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ソーシャルイシューは数学で解決できる? ――九大×富士通の数理共同研究(前編)

2015年04月20日



ソーシャルイシューは数学で解決できる? ――九大×富士通の数理共同研究(前編) | あしたのコミュニティーラボ
「学問としての数学が社会課題解決につながる」――。そんな“数学”の姿を目指し、九州大学 伊都キャンパスで誕生したのが「マス・フォア・インダストリ研究所(以下、IMI)」だ。英語の正式表記は“Institute of Mathematics for Industry”。直訳すれば「産業のための数学の研究所」となる。今回、数学から社会課題解決を試みる先進的な取り組みを全2回で追った。(TOP画像提供:九州大学)

“素数”が産業を動かすまで ――九州大学×富士通の数理共同研究(後編)

素数を見つける「純粋数学」、素数を役立てる「応用数学」

台風の進路予測をもとに送電網被害を予測し、故障した信号機の復旧計画の最適なプランを立案する――。そこには、進路予測のデータや被害状況、復旧シミュレーションなど、データの利活用が欠かせない。一方で、故障した信号機の復旧は人が行うため、その作業員の疲労度や心理をどう考慮するか。こういった「数理技術をベースにした社会システムデザイン」の活用が期待されているのが、IMIが対象とする世界だ。

まず、IMIのビジョンを理解するため、「数学」の世界にある「純粋数学」と「応用数学」の存在を知っておかなければならない。ごくごく簡単に言ってしまえば、純粋数学は「学問として数学を追究すること、そして体系化した理論をつくること」、応用数学は「数学の知識を別の分野で応用すること」。両者の間に明確な壁があるわけではないが、IMIは「純粋数学と応用数学の垣根を取り払って、産業界や諸科学分野と協働する」ことを大きな目的と考えている。

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RSA暗号の仕組み(編集部作成)

純粋数学と応用数学の違いを、もう少し具体的に見てみよう。たとえば、「1と自分自身以外に約数を持たない自然数」のことを「素数」といい、31と59はともに素数である。2つの数字を掛け合わせると31×59=1829。では、この「1829」を素因数分解してみよう……。実はそれは容易なことではなく、素数が巨大になれば、なおさらだ。すなわち、“1829”を分解するには“31”と“59”という「鍵」が必要で、これをもっと複雑にしたのが「RSA暗号」というインターネット上で広く活用されている技術。1970年代にアメリカで開発されている。

この素数の例でいうと、「純粋数学」で素数が発見され、「応用数学」によってそれがセキュリティなどに使われる暗号化方式が開発された。純粋数学の発展が、後々別の分野に寄与するという意味で、2つの数学が両輪になることが「社会に役立つ数学」のあるべき姿であり、どちらか1つが欠けてもいけないのだ。

“役立つ数学”が広まっていく

さて、IMI創設者で、自身も数学者である九州大学 若山正人理事・副学長は、IMI設立の目的の1つとしてまず「『数学』という学問が、社会に貢献しなくてはいけない」と話す。「素数」が無限に存在することは、今から2,500年も前に解明されているが、応用されたのはわりあい最近のこと。純粋数学から応用数学として利用されるまでには大きなタイムラグがあった。

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九州大学 若山正人理事・副学長。研究・産学官社会連携担当理事として、外部への人材輩出にも積極的だ

「しかし最近は計算機(コンピューター)の発達で、数学の応用分野が格段に拡がり、暗号分野の研究に代表されるように数理学でもインプットやアウトプットがしやすくなった。物理学を介さなくてもすぐに、かつ、直接的に数学が役立つような分野も多くなったんです」

そうした社会的背景のなか、若山理事・副学長はさらなる目的として「理論を体系化すること」を挙げた。

「数学では問題を解くことも重要ですが、新たな問題を発見し、それを定式化することも重要です。将来的に問題にできるかどうかもわからないけど、なんとなく数理っぽく表せられる、そんな社会的な問題を捉え解決を目指せば、そこから新しい研究領域や学問体系ができるかもしれない。短期的な応用だけでなくて、いつになったら直接的に貢献できるかどうかわからないものも研究していかなければならない」と、純粋数学と応用数学の垣根を取り払う重要性を強調する。

