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子どもの遊びが社会を変える ──YCAM×ブリティッシュ・カウンシル(前編)

2015年08月12日



子どもの遊びが社会を変える ──YCAM×ブリティッシュ・カウンシル(前編) | あしたのコミュニティーラボ
友だちと身体を動かして遊ぶことから、子どもは好奇心や創造力、社会性を育む。豊かな遊びの体験は、創造力の土台づくりにもつながるだろう。子どもを取り巻く環境が激変した今、大人は子どものためにどんな遊びのプラットフォームを用意すればよいのか。“遊び”をテーマにユニークな活動を展開する山口情報芸術センター(以下、YCAM)と、英国の公的な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルの取り組みから考えてみたい。(トップ画像提供:山口情報芸術センター[YCAM])

多様性のなかから、自らの意思で選ぶ体験を ──YCAM×ブリティッシュ・カウンシル(後編)

「メディア」「社会」「身体」コロガルパビリオンからみるこれからの学び場

「ここにはきまったあそびかたはありません。じぶんのアイデアとせきにんで、じゆうにあそべるこうえんです」

そんな立て札が入口にある「コロガルパビリオン」。山口市中園町の山口情報芸術センター(以下、YCAM)前の中央公園に、当センターの10周年記念祭(2013年)で出現した半屋外の仮設建築だ(現在は終了している)。
山口情報芸術センターに設置されていた「コロガルパビリオン」
山口情報芸術センターに設置されていた「コロガルパビリオン」
(画像提供:山口情報芸術センター[YCAM])

2棟の円形空間は、起伏のあるすり鉢状の床や傾斜したジャングルジムなどアスレチックな場となっており、そこにマイクやカメラ、LEDなどのメディアテクノロジーがそれとなく埋め込まれている。子どもたちは、斜面を駆け上がり、高台から飛び降り、身体を動かしてはしゃぎながら、自分たちなりの遊びを工夫する。点在するメディアを叩いてみたり、のぞいてみたり。はたまた、2棟の建物の間で映像中継や天気予報のまねごとをしたり、誰かを迷子に仕立てて呼び出しアナウンスをしたり……。
「コロガルパビリオン」で遊ぶ子どもたち
「コロガルパビリオン」で遊ぶ子どもたち(画像提供:山口情報芸術センター[YCAM])

かつて、まだ街中の到るところに「空き地」や「原っぱ」がたくさんあったころ、子どもたちは土管や小山を何かに見立てて遊んだ。友だちと触れ合いながら想像力と創造力をはたらかせ、同時に社会性も育んだ。さながらコロガルパビリオンは、そうした昔の遊び場の現代版リニューアルといえる。
YCAM 主任エデュケーター 菅沼聖さん
YCAM 主任エデュケーター 菅沼聖さん

「風や土、日の光と同じくらい自然にメディア環境に生きる今の子どもたちにとって、身体とメディアは切り離せません」とYCAM主任エデュケーターの菅沼聖さんが語るように、現代の原っぱには草薮や石ころの代わりにメディアが存在している。どう使いこなして遊ぶかは、子どもたちのひらめきしだい。身体を動かすことと、遊び道具としてのメディアテクノロジーが直結しているのだ。

「最近の公園で多いのは“ボール遊びは禁止”“騒いではいけません”等の看板。制度化が行き過ぎ、社会全体が無自覚に余白を奪っています。そうではない場を設計したかった。重要なのは、自分たちのアイデアで場を改変できること。『子どもあそびばミーティング』では、やってみたい遊びを子どもたちにプレゼンしてもらい、採用したものを実装する。それを何回か繰り返すことで『ここは自分たちの居場所なんだ』というマインドセットが起こるんです。すると自主的に掃除しはじめたりして<自治>の感覚が芽生えます」

コロガルパビリオンの原型となるのが、2012年5月~8月の展覧会で3万7,000人の子どもたちが来場した屋内の「コロガル公園」。その後、屋外にグレードアップし、仮設建築として半年間設置されていたが、小学生が自らの発案で延命嘆願の署名を1,000人以上集め山口市長に届けた結果、さらに翌年の夏再公開された。

身体感覚から自由で柔軟な発想を吸い上げたい

YCAMに併設されている市立中央図書館
YCAMに併設されている市立中央図書館

ホワイエ(広場)、スタジオ、劇場、ミニシアター、市立中央図書館を併設する総合文化施設のYCAM。おもしろいのは、廊下に子どもたちが座り込んで友だちと宿題をしたりしていることだ。ガラス張りでシームレスな構造が開放的な雰囲気を醸し出していて、いろいろな人たちが集いやすい場になっている。

アートと社会をつなぐメディアの実験場として2003年にスタートしたYCAMは、メディアアーティストの真鍋大度さん、音楽家の大友良英さん、坂本龍一さんら何人ものクリエイターとともに市民参加型のパフォーミングアーツやインスタレーションを創作し、国内外にも巡回発表してきた。こうしたメディアアートの創造・発信と連携しつつ領域を横断する活動の1つが教育の普及。子どもが遊びながら楽しめるユニークなワークショップをいくつも開発し実践している。

