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「日本の豊かさのゆくえ 〜この時代に何を選択するか〜」
座談会レポート

2012年08月31日



「日本の豊かさのゆくえ 〜この時代に何を選択するか〜」<br /> 座談会レポート | あしたのコミュニティーラボ
2012年8月22日(水)、東京・渋谷の「Ustream Studio渋谷」にて、豊かな社会のあり方について考える座談会「日本の豊かさのゆくえ」が行われました。モデレーター役を務めたITのアーキテクチャに詳しい社会批評家・濱野智史さん、ソーシャルビジネスや地域産業振興などを専門にする政策学者の西田亮介さん、国内外のNPO活動を支援する日本財団の町井則雄さんの3人は、どんな観点から「豊かな社会」像にアプローチしたのでしょうか。当日の模様を、詳しくレポートします。

日本人が自覚していない「豊かさのストック」

経済的な豊かさは達成して、あとは現状維持か右肩下がりか。「もうおカネじゃないよね」という共通理解をなんとなく皆が持っているこの時代に、「豊かさ」からどんなことを思うのか。

そんなふうに濱野さんが二人に投げかけるところから議論は始まりました。
                                                
西田さんが挙げた「豊かさ」とは、「多様な選択肢の中から、実際に選び取れる」社会のこと。日本の場合、公共サービスの提供者としての政府や自治体、企業に比べると、新しく登場したNPOや社会起業家などの存在感が依然として薄い。片や選び取るほうがリテラシーを養う機会に乏しく、NPOや社会起業家といった新しい主体への関心が薄い。「選択肢」も「選ぶ側」もまだ豊かとはいえない、というわけです。

町井さんが気になっているのは「新しいものを選び取るリテラシーのなさ」。たとえば今の学生は「バブル世代がうらやましい」と言うけれど、世界を見渡せば日本のバブル経済時よりも高い成長率の新興国がある。そこへ飛び込めば同じような経験ができるのに、どうして国内にとどまっているのだろう――。モノやインフラは豊かになったのに、むしろそれを受け取る力、心の持ちようが豊かでなくなったのでは、と感じているようです。

とはいえ、必ずしも若者のマインドだけには還元できない、と言うのは西田さん。そもそも日本はアジアの新興国と同じ土俵では戦えないし、戦うべきでもない。成熟した国と社会にふさわしい「戦い方」があるはず。実際、企業も「グローバルな人材」を求める一方で、現実には海外に出たくないローカルで安定志向な若者が増えている。この両極端に引き裂かれていて、現実的かつ穏健な解、言い換えれば多くの人が納得して選択できる中間的な選択肢が存在しないことが、日本の豊かさにかけているものではないか。

その指摘にモデレーターの濱野さんは、海外のマネをするのはもうやめて、「日本ならではの豊かさ」という視点を持てれば、と提議します。

西田さんの答えは、日本人の自覚していない「豊かさのストック」を再発見していくことかもしれない、ということでした。ここでいう「豊かさのストック」とは、日本がこれまでに培ってきた資源の蓄積のこと。社会的諸条件の差から、一人あたりGDPなどの一時的なフローでは新興国に及ばなくなったとしても、日本が近代化してから150年の間に培ったストックには、新興国と比べると大きなアドバンテージがある。それをフローにつなげていくことこそ、歴史的・社会的諸条件をふまえた「日本ならではの豊かさ」を再検討するためのヒントになるのではないか、と西田さんは続けます。たとえば、日本人にとっては慣れ親しみ、しごく当たり前の存在に見えてしまう、均一化された品揃えの小売チェーン、大規模かつ複雑にもかかわらず定時運行を可能にする地下鉄網のネットワーク、GPSを搭載し運転手の知らない場所にも行けるタクシー網。東アジアからの観光客はこれらに驚きの声を上げるのだそうです。

また、町井さんも、たとえば日本の大企業からスピンアウトした技術者のスキルを世界のBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)市場に活かし、あわせて若者にもチャンスを与えれば、日本企業が築き上げたビジネスのノウハウによって貧困問題を解決できる可能性を指摘しました。これもまた「豊かさのストック」といえるのかもしれません。

つなぎ、組み合わせるためのソーシャルメディア

豊かさのストックは確かにあるけれど、バラバラに存在している。それらをどうつなぎ、組み合わせてフローにしていくのか。議論の道筋が見えてきました。

財団で企業とNPOを橋渡しする仕事に携わってきた町井さんは、東日本大震災の被災地とNPOをつなぐプロジェクト(つなプロ)で、リアルタイムに避難所の状況を把握し支援できた理由として、クラウドコンピューティングの活用を挙げます。これはNPOと企業のノウハウ、リソースの連携によって初めて成し遂げられたことであり、支援情報にツイッターが活躍したことも合わせ、ICTとソーシャルメディアの活用が、豊かさのストックをフローにつなげていくのに大きな役割を果たすのは間違いない、と実感しているそうです。