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社会の問題で数学がそのものずばり役立っているのは「逆問題」と「最適化」だと若山理事・副学長は話す。「この湯のみ茶碗のように、外側から内側、つまり結果から原因を探る問題のことでCTスキャンや、なかの状態がわからない溶鉱炉の制御などにも使われます」

しかし、いくら計算の処理スピードが速くなっても、それだけで複雑な社会課題はなかなか解決されない。現状の課題認識として数値やデータをより効果的に活用すれば、社会課題解決がよりスムーズに進むのではないか。そんな目的からはじまったのが、富士通ソーシャル数理共同研究部門だった。

“経済学”と“数学”をつなぐ「最適化」

富士通ソーシャル数理共同研究部門は、2014年9月に発足した産学民の共同研究室だ。かねてから九州大学と縁のあった富士通研究所所属で、現在も九大で研究を行う穴井宏和教授(情報理工学博士)が2008年度から九州大学産業技術数理研究センターに兼務。IMI設立のきっかけとなったグローバルCOEプロジェクト*への参画を経て、現在に至る。(*:文部科学省事業の一環。国内大学院の教育研究拠点を重点的に支援し、創造的な人材育成を図るプログラム)

研究期間は2017年8月まで3年間。地域活性に取り組む際の人の心理などを考慮しながら数値やデータだけでは本質を表現しづらい社会課題を、数学で解決するという難題に挑んでいる。

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(左から)吉良知文准教授と穴井宏和教授。吉良准教授が中心の推進メンバーとして研究が行われている

部門長である九州大学の吉良知文准教授(機能数理学博士)は、同大の大学院経済学府修士課程から、同大の大学院数理学府博士後期課程を専攻した異色の経歴を持っている。吉良さんの専門は、「数理最適化」。様々な制約条件の下で目的を達成するための数理モデルやアルゴリズム(処理方法・算法)を研究していた。

「高校のときにやった2次関数の曲線を思い浮かべてほしいのですが『この関数が最大&最小値になる点を求めなさい』なんていう問題を解きませんでしたか? あれが『最適化』です。経済学では社会的厚生の最大化、経営学では収益の最大化といった具合に具体的な意味をもって度々登場します。経済学府にも最適化の(数学的な)方法論を研究するゼミが配置されていて、私もそこで研究していました。しかし、私の指導教員が退職されたのと、数学について教え合いながら一緒に勉強できる院生仲間が少なかったこともあり、数理学府の最適化の研究室に移ったんです」

2人の出会いは、九州大学数理学府の博士課程にいた吉良さんがインターンシップ制度で富士通研究所にやってきたことだった。

「わかりやすくいえば、富士通研究所で取り組む課題を数学専攻の人にも取り組みやすい問題に切り出して、それを解いてもらうというプログラムでした。当初インターン期間は3カ月の予定でしたが、吉良さんが入ることで、予想以上の成果が得られ、2カ月間延長してもらいました」(穴井さん)

インターンシップを終えた吉良さんは、2012年3月に数理学府での博士課程を終えた。その間も穴井さんやメンターとやりとりを続け、結果的に、富士通研究所で研究は論文になり、特許も出願した。ここでの経験が、教員となってからの研究活動のベースにもなっている。

数学を「学問」に閉じず、別の分野に応用していくことで複雑化する社会問題に挑む。人と人の「共創」に、体系化された学びの解決方法を結びつけることでより効果的な解決ができるのではないか。後編では、どのようなアプローチで数理による解決が試みられているのか、第一線を追った。

“素数”が産業を動かすまで ――九州大学×富士通の数理共同研究(後編)へ続く

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