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タブレットが浪江町に“新しいつながり”をつくる ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(4)

2015年04月13日



タブレットが浪江町に“新しいつながり”をつくる ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(4) | あしたのコミュニティーラボ
今年3月「あしたのコミュニティーラボ」で取り組みを紹介した「浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業」では、福島県浪江町のきずな再生のために取り組まれたタブレット開発プロジェクトの全体像と、浪江町をバックアップし続ける一般社団法人コード・フォー・ジャパンの取り組みをお伝えした。今回は、その続編。新年度を迎えたプロジェクトの今を紹介するとともに、行政、NPO団体、大企業×ベンチャー企業など、多くのメンバーが交わりつくりあげていった「オープン調達」の開発プロセス、それが民間企業にもたらした波及効果を全3回でレポートする。

“アジャイル型”開発が浪江町タブレットにもたらしたもの ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(5)
未来を担う85年世代が感じた、これからの働き方 ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(6)

町民が町民を呼び、きずな再生の輪が広がる

「浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業」(以下、きずな再生・強化事業)は、東日本大震災によって県内外に分かれて居住している浪江町町民にタブレット端末を配布し、町民同士の交流を促進するプロジェクト。まずは、このプロジェクトの調達段階、3月頭にお届けした“オープンな調達”の流れを整理しておこう。2014年4月からスタートし、福島県浪江町役場復興推進課が一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下、CFJ)とともに推進してきた。
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プロジェクトの大まかなスケジュール

町民に、本当に使ってもらえるタブレット端末を開発しよう──。そんなスローガンのもと、町民へのヒアリングとペルソナづくり(4~5月)、町民を交えてのアイデアソン・ハッカソン(5~6月)、仕様書策定と事業者選定(7~8月)を行い、事業を受託した富士通株式会社による設計・開発が9月からスタート。2015年1月末にはついにタブレット端末が希望世帯に配布された。その間、CFJから浪江町フェローとして、吉永隆之さん、小俣博司さんが役場に派遣され、プロジェクトの推進や開発を全面的にサポートしてきた。
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開発の前段回までの大まかな体制図

タブレット端末の配布対象は「2011年3月11日時点で浪江町に住民登録があった人」。約1万世帯が対象となり、3月末の時点で希望のあった約5,000世帯まで配布が完了した。タブレットの評判が口コミで広がり、噂を聞きつけて後から申し込みをしてくるケースもあり、4月以降も希望世帯への追加配布を続けている。2015年度もプロジェクトは継続。すでに町民向けコールセンターが設置され、稼働を開始したほか、プロジェクトマネージャーやデザイナーを務める新たなフェローも採用予定だ。

講習会を町民同士の新しい交流の機会づくりに活用

タブレット端末の配布と併行して、東日本中心に開催された住民向けのタブレット講習会も盛況だった。集会場やイベントホールを貸し切って開催され、タブレットの機能紹介からLINEによるテレビ電話のやり方までレクチャーする講習会には、100名以上の町民が集まる回もあり、プロジェクトメンバーたちの予想を上回る盛況ぶりだった。また行政区ごとに小規模な講習会を開くこともあり、浪江町の役場に伺った日は、浪江町役場二本松事務所で浪江町室原地区の町民を対象にした講習会が開かれていた。
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講習会は、地域によってプログラムをカスタマイズ。カメラ利用方法などが特に丁寧に教えられた

「『なみえ新聞』は、平日夕方5時以降に配信されます。では、実際に記事のタイトルを押して、記事を見てみましょう。もし記事の表示が小さいなと思ったら、(ピンチアウトの動作を示しながら)こうやって指を2本使って拡大することもできますよ」
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講習会当日は30名の住民が集まった。中央で説明を行うのが浪江町役場復興推進課 小島哲さん

この日の講習会で講師を務めていたのは、浪江町役場復興推進課の小島哲さん。集まった約30名の町民に向け、タブレットの使い方を丁寧に説明する。タップやスワイプ、文字入力といった基本操作はもちろん、搭載アプリの使い方をわかりやすく解説していった。参加者同士は「LINE」を使ってメッセージやテレビ電話を体験。大いに盛り上がっていた。

