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Webに渦巻く「やる気のかたまり」で学ぶ
———「情熱増幅装置」としてのオープンエデュケーション

2012年10月23日



Webに渦巻く「やる気のかたまり」で学ぶ <br />———「情熱増幅装置」としてのオープンエデュケーション | あしたのコミュニティーラボ
インターネット上に無償で提供されている世界中の教育リソースを自主的な学びに活用する。そんな「オープンエデュケーション」がグローバルな広がりを見せている。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)などで世界最先端の事例を多数研究し自ら実践にも携わってきた京都大学高等教育研究開発推進センターの飯吉透教授に、自由でオープンな学びの場の可能性を聞いた。

リアルな「つながり感」がハンパじゃない!

京都大学には新1年生を対象とした全学部横断の初年次ポケットゼミがある。今年(2012年)4月、高等教育研究開発推進センターの飯吉透教授は「オープンエデュケーション」をテーマにポケットゼミを開講した。

飯吉透教授によるポケットゼミの様子

飯吉教授が学生に与えた課題の一つは、「インターネットで提供されている多種多様なオープンエデュケーションのコンテンツを閲覧してくるように」というもの。翌週、一人の法学部生が興奮した面持ちで20分間ノンストップの熱弁をふるっていた。ふだんは物静かで、ディスカッションにもあまり参加しない学生だ。

彼がのぞいてきたのは「OpenStudy」(http://openstudy.com/)というサイト。全世界170か国、1,600校から10万人を超える学生が参加して、学び合い教え合う。質問を投げかけてそれに答える形で、互いにラーニングサポートを進めていく。そんなサイトだ。

彼は、「英語でエッセイを書こうと思うのだけれど、どこから始めたらいいのかわからない」という趣旨の質問を投げかけた。即座に世界の誰かから反応が返ってきた。「なぜ英語でエッセイを書きたいのか三つ理由を教えてほしい」。一生懸命に考えてそれに返信を送ると、ほどなくして再び世界の誰かからアドバイスが届く。彼は驚いた。いや、それ以上に衝撃を受けた。

日本にもこのたぐいのQ&Aサイトはある。しかしまったく似て非なるもの、という印象を彼は抱いた。どんな質問に対しても茶化したり批判したりせず、真摯に答えようとする姿勢。レスポンスの速さ。世界中から学びたい、教えたいという意欲満々の人たちが集まっている。そこに渦巻いているリアルな熱気がものすごい。「こんなにも巨大な〈やる気のかたまり〉がWeb上に存在しているとは知らなかった!」と彼は熱く語った。

しかもこのサイトがよくできているのは、「誰かがこの質問に対して回答を書き込んでいる最中」であることがリアルタイムにわかるところ。誰がどんなふうに答えるんだろう――。息をのんで見つめているうちに、自分だって誰かの質問に答えられるんじゃないか、という気持ちがふつふつと沸き起こってくる。

「OpenStudyに興奮した彼のコメントがとても印象的でした」と飯吉教授が紹介してくれた。「先生、これリアルなつながり感がハンパじゃないですよ!」


京都大学高等教育研究開発推進センター 飯吉透教授

ネット上に増殖する自由でオープンな学びの場

飯吉教授によれば、そもそもオープンエデュケーションという概念は1960年代の英米で生まれた。「学年や学科、授業時間などの制約をできる限り取り払い、柔軟性の高いカリキュラムにすることによって、子どもの主体性を重んじ積極的な学びを支援しよう、という考え方です。学校という枠組みの中では、現実的にすべてを自由でオープンにするわけにはいきませんが、その考え方のエッセンスは欧米を中心に、学校教育に取り入れられた部分もありました」。

21世紀を迎えインターネットのインフラが整ってくると、オープンエデュケーションの根幹である「自由でオープンな学びの場」はWeb上にじわじわと広がりだす。図書館や学校など物理的な場所に行かなくても、Webにアクセスするだけで、いつでもどこでも、世界中の優れた教育リソースを活用できる。これが21世紀型のオープンエデュケーションだ。

ムーブメントに火をつけたのはマサチューセッツ工科大学(MIT)。2001年にMITは自校の約1,800の講義で使われている教材のすべてをウェブで無料公開する「オープンコースウェア(OCW)」プロジェクトを立ち上げ、大きな注目を集めた。

