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“アジャイル型”開発が浪江町タブレットにもたらしたもの ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(5)

2015年04月14日



“アジャイル型”開発が浪江町タブレットにもたらしたもの ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(5) | あしたのコミュニティーラボ
浪江町の“オープンな調達”は、町民や事業者に対して「調達プロセス」をオープンに示したことで、多様なアイデアが集まり、「本当に使ってもらえるタブレット端末」を開発することができた。では、配布に至るまでの「開発プロセス」は、どのような方法でなされたのか。2回目からは開発ベンダーの立場から見た“オープンな調達”の姿を追っていきたい。

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タブレット開発に不可欠だった“アジャイル型”

設計・開発事業の開発側のプロジェクトマネージャーを務めたのは、富士通株式会社の山口真幸さん。山口さんのもとに浪江町のプロジェクトの話が届いたのは、浪江町でハッカソンが開かれていた2014年6月頃のことだった。「その時点で私が聞いていたことは、“ハッカソンで決めたことを、アジャイル型で開発していく”という内容だけでした(苦笑)」。
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富士通株式会社 イノベーションビジネス本部 ソーシャルイノベーションビジネス統括部 山口真幸さん

アジャイル型とは、満たすべき機能を細かな単位に分け、優先順にシステム開発を行い、リリースとフィードバックのサイクルを何度も反復させていく開発手法だ。対義語的な意味を持つ「ウォーターフォール型」は各工程を順に行っていく、比較的従来型の手法となる。
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開発チームを加えたプロジェクトの相関図

細かなサイクルを何度もまわしていくアジャイル型開発では、顧客を巻き込んでスクラム(チーム)を組む。浪江町の場合、フェローが役場と設計・開発チームの橋渡し役を担うことで、町民の声を開発にまで落とし込もうと計画されていた。「本当に使ってもらえるタブレット端末」が大命題である本プロジェクトにおいて、アジャイル型開発は当初からの絶対条件だったのだ。

3社協働で挑んだ理想のタブレット開発

これまで「どうぶつクラウド」「高齢者ケアクラウド」など、自社サービスの案件でアジャイル型開発に携わってきた山口さん。エンジニアチームには、アジャイル型のソフトウェア開発を得意とする株式会社富士通ソフトウェアテクノロジーズ(以下、FST。開発チームリーダーは阪口学さん)が加わった。
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株式会社Eyes,JAPAN 開発部マネージャー兼デザイナー 行田尚史さん

一方、タブレット端末のUI/UXデザインには、グループ外のベンチャー企業がパートナーとなった。福島県会津若松市にある株式会社Eyes, JAPANだ。デザインチームのリーダーである行田尚史さんはアジャイル型開発について次のように話す。

「富士通さんが培ってきた体系的なシステム開発手法を使いながらアジャイル型開発を行うのは当社でもはじめての経験。普段からウォーターフォール型案件が比較的多いのですが、そのなかでもスピードを速く対応するというのがEyes, JAPANの手法です。100点を1発で狙うのではなくて、80点をたくさん投げてみる。そのやり方を日頃からマスターしているので、今回の案件にもマッチしたと思います」

こうして「富士通×FST×Eyes, JAPAN」による設計・開発チームが結成された。その後、プロポーザルによる事業者選定に臨み、9月に富士通の受託が決定。翌年3月末の契約期間終了まで、3社による協働プロジェクトが推進されることとなる。

空気を共有することこそ、ぶれないものづくりへの近道

FSTは新横浜、Eyes, JAPANは会津若松や新潟などが拠点となっている。チーム内の情報交換は、チャットツール「slack」でなされ、FSTとEyes, JAPANの事務所では「Skype」も常時接続された。山口さんや浪江町フェローの吉永さんもそこに加わり、毎日、朝会・夕会を行うなど、遠隔地同士でのコミュニケーションは万全だった。
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(左から)浪江町フェローの小俣博司さん、吉永隆之さん

「いつもSkypeで顔を合わせているから、“空気”を共有できたと思います。slackではそれこそ、絵文字を使ってコミュニケーションするのは当たり前でした。空気が共有できていることで、詰まったらすぐ話し合うを繰り返して前に進める。大企業とベンチャー企業の合同チームという枠を超えて、1つのチームになって仕事ができました」(行田さん)