離ればなれになった町民の近況報告に活用される「写真投稿」

講習会に参加した町民にも話を聞いた。現在、福島市内で避難生活を送る50代の小澤英之さんは「震災前には数歩歩けば隣近所に知っている人がいたけど、今はどこにいるかもわからず、近くにいた人がばらばらになってしまった」と、浪江町民の切実な実状を話す。講習会では「おもしろいね!」と、LINEのテレビ電話機能を使い友人と会話を楽しんでいた。
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(左から)浪江町役場復興推進課 課長 宮口勝美さん、小澤英之さん

同じく室原地区の町民で、浪江町役場復興推進課の課長でもある宮口勝美さんは、タブレットの利用のされ方について次のような可能性を示す。「高齢者はなかなかこうした集まりに出てこられません。室原のなかでも細かなグループ同士で連絡が取れないことがあるから、LINEでグループをつくって連絡しあえる。写真投稿の機能でも、みんなで写真を見せ合うなどして、つながりを保てればいいなと思います」。

タブレットの活用度合いとしては、福島民報などさまざまな媒体の情報を発信する「なみえ新聞」は「日に1,400回ほど閲覧されている」(陣内さん)。また、「なみえ新聞」とともに搭載されたオリジナルアプリ「なみえ写真投稿」の評判も上々で、当初、日に5件程度と想定されていた写真投稿だったが、実際は毎日20件近くの投稿がされているという。それぞれが離れた場所に避難する町民同士の近況報告に役立っているようだ。

孤立していた町民も、タブレットがきっかけで交流増

浪江町のみならず、避難生活を続ける人々が抱える課題が、如実に表れているデータがある。2014年8月に9,749世帯を対象に実施された「浪江町住民の意向調査」(復興庁・福島県・浪江町共催)だ。
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浪江町役場復興推進課 小島哲さん

調査のなかで、浪江町に関する情報入手経路として「浪江町広報誌」は87.0%と高い数値を示すものの、以降、地方新聞(47.2%)、テレビ(39.0%)、口コミ(32.9%)、フォトビジョン(29.3%)、浪江町のWebサイト(18.1%)、メールマガジン(14.9%)など、軒並み「50%以下」の低い数値を示した。タブレット端末は、それらの代替手段になり得るものである。やがて「タブレット端末」が高い利用率をもってここに加わることが期待されている。

しかし小島さんは、タブレットを単なる“情報入手経路”にとどまらせるつもりでないことを強調する。「初年度の取り組みでなんとか入り口はクリアしましたが、これはあくまできっかけに過ぎない。タブレットを活用して新たなつながりを再構築してもらいたいというのが本意であり、継続して使ってもらうことが本来の目的。タブレットを納品したから終わり、ではすまされません」。
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東京・汐留で開催したタブレット講習会の様子。この会場には100名以上の町民が集まった

ある仮設住宅では、タブレットの使い方をマスターした町民が同じ仮設住宅の町民に使い方を教える、というケースもあるという。「慣れない避難生活で、それまで孤立しがちがったけど、タブレットをきっかけに交流が増え、生きがいも増えたと聞いています。そうやって交流のきっかけが増えることが何よりもうれしい」と小島さん。これから浪江町民の生活に、タブレット端末がどんな変化をもたらすのか期待が膨らむ。

タブレット講習会を通じ、町民同士のきずな再生にむけた確実な第1歩を踏んだことを実感している浪江町役場の小島さんと陣内さん。彼らの熱い気持ちをそのまま引き取り、町民に“新たなつながり”をもたらすタブレット端末は、どのような開発プロセスをたどりつくられたのだろうか。次は開発メンバーのインタビューをお届けする。

“アジャイル型”開発が浪江町タブレットにもたらしたもの ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(5)へ続く
未来を担う85年世代が感じた、これからの働き方 ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(6)

関連リンク
浪江町 意向調査


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