ソーシャルメディアを使って個人がつながり合えば、勝手に資源を持ち寄って幸せに暮らしていける豊かな社会ができそうなのに、どうやらそれを阻害している要因がありそうだ。この点で3人の問題意識は共通しました。

濱野さんと西田さんはソーシャルメディアのリテラシー教育がまったく成されていないことを指摘。さらに西田さんは、日本企業と外資系企業のソーシャルメディアポリシーの違いについて言及しました。イノベーティブな外資系企業は「新しい技術を学び、専門知識を使い社会に対して貢献する」といった外向きの活用姿勢が先に来て、あとから注意事項を列挙するのに対して、おおむね日本の大企業は「個人情報を漏えいしない」など内向きの「べからず集」だけであることに疑問を呈します。

多くの大企業はソーシャルメディアの活用に対して腰が引けている。だからソーシャルメディアでネットワークを築いてきた学生も、就活の時点でそのつながりをリセットしてしまう。つながるポテンシャルを持った人材を活かせないと企業の将来性と持続性は危うい、と町井さんも警鐘を鳴らします。

これに対して西田さんは、ボランティアやNPO活動に熱心に取り組んだ学生たちの多様な能力や価値観を、企業が価値の生産に活かすことができれば、もともと日本企業は相対的に資源を蓄積しているので、社会的活動と企業活動が互いによい影響を与え合い、豊かさの芽が出てくるかもしれない、と企業が持つ可能性の面を示唆しました。

多様な選択肢への道は両極端の中間にある

町井さんと西田さんによれば、NPO活動に参加する若者は総じて優秀です。2人が感じているのは、「リスクに対する感度の高さ」。将来に対する危機感、想定されるリスクを先取りして社会のために自分の力を使うべき、と本能的に感じ取れる人たちの問題意識や嗅覚は優秀で、それは自然の成り行きと町井さんは考えます。

そうした人材が企業活動とゆるやかに連携できることが、日本のストックの豊かさを踏まえつつ、多様な選択肢を選べる社会につながるはず。にもかかわらず大企業の正社員や公務員になることが幸せへの道、といった単線志向が相変わらず根強い。濱野さんは理想と現実のギャップの大きさに慨嘆します。

それでも希望はある、と町井さんは一つの事例を挙げました。
単にモノの運搬が仕事と考えていた宅配便会社の社員の方が、流通機能がマヒした東日本大震災のとき、モノを届けて多くの人に感謝されたことで、自分たちのビジネスが社会の課題を解決していたことに気づいた。そういう人が近い将来、企業の中核を担うようになったとき変化が起きるのでは、と期待を口にします。

当日は、USTREAM配信で生中継されており、ツイッターで意見や疑問を募集していました。西田さんは、「アメリカで優秀な学生がNPOを志望するのはなぜか」という視聴者からの質問に答える形で、アメリカでは多様な経験と優れた能力を持つ学生の選抜機能として企業がNPOに着目していることを紹介し、日本でも日本の非営利セクターと企業社会の双方のニーズをきちんと把握し、それらをすり合わせる作業が必要、と指摘しました。

リスクをとって変化を恐れない人材を、社会がどう活用できるのか。そのためには、行政・大企業・ベンチャー企業・非営利団体と、各セクターが縦割りに分断されている社会の壁をゆるやかに壊し、橋渡しをして、間を地道につなげていく人たちの存在が不可欠、と3人の意見は一致しました。

今回の議論は、「そもそも豊かさには単一の解答などない。単一の解答を出そうとすることそれ自体が豊かさとは縁遠いこと」という西田さんの指摘に集約されるのかもしれません。「大企業かNPOか」「グローバルかローカルか」といった、極端な二者択一の中間にこそ多様な選択肢への道があり、そこを歩くには同調圧力に負けず自分の頭で考えるしかない、というわけです。

最後に、ここ数年で注目を集める社会起業家の存在に触れたのは町井さん。ご自身も社会起業家の活動に希望を抱いている一人として、その可能性は意外に身近なことにあるのでは、という意見が印象的でした。「お互いにありがとうと言える民度は世界一」であることに私たちが気づくだけで、豊かさへの可能性が広がるのではないか。そんな他者への感謝、思いやりから始まるつながりも、日本の豊かさを測る指標の一つといえるのかもしれません。


(編集部より)

ここでは取り上げられなかった内容も多岐にわたります。白熱した座談会の様子を、ぜひ下記のUSTREAMアーカイブからご覧ください。

■座談会中のつぶやきまとめ


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