50cm間隔で規則的に張り巡らされたゴムひもに触れないように間をすり抜けるオリジナルワークショップ「感覚アスレチック」。肩幅は自分が思っていたよりも狭かったり、腕は短かったり、普段意識していない自分の身体のスケールやサイズ感がわかる。
ゴムひもで張り巡らされた「感覚アスレチック」
ゴムひもで張り巡らされた「感覚アスレチック」(画像提供:山口情報芸術センター[YCAM])

自分が通った後、通り抜けにくいようにゴムひもをモールでくくる。次の人はそのゴムひもを何とか通り抜けようとする。身体を通じた自己/他者の存在。その身体の動きが、後で鑑賞するコンテンポラリーダンスと重なって見え、身体感覚でアートに親しむ地平が体験によってはじめて開く。

耳を澄まして環境音をメモし、低周波・高周波・立体音響を聴き比べ、2人1組で館内を目隠しのまま歩くオリジナルワークショップ「walking around surround」。最後にはシーケンサーと8チャンネルのワイヤレススピーカーを使い、音の出る位置や自分の位置を変えれば、聴こえ方がさまざまに変化することに気づく。

音は空気の振動であり、よく耳を澄ますと空間によって違った聴こえ方がする。音を聴くとは空間を知ること。空間は可変であること。それを理屈ではなく、体験によって子どもたちは感じ取る。これもまた、身体を使ってふだん意識しない聴覚を再発見する取り組みだ。
館内を歩き回り、音の違いを体感する「walking around surround」
館内を歩き回り、音の違いを体感する「walking around surround」

社会変革の実行力をもつのは大人より子ども

だがこれらは、ことさら「子どものために」考えられたワークショップではない。「子ども向け専用という発想はしません。大人と子どもは対等。子どもも多様性の中の1つのチョイス。むしろメディア的感性では子どものほうが優れている」と明言するのは、YCAM副館長でアーティスティックディレクターの阿部一直さん。

「子どもだからこそ到達可能な多様性を探ることは重要です。彼らの自由で柔軟な発想を共有知や集合知として波及させることで、より大きな効果を得る。その新しい社会的価値の可能性を拓く接点を公共機関がハブとなって探りたい。それが基本姿勢です」
YCAM 副館長/アーティスティック ディレクター 阿部一直さん
YCAM 副館長/アーティスティック ディレクター 阿部一直さん

不特定多数の人たちが2~3カ月継続する企画展に来場することから、YCAMでは展覧会を「一般市民が研究開発のサイクルに参加できるオープンな知の形成手法」として捉えている。2015年7月18日からはじまっている企画展は「Think Things―『もの』と『あそび』の生態系」(9月27日まで)。ここでも、遊びが根幹のテーマにほかならない。
YCAM 副館長/アーティスティック ディレクター 阿部一直さん
企画展「Think Things」であそぶ子どもたち(画像提供:山口情報芸術センター[YCAM])

「イメージしているのは進化する『遊びの図書館』。“光を当てると音が鳴るボール”のような、入出力だけの単純なメディアツールをいくつか用意し、それでどんな遊びができるか子どもたちが考え、記録します。別の子がそれを引き出して、さらに思い浮かんだ遊びをまた記録する。そうやって自分の遊びとして残したコンテンツが誰かに利用され、次第に形を変えていく、知恵の消費、分解、(再)生産が循環する生態系の形成を目指します」(菅沼さん)

「Think Things──『もの』と『あそび』の生態系」(提供:山口情報芸術センター[YCAM])
(※参加者の許可を得て、撮影および掲載しております)

YCAMのスタッフは、先のようなワークショップ同様、遊びを通じて子どもの知を引き出すファシリテーターの役割だ。ツールを使って遊ぶ様子をカメラが自動記録しており、再び来場したときにその動画を見られる。過去の挙動を自分で参照したとき、そこから何が派生するか。メディアがラーニングプロセスを補強することで、どのような学びの場が生まれるかを探る実験でもある。
アプリを使った新しい“あそび”も考案中と話す菅沼さん
アプリを使った新しい“あそび”も考案中と話す菅沼さん

「硬直化した社会を変える力をもつのは実は子どもだと思います。遊びを原動力に生まれる知恵によって子どもの社会参画は十分可能です。大人は得意なこと(環境を整えること、管理すること、責任を負うこと)だけやればいい。映像や電子工作など僕より知識も経験もある小学生にインタビューしたとき、実際に言われました。『YCAMを使いたから場所と道具だけ用意して』と」(菅沼さん)

YCAMの普及する教育とは大人が上から目線で授ける営みではない。遊びを起点に本来子どもたちが持っている豊かな想像力と創造力のスイッチを入れ、多様性や余白のなかから未来につながる価値を生み出そうとする希望の試みだ。

大人が決めたルールのうえで遊ぶのではなく、「どのように遊ぶのか」から子どもと一緒に考えることで、子ども本来の創造力を引き出そうと試みるYCAMの取り組み。後編では、国を越えて子どもの遊びについて、ともに考えることで社会的課題の解決促進を目指すELEVATEプログラムについて、ブリティッシュ・カウンシルの方々に話を伺う。

多様性のなかから、自らの意思で選ぶ体験を ──YCAM×ブリティッシュ・カウンシル(後編)へ続く

関連リンク
山口情報芸術センター(YCAM)
ブリティッシュ・カウンシル


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