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日本人の「おもてなし」は、世界基準のサービスを生み出す

2012年06月15日



日本人の「おもてなし」は、世界基準のサービスを生み出す | あしたのコミュニティーラボ
企業が新しいサービスを提供する際に忘れてはいけないのが、ユーザーへ対する「おもてなし」の心。ICT活用を考える当メディアの対談でも、さまざまな識者がその必要性を訴えています。『ディズニーと三越で学んできた日本人にしかできない「気づかい」の習慣』の著者であり、パーソナルコーチとして活躍する上田比呂志氏に、おもてなしの心を育てる極意を伺いました。

今、見られるICTの新たな潮流

── 上田さんは、これまでどのように「おもてなし」を学んできたのでしょうか。

上田 実家が老舗の料亭でしたので、小学3年生のころからお燗番として店を手伝っておりました。接客する母を見まして、人を楽しませることに憧れたのが、おもてなしに興味を持った最初だと思います。中学、高校と勉強しながら店の手伝いを続け、大学を卒業して就職する頃には、接客業に就きたいと考えるようになっていました。なかでも、サービスの最前線といわれるウォルトディズニーカンパニーで、世界中の人を楽しませるノウハウを学びたいと思ったのです。しかし英語もわからず、直接応募ができませんでした。そこで、ディズニーワールドと提携して社員研修を実施している株式会社三越に入社したのです。約12,000名の社員から、ディズニーワールドで開講するフェローシッププログラムのメンバーに選ばれるのは11名。社内試験を5回受験し、5年目にやっと合格して、フロリダに渡りました。それから1年間、11か国の人たちとともにディズニー流のマネジメント術を学びました。

── さまざまな国籍の方々と、切磋琢磨されたのですね。

上田 はい。そもそもアメリカは異文化が混在する国ですから、おもてなしもシステム化されている部分があります。ディズニーワールドでは、お客さまにサービスを提供する仕組みや、従業員のモチベーションを高く保つ構造がしっかりと確立されており、本当に勉強になりました。帰国してからもフロリダで過ごした夢のような日々が忘れられませんでしたね。また渡米できるようにと、三越で懸命に働きました。すると16年後、2度目のチャンスが赴任という形でめぐってきたのです。

── 2度目のディズニーワールドでは、どのような業務に当たったのですか。

上田 フロリダディズニーワールドエピコットセンタージャパンパビリオンの取締役として、ショップやレストランの運営と、約250名の人材育成を担当しました。世界中の人におもてなしができる最高のポジションです。お客さまだけでなく社内にも目を向け、誰もが気持ちよく働ける職場や、優れたチームワークが発揮できる環境づくりを目指しました。仕事はとても充実していました。ただ、日本にいる両親が体調を崩したため、1年あまりで退職することになりました。帰国後しばらくは介護に専念していましたが、コーチングに出会い、これまで学んできた経験を人に伝え、「おもてなし」文化を広めていきたいと思うようになりました。

今、見られるICTの新たな潮流

── 著書によれば、海外へ出たからこそ発見したこともあったそうですね。

上田 私はおもてなしを学ぶためにディズニーワールドへ行きました。だけど、帰国後、求めていた<青い鳥>は最初から日本にあったことに気づいたのです。たとえば、アメリカではお客さまがしてほしいことをはっきりと示し、従業員がサービスを提供することでチップをもらいます。対して、日本の従業員はお客さまの隠れたニーズを汲みとり、さりげなく必要なサービスをいたします。また、報酬としてチップをもらうことも、ホテルなどを除いて基本的にありません。これは世界中の人が驚愕し、まねることができない和の文化だと思います。

── たしかに、ふだん何気なく受けているサービスも、言われてみればおっしゃるとおりですね。

上田 江戸時代の町人たちが人間関係を円滑にするために取り入れてきた「江戸しぐさ」は、すばらしい習慣です。傘をお互い外側に傾け、濡れないようにすれ違う「傘かしげ」や、足を踏まれたときに自分が気を抜いていたと謝る「うかつあやまり」などは、相手への気づかいから生まれる行動にほかなりません。古くからあるおもてなしや気づかいの心は、もはや日本人のDNAに刷り込まれているのではないでしょうか。

ちなみに、アメリカにしかなかったディズニーワールドが、初めて輸出されたのは日本です。相手の気持ちを慮るおもてなしの文化がある日本にディズニーランドをつくれば、学べることがたくさんあると考えたのではないでしょうか。

── では、その「おもてなし」文化は、今後どのように活かせるとお考えですか。

上田 おもてなしや気づかいの心を、もっと世界に発信していくべきだと思います。昨年の東日本大震災でも、厳しい状況にありながらお互いのことを思いやる日本人には、各国から多くの賞賛が集まりました。世界の国々も、そのような心の力を国民に求めているからです。いつでも周りを思いやり、気づかえる国民性は、大きな武器になります。小さな島国ですから、技術力や生産力では他国にかなわなくなる日が来るかもしれませんが、ICTなどの技術におもてなしの心を組み合わせれば、日本だけの製品やサービスが必ず生み出せます。優れた文化は、数年で追いつけるものではありません。さらに日本の文化には、江戸しぐさのような宝物がまだたくさん埋まっているはず。伝承されていないそのような極意を見つけて、世界に送り出していくことも、世界の中で日本が果たすべき役割だと思います。

他者を思いやる感性は、場数を踏んで磨く

── おもてなしの心は、専門的な勉強をしなくても学べますか。

上田 もちろんです。もともと気づかいとは、日常的に誰もがしていること。相手がどうしてほしいかを感じとる力があればいいのです。センスを磨くには、すばらしいサービスに多く触れるといいでしょう。

たとえば、赤坂に「なかむら食堂」という定食屋があります。先日伺ったとき、店員さんが「いらっしゃいませ。お客さま、素敵なかばんをお持ちですね」と声をかけてくれました。マニュアル上の単なる挨拶だけでなく、お客である私をよい気分にするため、持ち物にまで目を配ってくれていたのです。さりげないほめ言葉のおかげで、私は食事をいっそうおいしく味わえました。そうした経験を持てば、自分がサービスをする側に立ったとき、同じように相手を気づかえるでしょう。おもてなしの心は、どのような仕事にも通用する魔法の力だと思います。

上田 比呂志 プロフィール

大正時代から伝わる料亭に生まれ、幼いころより実家を手伝う。1982年、(株)三越に入社し、社内研修制度にてウォルトディズニーワールドのフェローシッププログラムに参加。その後、国内、グアムでの三越勤務を経て、フロリダディズニーワールドエピコットセンターのジャパンパビリオンディレクター(取締役)として赴任。経常利益の向上や250名の部下の人材育成に尽力。現在は講演・企業研修・コーチングの活動に従事する。

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