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“素数”が産業を動かすまで ──九大×富士通の数理共同研究(後編)

2015年04月22日



“素数”が産業を動かすまで ──九大×富士通の数理共同研究(後編) | あしたのコミュニティーラボ
研究室の一角では、地元企業の従業員へのヒアリング結果が書かれたふせんがグループ分けされ、ホワイトボードに貼られていた。ワークショップなどでは見慣れた光景だが、「数学」の研究所としてはちょっと意外なものかもしれない──。マス・フォア・インダストリ研究所における産業界との共同研究部門として設立された「富士通ソーシャル数理共同研究部門」の研究室。アジア圏では初の試みとなる産学民「異種連携」の取り組みをお伝えする。

ソーシャルイシューは数学で解決できる? ──九大×富士通の数理共同研究(前編)

「モデル化→分析→最適化」を産業数学の方法論に

富士通ソーシャル数理共同研究部門での実際のモデルづくりには、富士通の実績が活用される。多くの現場でのビジネスで、富士通の社員は課題を持ち帰ってくる。穴井さんいわく「その問題は取り出されたままの現場の課題、ぐちゃぐちゃで整理されていない状態」。そこで、吉良さんや穴井さんが課題を抱えた先にヒアリングに出向き、研究。その成果の評価も現場で行う。

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九州大学 吉良知文准教授

商業施設ならば、そこで働く従業員にヒアリングを行い、混雑解消、安全、商業施設の売上げなどの、理想とする姿と現状を比較してもらう。どのくらいギャップがあるのか──。机の上で数式と向き合うだけでなく、そうしたフィールドワークの困りごとは、ホワイトボードに貼られた付箋紙としてアウトプットされていく。

「ここでやっているのは、次のアクションにつなげる意思決定をどうするかということ。裏付けになるものをきちんと整理し、可能性を定量的に示したい。そのためにモデル化→分析→最適化するというフレームで解いていく。多くの事例を踏んで体系化し、後々、数学を産業にいかすときの方法論にしていきたい」(穴井さん)

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数理技術をベースにして、データや他領域のしくみも交えて解決策を導き出す(提供:九州大学)

今のところお客さんの反応は「前のめりなくらいに前向きです」。今現在は「やっと1つのプロジェクトがスタートし、これから2つ、3つとプロジェクトを進めていきたい」という段階で、同じ方法論で解決を図りたいという課題設定の分野は、都市、農業、エネルギー、教育、マーケティングなどさまざまだ。

インターンシップ制度を入り口に、共創を重ねる

2人の出会いは吉良さんがインターンシップ制度で富士通研究所にやってきたことに端を発するが、九州大学では富士通研究所のほかにも、IMI設立の前から産業界に働きかけていた。その背景には、大学院数理学府の博士課程の充足率が悪く、国や大学から強く改善を求められていたことがある。いわゆる“ポスドク問題”にも関係して、博士課程修了生の就職先が見つからず「数学で博士号を得た者は大学のポストに進むか、高等学校の先生になるかという状況」(若山理事・副学長)。“産業界で活躍する博士人材の育成”が重要な課題だった。

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穴井宏和教授。富士通研究所でもプロジェクトを推進しているため、現在は東京と九州を行き来する毎日だ

そのため九州大学では、IMI設立の以前から数学科博士課程でインターンシップ制度をはじめていた。最初こそ「200社を超える国内の企業に打診をし、受け入れ先を探しても全滅だった」というが、なんとか協力関係にこぎつけた受け入れ先のメーカーでは、吉良さんの富士通研究所でのインターンシップと同様に、評判は上々だった。

「学生が元気になって帰ってくるし、企業に還元できる成果を残せたようで、単年の取り組みからスタートして、そこから毎年のインターンシップを希望してくれた。今は学生の数よりも、受け入れ希望・可能企業のほうが圧倒的に多いくらいです」(若山理事・副学長)

現在、民間企業との共同研究のきっかけは、インターンシップが出発点になっていることが多く、人材育成の面でも取り組みが期待されている。「学生とやってこれだけできるのならば、先生方とやったらもっとできるという期待感が発端となっている」という。

職業としての“数学者”の評価

こうして、若山理事・副学長がずっと思い描いていた九州大学と民間企業による組織対応型連携は着々と進行している。両分野の研究者とほかの研究者が学際的につながれば、新しい産学連携スキームが次々に生まれていくだろう。

「結局、いくら産業界で数学が大事になりますよと言ったところで、看板を立てないと産業界はその気になってくれません」と若山理事・副学長。IMI設立時、その名前を「イン・インダストリ」(in industry・産業の中)ではなく、「フォア・インダストリ」(for industry・産業のため)としたのを、若山理事・副学長は数学の現代社会・産業への貢献と人材育成に加え、新しい数学研究領域の創出の機会を得て、そのことにより未来の産業の発展をにらむものとして「私たちの本気を表すために」と説明する。

若山理事・副学長いわく、90年代以前は工学部の各分野に数学ができる教員がたくさん所属していた。当時は計算機の性能も高くなかったため「自分で追い詰めないと計算機で満足する結果を得られなかった」(若山理事・副学長)。そのため、どの大学機関の工学分野にも応用数学者といってもよい研究者が数多く存在し、だからこそ、「純粋数学者」という職業が成立していたという。

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吉良准教授が制作したシミュレーション動画。信号が全て故障したと想定し、作業員の能力や疲労度を考え、どう修理するのがもっとも効率がよいのかを最適化させている

「しかし計算機が発達したことで、多くが数学を考えなくなり、先程のような応用数学者の数は格段に減りました。日本では数学者と呼ばれることは少ないですが、欧米だと大手企業に勤めながら、数学を専門する“プロフェッショナル・マスマティシャン(Professional mathematician)”が存在しています。日本の医者よりも給料が高いですよ」

こうした数学界への憂いが、今のIMI、そして富士通ソーシャル数理共同研究部門設立につながった。ここを拠点に、産業界と数学界の連携が活発になれば、数学者の価値はますます高まっていくだろう。「彼らが日本の国力を間違いなく高めるでしょう」と若山理事・副学長。普遍的であるからこそ、数学という学問から、これからの産業同士の協働を支えていく取り組みははじまったばかりだ。テーマ、産学連携、人材育成など、包含しているテーマ、そしてそれに対する期待は大きい。

ソーシャルイシューは数学で解決できる? ──九大×富士通の数理共同研究(前編)

関連リンク
マス・フォア・インダストリ研究所


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