しかし開発スタート時は、浪江町役場、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(以下CFJ)、浪江町フェロー、設計・開発チームそれぞれの足並みを揃えることに、苦心する部分もあったようだ。そこで、開発に着手する前に約1カ月を割き、しっかりとコミュニケーションを取った。浪江町役場やフェローの2人、さらにはCFJのメンバーも交え、徹底的に話し合った。「でも、そこでしっかりとコンセプトを決めていたから、その後はぶれなかった」と山口さん。話し合われたのは、「何のためにタブレットをつくっているのか」、そして「誰がどうなれば成功なのか」ということだった。
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富士通グループ会社内にプロジェクト室が設けられた。その壁には、フェローの吉永さんが書いたという事業のゴールを掲示し、メンバーは常にそこに立ち返っていたと山口さんは言う

「“町民同士のきずなを維持する”ということを、もう少しブレイクダウンして考えました。その結論として、日常的に使ってもらうには、楽しく使ってもらわないといけない。さらに、その楽しみを享受するのを“タブレットのなか”で終わらせるのではなく、これを起点に “タブレットの外”でおしゃべりできる、そんなコミュニケーションのきっかけをつくることが、プロジェクトの成功なのではないか、とメンバーみなで話し合いました」
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タブレット講習会ではじめてタブレットに触り、その機能を知っていくにつれ、自然に笑顔になる

その理想像はまさに、小島さんが話してくれた「避難生活で孤立していた町民がタブレット端末をきっかけに交流する姿」とぴったりと重なっている。浪江町役場の思いは、この時点で開発ベンダーにしっかりとバトンタッチされていたのだ。山口さんはさらにこう付け加えた。

「コンセプトや事業指針に関しての議論に開発ベンダーを入れていただけること自体、あまりないことだと思います。役場の皆さんと一緒になって考えたからこそ、私も100%納得して、エンジニアやデザイナーに要件を伝えることができました」

“ちょうどいいところ”の答えは町民が持っていた

コンセプトの策定を終えた設計・開発チームは、11~12月にかけてプロトタイプを作成。その後はユーザーテストを繰り返した。高齢化率27.3%(全国平均25.1%)の浪江町の場合、“ユーザー”の多くを占めるのは高齢者だ。最新鋭の機能が盛り込まれたようなタブレットでは継続的に使ってもらうことは厳しく、だからといって、あまりにシンプルなものだと、本来あるべき楽しさを享受させられない。
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室原地区での講習会では、町民同士が使い方を教えあうことで交流のきっかけになっていた

「高齢者を含めた誰もが使えること。そして、使って楽しいこと。双方のバランスをとって“ちょうどいいところ”を見つけようと努めました」。“ちょうどいいところ”の答えは町民が持っていた。小島さんや陣内さん、浪江町フェローの2名などとともに、山口さんら開発チームはプロトタイプを持って何度も仮設住宅に通い、ユーザーの動きを観察。観察の結果、どういうタブレットが高齢者に好まれるのかも次第に見えてきた。

「長く使ってもらえるよう、シンプルなUIを心がけました。文字を読む機会も減らし、見た目で判断できる楽しさを追求しました」と行田さん。

ユーザーの反応を参考にUIを作り直した結果、浪江町役場も設計・開発チームも納得のいくタブレット端末が完成。2015年1月末から配布される運びとなったのだった。

「どこにいても楽しめて、生活を豊かにする」ためのタブレット端末開発のポイントとなる“ちょうどいいところ”を柔軟な体制で探っていった開発チーム。そこに至るまでには、細かな改善を繰り返せる開発体制の構築と、空気を共有できるプロジェクト管理方法など、さまざまな試行錯誤があった。最終回では、同年代である開発メンバーが、このプロジェクトから感じた“企業と自治体との新しい関係性”、“コラボレーションしていく仕事方法”について伺った。

未来を担う85年世代が感じた、これからの働き方 ──浪江町タブレットを利用したきずな再生・強化事業(6)へ続く
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