシャルグラフ(Social Graph) ソーシャルメディア上で可視化できる、web上での人と人とのつながりや結びつきを示す概念。ユーザーは、このつながりのもとに情報を公開したり共有することができる。現在、さまざまな領域でソーシャルグラフを利用したサービスの提供が検討されている。に、もしくはその一つ向こうに被災者が実際にいることも大きかったと思います。友人のつながりの向こう側に被災者がリアルにいる。だから他人事では無く、自分事になりやすかったのだと思います。

── ソーシャルメディア上の個人は、具体的にどのような動きをしていたのでしょうか。

佐藤 ブログ時代と違うのは、共感・賛同したらワンクリックでそれを広めることができる、というところです。たとえばTwitterならフォロワーのつぶやきをそのまま広める「リツイート」、Facebookなら賛同や好感を表す「いいね!」や、記事を自分の友達に紹介する「シェア」ですね。いままで発信することのハードルが高かったという人も、ワンクリックで情報の拡散に参加できるようになりました。

── 情報の発信に、個人でも気軽にできるようになったと。それでは、コンテンツの内容や届き方は変わったといえるのでしょうか?

佐藤 「仲間事」という新しいニュースジャンルが生まれたと思います。SNSで仲間たちの私的な情報が流れてくるようになりました。シリアの暴動や原子力発電所などに関するニュースが「世の中事」としてマスメディアで伝達されるように、「寿司を食べた」「恋人ができた」「風呂場で転んだ」といったごく身近なニュースが激増した。そしてそういうニュースと世界的な事件のニュースが対等に自分のニュースフィードに届けられるのです。

広告としての情報発信も、「仲間事」というジャンルによって変わりました。仲間に広めたくない情報は広まりません。また、いままで興味がなかった商品や広告も、友人に薦められれば興味を持ちます。ソーシャルメディアで発信される友人の「共感」や「賛同」をベースにすることで、いままで届かなかったはずの人にも情報が届きやすくなったのです。

社員を「口コミの起点」として考える

── では企業が情報を発信する際は、どのような点に気をつけるべきでしょうか。

佐藤 まずは、情報発信の主導権がもはや企業側にないことを自覚しないとまずいと思います。いままでは出稿量などをコントロールしてどのくらい生活者に伝わるかを計算できました。でも、もう主導権は企業側ではなく生活者側にあります。コントロールできません。生活者が広めてくれなければその情報は広まらない。生活者が友人・知人に伝えたくなる情報でないと広く拡散しないことになります。生活者は、その商品自体に共感して購入するというよりも、その商品が好きな友人や知人に共感して買う傾向があります。そういう意味で、クチコミの起点として社員より強いものはないと思います。社員がFacebookに自社製品のことを書き込んだら、その友人たちは優しく「いいね!」や「シェア」などをしてくれます。そう、友人は優しいんです。その「いいね!」や「シェア」が共感とともに情報として広まっていきます。社員が心から共感できる企業経営や商品開発をすれば、自ずとそのような拡散現象が起こります。

── 開発者や生産者の顔が見えると安心することに似ていますね。

佐藤 ですね。ただ、情報を発信するには、タイミングや内容も吟味しなくてはいけません。たとえば人気があるお笑い芸人の鉄板ギャグでも、会場が冷えていたらスベります。笑うのはお客さんで、主導権は芸人にないからです。同様に、トップダウンで情報を広められる時代が終わったいま、的確に状況を見極める必要があるのです。

情報発信の仕組みが変わったことを自覚しなくてはいけないのは、企業だけでなく国も同じでしょう。たとえば、アメリカで推し進められている「オープン・ガバメント(注釈:オープン・ガバメント(Open Government) インターネットを利用して行政が公開性を高める動きのこと。積極的に情報を開示することで透明性を担保するばかりでなく、国民・市民の行政への参加、行政との連携を目的としている。現在、日本をはじめ世界各国の政府が推進している。」を日本でも実現するためには、国と個人のコミュニケーションを変えなくてはなりません。一方的に政府が出した情報を、国民が受け取る時代は終わりつつあります。

ソーシャルメディアが普及する世界

── まだソーシャルメディアは充分になじんでいない人も多くいると思います。たとえば高齢者の方など、そういったサービスを使っていない方々のことはどのようにお考えでしょうか。

佐藤 まだパソコン自体を使っていない人も多いですからね。そういうものが浸透しないのは企業の責任もあると思います。誰でも簡単に使える製品や環境があれば、便利なサービスは普及するものです。過保護になりすぎず、ITリテラシーが低い人でも使えるわかりやすい製品を出せば、パソコンもネットも、ソーシャルメディアももっと広がっていくと思います。

遠く離れていてもつながるインターネットでは、物理的な距離はほとんどありません。心理的な距離を感じることも少なく、私の場合は高校生くらいなら年の差もほぼ気になりません。ソーシャルメディアのつながりが広がれば、世界中の出来事が「自分事」「仲間事」になります。たとえば、地方に住んでいる高齢者が都会に住んでいる息子夫婦や昔の同級生、市町村、企業などとオンラインで交流すれば、もはや無縁社会ではなくなり多縁社会も見えてきます。インターネットを通じて多くの縁が生まれるように、私も尽力していきたいと思っています。

佐藤 尚之 プロフィール

コミュニケーション・ディレクター。
1985年、㈱電通入社。JIAAグランプリ、ACC賞など受賞多数。95年より個人サイト「www.さとなお.com」を運営。2011年4月に独立、ソーシャルメディアを中心にした次世代ソリューションを提供する㈱ツナグ設立。電通モダンコミュニケーションラボ代表、公益社団法人「助けあいジャパン」理事長、内閣官房参与を兼任。

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