その経緯が興味深い。当時アメリカでは、オンラインで講義を受講し単位や学位を取得できるサービスがいくつかの大学で始まっていた。後発のMITも検討したが、先行事例を見ても収益の上がるビジネスモデルではないらしい。普通ならここで断念するところだ。ところがここで、どうせ儲からないのなら無償の社会貢献として取り組もう、という驚くべき結論に達したのだ。

「見逃すべきでないのは」と飯吉教授は解説する。「社会貢献であると同時に、すでに達成された過去の成果を無償で公開することは、自分たちは常に最高の教育を更新し続けているというMITの自信の表れでもあるわけです」。

MITのOCWの利用者は、学生以外の社会人など一般の独学者が5~6割、学生が3~4割、教員が研修として参照するのが1~2割という。OCWのようなパッケージ化されたコンテンツとして提供しているかどうかはともかく、現在ではアメリカの多くの大学が、たとえば無料教材共有サービスiTunes Uといったインフラを利用して名物教授の講義映像を公開するなど、なんらかの形でオープンエデュケーションに取り組んでいる。

「カーネギーメロン大学のオープン・ラーニング・イニシアチブ(http://oli.cmu.edu/)のように、AI(人工知能)やエキスパートシステムの原理を応用して、疑問点をインタラクティブに解消できるような工夫を施し、自学自習の効果が上がるようにつくりこんだものもあります。教材をそのままWeb上で公開しても、他大学の学生や一般の人が使いこなすのは難しいことから考えられたアプローチです」

仕事と学びの間を自由に行き来できる社会

飯吉教授は、オープンエデュケーションを「情熱増幅装置」と呼ぶ。

「教える情熱と学ぶ情熱がネット上で増幅されていくイメージです。学ぶ側の好例の一つが先のOpenStudyなら、教える側で端的な例はカーン・アカデミー (http://www.khanacademy.org/)でしょう。サルマン・カーン氏は電子黒板アプリ(またはソフト)を使い、中学生の姪に遠隔で数学を教える過程をYouTubeにアップしたところ、わかりやすいと大評判になりました。現在までに、さまざまな分野の15分講義ビデオを3,400本近くもウェブで流しブレークしている〈ウェブスター講師〉の一人です。しかも彼は本職の教師ではありません。今や教員免許のない人でさえネットの力を借りれば〈教える〉〈学ぶ〉情熱を増幅させ世界中に伝播できるわけです」

日本でも2006年に6つの大学が中心になって「日本オープンコースウェア・コンソーシアム」が発足し、2012年10月現在24校が正会員としてオープンエデュケーションに取り組んでいる。だが認知度はまだ低い。

「日本の学びは二極化している」と飯吉教授は指摘する。「辛くつまらない受験勉強が片方にあり、もう片方にはテレビ番組『ためしてガッテン』(NHK)などに代表されるエンタテインメントとしての生活の知恵。その間にあるべきハードコアな学問のワクワクするおもしろさの本質に気づかされていないから、学生を巻き込んだマイケル・サンデル教授の白熱教室(※1) に驚いたりします。もちろんサンデル教授はすばらしい授業をしますが、特別なことではなく、アメリカではごく普通のスタイルなのです。オープンエデュケーション以前に、そもそも公開に値する魅力的な教育コンテンツの少なさが、日本の大学における最大の問題ではないでしょうか」。

学問のワクワクするおもしろさとは何だろう。一つには「学んだことが、少しでも自分の身のまわりの現実社会に直結して役立つこと」だと飯吉教授は言う。

たとえば領土問題でなぜこんなに隣国同士が揉めるのか。そんな疑問をきっかけに交渉術を学ぶ。するとビジネスのヒントが見つかるかもしれない。そのときオープンエデュケーションの環境があれば、学校を離れても必要に応じて学び続けていける。とことん学びのおもしろさにのめりこんだら、いったん仕事を離れて学びに専念してもよい。融合された仕事と学びを自由に行き来できる社会を、飯吉教授は実現すべき豊かな社会のイメージとして挙げてくれた。

(※1) マイケル・サンデル教授の白熱教室
「ハーバード白熱教室」(NHK)など近年テレビで取り上げられ話題となった政治哲学者。ハーバード大学教授。著書に『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)など。


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