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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

ICTの活用で、学校を「学び合う場」に

2012年10月11日



ICTの活用で、学校を「学び合う場」に | あしたのコミュニティーラボ
ノートの代わりにタブレットPC、教壇には電子黒板。広島市立藤の木小学校は総務省「フューチャースクール推進事業」の実証校として、ICT環境を活用した授業を実践している。そこでつくられているのは、一方的に先生から教えを受けるのではなく、子どもたち同士が議論しながら学び合う場だ。

電子黒板に自分のノートが大写しに

小学校の授業というと、どんな光景を思い浮かべるだろうか。

先生が子どもたちに質問を投げかける。「ハーイ!」と何人かの手が挙がる。元気に手を挙げる子は、いつもたいてい決まっている。これが、多くの人に見覚えのある小学校の教室ではないか。

けれども、この教室はちょっと違う。
子どもたち全員が1人1台、タブレットPCを持って授業を受けている。教壇の先生の横には電子黒板(インタクラティブ・ホワイト・ボード)。子どもたちのノートに相当するのは、タブレットPCのワークシートだ。そのコンテンツは無線LANで電子黒板に転送されるようになっている。

先生が「じゃあA君のノートを見てみよう」。電子黒板にA君のノートが大写しにされる。「キミの考えを説明してくれる?」。先生が促す。自分のノートをみんなに見られたA君は、否も応もなく説明するしかない。恥ずかしいなんて思っているヒマはない。どの子のノートもみんなに見られるのだから。

もちろん、うまく説明できずに口ごもるA君もいる。そんなときは先生がこう助け船を出す。「誰かA君の考えていること、説明できる人いる?」。
するとB子さんが「たぶんこういうことじゃないですか?」と発言する。「A君、今のB子さんの説明でいいかな?」。「そう、そうなんです!」。A君は自分の考えが認められたようで、なんだか嬉しい。

そのあと、C君やD子さんのノートも電子黒板に映し出される。また別の考えがあることがわかる。みんなでディスカッションが始まる。めったに授業で発言したことのない引っ込み思案のA君も、気がついたら討議に参加できている。

ICTは「学ぶ場」づくりを促進する強力な道具

この教室は広島市立藤の木小学校。2010年度から始まった総務省の「フューチャースクール推進事業」、そして文部科学省の「学びのイノベーション事業」の実証校だ。情報通信技術面の検証(総務省)、学習指導面の検証(文部科学省)の両輪をもって政府の新成長戦略を具現化するこれらの事業の実証校では、ICTを活用して児童が互いに学び合い、教え合う「協働教育」が全国10校の公立小学校で実施されている(そのほか8校の国公立中学校、2校の特別支援学校でも実施)。

同校の堀達司校長の教育理念とこれら事業の主旨は重なり合う。
「学校とは本来〈教える場〉ではなく〈学ぶ場〉なんです。先生から教えを受ける場ではなく、子どもたちが自ら学ぼうとする場。そうした場をつくることが学校のミッションであり、私自身のテーマとしても長年取り組んできました。〈教える〉だけならある意味、簡単です。教壇から一方的に講義するだけなら、誰にだってできる。しかし〈学ぶ場〉づくりは教師の役割としても非常に難しい。ICTが〈学ぶ場〉づくりを促進させる強力な道具になることはわかっていました。フューチャースクールは、私の教育理念を学校という大きな単位で具現化できる機会でもあり、たいへん意義のある取り組みだと思っています」

堀校長によれば〈学ぶ場〉づくりに最も効果的なICTツールは、電子黒板のような、子どもたちのノートを大写しできる大型モニター。なぜなら、それによって子どもたち一人ひとりが考えたことを教室全員で共有できるからだ。するとそこから議論が始まり、学び合いのプロセスを体験できる。

「広島市立藤の木小学校」校長の堀達司さん

一人が考えたことをその場の全員で共有するためには言葉が必要になる。けれども、言葉のみで自分の考えを相手にわかりやすく説明するのは大変難しい。というか、それを身につけるのが学校での学びの目的の一つでもある。言語化できない考えをどうしたらその場の全員で共有できるか。

この課題を克服するのに、個人のノートを否応なく映し出して「見える化」する大型モニターが役立つ。ノートには思考の痕跡がうっすら見え隠れしている。書いた本人が説明できなくても、そこに書かれていることが自分の考えたことと同じであると気づく子が必ず現れる。するとそこで思考が共有される。説明できなかった子は「ああ、こういうふうに表現すればいいんだ」と気づく。共有された思考や気づきは、さざ波のようにクラス全体に広がっていく。

先生が教壇から教えを授ける従来型の授業よりも、このように子どもたち同士で学び合うほうがはるかに楽しいし、自分の頭で考える習慣や適切な言葉で表現する能力が身につきやすいことは想像に難くない。

なぜスリッパが外にあるの?

子どもたち一人ひとりには学校からタブレットPCが支給されている。ということは、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるわけだ。堀校長は学校のホームページを子どもたちに見てもらいたかった。ところがアクセスカウントは増えていない。誰も見ていなかった。どうすれば見てもらえるだろうか。

なんのことはない。タブレットPCが起動したとき学校のホームページが開くように設定すればよいのだ。

堀校長は「校長室の窓」というページをつくった。たとえば「なぜ、スリッパが外にあるの?」。藤の木小学校ではトイレのスリッパがトイレの中ではなく、マットを敷いて廊下に出してある。その写真が掲載され、「なぜだろうか」と子どもたちに問いかけている。答えはどこにも書かれていない。

子どもたちに考えるきっかけを与えたかった。ホームルームで熱心に議論するクラスもあった。ちなみに答えは「スリッパを外に出しておくと、もし乱れていたら遠くからでも見える。だからいつもきちんと揃えるようになる」。
しかし正しい答えを得ることが目的ではない。「なぜだろう?」と考えて、いろいろなアイデアが出てくることに意義がある。

ICTはこのように思考のプロセスを体験することに最大の効果を発揮する。「物事をさまざまな角度から見てみると、まったく違ったアイデアが生まれることがあります。みんなで力を合わせ一生懸命考えていると、そういう瞬間が必ず訪れる。そうやって学ぶ楽しさを知った子どもたちは、独りよがりにならず、他人の話をきちんと聞いたり、協働して現状をよりよく変えようとする人間に成長すると思います。みんなで試行錯誤しながらベストな解を求める生き方をすると思う。これからますます人類は未知の課題に直面するでしょうが、そういう生き方こそが未来を切り開く力になっていくに違いありません」

堀校長はこんなふうに力説した。「教えられる場」から「自ら学び合う場」へ。そう変わる学校が増えれば、自立した個人が互いに知恵を発揮して課題を解決できる豊かな社会へと、一歩を踏み出すことになるのかもしれない。


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